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2020年2月11日火曜日

月之輪涌泉(青磁撫角長方)

現代小品盆栽絵鉢作家の最高峰と云えば、それは誰が何と言おうと月之輪涌泉をおいて他にはありません。それはみなさんもご存知ですね。
ところで、涌泉の凄いところは、絵付けから成型まで超一流であったところです。


今日ご紹介する涌泉作(間口11.2cm×奥行き9.6cm×高さ4.3cm)の青磁長方鉢。並の作家ではこのボディすら大変ですが、涌泉は光り輝く美しい青磁釉で仕上げています。


向かって右の縁に沿って茶色の筋が見えますが、これは傷でなく釉薬が飛んだ釉飛び(くすりとび)です。


輝くような青磁釉です。ほどよく外へ出た縁の強さ、大きめながらじゃまな感じのない足。美しく安定したフォルムですね。



その安定間の秘密はこのソフトな線にあるのでしょう。あくまで上品で優美です。


実用を考慮して水穴は多めに開けています。そのせいか赤点に沿ってカマキズが走っていますが、この傷がさらに拡大する恐れはほとんどありません。


ところで、涌泉の青磁鉢は絵鉢に比べて価格評価ははるかに低いものでは在りますが、実用という面からは高い評価をうけています。松柏はともかく雑木や花もの実ものであれば、たいがいの樹種に映るからですね。



2010年2月18日木曜日

涌泉名品の鑑賞

ある親しい愛好家さんから、愛蔵している涌泉の名品を手放したいとの相談を受けました
「えッ、まさか、これほどの名品を、二度と戻らないのに!?」と内心驚きましたが

お話を聞いてみると、やはり盆栽や鉢の蒐集への思いはひとそれぞれに微妙な違いがあって
この方の場合は、鉢と盆栽が一体になってはじめて真の満足感が味わえるというタイプなのですね

この愛好家さんはズーッと10㎝クラスのミニ盆栽をやってきました
それが最近、さらにサイズを短縮して7.0㎝クラスに挑戦するつもりになったそうで

するとこの8.6㎝という間口なので、いかに名品といえど大きすぎるので
この涌泉はさらに日の当たる場所に出ることが少なくります

私などは長い間盆栽屋としてたくさんのお客さんに接してきたのに
名鉢であればあるこそもったいなくて使わないのが愛好家さんと、決めつけていたようですが

この方は、名鉢に素晴らしい名盆栽を入れ一体で眺めて感激したい、という思いがさらに強かったようです
愛好家さんの心理の微妙さを、慣れっこになりすぎて、つい画一的に見がちであったことを反省させられました

鉢は名品になればなるほど使ってみたいという欲求が盆栽趣味の神髄でした
その欲求が自然な盆栽趣味の心ですよね

どうやら私は、惜しげなく名鉢を使うところに
盆栽趣味の醍醐味があることを忘れていたのです

商売に慣れすぎてしまって名品を商品としてのみ認識してしまっている、盆栽屋の貧しい心根
ふとしたことから盆栽趣味の原点に行き当たって、反省しきり、汗顔のいたりです


間口8.6×奥行7.3×高さ4.3cm

前置きはこのくらにいして、それでは、その涌泉の名品をゆっくり鑑賞してみましょう

まずこの箱に書かれている「霽山楼閣図外縁長方」の霽山(せいざん)とは
雨後に晴れていく山という現在進行形の意味をもった言葉です

ですから作者は、山奥の望楼で笛を奏でる人物と周辺の自然を描きながら
楼閣の下部に雨後に晴れ残る雲煙を最近景としてしっかり配しています

このあたりが名人・涌泉のさらにすごいところで、ただ技巧の赴くままに絵を描くばかりでなく
深い知識と教養に裏打ちされた真面目さと真の趣味性があります

穏和で無欲のひとであったと伝えられていますが
まさにそのひととなりも表れています

山深い崖上の楼閣で笛を奏でる人物と楼閣の下部に、まだ消え残る雲煙を近景に配し
広がる静かな山々を遠景に配した大胆な構図はさすがに雄大で名人・涌泉ならではのスケール


