2020年12月16日水曜日

楓甲羅吹きミニ

雑木類でしかも株立とか根連なりや甲羅吹きとかとなると、私の最も好みの樹形といえるでしょう。もちろん本筋の模様木なども大好きですが、自然の風景をそのまま小さく鉢の中へ再現したような感じはたまりませんね。


今年の夏ごろ手に入れた記憶があります。主幹を中心に十数本の子幹がバランスよく吹き上がっています。甲羅はボリュームに溢れて迫力に満ちています。



改めて全体の姿を眺めてみると、甲羅の動きや主幹や子幹など、総合的にはまだまだ荒っぽい感じがしますね。もっとも、それだけに力強い迫力も伝わってくるし、将来性が感じられるともいえるのですが。


枝先もご覧のようにやや荒っぽい感じです。来春にはきっちりと植替えしてえ、葉刈りも2回励行すれば、見違えるほどの枝先になるでしょう。たった一年の丹精で大幅な出世がきたいできます。


甲羅に小さな切り傷の痕が幾つかあって、それらが丁寧に処理されていませんね。春の植替え時に傷口の周囲を丁寧に削り治しておきましょう。



後姿。


樹高18.5×左右22㎝

あと三年ほど面倒をみてやれば枝先と木肌ができあがり、削り治した小さな傷跡もきれいに癒えるでしょう。楽しみです。

2020年12月15日火曜日

名人の水石台座


人に秀でた技や審美眼や見識などを有する先輩や同僚友人と、「死」という厳然たる事実によって決別せねばならない機会が年々歳々多くなってきているのが、実感として身に沁みる年頃になりました。自分勝手に申し上げれば、最近での決別で台座名人の鈴木広寿師とのお別れは、正直もう少し後々のこととして欲しかったですね。


師が重篤な病気で大手術をしなければならないと宣告を受けた頃にお会いしたときに、「みやちゃんよ、おれっちも好きなことさんざんやってきたんで、死ぬのはそんなに怖いわけじゃないけれど、もーちっと仕事がしてーよなー」としみじみとおっしゃった。


その言葉と穏やかな顔つきには間違いなく真実が篭っていたし、十分に共感させられるものがありました。師のように水石界において高い評価を得て功なり名を遂げた人でさえ、我が仕事をやり終えた完全燃焼の達成感に浸ることは難しいのだと思った瞬間でした。


茅舎石(佐賀県産)間口9.4×奥行き×3.8高さ6.1cm



亡くなる1年ほど前に製作依頼して作ってもらったもの。


後姿。


頼んだわけではないのに「逆さまのも作っといたぜ」と言ってプレゼントしてくれた、思い出の台座。


さすが名人の目の利き所はたいしたものです。

 

2020年12月10日木曜日

ミニ水石

10年ほど前のことになりますが、東京は南千住駅付近の古い商店街(仲通商店街といったかもしれない)のある商店主から、そちらの亡くなったお父上の遺品(愛石)の買取の依頼をうけました。ミニの水石が700個以上あってっけっこうな量と重さになったのを覚えています。


ただ残念なことに、亡くなってから20年ほどの年月が経っていたので、半分ほどは石と台座が一致しなかったことです。その後に随分と時間をかけて石と台座の一致するセットを探し出しましたが、まだまだ石の無い台座と台座のないいわゆる「はだし」の水石と、さらには産地不明の水石がたくさんあります。


四万十川と思われる船形石(間口15cm)


ただこれらのミニ水石のコレクションは、当時その道ではかなり知られた愛好家さんです。
いずれも水石の基本はしっかりと捉えた優秀な作品です。


ちょっと厳しい角のある山容が特徴の遠山石。かなりの持ち込み品ですが「産地不明」でっす。


後姿、間口は13cmです。

このように、産地がふめいだったり、台座がどれだか分からなくなっていたり、でも持ち込みの時代感がよく風景の基礎がしっかりして見どころのあるミニ水石がもったいないですね。

