2008年12月18日木曜日

長寿梅五態

むかしむかし、40年以上も前のこと
とうじまだ木肌の荒れた長寿梅の古木が少なかったころ

やっとこ手に入れた人差し指くらいの5幹の株立ち中品を可愛がっていました
値段もはっきり覚えていますよ、5万円! 当時としては大枚をはたいたんです

今でも長寿梅というと、あの初めて持った株立ちを思い出すんです
やはりいつまでも忘れられない盆栽ってあるんですよ

主幹が太くやや右流れで、木肌がイボイボに荒れ、小枝もよくほぐれた優れもので
若いアンチャンの持ち物としては異例の渋いものでしたね

さて、あれから40年、盆栽樹種にもその時々による人気の浮沈があり
もてはやされた樹種でも消えてしまったものも多い中で、長寿梅の人気は地味ながら不動の地位はかわりません

そして、その間に技術が飛躍的に発達したせいで
むかしは株立ちオンリーであったのが、単幹や石付など、多彩な樹形が見られるようになりました


株立ち小品

むかしながらの株立ち状の長寿梅
樹形もさることながら、自然風な趣を意識した樹形で席飾りの添えとして最適


石付小品

石と一体になった構図のおもしろさと自然の風情に重点を置いた構図
株立ちを同じく席飾りの添えとして最適です


根上がり小品

長寿梅特有の根の模様の変化を活かした樹形
飄々とした風情もあり、席飾りの一員として活躍が期待できます


単幹小品

近年人気の単幹本格模様木
40年もむかしには見られなかった樹形で、培養技術の飛躍的な発達を強く感じます


単幹小品

培養技術や知識が発達し、これほどに枝を密に作りこむことも可能になったのです
のんびりとした時が流れているように見える盆栽界も、振り返ってみるとその技術の進歩は目覚ましいものがあるんです

2008年12月15日月曜日

野梅と福寿草

千葉県松戸市では、今朝方の冷え込みは今年最高で、庭の水瓶に初氷が見られました
冬囲いが終わったいてよかった!

ところで、師走も半分が過ぎ松竹梅や福寿草が目につく季節になりましたね
そこで今日はお正月用の梅と福寿草の寄せ植えをご紹介しましょう

松竹梅よりも簡単に楽しめ
その後の管理も楽なのでお勧めです



持込の野梅を鉢からすっぽりと抜き、福寿草を植え込むためのスペースだけ軽く根をほぐし
やや大きめの鉢に植えつけたもの、初春の雰囲気いっぱいです

花後の管理(松竹梅も共通)

屋内で鑑賞して花が終わったものは、そのまま屋外へ出してはいけません
たちまち風邪をひいて弱ってしまいます

花が終わったらムロかそれに準じた置き場で越冬させ
春なってから梅は本格的に植え替え、福寿草は水はけのいい半日陰の場所を選んで庭に植え戻す

鉢植えでの福寿草の栽培はかなり難しいため
山野草専門の愛好家でないと無理、そう割り切ってくださいね

松竹梅であれば、三者を別々の鉢に植え替え
来年用に管理します

以上、ふだんご懇意にしている「栃の葉書房」の「趣味の山野草・1月号」から画像をお借りしました
画像がきれいで楽しめる趣味の雑誌ですよ

月刊誌 「趣味の山野草」 栃の葉書房 栃木県鹿沼市御橋町1-3002-24
電話 0289-64-3311

定価 1.050円 (送料116円)

よろしく

2008年12月13日土曜日

冬囲い(重要)

