2008年10月31日金曜日

五葉松について

五葉松といえば、なんといっても黒松・真柏とならんで松柏盆栽の王者
盆栽界における名木の数では、黒松と真柏をおさえて第一の座に君臨します

日本列島本土の南から北まで広く分布しており、樹齢も非常に長く
小さな鉢の中での長い年月の培養にもよく耐える強壮な性質をもっています

私が盆栽界に入った昭和40年代の初期には
その優れた葉性と皮性から、四国の石鎚山系と赤石山系の全盛時代

葉性と皮性から、四国五葉より一段低く見られていた福島産の五葉松が
四国産と偽って市場に出回っていると噂になったほどでした(いまでは産地偽装だ)

当時は八房の全盛時代であり
今考えてみると、過度な葉性に対してのこだわりが蔓延していた時代でしたね

そのブーム的な風潮が一段落して以後は、産地にこだわらず
いいものはいい、悪いものはわるいと、冷静に評価するようになってきました

ですから、現在の盆栽界で「これは四国五葉だ」とか「いいや福島だよ」
などという会話はほとんど聞かれなくなりましたが、これが正常な状態ですね

とはいえ、「五葉松は葉性が命」という金言は、古今かわることなく生きつづけています
長いよれた葉っぱを培養の工夫で短く真っ直ぐにするのは、至難の業ですから

ちなみに現在の五葉松の産地としては 
四国地方、那須地方、福島地方などが有名です


那須地方の五葉松筏吹き五幹立

八房ブームをきっかけに有名になった那須五葉松
ブームが去った以後も、その優れた特質からしっかりと盆栽界の人気者として定着しました

緑が鮮やかで太めで真っ直ぐな短い葉性、芽吹きがいいので枝分かれが密になりやすく
盆栽向きの素質に恵まれています

画像の五葉松の筏吹きは、市内の親しい愛好家さんが20年ほど丹精したものですが
当時からの樹高(25cm)はほとんど同じ、いかに徒長しにくいかが推測できますね

加えて、フトコロ芽が蒸れにくいという長所も特記に値するでしょう

輪郭線はしっかり保っていても、フトコロ芽がまったく無くなっている五葉松
みなさんもよく見かけるでしょ、ああなりにくいんですね、那須五葉は


葉の拡大図
色つやよく、短くつまった真っ直ぐな葉


下枝にもしっかりと勢いがありますね


後ろ姿


後ろ足元

ところで、盆栽界全体では恵まれているのですが
一方小品盆栽界に限ってみると五葉松の名木は極端に少ないのが実状です

一流展示会の小品棚飾りの天に五葉松の本格模様木
これって極端に少ないところからも推し量れますね

やはり黒松などに比べて成長も遅いし、追い込みによる胴吹き芽も吹きにくい
それらが理由でしょう

しかし、小品盆栽界にも五葉松大好き人間はたくさんいます
画期的な技術はないものか!?

2008年10月29日水曜日

黒松芽切りその後

黒松の芽切りの時期はつくづく難しい
葉が固まって揃う時期になると毎年感じることです

芽切りの時期は

・気候(気温・日照時間)
・各人の置き場の条件(日照時間)
・樹勢や老若
・肥料や水の管理
・植替え年数

など、いろいろな条件を考慮して各人が工夫してをこらしてはいても
なにせ年々の長期の天気予報が思うとおりにいくとは限りません

今年の夏の初めはとにかく暑かったですね
そこで私は例年よりもさらに遅めにと決めていて、今までで一番遅い7月15日を中心に行いました

ところが、8月の中旬以後は日照時間が少なく,大雨が降りましたね
それですっかり予想の狂ってしまったわけです

2008/10 撮影 樹高10cm


 2008/6 撮影


この黒松ミニはたまたまの成功例です
まだ若い木でありミニサイズのため、葉がちょうどよく短めに揃いましたが

これがもっと樹高の高い黒松であったら、葉が短く感じるでしょうね
やはり樹高サイズも芽切り時期の条件として考慮した方がいいでしょう

そんなわけで、今年の芽切り時期の設定はみごとに失敗!
来年こそはと反省しているところです

みなさんはいかがでしたか?

