去る者は日々に疎しという、ちょっとはかなく寂しい諺がありますが、基本的に古さを尊ぶ盆栽の世界に棲んでいると、突然の機会に過去の人や思い出の品に接して感慨にふけることがあります。
先日市内の小さな盆栽交換会で、盆栽をおやめになったという方の土払いがあって、私も小鉢数十個の一山を買いました。無造作にプラスチックの箱に一山にされたほこりだらけのその一山に何故か親しみのようなものを感じたのです。
家に帰って気になった数個の鉢を洗ってみると、やっぱりその直感は当たっていました。その中の一鉢は、むかし親しくお付き合いをし、今から15年ほど前に物故されたIさんの作品だったのです。
窯変切立額入長方(落款・頼仙)間口8.5×奥行き7.0×高さ2.7cm
私の盆栽教室に通い、機会があって小鉢の製作にも手を染め、ご覧のような本格的な作品が作れるまでに上達しました。自作の盆栽を自作鉢に入れて楽しむという道楽の極致に達した訳ですね。
窯は茨城県の笠間焼きで借り窯(かりがま)をしていました。そのため温度は高く、この作品のようにたまに面白い窯変(ようへん)が出て喜んでいました。
この長方鉢も地元で「エラボ」と呼ぶ釉薬(薄めの黄土色)に窯変が出て、赤味を帯びて焦げたような風雅な味になっただと思います。
もともと意図した釉薬の色彩は縁に近いあたりの黄土色のようです。そして、無傷で完品。
普段から「頼仙作」(らいせん)の落款でした。
Iさんの長男さんと私は同い年でしたから、ちょうど私の父親と同じ時代の人でした。温厚篤実とはあのような人のことを言うのだと、誰もが納得できる人柄で、地元の盆栽会のリーダとして活躍しました。趣味はそう、盆栽と晩酌でした。
盆栽界にいる限りまたIさんの作品に巡り合うでしょう。
それまで、しばらく、さようなら、Iさん!
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