 










 

2020年12月9日水曜日

黄梅中品


中国では黄梅を迎春花と呼ぶ。春を迎えるにふさわしい華やかで親しみのある鮮やかな色彩と簡素な花形が何とも魅力的です。花期は2月から4月までとかなり長期に楽しめます。そして時にはこの盆栽のように、狂い咲の様にして思わぬときにポツリポツリと咲きます。


花のない時期なので一輪でも咲けば、満開時の華やかさに匹敵するほどの艶やかさが感じられるから不思議ですね。



この夏ごろに、後継者のいなくなった愛好家さんの庭の盆栽類を、そっくり買い込んだ中にまじっていた黄梅。ミニ盆栽のサイズ(19㎝)なので最近まで目立たずにいましたが、落葉の季節になると、さすがに我が意を得たように存在感を発揮してしてきました。



無駄枝や不定芽が無秩序にからみあっています。
雑木類の樹種は掃除を兼ねた軽い剪定の適期は今です。


軽い剪定と掃除が終わりました。樹高は19㎝で左右の幅は29㎝くらい。小品としても三点飾りの添えとしても活躍できるでしょう。
足元に時代感あり。2年ほど締まった管理をしていけば、樹形はさらに締まって緊張感がにじみ出てきます。将来有望な掘り出し物でした。


足元からの幹模様の芸はなかなかオシャレです。



 

2020年12月4日金曜日

舞姫もみじ剪定


例年だと12月に入れば雑木類の葉はブナなどの限られた樹種をのぞけば、ほとんどが散ってしまっているのに今年の秋は紅葉も一味物足りなくて、秋の手入れもなぜかのんべんだらりの感じです(これは私だけでない!)


舞姫株立ち

まず枯れ葉をきれいに落としてやる。雑木好きの盆栽人が一年中で一番胸の時めくのが、この時期ですね。


舞姫もみじの枝先の繊細さは格別です。枝の先っぽまで血が通っている感じがしますね。


ミニながら力強い足元や幹筋の迫力も見どころですね。


株立ち樹形を目指しています。盆栽作りは骨格作りからといわれます。若いうちからあまりに優等生を目指さずに、最初はやや暴れ気味に育てましょう。


骨格がしっかりしてきた時点で、少しずつ荒っぽさを取り除いていきます。
始めからあまりにきれいさを求めすぎると、力強さのないひ弱な印象の盆栽になってしまいます。


舞姫株立ち
正面から


正面やや上方より


主幹のアップ


後姿














 

2020年11月28日土曜日

行方不明の泰山鉢


ある日フト気がつくと、10月22日の項で取上げた小糸窯泰山(四君子)鉢が見当たらない。さして広くないお茶のみ場や仕事場など心当たりを探索してみても、あの四君子クンは一向に姿を現す気配がないのです。
カミサンに聞いてみても「私はしりません!」の一点張り。しょっちゅうこのようにしまい忘れの探し物に付き合わされているので、なるべく係わりあいたくないという本音が顔つきに出ています(笑)


当初は、どこかへしまい忘れたと思っていたのですが、この狭い限られた家の中で10日も姿を現さないとなると、ひょっとするとそそっかしいカミサンにゴミと間違えられ、新聞紙や紙屑と一緒に捨てられちゃったのかな?なんぞと邪念が芽生えてくるのを抑えられない私でした。


泰山クンは何処に!?



買った値段を考えると、そう簡単には諦めきれません。それにしては、とこかへしまったとか収めたとかの記憶も全然ないのです。不思議!


ところで、この泰山鉢事件と同じ時期に、私は通いつけのクリニックの診察券と健康保険証をやはりどこかへしまい忘れて捜索中だったのです。毎日がそれらの連続(笑)


結果はその診察券と保険証はあるところから出てきました。
そこで私は、泰山鉢も普段私があまり目を向けない場所にしまったのだなと、閃きました。
しかし、慣れないことをするとそれすら忘れてしまうのですね。これではもう処置なし!