2008年10月25日土曜日

姫リンゴ一年間の成果

姫リンゴは何時ごろ生まれた品種かはわかりませんが、私が盆栽界の足を突っ込んだ昭和40年代の初めごろには
接木による苗の生産が盛んに行われていて、畑作により太物盆栽がたくさん作出されていました

その後一時は盆栽としての人気がすたれ、園芸物として一段下の品種と見られる時期もありましたが
今では小品盆栽界のメジャーな樹種として、どっこいしぶとく生き残っています

秋を彩る豪華な実なり盆栽としての役目があり、樹勢も強く培養が容易で
さらに、取り木による技術の発達により、根を小さくして小さな鉢に収めることが可能になったことも大きなプラスです

さて、今日は2鉢の姫リンゴの一年間の培養による変化と成果を検証してみましょう

2008/10 撮影


 2007/11 撮影

2008/10月撮影


 2007/11撮影

・どちらも木姿に大幅な変化はありませんが、わずかに枝打ちがよくなりました
・枝先が落ち着いて短果枝がついていますから、来春には花が咲き実が成る状態になっています
・一年前には何となく素材じみた幼い感じが残っていましたが、足元に持込の落ち着きが感じられるようになりました
・おなじく木肌にも古色感が漂い始めました

そうなんです

このように素材の段階から一歩盆栽に近づくには
小さな鉢に持ち込む必要があるんですね

そのことにより、素材の枝うちや木肌に落ち着きと風格が滲みでてきて
盆栽らしくなってくるのです

じっくりと両者の違いを見分けてください
盆栽としてのだ一歩を踏み出す前の素材と、盆栽への道を走り始めた姫リンゴの姿です

この微妙な変化と成果を見分けることができるようになれば
あなたも盆栽人としてベテランの域に達し、盆栽の楽しみをより一層深く味わうことができるでしょう

2008年10月24日金曜日

山なし(野生種)

最近では「梨の盆栽」もあちらこちらで見かけるようになりました
「豆梨」とか「満州小梨」など、交配による改良種が普及してきました

今日ご紹介する「山なし」は、わかりやすく言うと在来の野生種で
富士山周辺に自生するもので、自生地では白い花を咲かせピンポン玉くらいの実が成ると言われています

ただし、盆栽として培養した場合の実績の情報が少ないので
はっきりしたことは言えませんが

梨にしては小さめの葉や枝打ちの細かさから見て
そう簡単には実が成るとは思えませんね

しかし、照りのある小さめの葉っぱや枝打ちのよさ
それに、灰色を帯びた幹肌の味わいからして、盆栽としての特質は十分に備えている樹種ではあります



夏ごろに仕入れた「山なし」
秋になって案外に紅葉のきれいなことに気がつきました



従来の「梨」のイメージからすると、紅葉が格段にいいですね
これも盆栽向きの大切な要素の一つです



惜しいけれど葉っぱがついていては幹筋が見えませんから
思い切って早めの葉落としをしてみました

・枝打ちの細かさ
・灰色の幹肌の雅味

けっこういけるでしょ



調子に乗って、完成予想図を描いてみました
枝打ちが細かいので、この完成予想図は可能な範囲だと考えています

このように、身近に自生している樹種で、まだ盆栽樹種としてメジャーではないもの
そんな樹種の特質を見極めて盆栽化するのも、一つの楽しみでしょう

この役目は、近くに野山のある地方都市の愛好家さんのお役目ですね
未開の樹種に挑戦されている愛好家さんがいらっしゃったら、是非ともご連絡を頂きたいと思っています

ではでは

2008年10月22日水曜日

出猩々取り木準備

人気の割りに仕立てられている数が少ない出猩々もみじ
ましてミニ盆栽は、なお稀少ですね

そこでみなさんに、出猩々ミニ盆栽の素材の作り方を伝授しましょう
安い費用で確実に優良な素材をゲットできますよ



今年の春に上野グリーンクラブで、知りあいの園芸店のおじさん(私よりちっと年上)から
しっかりと値切って買った出猩々もみじ、たしか4.000円くらいだった記憶があります

樹高は9.0cmですが、足元から2.0cm上がった箇所で取り木をかければ
完成樹高が6.0cmくらいの、可愛らしいミニ素材を作れそうです

しかし、いきなり取り木をかけても、肝心の根張りが心配
そこで、取り木をかける予定の高さに、針金をちょっとキツメニ巻いておきました



ほらほら、ごらんください、針金でせき止められた箇所です
光合成により葉で作られ根っこに蓄積されるべき養分が、針金により途中でせき止められています

出猩々は、普通の方法で取り木をかけても発根は容易な品種ですが
この方法を併用すれば、八方根張りは間違いなしです



来年の5月ごろに針金を外し、栄養分の蓄積されたくびれの箇所の上部(白点)から
環状剥皮の取り木をかけます

白点の部分には、針金によりせき止められている養分がたっぷり蓄積していますから
わずかな日数(2~3週間)で発根します、それも八方にですよ

このように、急がずに一年よけいに時間をかければ
しっかりと根張りの整ったミニ素材がゲットできるのです

急いでやって、のちのち根張りの悪い素材で苦労するよりも
盆栽時間での一年間は最小単位の時間ですね

急がば回れ、実行してください!