涌泉は自らの病を盆栽と作陶で慰めていたと云います
愛培の盆栽を入れるための鉢であったため、ボディーは奥行きもたっぷりで実用にも考慮がはらわれています


涌泉絵画の呉須の濃淡も見どころですね
魔術師的な技と云ってもいい過ぎではないでしょう

また涌泉の作品は、仕上げにあたる呉須絵にかけられた透明釉がすっきりと薄めなので
本来の筆致の繊細さがよく伝わってくるのも一つの特徴です


反対側面より


下部の最近景にまだ消えやらぬ雲煙を、さらに近景には楼閣と人物を描き
その奥に、帯状の煙雲を境にして中景からしだいに遠景へと続く雄大な景色が広がっています

構図の大胆さ奇抜さ、遠近感の演出
涌泉を絵鉢の第一人者にしているのは筆致の繊細さだけではありません


後ろ正面

春夜洛城聞笛(しゅんや らくじょうにて ふえをきく)
李白(盛唐)誰家玉笛暗飛声(たがいえの ぎょくてきぞ あんにこえをとばす)
 散入春風満洛城(さんじて しゅんぷうにいりて らくじょうにみつ)
 此夜曲中聞折柳(このよ きょくちゅう せつりゅうをきく)
 何人不起故園情(なんびとか こえんのじょうをおこさざらん)

☆折柳-「折楊柳」という曲名。故園情-望郷の思い。

誰が吹く笛の音か、風に乗って聞こえてくる。春風に交じって洛陽のまちに広がっていく。
今夜聞こえる曲の中に「折楊柳」がある。これを聞けば、誰でも故郷を思う気持ちを起こさずにはいられない。

この漢詩から画題を構想したのか、反対に画面にふさわしい漢詩を選んだのかはわかりませんが
とにかくこのあたりにも涌泉の教養の深さと趣味性が窺えます


涌泉のボディーは、もちろんタタラによって作られた長方や正方作品もありますが
多くがこの作品のように彫り込みによって作られています

丸鉢系統の作品はロクロ引きによるものがほとんどで
手捻りによるものはごく少数です


最後になりましたが、本作品は2006年に近代出版から発行された涌泉の名品写真集に掲載されています
このように図録になっている作品っていいですね

実物は個人の所有物として人目に品触れる機会はすくなくとも
図録を通して盆栽界のたくさんの方々に識っていただけるんですからね

今日は涌泉名品鑑賞でした、ではまた

2006年10月16日月曜日

思い出の銘鉢(12):月之輪涌泉 染付山水図丸鉢

盆栽屋.comの「思い出の名鉢」シリーズ(お客様にご購入頂きましたが)思い出深い名鉢をみんさまの鑑賞用に復刻致しました。また、この場をお借りして愛蔵者の方々に感謝申し上げます。どうぞ小鉢の勉強にお役立て下さい。


間口8.6×奥行8.6×高さ5.3cm
月之輪涌泉(共箱付)の染付名品

「青華磁(せいかじ)山水図・樹鉢」
青華磁とは青や藍で描かれた染付け磁器の中国式の呼び方


箱裏


三方の足のそれぞれの構図がぴったりと決まっていて、廻り絵のどこを正面にしたらと迷うほどです

この正面は近景、中間の景、遠景とがみごとに調和した大きなスケールで描かれ
名人・涌泉の驚異的な技量が発揮されています

しっとりとした情緒のある深い趣は涌泉ならではの絵画の世界です
9cmに満たない画面状に、この大きな景色をこれほどに繊細に描きだした名品
無傷完品です


次の画面


次の画面
ここも足の位置ですから正面です


次の画面


次の画面
ここも足の位置ですから正面です

この角度を正面に考えるのが一般的でしょう
呉須の色合いも、濃すぎず薄すぎず、ちょうどいいころあいで、質感も優れています


次の画面


落款は初期の「月輪山・涌泉」
ロクロによる超薄手の品格あるボディーです


鉢裏の様子

思い出の銘鉢(7):月之輪涌泉 赤絵山水図切立長方

盆栽屋.comの「思い出の名鉢」シリーズ
(お客様にご購入頂きましたが)思い出深い名鉢をみんさまの鑑賞用に復刻致しました。また、この場をお借りして愛蔵者の方々に感謝申し上げます。どうぞ小鉢の勉強にお役立て下さい。


