2021年5月6日木曜日

夜店の竹本鉢

かつて、歩いて10分ほどの隣町に一廻り(同じ干支)年上の盆栽友達がおりました。その方が盆栽に接するようになったのは昭和の30年代の中頃だったそうで、私たちが松戸のこの地で仲のいい友達になった40年代の頃には既に、今日では名品といえる古鉢を何点か所有しておりました。

竹本青磁釉外縁切足長方

間口9.8×奥行き7.5×高さ4.6cm

その中でも特に際立った優れものは、間口35㎝くらいの青磁釉の木瓜式でした。長年使い込んだ古色感にあふれ、竹本の作品としてはかなり大ぶりでめったにみられない存在感にあふれた名品でした。

ところで、その先輩のUさんがその竹本を入手した経路はとても現代では考えられないような、まさに劇的な手順によるものでした。 



Uさんとその竹本鉢の出会いは、ある縁日の夜店の植木屋の屋台だったのです。友人と二人で夜店を冷やかしていたUさんの目に留ったのです。無落款ですがこくのある出来栄えが、焼き物好きのUさんの心を捉えたのです。
のちにある会社の重役になるほどのUさんですが、当時はまだ駆け出しの青二才の身で植木屋のおっさんの言い値の5,000円はかなりの大金だったようです。それに味がいいとはいえ無落款で産地も作家名もわからないのですから、植木屋の口車に乗せられているのじゃないかと、かなりの不安もあったようです。


そんなこんなのやり取りの挙句、熱くなった勢いで夢中で買い求めたわけですが、冷静になってみるとどこの産地か作者名もわかりません。で不安になったUさんは、さっそくUさんは最寄の盆栽園に持ち込んで教えを請うわけです。
すると「これは竹本だよ。こんな上等なものどっから持ってきたんだい」という返事が返ってきました。

聞きかじりでも盆栽の道に踏み込んでいたUさんですが、竹本鉢とはさすがに驚いた。
まともなら当時の評価でも数十万円はくだらない竹本鉢鉢の名品がたったの5,000円で縁日の夜店で手に入るとは!


この竹本鉢はその後発行された名鉢集にも掲載されたりし、その後も長く私の友人Uさんに愛玩されました。機会がありましたらこの竹本鉢のその後のお話もお聞かせしましょう。
まあ、今の時代ではめったにこんなことは無いでしょうがネ!