2019年11月30日土曜日

楓株立ち小品

今年の野山の紅葉はやや遅れているようで、当然雑木類の秋の手入れ(葉落としや小枝の剪定)は少しずつずれ込んでいます。
そんな今年の秋の陽気ですが、今日はちょっとばかり自慢の楓株立ちの小品をご紹介致します。ちなみにサイズは樹高18cm×左右27cmです。


親幹の適度に暴れた足元は、力にあふれて逞しく大地を掴んでいます。さらに親幹は適度に模様をふってコケ順も申し分ありません。
一方細身の幹が5~6本立っている子幹は、全体に柔らかさを表現しているので、もう一工夫してさらに動きを表現したい感じです。
そのためには、来春の植替えと同時に長短強弱に気を配りながら枝先の剪定を是非敢行したいと思っています。ことによると現在よりも幹数が減るかもしれませんね。


正面からもう少し拡大して眺めてみましょう。向かって右のいちばん低い幹は切りたい感じですね。この枝を切れば足元付近に動きが出て、きっといい感じになるでしょう。
さらに全体に枝先が強い感じがするので、落葉語と植替え時にごつい枝先の整理をすることも必要でしょう。葉刈りも2回は実行して枝先に勢いが集中しないようにこころがけましょう。


この株立ちの命は、この足元の迫力にあります。


足元の張り具合を見る。


後ろ姿。


後ろから見た足元もなかなか迫力がありますね。
とにかく将来有望な逸材です。

①子幹の数を調整する。
②先端近くの太い小枝は少しずつ整理する。
③芽摘み、葉刈り(2回)を実行。

この3点をしっかり実行!
3年計画です。




2019年11月22日金曜日

舞姫もみじ・本格模様木

前号では舞姫もみじの紅葉の美しさについてお話しました。そこでお話したように盆栽の場合、葉刈りをした木の方がよく紅葉します。もちろん芽摘みや葉透かしなどをマメに実行した木でもおなじことが云えます。


写真の盆栽は舞姫もみじです。山もみじの変種で枝打ちが細かく柳っ葉です。さらに枝先が細く葉の切れ込みが深いのが特徴です。


舞姫もみじはもともと、東海地方のある盆栽家が特別に優れた葉性(はしょう)の山もみじの実生苗の中から、さらに選りすぐったものだそうです。

この画像で紹介する舞姫は、一度は今一歩のところで買い逃してしまったのに、その後再び巡り会って手に入れたものです。最初の出会いからすると約10年ほど経っているでしょう。二度目に会ったときにはかなりやつれて惨めな感じでしたが、やっとここまで回復しました。


もともとは、取り木仕立ての苗に強く針金で模様をつけたて作り込んだものです。昔出会ったときには現在と表裏が逆になっていました。現在の樹高は16.5cmですがあと10cmほど大きかったと記憶しています。その頭の10cmほどが弱っていたのでそれを切り取って正面を取り替えて現在の姿になったと云うわけです。
あの弱り果てた二度目の出会いのことは今でも覚えています。


後姿を見ると背中に大きな切り傷があります。以前の正面の幹はここから前方に立ち上がっていたのです。あとはこの傷を3年計画で完治させるのが第一の仕事です。
舞姫もみじのこれほどの本格模様木はめったにありませんから、がんばりまーす!!

2019年11月20日水曜日

舞姫もみじの紅葉

ふつう山もみじなどの雑木盆栽は、春の芽出し時、若葉の季節、紅葉や落葉時の寒樹の季節など、四季を通じて一年中に見ごろがあります。


ただし盆栽人の多くは、落葉後の寒樹の季節の小枝のほぐれ具合に一年の培養の成果を見て取るのがふつうなので、どうしても落葉中で枝先の見える秋から冬に力が入る傾向があります。


ところで私が力を入れて大量に培養している舞姫もみじですが、何年もやっているうちに気がつきました。単に葉が細葉で小さいだけでなく、葉肉が薄いせいか紅葉の色彩が非常にきれいなのです。写真のように明るくて濃いピンク色にあがります。


このくらいの色彩に染まってくれれば、少々枝ぶりが若くて未熟であっても、盆栽として気長に小枝の充実を目指しているうちに格調が上がってくるでしょう。

ちなみに美しい紅葉を眺めるためのポイントを幾つか挙げましょう。

1 春から夏にかけての生育期には芽摘みや葉透かしを怠らない。
2 夏場の水切れは厳禁です。
3 夏場は寒冷紗などで遮光する。

2019年11月13日水曜日

御蔵山・波千鳥鑑賞

先日、鉢のまとめ買いのお話はしましたね。その中に御蔵山の絵鉢が2鉢あり、その片方がすばらしい逸品(私の好みでもあった)だったので、どうしてもみなさんにご紹介したくて今日の話題にしました。


