2020年9月23日水曜日

鉢の時代感

盆栽に出会った20代のあるとき、自らの盆栽の師匠に真正面から尋ねたたことがあります。「盆栽で一番大切なことは、何ですか?」
すると師匠が即座に「古さだよ」と答えたのをはっきりと覚えています。とはいえ、言葉は覚えていてもその意味を悟るまでには、以来かなりの年月が必要であったことは皆さんもお分かりになるでしょう。


左右12cmほどの和鉢の焼締め楕円鉢。昭和の時代の作柄ですから既に50年は経っているでしょう。まとめて買い取った小鉢類の中に入っていたものです。


鉢の内側は何十年も培養土が入っていたので、まるで出来たてのホヤホヤです。比べて外側は年月の想像がつかないくらいの時代感で、盆栽界で云うところの”時代で真っ黒”


切り足の底の部分も元々の土の色のままですね。やはり日の当たらない部分は古色感が出ないのですね。


何の変哲もない普及品ですが、これくらい見事に古色感がつくと、盆栽の真髄である「古さ」に思わずうっとりとさせられますね。
どのような鉢でも傷をつけずにていねいに使い込めば、10年20年先には深い味わいが出てくるものですよ。
 

2020年9月19日土曜日

貴船滝石の鑑賞

水石のジャンルの中でも案外に少ないのが滝石の名品です。そこに表されている瀑布がまあまあとしても、全体の景情が物足りなかったりして、両者がバランスよく揃っている名品は少ないものです。
今日眺めて見ようとおもっているのは貴船の滝石で、間口が20cmほどの時代のいい中品です。滝石を飾るのにふさわしい季節は、水を連想させる夏だけでなく、新緑や紅葉の季節などほとんど一年を通して適しているといっていいと思います。


正面から眺めて見る。左半分はどっしりと安定した山容であるが、右半分は頂より7合目付近に深い滝口があり、その奥から流れ出る水の勢いには非常な迫力が感じられます。このあたりがこの滝石の第一の見どころでしょう。


山頂に近い滝口から流れ出る激流が滝壺に向かって激しく流れ落ちる様子がみごと。
まさにめったにない滝石の名品です。


正面を僅かに左に振ってみると、瀑布を抱えた山容もわずかにその姿に変化を見せるようです。


この滝石の特徴は、風景に厚みと云うか奥行きがあって遠近感が感じられることでしょう。


真上から見た滝石の様子。滝口が山頂の真下から発して約一周しながら瀑布となり激しく滝壺へと落下している水の流れがよくわかりますね。
貴船石の紫がかった優雅な質感と時代感を具えた品格に溢れた静と動の趣をお楽しみください。

滝石鑑賞のポイント
1 全体の景情と瀑布のバランス
2 滝の上流、特に滝口あたりから中流、さらには下流(滝壺)への変化や迫力
3 水石すべてに共通の古色と雅味



 

2020年9月18日金曜日

山もみじ懸崖再生

この古い山もみじの懸崖がうちの棚へやってきたのは昨年の秋ごろだったような記憶があります。東京のベテラン愛好家さんが入院を余儀なくされて、次の居場所を探しているときに私と出会ったというわけです。


一度は完成に近い線まで行った古い木で。骨格はほとんど決まっていました。問題は樹勢がやや弱っていたのと、足元の古傷でした。


正面の足元がややえぐれた様になっていますが、附近に小根もあって元気さえ出れば復活の見込みは十分に感じられました。


やや大きめの仕立鉢に高植えして、水も肥料もたっぷりめ。


元々衰弱していたわけではないので、意外に早い復活のようす。夏の暑さも難なく乗り越えて、足元あたりの充実感はなかなかです。


裏正面から見ると、この山もみじの古木感がよくわかりますね。


来年一年はこのまま仕立て鉢で培養します。根に力がああるのでおそらく見違えるほどに太るでしょう。
再来年の春を目標に化粧鉢に入れるつもりで頑張りたいと思っています。

 

ちりめん桂株立ち

よく「盆栽として愛好されている樹種はいったい何種類くらいあるのでしょうか?」とか「この盆栽の樹齢はどのくらい?」という類の質問を受けることがあります。


私の経験だとそんな質問をまじめに受け取って、何年とか何十年とか真剣にお答えしても、その貴重な年月と丹精に対して心の底から感動している人はごく少数のような気がします。


私たちが日常に接している盆栽愛好家は、大げさに言えば盆栽なしでの生活なんか考えられない人たちばかりで、この人たちはどんなことがあっても必ず盆栽のことを片時も忘れることはありません。まさに盆キチそのものと云っていいでしょう。


今年の日本の夏季もながーい入梅から始まって、次には台風をはじめ、異常な夏日の連続でした。さすが私の周囲の盆キチたちもへばりぎみでしたが、台風10号が過ぎてからはややあの暑さも僅かに和らいで、元気を取り戻してきたようです。
さあそろそら本格的な盆栽シーズンがやってきます。がんばりましょう!