2019年12月14日土曜日

支那鉢の胎土について


支那鉢は胎土の色から、紫泥(シデイ)、朱泥(シュデイ)、紅泥(コウデイ)、白泥(ハクデイ)、烏泥(ウデイ)、黒泥(コクデイ)などと呼んでいます。数としては紫泥が一番多いのはその色からして当然ですね。


そして、面白いことに各色の間に明確な基準はなく、例えば人によっては紫泥が朱泥とされていたりするのは、ショッチュウであるという事実です。


まあ、この隅入の外縁雲足の場合は紫泥以外の表現では、こいつ何にも知らねえな、と思われてしまいますね。つまり、この鉢の胎土はバリバリ紫泥の範疇に入っているからです。



ところがその下の鉢の場合、私は謙遜して控え目に紫泥と云っていますが、人によっては朱泥(シュデイ)もしくは紅泥(コウデイ)と表現する人もかなりいらっしゃると思います。


たしかに、この鉢の泥が紫だとすると、最初の鉢の色とは色がまるっきり違いすぎますよね。ですからたしかに、朱とか紅とかと云いたくもなるのは当然です。ましてや紅泥や朱泥の作品は通常、紫泥より高級品とされている訳だし、価格も高いのがふつうですから。


この角度から見ると、時代ののらない鉢の内側は紅泥に近い感じですね。粒子の細かい良質なきれいな胎土です。長年の使い込みによって渋みがのって、落ち着いてみえるために、紫泥と表現したくなるのでしょう。もはや、紅泥と云っても恥ずかしくないほどに近いといえます。


もしこんど、桐箱を作って箱書きを書く機会があれば、紅泥と書くことにしましょうか。あまり遠慮していると鉢がかわいそうになってきました。


以上、鉢の胎土の色の名称について簡単にお話しましたが、要するに、鉢の色彩には明確な区別の基準値は存在しないということですね。

間口31.5×奥行き22.5×高さ9.3cm 

2019年12月11日水曜日

大助鉢、残念!

ここ数年の大助鉢の値上がり具合は、過去に他の作家の作品においてちょっと記憶にないほどの好調さといえるでしょう。その様相は、小鉢世界全体が好調であるというのではなく、大助だけが飛びぬけての独り勝ちという雰囲気だから、まったく驚かされます。


大助・染付外縁丸 間口6.3×奥行き6.3×高さ3.3cm

そんな情報が飛び回る業界では、じっと落ち着いてなんかはいられません。老いたりと言えども俺も盆栽屋のはしくれとばかりに、近隣の親しい同業者の小鉢のショーウインドウの中を半日がかりで物色。夕闇が迫る頃にようやく小さな桐箱に入った大助鉢を一つ見つけだしました。


そして汚れた箱の蓋を開けて二度目のびっくり!
鉢には小さな価格のシールが貼ってあって、な、な、なんとその金額は、あきらかに10年以上前の昔のままの数字じゃありませんか!


ちょっとひるんだ私でしたが、そこはベテラン、勇気を出して思い切って「これ、いくら?」と訊ねてみました。
書いてあるんだから聞く必要はないとも言えるでしょうが、明らかに昔の相場と認識できる数字ですから、相手は友人だし、これは気がとがめるのが普通ですよね。
すると、その数字を見たその友人は、またまたびっくり、書いてある数字の七掛けの金額を言ったのです。きっとこの友人は桐箱の底に押し込まれている鉢の銘柄を見ずに、シールの数字だけを見ていたんでしょうね。薄暮の時間帯だったし。


ここまでくればもう遠慮することもないか!
それでもちょっとばかり気もとがめましたが、素直に言い値の金額をお支払いして、めでたく取引成立という段取りに相成りましたが、勝負の世界は厳しいんですよね。友人といえど油断は禁物ですね。

ところでこの場合、私の値切りのテクニックの「廉いときは値切れ!」はまさか実行できませんでした。なぜなら、この鉢が大助だと相手さんが気がついた時点で、おそらく話は振り出しに戻ってしまうでしょう。もちろん言い分は私にありますが、普段から親しい同業者ですからね。そんなわけで暫くぶりで言い値で買いました。


と、ここまでのお話ならば、私だけが掘り出し物を見つけた自慢話で終わるのですが、このお話には続編があるんです。


結論を言いますと、家へ帰ってよく検品しますと、ボディーの下部から足にかけて窯傷(カマキズ)というか、釉(クスリ)ハゲのような傷がかなりあって、とても完品と云える代物ではなかったのです。


足にも窯傷(カマキズ)あり。ただし、ボディーの部分にニューがないのがせめてもの救いです。画像ではよくわかりにくいですがね。


それにしても、同業者もこの大助鉢にこんに傷があるとは、もうとっくの昔に忘れていたはずでしょう。ただ普段の宮本のように、検品もろくにしないで、ましてや言い値で慌てて買っていったな、なんて今頃不思議がっているんじゃないかと思いますよ(笑)。


戦いすんで日が暮れて、今日は慌てた私の負けでした!
明日からまたがんばりまーす!