みなさん、冬囲いの作業はすみましたか?
すんでいないひとは、年内くらいにはやっていただきたいですね

私の住む千葉県の内陸部では、初霜の降り始める12月の初旬ごろを目安として
毎年、遅くとも年内に終わるように心がけています

しかし、早すぎてもいけない
強い霜に2~3回当てて、盆栽たちがしっかり眠ってから囲うようにします

冬囲いの設備や置き場所の最低条件は

1 霜や雪が当たらない
2 冷たい北風に直接当たらない
3 鉢内がひどく凍らない程度の温度が保てる
4 日中と夜間の温度差が小さい
5 適当な湿度がある

などを満たせば十分です
それでは、挙げた5項目について詳しく解説してみましょう

1については、みなさんおわかりですね
ですから、他の4項目がやや満たされていれば、片屋根のベランダの隅でもいいわけですね

2は大切な条件ですよ
枝先の繊細な雑木類などは、冬の乾燥した冷たい風が大嫌いなのです
簡易な施設であっても北と西側は必ず風除けをしましょう

3は案外に誤解されたいる条件です
これは、「表面がやや薄く凍っても日中には必ず解ける」という程度
ですから、許容条件はかなりゆるくて、少々凍ったって大丈夫
つまり、冬囲いの施設は温室でなくってもいいので
「過保護は禁物」

4も大切なこと
人間も植物も同じで、激しい温度差が身体にこたえるのですよ
ビニールやガラス戸は遮光ネットなどを張って、日中の温度を上げないように工夫しましょう
もっとも松柏類には日光を当てたいので、雑木類と区別して保護する方がいい

また日中の温度が上がりすぎていると、来春早くに芽が出てしまい
徒長の原因にもなるしムロ出しのタイミングも難しくなります

5も大切
繊細な枝先などは乾燥には弱いものです
冬であっても日中の暖かい時間帯に霧水をやるなどの配慮も必要でしょう



盆栽.comの冬囲い

棚の上と側面をコンパネとビニールで囲い、南口を開けたムロと
コンパネの片屋根の組み立て式ムロ

夜間は南口はビニールを幕のように垂らして防寒しますが
松柏類には防寒幕は使いません



棚下のムロ
下が地面なので湿度が保てます

しかし、寒中には鉢土の表面がやや薄く凍ることもありますが、日中には解けます
盆栽にとってはこのくらいが最適な保護なのです



片屋根式のムロ
寒い日にはビニールの防寒幕は開けないでおきますが
晴れた日には温度が上がってしまいうので開けっ放し

それでは、まだ冬囲いをしていない愛好家さんたちは、そく実行!

そして、不十分と思う人は追加作業
過保護の人は↑の条件をよく読んでください

2008年12月1日月曜日

野梅の枝作り

種木の状態から完成まで、梅の枝作りをご紹介します

この枝作りの方法は他の雑木類にも応用できる大切な技術ですから
しっかりとマスターしておけば、あなたの技術は大幅アップします



種木から枝作りを始めて2年経った樹齢20年の天草野梅



1年目(白点と白線にご注目)

・胴から吹いた芽の白点から白点までが1年目の枝
・入梅前の柔らかい新芽に針金をかけ、秋まで伸ばしっ放しにしました
・2年目の春に1~3芽くらいを残して切り詰めました

2年目(赤点と赤線にご注目)

・赤点を基点にして伸び始めた新芽に、針金で曲をつけながら赤矢印の方向に徒長させました
・今秋に先端の赤点の箇所で仮止めをしました 



3年目

・来春の芽出し前に、白線の箇所から1から3芽くらいを残して切り詰めます(芽当りを確かめてから)



3年目の入梅前~秋までの予想図

・入梅前に3年目の新枝に針金をかけて曲をつける
・水と肥料を多めに培養しながら、秋まで枝を充実させる
・3年目の枝で、基本の骨格はあらかた出来上がります



4年目以降の想像図

・太めの茶色の線が3年目の枝(1~3芽で切り詰めてある)です
・3年目の先端の細い枝が4年目以降の枝
・4年目以降は新芽に針金をかける必要はありません、以後は切込みにより小枝を密に仕上げていきます
・花芽は4年目あたりから本格的に鑑賞できるようになります

ほとんどの雑木の基本形は、このように3年~4年計画でこのように作り込んでいくのです
みなさん、しっかり勉強してくださいね

2008年11月27日木曜日

東福寺・贋物鑑定法

盆栽界でもっとも名の知られた鉢作家といえば「平安東福寺」でしょうが
同時に、これほど贋物が出回っている作家もいないでしょう

ながい間この業界に生きてくると、この東福寺の贋物にまつわる話は
枚挙にいとまがないほどたくさん見てきました

プロの場合、贋物を掴めば「あいつは目が利かない」と笑われるのおちですから
やせ我慢している姿が喜劇的で、「もっと修行をつめよ」などと先輩にからかわれたりして一件落着ですが

