2018年12月31日月曜日

日本盆栽大観(盆栽の歴史)

昭和9年に第1回の国風盆栽展が都立上野美術館で開催されました。それから5年後に発行された「日本盆栽大観」(天と地の全2巻)は、現存する写真帖の中でも、掲載出品物や掲載点数において郡を抜いた超一流の内容です。天と地の巻の上下2巻のうちから印象に残る名木をご紹介してみましょう。

日本盆栽大観のうちから天の巻の表紙。現在盆栽屋.comの手元には地の巻はありません。長い間に片方だけ請われて割愛してしまったような記憶があります。

小林憲雄編纂で発行は叢会(くさむらかい)となっています。いずれも現代の盆栽界にとって不可決の存在の人物であり、そして組織であったと断言できます。まだこのころでは、現在の国風展を主催する日本盆栽協会は設立されておりませんでした。
よって、ただひたすらに日本の伝統芸術である盆栽を心から愛する先人の情熱によって盆栽界は維持されていたのでしょう。
真柏 田中啓文氏 2尺5寸 雕花鳥朱泥隅入長方古渡鉢 昭和胃14年11月撮影
解説には「越後糸魚川の山採り名人鈴木多平氏の採取品で、佐竹義春がそれを求めて長年培養し、昭和15年譲渡された。真柏中の圧巻として斯界に名を知られた名木である」

元松昇蔵氏 深山海棠 1尺8寸 珊瑚釉薬丸鉢 昭和14年1月
解説には「おなじ蔵者により20年の歳月を培養されてきた」とあります。現代においてもこれほどの花もの盆栽の名品は稀でしょうね。
西山撫松氏 真柏 2尺7寸 朱泥丸 昭和13年10月
解説「細き四国の産 細幹 丸幹 京都好みの木である」
現代のように、細部や輪郭線にまで細かく針金で整姿する習慣はなかったことがうかがえます。
針金での矯正は最小限度の感ですね。




2018年12月23日日曜日

実生かりん株立ち

かりんという樹種は、ふつう実成り観賞を主体とする実物盆栽の範疇に入りますが、その力強い幹模様や細かくほぐれた小枝の先の緊張感などに目を向けると、実物盆栽でありながら松柏類に比肩する迫力があります。ですから、ベテランになるほど、実の成りやすい唐かりんよりも、実は成りにくくても小枝の細かくほぐれやすい実生かりんを選ぶことになります。

友人が取木した実生かりんの素材を数年持ち込んだ株立ち。樹高は12cmくらいですが、株立ちの三幹(さんかん)状になっています。

足元から向かって左に地べたを這うように1本の子幹が立ち上がり、右にも巧みな模様の子幹が立ち上がって、主幹にバランスよく添っています。実生かりんは唐かりんと異なって枝打ちが細かく、葉も丸葉で小さ目なのが特徴です。

後姿。このレベルの実生かりんですと、あと数年ハサミ作りにて枝先を摘み込みます。大盆栽の場合は入梅前に葉刈りをしてもいいでしょう。ミニ盆栽の場合は葉刈りはせずに2~3節伸びたら1節残して芽摘みをするように心がけます。肥料もやや多めに与えましょう。















2018年12月22日土曜日

中国鉢名品

中国製の中渡りに「子林倣古型」と称される形の鉢があります。足は雲足で外縁で長方、四隅には縁の上部から胴を伝わって足に至るまで切れ込みが入っています。土目はほとんどが「どろもの」で、紫泥、朱泥、紅泥などが人気です。
まあこの作品などは、箱書きには紫泥と書いていはありますが、ほとんど朱泥と紅泥と紫泥三種の中間の土目といっていいでしょう。


鉢や水石は桐箱に入っていると安心ですね。箱入りなら粗相して傷つけることもありませんから

左右に広がるように張り出した縁がピリッとしまって、胴の部分で再び張り出した独特の曲線が「子林古型」の最大の特徴です。華麗な雲足の意匠が全体の形状に緊張感をかもし出しています。