2019年12月5日木曜日

均窯外縁長方

この10年ほど前までモーレツに高かった均窯。現在の盆栽界でも最も希少で高級品ですから、支那鉢の中でも特に高価なことは間違いないのですが、その人気とバブル景気の両方に煽られて一時は高騰し過ぎた感じがありました。


10年ほど前に愛好家さんにお世話した長方鉢が手元に帰ってきました。
懐かしいですね。
現在は相場も落ち着いていますから、相場に惑わされずに質のいい鉢を手に入れるチャンスです。


質のいい練り紫泥や朱泥の硬質の生地に、秋晴れの青空のような美しい色が均窯の特色です。硬質のため使い込みによる時代感はつきにくいのですが、いちど時代がつくとその渋みと雅味は他の釉薬ものの比ではありません。均窯に見せられた盆栽人の何と多いことでしょうか。


シンプルな長方形ですが、透明感のある色彩ゆえか品格と落ち着きが感じられます。


時代感の乗った釉薬の味は均窯ならではのすがすがしい品格が感じられます。


朱泥に近い硬質の生地に施した釉薬の色彩対比が魅力です。



2つ落款の均窯作品。四角落款は「陳文居製・ちんぶんきょせい」、楕円落款は「長春・ちょうしゅん」。ともに優れた作品に多い有名な落款として知られています。まして、
窯作品においては、このような2つ落款の作品は大変希少です。


間口23.5cm×奥行き16.8cm×高さ6.3cm
奥行きもたっぷりしていて使いやすいサイズです。

2019年11月30日土曜日

楓株立ち小品

今年の野山の紅葉はやや遅れているようで、当然雑木類の秋の手入れ(葉落としや小枝の剪定)は少しずつずれ込んでいます。
そんな今年の秋の陽気ですが、今日はちょっとばかり自慢の楓株立ちの小品をご紹介致します。ちなみにサイズは樹高18cm×左右27cmです。


親幹の適度に暴れた足元は、力にあふれて逞しく大地を掴んでいます。さらに親幹は適度に模様をふってコケ順も申し分ありません。
一方細身の幹が5~6本立っている子幹は、全体に柔らかさを表現しているので、もう一工夫してさらに動きを表現したい感じです。
そのためには、来春の植替えと同時に長短強弱に気を配りながら枝先の剪定を是非敢行したいと思っています。ことによると現在よりも幹数が減るかもしれませんね。


正面からもう少し拡大して眺めてみましょう。向かって右のいちばん低い幹は切りたい感じですね。この枝を切れば足元付近に動きが出て、きっといい感じになるでしょう。
さらに全体に枝先が強い感じがするので、落葉語と植替え時にごつい枝先の整理をすることも必要でしょう。葉刈りも2回は実行して枝先に勢いが集中しないようにこころがけましょう。


この株立ちの命は、この足元の迫力にあります。


足元の張り具合を見る。


後ろ姿。


後ろから見た足元もなかなか迫力がありますね。
とにかく将来有望な逸材です。

①子幹の数を調整する。
②先端近くの太い小枝は少しずつ整理する。
③芽摘み、葉刈り(2回)を実行。

この3点をしっかり実行!
3年計画です。




2019年11月22日金曜日

舞姫もみじ・本格模様木

前号では舞姫もみじの紅葉の美しさについてお話しました。そこでお話したように盆栽の場合、葉刈りをした木の方がよく紅葉します。もちろん芽摘みや葉透かしなどをマメに実行した木でもおなじことが云えます。


写真の盆栽は舞姫もみじです。山もみじの変種で枝打ちが細かく柳っ葉です。さらに枝先が細く葉の切れ込みが深いのが特徴です。


舞姫もみじはもともと、東海地方のある盆栽家が特別に優れた葉性(はしょう)の山もみじの実生苗の中から、さらに選りすぐったものだそうです。

この画像で紹介する舞姫は、一度は今一歩のところで買い逃してしまったのに、その後再び巡り会って手に入れたものです。最初の出会いからすると約10年ほど経っているでしょう。二度目に会ったときにはかなりやつれて惨めな感じでしたが、やっとここまで回復しました。


もともとは、取り木仕立ての苗に強く針金で模様をつけたて作り込んだものです。昔出会ったときには現在と表裏が逆になっていました。現在の樹高は16.5cmですがあと10cmほど大きかったと記憶しています。その頭の10cmほどが弱っていたのでそれを切り取って正面を取り替えて現在の姿になったと云うわけです。
あの弱り果てた二度目の出会いのことは今でも覚えています。


後姿を見ると背中に大きな切り傷があります。以前の正面の幹はここから前方に立ち上がっていたのです。あとはこの傷を3年計画で完治させるのが第一の仕事です。
舞姫もみじのこれほどの本格模様木はめったにありませんから、がんばりまーす!!