愛好家が大枚を出して求めた東福寺が「贋物」だった場合は、非常に悲しく悔しい出来事です
たちまち人間不信(盆栽業者)に陥って、盆栽がいやになってしまう人さえいます

ともかく売り手である盆栽業者は、きちっとモラルを守り鑑識眼の研磨に励めねば、まさしく業界の恥となります
そして、買い手であるみなさんも自衛のための勉強を怠ってはなりませんね


平安東福寺・緑釉外縁輪花 間口33×奥行33×高さ7.3cm

20年ほど前、ごく親しい愛好家のUさんが「こんなの見つけたよ、安いし使い鉢にいいから買ってきたよ」
と見せてくれた東福寺の贋物、その後その愛好家ずーっと使い込んでいたもの
先日その方からある名品を譲っていただいたおりに、サービスにいただいてきたんです(笑)

東福寺の贋物としては格別に大きな鉢です

所見1

東福寺の緑釉はもっとも代表的で定評のある釉薬
この贋物の釉(クスリ)にはホンモノのような深みと光沢がなく、薄っぺらな感じがします


所見2

6弁の輪花形の鉢は珍しい、ただし東福寺は形の多彩さでも知られた作家なので
「この形の東福寺はありえない」と断定はできませんからご注意

形よりもむしろ水穴に違和感があるのです

三箇所の小さな水穴は、針金を通して木を固定するための用途も意識したもの、と推定されます
東福寺鉢には、このように意識的に固定用の穴を開けた鉢は、あまり見かけた記憶はありません


所見3

足にも力が感じられませんね

東福寺の仕事は手早い一発仕上げが特徴
ホンモノであればもっと力強い感覚が伝わってくるはずです


所見4

ホンモノ東福寺の緑釉はもっと鮮やかで深みと光沢があります
この鉢の真贋判定の最大のポイントは、この釉薬だといえるでしょう


所見5

この釘彫の書き落款は、かなりホンモノに似ています
しかし、ホンモノにある筆致の勢いが感じられませんね、あまり落款を当てにしてはいけませんよ

そして土目も東福寺鉢にはみられない質のものです

以上思いついた所見をいくつかあげてみました

鉢の形や大小に拘らず、他の東福寺鉢の鑑定に役立つ急所です
総合的な鑑定眼を養ってニセモノに引っかからないように、勉強してくださいね

最後になりましたが、今日ご紹介した鉢は「二代目東福寺」でもありません
東福寺鉢の判定には、ニセモノを「二代目東福寺」と言いくるめる「便利な逃げ道」がよく使われますが

これとて悪質であることにはかわりません
初代は水野喜三郎、二代は水野勇の作でなくてはならないのです

その他の作品は、すべて贋物(コピー)なのです
いいですか、二代目という「逃げ口上」にも引っかかってはいけませんよ

では

2008年11月26日水曜日

楓の傷口治癒


1  2  3  

お気に入りの楓寄せ植えの、主幹の左側に立っている副幹の下から三分の二くらいの高さに
横幅2cm、縦3cmほどの大きな傷がありました

かなり以前に、旧の持ち主がそそうして幹が半分折れかかた時に作ってしまった傷で
直径3cmの幹に幅2cm、患部は凹んで木質部が露出しており、私もその治療方法でちょっと迷ってはいたのです

