2006年5月27日土曜日

涌泉名品鑑賞

天才・月之輪涌泉の名品の鑑賞をしましょう

涌泉は、彫り込み、ロクロ、タタラと、3つの技法を用いてボディーを製作していますが
彼の凄いところは、そのいずれにおいても最高水準の技を発揮し名作を残していることでしょう

よく知られる彫り込みの技術
それは藤掛雄山などの作家に強い影響を残しましたね

向こうが透けて見えるくらいのロクロ技法による超薄手の丸鉢もみごとですし
タタラ技法の長方鉢は高い格調を示しています



涌泉の作品中では盆栽との調和を強く意識した作品です

そのはず、迫力のある盆栽を入れても調和の取れるだけの存在感をもった鉢
とのさる関西方面の小品盆栽大家からの依頼に答えて製作されたと伝えらています

涌泉には珍しく、屈曲の激しい面のボディーと厚みのある外縁を備えています

以前この鉢に、根張りが盤状になった太幹の楓が入っているのを見たことがありましたが
素晴らしく調和していたことを憶えています

この凹凸の激しい画面に絵付けをするのは難しいでしょうね
ところが涌泉は平面と同様に、遠景・中景・近景とも乱れもなく繊細なタッチで描いています

驚くべき技量、さすが天才です!



力強い存在感と安定感のあるボディーです

馬に乗る旅人を画面の中央に配し、遠景と近景を丹念に描き込んだ構図はみごと
動物を描かせると絵師の力量がわかりますね



反対側の正面図です

涌泉の得意とする湖水を走る舟の図
動きのある船頭の描写や遠近感のある画面が秀逸です



正面の拡大図

構図、タッチ、描き込みの丹念さ、加えて独特の叙情性
涌泉の実力が遺憾なく発揮された作品です

では

2006年5月19日金曜日

水石の鑑賞法

水石鑑賞の基本は「見立て」から始まります
様々な形をした石を、山、滝、島、そして茅ぶきの民家などに見立てるのです

その「見立て」という精神の行為により、「石はただの石ではなくなり」
雄大な自然を連想させる「景色」へと変貌するのです

ですから、水石趣味家にとって掌の上にのっているものといえば
それは石ではなく意識の上では「景色」そのものです



バックの雄大な山の裾からの流れが瀑布となって落ちています
渦巻くように暴れながら落下する水の動きもよく表現されていますね

さらに、落ち際に露出した岩の塊の存在が
この滝の景色をより荒々しく厳しいものにしています

また、「見立て」による連想には何よりも石の時代感が重要であることを知ってください

ともかく、石が石でなく景色として見えるようになるには
河原で拾ったばかりの時代感のないものではちょっと物足りなく

ただの「石っころ」と言われてしまいますね



さて、この石は上の滝石よりもかなり「若い」ですね
つまり時代感が不足しています

岩上茅舎(がんじょうくずや)に見立てられていますが
時代感が足りないために、やっぱり「石」だなーという印象が拭えませんね

まだ「水石」と呼ばれるレベルには達していない
盆栽で言えばいわば「素材」なのです

いい見どころは持っているので
一人前の「水石」になるまで、約10年くらいは辛抱して「養石」しなければなりませんね

今日のキーワードは「見立て」・「養石」
では、よろしくー

2006年5月16日火曜日

黒松の施肥

黒松の新芽がぐんぐんと伸びていますね
それを見て胸がワクワクする時期です

さてそこで、その黒松にもっといっぱい肥料をやり
伸びた新芽にさらに力をつけてやりましょう

今から6月末の新芽摘み(短葉法)の時期までに
精一杯の樹勢をつけるのです

この時期に黒松の新芽がヒョロヒョロと痩せているようでは
1年間の培養計画がうまくいきませんよ

ただし例外もあり
今年の春に植え替えたものや樹勢の落ちた鉢は様子を見ながら控えめに施肥します



樹高12.5cmの黒松、鉢の寸法は間口14.5cm
葉透かしの作業も丁寧に行ったので、フトコロの新芽もグングンと動き出しています

私は小粒の油粕を使っているので、10個くらいが目安

大粒を使っている人は四隅に1個ずつ
芽摘みの時まで切らさずに与えます



みなさん、ご自分の施肥量と比べて多いですか、少ないですか?

私の推測では、ほとんどの方が「こんなにやるの」
そう思っていることでしょう

人間の子供と同じで、伸び盛りの盆栽は食欲も旺盛
とくに新芽の伸びるこの時期にはたくさん食べさせてあげましょう

ばっちり栄養をつけておいて新芽を摘めば再び吹く芽に力があり数も多い
これが狙いなのです

さっそく実行!

注)山もみじや楓のように小枝の繊細さを求める雑木には
同じ容量の鉢でも2粒か3粒にしてくださいね
枝先がゴツクなってしまいますよ

2006年5月8日月曜日

糸掛石の鑑賞

約10年前から欲しくてたまらなかった加茂川の糸掛石が手に入り
頼んでおいた台座がゴールデンウイークの最後の日に出来上がって届きました

で、さっそく、みなさんと一緒に水石の鑑賞といきましょう
とか何とか言っちゃって、本心は要するに見せびらかせて自慢したいんでしょ

と、心の中のもう一人の自分が皮肉タップリに言ってますが・・・

それでは画像を見てください

未踏の秘境に入り込むと突然に行く手を阻んだ高い絶壁
だがよく観察してみると、天然の岩の塊の様子に人の棲むごとき秩序らしきものが感じられますね

よろしいですかみなさん!

ただの「石っころ」と「水石」の違いは
まさに風景としての「秩序」が感じられるかそうでないか、その一点なのですよ

山は山らしく、滝は滝らしく、茅舎は茅舎らしくなくてはいけません
その風景を天然の石の中に見出して鑑賞するのが「水石趣味」なのです

峻険な岩と岩との隙間に登り道があり
頂上には天然の大岩の屋根をかぶった家らしき雰囲気が見られます

屋根の向こう遥かに山の頂が見え
風景はさらなる秘境へと続いていることが想像できます

この岸壁には誰が棲んでいるのでしょう
そう考えただけで、この景色への連想はますます膨らんできますね



加茂川糸掛石 間口40×奥行18×高さ26cm

水石の趣味の世界でこのような岸壁の上の家を「岸上の茅舎・がんじょうくずや」と呼びます
普通の茅舎と違うのは、普通の山里の穏やかな風景でなく、棲む人も世を捨てた仙人の棲むごとく神秘的なことです



頂上大屋根の下、岩窟付近の拡大図

原石の色彩はやや茶色がかった肌色なのですが、時代感で真っ黒
岩肌に蜘蛛の糸のような紋様があるところから「糸掛石」と呼ばれているのです



全体図の向かって右下の岸壁への登り口付近の拡大図



この石にはもう一つの「見付」があります

現在台座に接している底を正面にしてこのように寝かせます
この場合は水盤を使って飾るといいでしょう

この場合も「茅舎」の雰囲気ですね
奥行きもありスケールの大きな風景です



新正面をやや上から見た画像

ともかく壮大な景色と時代感に圧倒されるような石です
みなさん、お楽しみいただけましたか

ぜひとも「石っころ」と「水石」の違いを理解し
「水石趣味」を楽しんでください

いいですよ、旅行先の河原で拾った石だって
「水石らしい秩序」があれば、けっこう楽しめます

この加茂川糸掛石だって同じこと
大昔に誰かが川で拾ったものには違いないこと

気楽にいきましょう!

では