平成8年に発行された、畑中兵衛氏のコレクションを紹介した 「盆栽鉢・陶芸鑑賞としての楽しみ」の掲載されているのと瓜二つの波千鳥の文様鉢が、その中に混じっていたのです。


黒地金彩波千鳥文反縁段足正方 
間口10.5×奥行き10.5×高さ11.6cm

↑が畑中氏のコレクションの作品です。初めてみた時はこのものだと思いましたが、実物よくよく眺めて見たら、ところどころほんのちょっぴりだけ文様が異なっていました。
大きさはスリーサイズとも1mmづつの相違ですから、ほとんど同じと云っていいでしょうね。↓が実物の画像です。よく見比べて見てください。


この二つの鉢はおそらく、同時に作られたもので、もしかするとあと一つや二つの同形同文様の作品が存在するかもしれませんね。


編集人は「現在活躍中の小鉢作家の中に在って、実用、鑑賞の両面から絵付け鉢の第一人者と称されている」と最高の評価をもって作者を紹介しています。

日本の伝統文様である波千鳥を、黒地に金彩をたっぷり使って大胆に描きあげたデザイン力がすばらしい。まさに、鑑賞と実用の両面の欲求を見事に満たしてくれる作品です。

まさに、御蔵山の傑作中の傑作と云えるでしょう!

2019年11月11日月曜日

長方鉢の鑑賞

鉢の形には、長方や正方や六角、八角など、角のあるものから丸や楕円など、円形を基本にした形のものなどがあります。さらにそれらを複雑に組み合わせた木瓜(もっこ)や剣木瓜(けんもっこ)などに発展した形もありますね。
しかし何と言っても、われわれ盆栽人にとって、鉢と云われてまず思い描くのは長方鉢でしょう。丸や楕円形も鉢には違いありませんが、やはりオーソドックスな本格派の模様木がよく似合うのは長方鉢であると思います。


平安東福寺(初代)のごく前期の黒泥の長方です。この鉢の正式な呼び名は「平安東福寺焼締反縁隅切長方」と呼びます。


わずか間口10cm未満のミニ鉢ですが、東福寺鉢としては比較的初期の作品で、基本に忠実で肩に力の入っていないバランスのいい作品です。


基本に忠実でさらっと作った感じですが、いつ見ても東福寺の作品は肩の力が抜けていて、見る者に癒しの感覚を与えてくれます。


見慣れてくると、足のつけ方にも東福寺ならではの個性があることが分かるようになってきますよ。東福寺の真贋を見分けるポイントは、その足にあるとさえ云えるほどですから。


市橋和雀の梨皮泥の撫角(なでかく)の長方です。この形の鉢は基本に忠実と云うよりも、太くて短いズングリしたような個性派の模様木などが似合うでしょうね。


基本に忠実な外縁長方形でありながら、極端におしりの出っぱた姿がミソなのでしょう。個性派の木が似合うと思います。



市橋和雀の作品はそう多くはありませんが、そのゆったりとしたフォルムにはいつも感心させられます。↓の作品も白釉の外縁で珍しい作品ですが、端正でゆったりとした作風は相変わらずです。


和雀・白釉外縁隅入雲足長方


釉薬ものですから実物か花物のがっしりとした模様木が似合うでしょうね。


正面からだけではなく、裏側や真上などから眺めて見ると、バランスのよさや端正なフォルムがかえって際立って見られます。このような検証の仕方もたまには必要でしょう。



2019年11月6日水曜日

祥石鉢鑑賞

20枚ばかりまとまった売り物にぶつかった中に、石田祥石(初代祥石)の外縁雲足長方が1枚混じっていました。祥石と云えば丸系統が多く、長方や正方の角ばった作品はごく少数派です。ましてや本格的な外縁で雲足の長方鉢は極端に少ないので、じっくりと鑑賞してみましょう。


サイズは(間口16.8×奥行き12.8×高さ5.0cm)ですから、小品棚(間口80cm)飾りの席に似合うタイプです。深さもたっぷりあって、培養面にも十分配慮がはんされているのはさすがです。
正面には木瓜型(もっこがた)に窓を切って釣り人を描き、その窓の周囲は日本の伝統文様をあしらって、巧みにまとめ上げたデザイン力は秀逸です。


反対正面にも同じく窓を切って遠近感のある山水図を勢いよく描いています。大胆といえば大胆な意匠で、祥石の技術はもとよりはつらつとした制作意欲のほとばしりが感じられて爽快です。


左右の側面は萩と菊と思われます。


わずかに彩色あれた垣根の菊。


強すぎず弱すぎU,全体として安定感のあるボディーは、植物との調和において抜群の効果を発揮するでしょう。
大胆な余白をとりながらもハリのある意匠の力が光っています。


適度な余白が作品に緊張感と清涼感を感じさせます。


鉢裏と落款。