楓は強壮な性質で肉巻きは早い方ですが、枝先を柔らかく保つためにはあまり肥料はやりたくないし
かといって自然治癒では時間がかかるし・・・



傷口はおおよそ白線で囲んだくらいでした
そこで一昨年の春、古い傷口を新たに削り直してカットパスターをたっぷり塗って保護しました

傷口は新しいほど肉巻きが早く、古傷になるとほどに肉巻きの速度が遅くなってきます
そこで、古い傷口を形成層が見えるまで削り込んで、傷口に刺激を与えてやるんです



新しくなった傷口が盛り上がって、旺盛に肉巻きが促進された様子がおわかりですね
2年の間に、中心にあと数ミリを残してみごとに埋まりましたよ



まだカットパスターの残りかすが取りきれません
冬季にゆっくりと掃除をするつもりです

ここで注意点を一つ

治癒した箇所にいつまでもカットパスターを貼っておいてはいけません
肉巻きのいい樹種では、肉が巻きすぎてコブになってしまうこともあるくらいです

治癒した傷のカットパスターは早めに取り除いて
まだ肉の巻かない箇所だけ塗り直すなどしてあげましょう

2008年11月24日月曜日

極性の山もみじ

商売で盆栽と接している盆栽屋にとっても、とくに好きな樹種は必ずあるもので
また樹形やサイズによる好みもあります

商売とはいえ、自分の好みの樹種や樹形の盆栽に出会ったときは
損得を離れて、それは嬉しいものです(これがほんとの役どく)

今日ご紹介するのは、先日巡り合った山もみじのミニサイズ
根張りのよさや枝先の細かさ、そして何よりもスケールの大きな「構え」のよさに一目で惹かれました



「この山もみじ、いくら?」と聞くと、ふだんは躊躇なく値段をいう同業者が
苦しそうな表情でやや一瞬のあいだ迷っているようすでした

私は、彼が樹冠部の未完成の評価をどれくらい割り引いたら適切なのか
それを迷っていると即断しました

そこで、「頭がなー、ちょっと時間がかかるよなー」
とすかさず、さりげないかく乱の先制攻撃を一発(値切りのテクニック・超上級編)

値段を聞いてしまってからでは値切りのパンチは効きにくいもの
相手の顔色を見ながら、すばやく、そしてさりげなく放つ先制の攻撃は効果抜群です

じっさいに、この山もみじのように、ほとんどが文句ないほどに完成していながら
一部分が未完成とか改作中という盆栽の評価は、たいへん難しいことなのです

ということで、私の腹見積もりよりも値段は3割安(先制パンチが効いた)
値切りの気まずさもなく、ホクホクとしたいい気分で仕入れたお気に入りの山もみじです


前置きが長くなりました、それでは問題の改作中の樹冠部について

間が抜けた現在の芯の裏側(上の赤点)に5ミリほどの小さな芽があり
これを新しい芯として立て替えれば、びったんこ、理想的です

↓の側面からの画像を参照
赤点が新しい芯です

さらに下の赤点の位置あたりに斜め前方に向かった前枝が欲しい(貫通式の呼び接ぎにより容易に可能)
樹高の三分の一から上あたりには前枝をつけ、姿に奥行きを演出するのが定石ですね

また、二の枝の上にある枝がちょっとうるさい
切り取って空間を作ると、枝順も整い伸び伸びとして見えます


左側面からの画像
白点が現在の芯、赤点が来春以降の新しい芯


3年後の完成予想樹高 9.0センチ

以上のように樹形もいいですが、小枝の先端の繊細さも際立っていますね
ミニサイズの山もみじの小枝作りには、葉性の優秀さも忘れてはならない要素

この山もみじのように、仕立て鉢で培養しながらこれほどにしまった枝先は
いわゆる「極性・ごくしょう」といわれる優れた葉性の証拠です

おまけに、今までの所有者の所見では、このもみじはひょっとすると安部性かもしれない、とのこと
今はハッキリとは確認できませんから、来春に芽が出るまでそっと楽しみに待ちます

楽しみ、楽しみ、気合を入れて作り込むぞ-!