2019年11月20日水曜日

舞姫もみじの紅葉

ふつう山もみじなどの雑木盆栽は、春の芽出し時、若葉の季節、紅葉や落葉時の寒樹の季節など、四季を通じて一年中に見ごろがあります。


ただし盆栽人の多くは、落葉後の寒樹の季節の小枝のほぐれ具合に一年の培養の成果を見て取るのがふつうなので、どうしても落葉中で枝先の見える秋から冬に力が入る傾向があります。


ところで私が力を入れて大量に培養している舞姫もみじですが、何年もやっているうちに気がつきました。単に葉が細葉で小さいだけでなく、葉肉が薄いせいか紅葉の色彩が非常にきれいなのです。写真のように明るくて濃いピンク色にあがります。


このくらいの色彩に染まってくれれば、少々枝ぶりが若くて未熟であっても、盆栽として気長に小枝の充実を目指しているうちに格調が上がってくるでしょう。

ちなみに美しい紅葉を眺めるためのポイントを幾つか挙げましょう。

1 春から夏にかけての生育期には芽摘みや葉透かしを怠らない。
2 夏場の水切れは厳禁です。
3 夏場は寒冷紗などで遮光する。

2019年11月13日水曜日

御蔵山・波千鳥鑑賞

先日、鉢のまとめ買いのお話はしましたね。その中に御蔵山の絵鉢が2鉢あり、その片方がすばらしい逸品(私の好みでもあった)だったので、どうしてもみなさんにご紹介したくて今日の話題にしました。


平成8年に発行された、畑中兵衛氏のコレクションを紹介した 「盆栽鉢・陶芸鑑賞としての楽しみ」の掲載されているのと瓜二つの波千鳥の文様鉢が、その中に混じっていたのです。


黒地金彩波千鳥文反縁段足正方 
間口10.5×奥行き10.5×高さ11.6cm

↑が畑中氏のコレクションの作品です。初めてみた時はこのものだと思いましたが、実物よくよく眺めて見たら、ところどころほんのちょっぴりだけ文様が異なっていました。
大きさはスリーサイズとも1mmづつの相違ですから、ほとんど同じと云っていいでしょうね。↓が実物の画像です。よく見比べて見てください。


この二つの鉢はおそらく、同時に作られたもので、もしかするとあと一つや二つの同形同文様の作品が存在するかもしれませんね。


編集人は「現在活躍中の小鉢作家の中に在って、実用、鑑賞の両面から絵付け鉢の第一人者と称されている」と最高の評価をもって作者を紹介しています。

日本の伝統文様である波千鳥を、黒地に金彩をたっぷり使って大胆に描きあげたデザイン力がすばらしい。まさに、鑑賞と実用の両面の欲求を見事に満たしてくれる作品です。

まさに、御蔵山の傑作中の傑作と云えるでしょう!

2019年11月11日月曜日

長方鉢の鑑賞

鉢の形には、長方や正方や六角、八角など、角のあるものから丸や楕円など、円形を基本にした形のものなどがあります。さらにそれらを複雑に組み合わせた木瓜(もっこ)や剣木瓜(けんもっこ)などに発展した形もありますね。
しかし何と言っても、われわれ盆栽人にとって、鉢と云われてまず思い描くのは長方鉢でしょう。丸や楕円形も鉢には違いありませんが、やはりオーソドックスな本格派の模様木がよく似合うのは長方鉢であると思います。


平安東福寺(初代)のごく前期の黒泥の長方です。この鉢の正式な呼び名は「平安東福寺焼締反縁隅切長方」と呼びます。


わずか間口10cm未満のミニ鉢ですが、東福寺鉢としては比較的初期の作品で、基本に忠実で肩に力の入っていないバランスのいい作品です。


基本に忠実でさらっと作った感じですが、いつ見ても東福寺の作品は肩の力が抜けていて、見る者に癒しの感覚を与えてくれます。


見慣れてくると、足のつけ方にも東福寺ならではの個性があることが分かるようになってきますよ。東福寺の真贋を見分けるポイントは、その足にあるとさえ云えるほどですから。


市橋和雀の梨皮泥の撫角(なでかく)の長方です。この形の鉢は基本に忠実と云うよりも、太くて短いズングリしたような個性派の模様木などが似合うでしょうね。


基本に忠実な外縁長方形でありながら、極端におしりの出っぱた姿がミソなのでしょう。個性派の木が似合うと思います。



市橋和雀の作品はそう多くはありませんが、そのゆったりとしたフォルムにはいつも感心させられます。↓の作品も白釉の外縁で珍しい作品ですが、端正でゆったりとした作風は相変わらずです。


和雀・白釉外縁隅入雲足長方


釉薬ものですから実物か花物のがっしりとした模様木が似合うでしょうね。


正面からだけではなく、裏側や真上などから眺めて見ると、バランスのよさや端正なフォルムがかえって際立って見られます。このような検証の仕方もたまには必要でしょう。