間もなく、私のもとへ泰山鉢は戻ってきました。

やれやれお疲れさま!

 

2020年11月25日水曜日

箱書き

小鉢の収集家から桐箱とその表書きを依頼されまあまあに仕上がったので、ブログの読者の皆様にお披露目する気になりました。ひとくちに桐箱といっても材料からデザイン技術までピンキリですが、今日ご紹介する八つは中身から箱まで優秀な作品ばかりです。


平安東福寺・緑釉外縁二段切足長方
やや重みをもたせた楷書体を主にし、作者名(平安東福寺)を下部の隅にそっと静かにおいた対比が個性的です。


平安東福寺・緑釉窯変切立楕円水盤
東福寺の小品水盤は希少で、出来上がりも非常にいい感じです。


東福寺・鉄砂釉正方水滴
鉢ではなくしゃれた文具です。小物らしくやわらかく崩した草書体がよく似合います。


平安東福寺・紫泥外縁二段切足長方
横に字数が多過ぎるので、作者名(平安東福寺)を中央へ配し、鉢名の文字をやや癖のある行書体にしました。力強い迫力のある文字列ができあがりましたね。


島岡達三・三島手外縁切足楕円
やはり行書体風の文字をやや細めにおとなしくまとめました。もう少しボリューム感が欲しかったかな!?


東福寺緑釉隅入切立長方
鉢の形状は隅切りと隅入は間違いやすいのですが、縁の内側の隅の切れ込み具合から見ると、隅切りというまでには切れ込んでいませんので、隅入としました。微妙なところだと思います。
文字はきっちりと楷書体にまとめて、簡潔堅牢で好感が持てます。


水府散人・天目釉反縁段足長方
初っ端の天の字に思い切りアクセントを置いて変化を出し、それ以下の文字にはやや崩しを入れて総体を上手くまとめてあります。


永田健次郎・瑠璃釉反縁猫足輪花式
非常に珍しい鉢でめったに見られない形状です。また蔵者はこの釉を均釉と見たようですが、日本鉢であるが故に素直に瑠璃釉と表現してみました。均釉という場合は対象が支那鉢の場合に使用していただきたいと思います。

 

2020年11月20日金曜日

本郷昇巻卓ミニ


むかし、大量に製作を依頼した大手の盆栽商の二代目の倉庫の奥に眠っていた木工家・本郷昇(昇が兄で寿山が弟)の小品卓や、画像のような足の巻いた小さな巻卓(まきじょく)。



間口7.5cm×奥行き5.0cm×1.0cm

引き出しの片付けをしていたら9枚も出てきました。以前に盆栽商の二代目から本郷作品をまとめ買いした残りに違いありません。おおよそ20年くらい押入れの机の引き出しに眠っていたので、懐かしくもあり、また儲かったような気にもなり暫し眺めいりました。


まず目につくのは材料の良さですね。これはどんな小さな作品にもいえることです。


昔から木工師は自らの家財よりも手持ちの材料(原木)を大切にしたそうで、家の引越しのときなどは、家族の寝食する座敷よりも材料の置き場所を第一に考えたそうです。まさに木工師にとっては「材料命」と云ったところであったのでしょう。



よく寝かせた無傷の紫檀のこの光沢は見事です。


裏面から見ると製作途中の刃物の痕跡が見えて、作者の捜索への息吹が伝わってきます。


造形的に堅すぎず柔らかすぎずみごとなバランスのミニ卓です。手に取って眺めると巻き足の出来具合のよさが一段と伝わってきます。
どんな小さな脇役でも出来のいいものはいいですね。おしゃれです。

なお本郷昇作品には「昇」という彫り落款が記されているのが普通ですが、これらの作品は大量生産のため落款を省いたのでしょうが、間違いなく本物です。