と張り切っている盆栽屋.comであります

2008年11月18日火曜日

五葉松双幹取り木素材

盆栽人にとってはめったに人の持たない稀少な名品と出会うのが夢
その強い衝動が非常な困難や辛抱を乗り越えて、盆栽界に名品を送り出しているのですね

今回紹介するのは、取り木による10cm以下のミニサイズの五葉松
まさに辛抱の賜物といえましょう

ご存知のように、黒松や赤松、真柏や杜松など他の松柏類に比べて
五葉松は追い込みの難しい樹種ですね

そのうえ成長も遅いなどの理由から
人気抜群の樹種でありながら、10cm以下のミニサイズは極端に品薄です


私の親しい友人(業者)が5年前、実生五葉松に取り木をかけました
雑木類に施す環状剥皮ではなく、根の欲しい箇所を針金でやや強めに縛っておき水苔を巻いておく方法です

この方法は環状剥皮と異なり時間はかかりますが
発根しにくい松柏類などに有効です

気長に辛抱してまる2年ほどで発根したしましたが
急いで親木から切り離さず、根数が殖えるのを待ったのです

5年の歳月が経ち、樹形も五葉松らしい温雅な双幹体として立派に成長しました
いよいよ親木から独立の時期がやってきたのです

しかし、ここで慌てて失敗しては5年間の辛抱がフイになってしまいます


現在の樹高(鉢の面から)樹高11×左右17cm
親木から独立した後の樹高は、うれしいことに8.5cmです

やや下方から覗いてみます、主幹の模様がいいですよ
向って右が子幹、左は主幹の一の枝です

白点のあたりが発根の予想される位置
その下は水苔を山盛りにしてあり、無数の根が鉢の中まで伸びています

さて、親木からいきなり切り離してせっかくの樹勢を損なってはいけませんから
来春、この山盛りの水苔を丁寧にすべて取り除きます(ピンセット)

そして、鉢の上にビニール網(鉢底用)で土手を築き
赤玉土と砂の混合用土を入れます

そのまま来年1年間はしっかりと根作りに励み
再来年の春に親木から切り離し、そのときにほんとうの独立をするわけです

に時間をかけて慎重にやれば、樹勢を損なうことなく
独立後も順調な生育をみせるでしょう


足元の拡大図

葉の炭酸同化作用で作られて形成層を伝わって根に蓄えられる栄養分は
針金でせき止められて発根につながるのです

また、せき止められた針金の上の部分はごらんのように太って
盆栽としての理想的な立ち上がりとなります


(×)針金の縛り方
悪い例、一重だと上下がつながってしまうので二重に撒いた場合
一箇所で締めると隙間が空きやすく、圧力が一定にならない


(○)針金の縛り方
良い例、二本の針金を左右から締めると
隙間が空きにくく、圧力が一定になる

こんな小さな工夫も取り木成功へ道につながります
参考のために

では

2008年11月14日金曜日

作る・出猩々 

葉を落とせる時期まで、うずうずしながらやっと我慢をしてきた出猩々
裸にしてみると、6/19のつれづれ草でご紹介したときより、徒長させた芯がずいぶん太っています

新しい芽とはいえ、一年でこれだけ太るのだから、ボディー全体もかなり太ってはいるのでしょうが
毎日手元で見ている盆栽は、目が慣れてしまっていて、その成長の度合いには案外気がつかないものですね


20008/11 撮影の正面図


拡大図

枝については後でお話ししますが、過去の姿とみくらべると
ボディーが充実してかなりの重量感が出てきました


芯の部分の拡大図

周囲に新しい胴吹き芽がたくさん見られます
この中からいい位置に吹いたやつを選んで将来の枝として活用していきます


白点が胴吹き芽の位置
こうして眺めると、枝決めにはこまらないほどの胴吹き芽がありますから、一安心

芯は一番上の白点ではなく、二段目の芽を活用します
幹のコケ順はできましたから、来年はもう頭を太らせるための徒長は必要なくなりました

幹の基本が出来上がったということですね
ですから、来春からは枝を徒長させて太らせるという「次の段階」に移るのです

枝のないところには、呼び接ぎなどの整形外科的な方法もあるんですが
あえてそれに頼らず、体力をつけながら胴吹き芽を待ってジワジワと作りこむのは辛抱が要ります

けれど時間をかけて作りこんだ盆栽には
やはりそれなりの風格が与えられることになっているのです

辛抱、辛抱!

では次の段階をお楽しみに

2008年11月8日土曜日

尚古堂型の和鉢

東京浅草の観音様の近くの今戸という古い下町に、関東陶器という老舗の瀬戸物屋さんがありました
当時のご主人は10年ほど前になくなりましたが、おそらく今でもお店はやっていると思います

特別親しくはなかったけれど、同じ日本盆栽協同組合員としての鉢の商いを通じてのおつき合いはしていました
ご主人は盆栽には不案内でしたが、鉢の世界ではあの「舟山」を専門的に扱う店として知られ、商売もなかなか上手でした

私がまだ20代の半ばごろ初めてお店を訪ねたとき、古いお店の奥が作業場のようになっていて
そこで赤玉土の製造をしていたのを、あまりに珍しい光景だったのでよく覚えています