月ノ輪湧泉作
間口5.8×奥行4.7×高さ2.8cm
赤絵山水図切立長方樹盆(あかえ・さんすいず・きったち・ちょうほう・じゅぼん)

小品盆栽界の古老が長年秘蔵していた湧泉の逸品です

精緻な筆使い
しかも筆が自由自在に滑らかに走っています
拡大鏡で見ると、絵師湧泉の実力ほどが再認識されます
まさに湧泉全盛期の作品です

この寸法で長方、しかもたたら作りの湧泉は希少で
そのうえ赤絵を施してあるのは、珍品中の珍品です

保存状態もよく無傷完品です


正面拡大図


正面斜めより


側面の文様


縁の文様

2006年5月27日土曜日

涌泉名品鑑賞

天才・月之輪涌泉の名品の鑑賞をしましょう

涌泉は、彫り込み、ロクロ、タタラと、3つの技法を用いてボディーを製作していますが
彼の凄いところは、そのいずれにおいても最高水準の技を発揮し名作を残していることでしょう

よく知られる彫り込みの技術
それは藤掛雄山などの作家に強い影響を残しましたね

向こうが透けて見えるくらいのロクロ技法による超薄手の丸鉢もみごとですし
タタラ技法の長方鉢は高い格調を示しています



涌泉の作品中では盆栽との調和を強く意識した作品です

そのはず、迫力のある盆栽を入れても調和の取れるだけの存在感をもった鉢
とのさる関西方面の小品盆栽大家からの依頼に答えて製作されたと伝えらています

涌泉には珍しく、屈曲の激しい面のボディーと厚みのある外縁を備えています

以前この鉢に、根張りが盤状になった太幹の楓が入っているのを見たことがありましたが
素晴らしく調和していたことを憶えています

この凹凸の激しい画面に絵付けをするのは難しいでしょうね
ところが涌泉は平面と同様に、遠景・中景・近景とも乱れもなく繊細なタッチで描いています

驚くべき技量、さすが天才です!



力強い存在感と安定感のあるボディーです

馬に乗る旅人を画面の中央に配し、遠景と近景を丹念に描き込んだ構図はみごと
動物を描かせると絵師の力量がわかりますね



反対側の正面図です

涌泉の得意とする湖水を走る舟の図
動きのある船頭の描写や遠近感のある画面が秀逸です



正面の拡大図

構図、タッチ、描き込みの丹念さ、加えて独特の叙情性
涌泉の実力が遺憾なく発揮された作品です

では

2005年11月22日火曜日

涌泉染付丸鉢

中国では青華磁、日本では染付けや呉須と呼ばれる
素焼きされたものに直接顔料で絵を描く技法は

染め付けられた絵が施された透明釉薬の下になるため
釉下彩技法とも呼ばれます

その点、素焼きの後に透明釉薬を施し、さらに本焼された上から彩色する五彩や赤絵とは技法が異なり
一発勝負の難しさを伴うといわれています

地味で渋い持ち味の呉須絵
その渋さゆえに玄人好みといえるでしょう

 1)

三本足の丸鉢でしかも廻り絵ですから
原則はどの足を正面にしてもさしつかえありません

図5を正面とするのが一般的な感覚的でしょうが
私はこの図1の角度がたまらなく好きです

深さがある鉢なので、下に近景、さらに中ほどの景、そして上部に遠景と
画面をいっぱいに使い充分に遠近感を表現しています

呉須絵独特のしっとりとした情感も画面に溢れ
涌泉の作品群の中でも群を抜いたトップクラスの出来栄えです

 2)