2008年10月20日月曜日

もみじ樹形作り計画

前回のつれづれ草で取り上げた「紅千鳥」のように芽出しの美しい「山もみじ」
樹形作りにあまり突っ込まなかったので、少々物足りない方もいらっしゃったでしょう

そんな思いがしたので、改めて樹形作りの計画に触れてみました
それでは


白点と赤点の位置が以前に「節」のあった箇所で、ここを芽吹きのしやすい「芽ツボ」と呼びます
樹形作りにあたっては、この芽ツボの見極めが非常に大切ですよ

来春に切り戻して芯を立てる位置は、高さ4.0cmの赤点を選ぶのが正解
白点では、幹筋からの曲の流れが、わずかに間延びしてしまいますね

間延びした芯では、全体の印象がぼやけてしまい
逞しい足元や迫力ある幹模様も台無しになってしまいますね

樹芯は人に例えれば顔にあたります
きりっとしまって小さめに、これが印象の強い樹形作りのコツです


余計な枝などを消してボディーだけを見てみましょう
なおはっきりと樹形作りのポイントが見えてきます



・芯の赤点の右は樹芯として立て、左は樹芯を形成する枝の一本として使います

・芯の右下方にも芽ツボがありますから、これも枝として使えます

・左の細い枝は途中から切り戻して活用します

・右の一の枝が欲しいところには芽ツボがなく、将来の芽吹きは不可能なので
 来年の5月ごろに呼び接ぎを施します

・裏枝はちょうどいい位置にあるので心配なし

以上で芯と枝順の基本は出来上がります


完成予想図

3年くらいの計画でボディーと枝の基本は完成
その頃には傷もすっかり完治します

ちなみに完成予想樹高は7~8cm
必ず山もみじミニの名品が誕生します

2008年10月18日土曜日

もみじの話・盛りだくさん

今日はもみじの話ですが、取り上げた素材のおかげで話題が盛りだくさんになります
まずは「もみじの品種」と「樹作り」について、そして「葉落としや剪定時期」や「傷口の処理」などの細部に至ります

それでは始めましょう



この素材は、一昨年の冬にまとめて買い入れた山もみじの中の一鉢ですが
春の芽出しがオレンジ色がかった鮮やかな紅色で、山もみじとは明らかに違っていました

もしかして紅千鳥かなと思い、今年一年間芽出しから夏ごろまでしっかり観察しました
しかし残念ながら、かなり紅千鳥に近い特徴が見られるものの、真性の紅千鳥とはいい切れませんでした

山もみじの類はいわゆる風媒花で、いろいろな花粉が飛んできて受精するので
この素材のように、実生により親木と異なるいろいろな性質を示すことが多いのです


素材の葉形を調べて見ましょう
上の葉は5つに切れ込んでいますが7つに切れ込んだ葉も多いようです

紅千鳥と山もみじの両方の性質を併せ持った
いわば中間種のようなものでした

葉がすべて上のようであれば、他の特徴からして紅千鳥にかなり近いのですが
下の7つに切れ込んだ葉の割合の方が多いので、紅千鳥と言っては「うそ」になってしまいます

前回の「つれづれ草」で真性と類似種のお話をしましたが
まさに昔流通した類似種に近いものです


さて、こんどは樹形作り

昨年の春に、従来の芯であった幹をバッサリきって
一の枝を新しい芯として再出発しました

芯を徒長させ思い切り太らせたので
二年の間に幹のコケ順が理想に近い形で出来上がってきました


後ろ姿

切り戻した初期には、こちらの角度が正面になる可能性もありました


今年の春に貼ったカットパスター
内部で肉巻きが促進されるとカットパスターの表面にひび割れが入ります


当初の傷は2.0×3.0cmもありましたが、切って二年経ってかなり傷口が小さくなりました
現在の傷口の大きさは1.3×1.8cmくらい、あと二年で完全治癒するでしょう