さて今日ご紹介するのは、その関東陶器さんが 発注元となり
昭和30年代から40年代初頭、支邦鉢の名品「尚古堂」に倣って製作発売した大中小の三枚組の一枚

間口16.7×奥行11.8×高さ5.0cmのこの鉢よりも大きなサイズがあった記憶があるので
このサイズは小か中だったと思います

当時から尚古堂型の外縁隅入雲足長方は人気絶大でしたが
この型の和鉢はほかには見ることができなかった

本歌は非常に高価な宝物であり(今でもそうですが)
数も極端に少ないため、手に入れることなど思いもよらないことでした

そんな盆栽界の需要状況を見極めた商売上手の関東陶器さんが
「尚古堂」に倣った「外縁隅入雲足長方鉢」をプロデュースして発売したのです

ですから、人気の尚古堂の代用品としても意味からも非常にタイムリーでしたし
当時の和鉢の優秀性の実証という観点からも画期的なことでありました

ちなみに、「尚古堂型」というのは外縁・隅入・雲足・長方を特徴としていますが
おなじ特徴をもっていても、胴の下部が出っ張った型のは「子林倣古型・しりんぼうこがた」と呼ばれ、しっかりと区別されています



名品「尚古堂型」の和鉢の優秀作品(間口16.7×奥行11.8×高さ5.0cm)

盆栽には持込が大切なように、鉢の世界には使い込みが大切ですね
当時は普及品として製作発売されて鉢が、愛好家による40年以上の使い込みにより、この通り風格十分です

奥深い光沢と輝きを見せる土味には惚れぼれしますね
窯ものの和鉢も捨てたもんじゃない、優秀性を改めて認識させられます

ともかくくどいようですが、ごらんのように鉢は使い込みが大切
普及品として世に出回ったものでも、丁寧な使い込みにより時間をかければ鉢は立派に「出世」することの代表例です



間口と奥行きと高さのバランス、縁の強さ、胴の曲線、雲足の強さ
すべてのポイントにわたり本歌の特徴をみごとに倣っています



縁、胴、雲足の拡大図
尚古堂型特有の隅に僅かな切り込みがあります



鉢裏と雲足のようす



落款は「関東陶製」

みなさんも身の回りを再点検してみてください
長い間使い込んでいるうちに、思いのほかに「出世」している鉢があるかも知れませんよ

では

2008年11月3日月曜日

作る・きんずの芯作り

7/22のつれづれ草でご紹介したきんず
芽の伸びがとまり葉も固まったので、針金を外して成長具ぐあいを検証してみましょう



今年の夏の中盤以後は不順な天候が続いたため、多水多肥をさけて培養をしてきたので
新芽ん伸びや太りは標準以下ですが、気候にあわせた適切な方法だったと思います

さて、現在の画像はここで針金を外した後の全体の姿ですが
針金をかけた芯や枝作りの成果はどうでしょう



針金をかけた結果、枝の基本から次の枝分かれができて、ずいぶんと枝がにぎやかになってきました
来春に各々の枝先を1~3cm残しで切り詰め、出た新芽の先をさらに二又に分岐させます

それにより枝の基本はかなり完成度がたかまります
ということで、枝作りは順調にいっていますね



さて、芯作りですが、昨年の新芽の基点である下の白点と、今年の新芽の基点である白点をご覧下さい
この筋が大切な芯なのです

ところが、二つの白点間の距離が2.0cmとちょっと長いんですねー
理想的には、上の白点が赤点の位置に欲しかった!

つくづく眺めてみても、昨年の新芽の部分が間が抜けて見えちゃう(いわゆる首なが)
あーあ、昨年の新芽を真っ直ぐに伸ばしっ放しにしないで、針金で曲げておけばよかったなー、残念!