正面より。

側面を覗く姿。


雲足。世にいわゆる「でっちり」と呼ばれる独特の曲線。


雲足。がっしりとした頑丈な構成のため、本格的な模様木が似合います。



雲足と鉢底の様子


「蜀山密造」・「栢寿」の二つ落款です。世に名作といわれるものは、総じてこのような二つ落款のものが多いことで知られています。

無傷完品です。




2018年12月19日水曜日

準二世帯住宅

たいして広くない敷地の半分にもう一軒分の住まいと駐車場とを区画して、娘夫婦(家族3人)が背中合わせの住人になるべく工事中です。
都内に土地を求めて一戸建ての住宅を建てるとなると、ものすごい金額のローンを抱えることになるのはご承知の通りですが、今まではあんな不便な田舎と蔑んでいた自分の生まれた松戸になら、ロハの土地が手に入るわけなので、まあ、娘は気には入らなくともしぶしぶ妥協したというわけですね。
まあ、口は便利なもので、かなりくたびれてきた両親の面倒みがてらなぞと、理屈はいくらでもくっつくものです(笑)
しかしこちとらはたまらない。カミサンと二人きりの気ままな老後はどっかへ吹っ飛んで行ってしまったようです(涙)

今年の秋口あたりから計画が持ち上がっていたのですが、何分にも私とカミサンは沢山の家族(盆栽)と同居の身なのでそう身軽に動くわけにはいきません。

ところが、娘夫婦たちの時間の観念やスピード感と私たちのそれとは何倍も異なり、じっくり周到の準備を考慮していても、足なみのそろわないことは、まことに日ごと顕著になるばかりです。

そんなこんなで、冬囲の準備もぜんぜんできていない間に、仕事場やビニールハウスは撤去され、整地された地面にはあっという間に縄が張られて、今では基礎が打たれてしまっています。

そんなわけで、今年は冬囲はすべて見送りで、まったくのお手上げ状態。ブルーシートで北西の空っ風を除けてやるだけが精一杯です。
神様、助けてー!



2018年12月18日火曜日

藤枝瀬戸川縮緬石「千山万水」

先日、まとめて15個ほどの水石のミニサイズのおいしい売り物がありました。ほとんどが10cm以下の気の利いたミニで、いずれも紫檀のかなり高級な台座に収まっています。それに15個の石の産地や傾向がバラエティーにとんでいて、形状も変化があって愉しい感じです。


その中の一つをご紹介しましょう。
間口13×奥行き7.5×高さ3.5cmで時代感にあふれた繊細な景情石です。全体に細かい縮緬状の凹凸に被われ、遠景には遥かに連山を望み、その麓からは前方に向けて雄大な山裾が大きく流れ拡がって雄大な平野の景色を構成しています。

小さな突起の塊が延々と繋がって山となり川となり平野となって一つの雄大な景色を構成しています。
長い年月の持込みが時代感となって景色に情緒をそえてみごと。

「千山万水・せんざんばんすい」という言葉がありますが、まさに多くの山と渓流がおりなす情景でしょう。

部分拡大図

後姿。


部分拡大図。



2018年12月15日土曜日

訳あり商品・楓石付

近いうちに訳あり商品として本来の価格の何十%値引きで売り出される予定の盆栽があります。
今日ご紹介する楓の石付がそれです。
ただふつう、訳あり商品と言うと、型落ち品、新古品、展示品処分、傷物、不揃いサイズなど、機能としては問題がないけれど、何かしらの欠陥を抱えているために廉価で販売される商品というイメージがあります。
しかし、盆栽における訳あり商品と言った場合には、少なくとも商品の機能に問題がなくとも、その流通の過程で運のわるく所有者と縁がなかったりして、訳あり商品として市場価格より廉価で売られることなどがあります。

樹高10cm×左右23cmの唐楓石付。この楓の石付は、盆栽屋.comの棚へ来てからおおよそ4~5年経ちます。昔なじみの同業者が、5cmほどサイズの短縮を図って取木をかけ、その後は私のところで枝作りを中心に培養されていたものです。
ところが運悪く、半年前くらいまでの持ち主さんがご病気をされたために手放さざるを得ず、ついに訳あり商品になってしまったのでした。
もちろん、盆栽そのものに問題があったわけではないので、きちっと面倒の行き届く持ち主のところに落ち着けばたちまち安定した環境に恵まれて、樹格の向上は目をみはるものがあるはずです。


幹の道中に飲み込まれた石が頭を出しています。部分的にはこのあたりがおもしろいところですね。
ところで、ミニ盆栽の世界において唐楓は、単幹模様木から株立ちから寄せ植えまで、幅広い樹形に仕立てられ、盆栽界においてはなくてはならない樹種といえましょう。
ところが、樹形の優れた石付は案外に少なく、一流の展示会の小品棚飾りなども単幹か株立ち樹形がほとんどです。