カットパスターを貼りなおし


ふつう葉を落とすのは11月に入ってからがいいでしょう
葉の状態によりますが、あまり青々としている場合では芽が吹いてしまい寒さで傷めてしまいます

この素材の場合は、葉がやや黄ばんきており冬眠期に近い感じなので実行しました
なお、やや早めに行ったので、枝を長めに残しました


白点と赤点に芽つぼ(節)があり、この芽つぼから来春の新芽が吹きやすい箇所です
理想の位置は赤点(高さ4.0cm)ですね

この赤点から吹いた新芽に針金をかけて芯を作ります
大地をしっかり掴んだ根張り、幹模様、幹のコケ順など、迫力のあるミニサイズの山もみじの模様木を目指します

この段階では枝順にあまりこだわってはいけますん
もみじ類は呼び接ぎが容易なので、ボディー作りを第一に考えて作りこみます

2008年10月15日水曜日

梅もどきの素質

実ものが目に付く季節になりました
きょうは人気樹種の梅もどきについてお話しましょう

実もの盆栽の中でも落葉後の実成りの姿がとくに華やかな梅もどき
小さい葉と繊細な枝先も盆栽樹種向きです

しかしここで、この梅もどきを手に入れるときにみなさん(とくに初心者の方)に一言
「実の華やかさに惹かれて、大粒のものを買ってはいけません」

中でも「大納言」などという品種は、接木で仕立てた実が大粒で成りやすい園芸改良種なので
葉が大きく枝打ちも粗いため、小枝ができにくくとても盆栽向きではありません

実生から仕立てたもので、なるべく葉が細かく枝打ちが密な素材をみつけましょう
そのような盆栽向きの性質をもった梅もどきは、必ず実も小さめです

実生と接木素材との見分けは、足元の立ち上がりを見ればわかります
若い素材には接木の痕跡が残っていまから



実生の梅もどきの実と葉のようす
手持ちの中品を撮影したものですが、実と葉、枝打ちなどの性質は中程度です

中程度!?
そうです、実生ものの中にも、実や葉の大小や枝打ちの良し悪しがあるんです

まあ、あまりこだわっては本末転倒する恐れがありますが
できるだけ優れた素質をもった実生の素材を探すように心がけてください

2008年10月9日木曜日

紅千鳥もみじの特徴と見分け方

昭和のバブル期に登場した「紅千鳥もみじ」
当時あまりの人気に、「紅千鳥」のようであっても、厳格に判定すると首を傾げたくなる「類似種」も出回りました

春の芽出しは鮮やかなオレンジ色がかったピンク色ですが、入梅頃になると山もみじのように緑の葉になってしまうため
その後の見分けかがつかず、業界でもかなりのトラブルが続出しました

そして始末の悪いのは、上記の理由で「真性」と「類似種」の区別がつきにくいところから
盆栽界の悪しき習慣で、「だろう」が「だ」になってしまい、悪意でなくとも、最後に泣きを見るのは愛好家さんたちでした

紅千鳥の特徴は

1 春の芽出しの美しさ
2 やや小ぶりな端正な葉形
3 繊細な枝先
4 持込とともに真っ白に仕上がる木肌
5 取り木などの繁殖が容易である

などが挙げられますが

さあ、そこで問題なのは紅千鳥とその類似種を見分けるコツ
落葉期でも木肌の雰囲気で見分けが可能ですが、なったって今日ご紹介する葉形で判定するのが一番です

ちなみに、盆栽屋.comは生え抜きの「もみじ大好き人間」なので
「紅千鳥」登場の初期段階からこの判定法を身につけていましたから、トラブルに巻き込まれたことはありませんでしたよ

この方法は現在でも、専門の盆栽屋の間でも案外に知られていません
ですからこの記事を読んだ方は、今日から「紅千鳥の専門家」としてちょっと威張れますよ(笑)


今年取り木によってゲットされた紅千鳥の超ミニ素材(樹高4.0cm)

赤味がかった新枝の軸の色が紅千鳥らしい
でも、これは紅千鳥だよ、って言われなければわかりませんね

紅千鳥の葉

別な鉢の紅千鳥からから採取した葉、下の山もみじの葉とよく見比べてください
そして、その違いを発見しましょう (わっかるかな!?)

山もみじの葉

そうです、紅千鳥の葉は5ツに切れ込んでいますね
比べて、山もみじの葉は両端の裾に小さな切れ込みが入って正確には7ツですね

簡単なことですが、これが決定的な相違なのです

・「紅千鳥」は5ツに切れ込んでいる
・「類似種」や「山もみじ」は7ツに切れ込んでいる

のです

注)紅千鳥もみじの葉をよく観察すると、その中にたまたま「右の葉」のように
端ににちょっと切れ込みが入って(赤点の箇所)正しくない形のものが混じることもあります

これは紅千鳥が山もみじからの派生種であるため
先祖の血がたまたま出現することによるので、気にしなくても大丈夫

では