見やすいように周りの枝葉を消してみました
ね、みなさん、昨年の新芽の部分が真っ直ぐで下方の幹と違和感がありますよね

せめて白点間の距離が1.0cmなら我慢できますが、2.0cmは長すぎる
これはまさしく、失敗でした

ということで、今後の解決方法はまだ決めていませんが
とにかく現在の芯をこのまま使うわけにはいきません、先々に禍根を残すこと必至

くやしいですが、芯作りはやり直しです

では

2008年10月31日金曜日

五葉松について

五葉松といえば、なんといっても黒松・真柏とならんで松柏盆栽の王者
盆栽界における名木の数では、黒松と真柏をおさえて第一の座に君臨します

日本列島本土の南から北まで広く分布しており、樹齢も非常に長く
小さな鉢の中での長い年月の培養にもよく耐える強壮な性質をもっています

私が盆栽界に入った昭和40年代の初期には
その優れた葉性と皮性から、四国の石鎚山系と赤石山系の全盛時代

葉性と皮性から、四国五葉より一段低く見られていた福島産の五葉松が
四国産と偽って市場に出回っていると噂になったほどでした(いまでは産地偽装だ)

当時は八房の全盛時代であり
今考えてみると、過度な葉性に対してのこだわりが蔓延していた時代でしたね

そのブーム的な風潮が一段落して以後は、産地にこだわらず
いいものはいい、悪いものはわるいと、冷静に評価するようになってきました

ですから、現在の盆栽界で「これは四国五葉だ」とか「いいや福島だよ」
などという会話はほとんど聞かれなくなりましたが、これが正常な状態ですね

とはいえ、「五葉松は葉性が命」という金言は、古今かわることなく生きつづけています
長いよれた葉っぱを培養の工夫で短く真っ直ぐにするのは、至難の業ですから

ちなみに現在の五葉松の産地としては 
四国地方、那須地方、福島地方などが有名です


那須地方の五葉松筏吹き五幹立

八房ブームをきっかけに有名になった那須五葉松
ブームが去った以後も、その優れた特質からしっかりと盆栽界の人気者として定着しました

緑が鮮やかで太めで真っ直ぐな短い葉性、芽吹きがいいので枝分かれが密になりやすく
盆栽向きの素質に恵まれています

画像の五葉松の筏吹きは、市内の親しい愛好家さんが20年ほど丹精したものですが
当時からの樹高(25cm)はほとんど同じ、いかに徒長しにくいかが推測できますね

加えて、フトコロ芽が蒸れにくいという長所も特記に値するでしょう

輪郭線はしっかり保っていても、フトコロ芽がまったく無くなっている五葉松
みなさんもよく見かけるでしょ、ああなりにくいんですね、那須五葉は


葉の拡大図
色つやよく、短くつまった真っ直ぐな葉


下枝にもしっかりと勢いがありますね


後ろ姿


後ろ足元

ところで、盆栽界全体では恵まれているのですが
一方小品盆栽界に限ってみると五葉松の名木は極端に少ないのが実状です

一流展示会の小品棚飾りの天に五葉松の本格模様木
これって極端に少ないところからも推し量れますね

やはり黒松などに比べて成長も遅いし、追い込みによる胴吹き芽も吹きにくい
それらが理由でしょう

しかし、小品盆栽界にも五葉松大好き人間はたくさんいます
画期的な技術はないものか!?

2008年10月29日水曜日

黒松芽切りその後

黒松の芽切りの時期はつくづく難しい
葉が固まって揃う時期になると毎年感じることです

芽切りの時期は

・気候(気温・日照時間)
・各人の置き場の条件(日照時間)
・樹勢や老若
・肥料や水の管理
・植替え年数

など、いろいろな条件を考慮して各人が工夫してをこらしてはいても
なにせ年々の長期の天気予報が思うとおりにいくとは限りません

今年の夏の初めはとにかく暑かったですね
そこで私は例年よりもさらに遅めにと決めていて、今までで一番遅い7月15日を中心に行いました

ところが、8月の中旬以後は日照時間が少なく,大雨が降りましたね
それですっかり予想の狂ってしまったわけです

2008/10 撮影 樹高10cm


 2008/6 撮影


この黒松ミニはたまたまの成功例です
まだ若い木でありミニサイズのため、葉がちょうどよく短めに揃いましたが

これがもっと樹高の高い黒松であったら、葉が短く感じるでしょうね
やはり樹高サイズも芽切り時期の条件として考慮した方がいいでしょう

そんなわけで、今年の芽切り時期の設定はみごとに失敗!
来年こそはと反省しているところです

みなさんはいかがでしたか?