正面やや上方から眺めてみます。幹と枝の葉張りの基本はほとんど出来上がっていますし、古色感もかなり進んでいます。来春には植え替えてさらに小枝を増やすように心がけます。そして第一回目の葉刈りと同時に枝先の思い切った剪定をするつもりです。つまり、枝先の基本を再確認する作業ですね。

後姿も安定感がありまとまっています。

ともかく来年の一年間が楽しみですね。

2018年12月9日日曜日

実生かりんミニ

長いこと商売していると、自分では気に入っていても、なかなかに縁遠い(つまり売れない)木もあるし、ちょっとイマイチだなと思っていても、案外に足早く売れてしまう木もあるものです。
商売ですから、それは早くに売れるにこしたことはありませんが、まあ盆栽という商品の性質上、売れずにいたとしても日一日と培養を重ねながら長所を伸ばし欠点を克服するための努力に勤しんでいるわけですから、ある日何かの折にまじまじと眺めて見たりして、改めてその木の出世度合いに気がつき小さな感動に動かされたりすることがあります。

樹高12cm×左右17cmで足元の幹径は約6.0cmの実生かりん。
親しくしている同業者が取木でゲットしたものを譲り受けて3~4年ほど培養しました。
この実生かりんなどは、先ほどお話した「気に入っているのに縁遠い木」の典型でしょう。何人ものお客さんが目をつけてくれてもいるのですが、未だ良縁に恵まれないのです(笑)
木の筋としては、足元の曲はやや緩くやや腰高な感じはありますが、足元もしっかりしていてコケ順もまあまあです。まあ、頭に強い曲があるので、来春には頭をもう少し攻めて寸法を短めにまとめようと思っていますが。

あるお客様からこの実生かりんの最近の映像が見たいというご連絡を頂きまして、ここで改めて撮った写真ですが、改めてしみじみと眺めてみると、樹形は顕著に変わっていませんが、どことなく古色感が濃厚になっていて貫禄がついています。
盆栽ではこの何とない貫禄というのがたいせつですね。一本の枝、見つけの一曲、ふとした根張りの表情、さらには古色感あふれた幹の味わいなど、これらちょっとした変化(進歩)が、総合すると観賞上では大きな変化となって感動を呼び起こしてくれるのですね。それと、かりんの紅葉がこんなにきれいなことも再認識しました。

ああ、毎日大切に水をかけてやってよかったなー!


2018年11月27日火曜日

高根島超ミニ水石

瀬戸内海の中部(広島県)に三つの峰と深い谷を持つ高根島(こうねじま)という
周囲約11キロに満たない小さな島があります。柑橘栽培の農業が主幹産業であり
住民の八割はこれに携わってるそうです。

さてその高根島ですが、大きさのわりに高い峰と深い谷が特徴で、その谷に産する
石が瀬戸内海の波洗われて抜群の味わいを発揮。特に持ち込ん
で時代感のついた超ミニにおいて魅力的です

高さ4.2cm 慈母観音像
高根島石の特徴が際立った色艶と形状。

高さ4.7cm 慈母観音像
これもまた高根島石らしい超ミニである。

高さ4.8cm 二軒家
二軒長屋の茅舎としては抜群の形状なり。

7.2cm 島形石
山の風景とも激しい海の風景とも見立てられます。



高さ6.0 山形石
泰然としたスケールのおおきな風景。



2018年11月8日木曜日

作る・けやき箒立ち

過去の培養を遡ってみると2015年の秋の記事に10年目とあるので、今年で13年目を迎えた計算になるこのけやき。枝先は細かく分岐し、まさに煙るがごとく霞むがごとくです。
晩秋の夕陽に照らされて枝元に僅かに残された落葉が一瞬の輝きを放ちながら、今まさに冬を迎えんとしています。

10年目の写真と現在を比べると、昨年から今年にかけて肥料をかなり控えめにし、シーズン中に完全な葉刈りを1回、そして軽めの葉刈りを1回と、都合2回の葉刈りを励行してきました。

その間の新芽摘みはもちろんのこと、葉透かしや葉切りなどの細かい手入れも適宜におり込んで、枝先に勢力が集中しないように務めてきました。

ただこの時点までくると反省点も見えてきたようです。過ぎたるは及ばざるが如しともうしますが、ベテランの愛好家さんなら既に目ざとく見つけているでしょう。

10年目の写真と比べて見ると、枝先は確かに細かくなってはいますが、わずかながら枝先が痩せ気味で、さらに徒長ぎみです。これ以上痩せ気味で再生能力を落としてしまうと、もし樹形が乱れ場合など修正回復が難しくなります。よって、盆栽の真髄は古色感と時代感とはいえ、万が一の場合の回復力も蓄えておく用心深さも必要ですね。
来春には植替えと輪郭線の追込みを敢行し、樹勢をしっかりと若がえらせてやるつもりです。