この角度は見付けではありませんが、遠景に白帆、近景に岸辺の樹木と
たっぷり余白をとったみごとな構図です

 3)

人物の登場で一気に物語性が醸し出されてきました
馬上の主人が荷を担ぐ従者を振り返っていますね、このあたりも涌泉独特の温かみのある画面です

 4)

力強い画面になってきました

岸壁を過ぎて馬の向かう松林の中には目指す宿があり
馬の足並みも軽やかで、絵全体に躍動感のある画面です

 5)

この角度が一般的な正面でしょう

絵全体の重心がこの画面にあることは、みなさんにもお分かりですね
理屈ではなく、感覚的な判断でいいと思います

また松など樹木の描き方が非常に巧みです
涌泉の繊細な筆使い、やはり天才ですね

 6)

ひと回りしました



ロクロ作りのボディーです



鉢裏と足のようす



涌泉の共箱です
「青華磁山水図・樹鉢」



箱の裏書

さて、みなさん、いかがでしたか?
前項の「赤絵長方鉢」と併せ、ご感想およせ下さい
よろしく

2005年11月20日日曜日

月輪山涌泉赤絵

涌泉の落款の多くは「月之輪・涌泉」と釘彫で記されていますが
「月輪山・涌泉」という落款もあり、「月輪山」の方がより初期作品であるとされています

そして、「月輪山」の作品はやや小さめのものが多く
平均すると作柄も優れたものが多いのも事実です

さて、その「月輪山」の赤絵長方鉢の優れもを手に入れました
そこで何時もの悪い癖で、みなさんに自慢のご披露をしたくなりました

どうぞごゆっくりご覧下さい


月輪山涌泉作 赤絵山水図外縁下紐長方鉢 間口10.8×奥行き8.3×高さ3.4cm

月輪山の落款を有する作品としては大きい方でしょう
四面の絵柄は繋がってはいませんが、すべて山水図です

ボディーは「たたら作り」といって、板状の粘土を組み立てる方式、つまりツーバイフォー工法
涌泉は掘り抜きやロクロによる作陶も行いましたが、端正な外縁長方鉢はこの方法で作っています


正面の拡大図

絵の出典は、中国宋代に蘇軾(そしよく)が流刑地の黄州で長江に遊覧して詠んだ「赤壁賦・せきへきのふ」からで
流人の身の上の憂いを忘れるために明月と江上の清風とを楽しんでいる図、船上の人物は蘇軾(そしよく)と従者と船頭です

涌泉はよほどこの画題を好んだようで、やや構図を変えながら他の作品に用いています

一般的に、赤絵は呉須と異なり線の繊細さを出しやすいがぼかしの技法が難しいとされ
並の作家では「線」に頼ってしまうところを、さすが名人・涌泉です

情緒タップリの表現で遠近感もしっかり表現しています


側面をのぞく角度より

たたら作りの格調のあるボディー
側面には文様を描いたものが多いのですが、この鉢は四面とも山水図、うれしいですね


反対正面

岸辺に立つ高士と従者、舟を操る船頭の躍動する動き
静と動がみごとに表現されています


拡大図

棹を操る船頭の姿態の動きを的確にとらえています
近景の樹木は繊細でしかも凛とした線で表現さているため、構図全体がしまって見えます


側面の図

側面は面積が小さい分だけ繊細な線とまとまりのある構図で描いています
このあたりも涌泉が名人といわれるゆえんでしょう


側面拡大図

近景と遠景の対比がみごとですね


側面の図


側面拡大図

樹木の枝の線が美しい弧を描いた
涌泉ならではの筆致の冴、凄味さえ感じられます


鉢裏と足の様子

掘り抜きのボディーのイメージとまったく異なって、小さな足
たたら作りにはこれが似合っています


落款

いかがでしたか?
名品は何度も何度も見てください

イメージが心に染み込んであなたの鑑賞眼を高めてくれます
ちなみに、この長方鉢は涌泉の赤絵作品群の中でもトップクラスの出来栄えの作品です