2018年11月4日日曜日

五葉松(銀八つ)

銀八つ(ぎんやつ)と呼ばれる性質の五葉松の種類が、戦前から広く盆栽界に普及しています。四国の鬼無地区が江戸時代からの伝統に支えられた主な産地です。

江戸時代に接木の技術が確立されて以来、台木には黒松苗そ用いているため生育もよく樹勢は非常に強壮です。葉の針が太くて強靭で、いわゆる葉性(はしょう)が銀色に輝き豪華で荘厳なイメージです。さらにかなりの肥培をしても徒長しにくい性質のため、樹形の乱れも少なく樹形を整えやすいのも大きな特徴です。

幼苗の時代に、足元から幹筋にかけて鉄針金で強く螺旋状に模様をつけるのが独特の作り方です。そのために足元が癒着して田螺(たにし)のようにトグロを巻いているのが一種のゴテモノとみなされて、評価を下げる原因となっていた時代もありました。

しかし、短所は長所なりという言葉があるように、短所は個性でもあります。長い年月を経ると、人の手でつけた模様がまるで天然のものとの区別がつかないほどに味わいを深めます。

このように、作者の意図をこえて劇的な魅力に出会えるのも盆栽趣味ならではの予期せぬ幸せな瞬間のようです。

螺旋状に捻転した幹筋は、台木である黒松の部分であると思われますが、すでに数十年の長い年月を経た皮肌の荒れ模様を簡単に観察しただけでは、この部分が黒松なのか五葉松なのかは簡単に識別はつきません。

反対方向から視た五葉松。

足元では倒れ込んだ根とその上からの覆いかぶさった根とが、癒着したような奇観を呈しています。この部分が黒松であるかあ五葉松であるかはすでにこの盆栽の魅力には関係のないことです。あるがままの侘び寂びと自然美を我々は素直に受け入れるべきでしょう。

みなさんも銀八つの古びた素材を見つけ、その魅力を再生させてみませんか。案外身近にいいものが転がっているかもしれませんよ。

2018年10月30日火曜日

もみじ・台風の塩害

10月初旬の台風24号は、特にその進路の東側にあたった地域に強い塩害をもたらしたようです。当初被害は、一見雑木類にのみ及んだように見えましたが、松柏類でも潮風に強い黒松などは例外として、高山性の五葉松などには今頃になって少なからず影響がみられるようです。

小枝作りの段階に入っている古木は肥料を控え目にしているので、樹勢(ジュセイ)が抑えられています。そのため塩害による葉の痛みがやや見られます。しかし、来襲時期が植物の成長期にあたる夏でなくて幸運でした。やや休眠期の近い時期だったので、葉の痛み具合がこの程度ですんだようです。

台風の来襲わずか前に軽い葉透かしと葉切りをやった記憶があります。軽くでよかった!

塩害による葉の痛みが見えますね。でもこのくらいは軽傷です。知り合いの、海岸線に接している町の愛好家さんの雑木類などは、塩害と風害のダブルパンチで葉がほとんど落葉してしまったのもありましたね。

塩害に遭わずにもう少し葉が多めについている例年ですと、なるべく11月まで待ってから葉落としと小枝の剪定を行いますが、その作業は選定しても樹液が吹かない12月の中旬までに切り上げます。

ところが、今年のように塩害にで葉の数が極端に少なくなった場合などは、少々早めの剪定もやむを得ないでしょうね。盆栽棚のメチャクチャ感がいつまでも片付かなくてはストレスがたまります。

樹高は約16㎝ほどの本格模様木。向かって右の一の枝に力がありやや双幹体の雰囲気もあるので、そのあたりが個性となっているようです。

制作過程での古傷はすべて肉巻きして、あと数年で完成の領域に入っています。古い持ち込みによって力強く発達した立ち上がりと木肌の古色感がみごとです。

塩害から盆栽を守るポイント

1 台風の風雨に当てないように避難する。
2 風雨に当ててしまった場合は、水やりを繰り返して鉢内の塩分濃度をうすめてやる。
3 葉の表裏全体をよく水洗いする。