2005年12月24日土曜日

東福寺新落款2



作風および落款から判断して初代東福寺のもっとも初期に属する珍品です

大正から昭和初期のプロとしての制作活動を始める前後の作品でしょう
水野喜三郎の初々しい素朴な雰囲気が伝わってきます



さて、丸の中に「喜三」の崩し文字の入った落款はあるのですが
この釘彫の「喜三」はめったに見られない珍しい落款です

まったく東福寺落款に関する限り、油断は禁物です
その種類の多さと落款の印されている場所など、まだまだ珍しい出来事に出会える可能性が大なのです

2005年12月23日金曜日

東福寺の新落款

東福寺ほどたくさんの落款を使い分けた鉢作家も珍しく
昨年の夏に近代出版より刊行された平安東福寺の作品集にも17の落款が紹介されています

ところが、この度手に入れた「楊枝立て」に印されている落款は今までに見たことがなく
前記の作品集や盆栽界の既刊の研究書などにも載っていないものなのです


櫛目を施し支那では「天青釉・てんせいゆう」と呼ばれる美しい釉薬をほどこした楊枝立て



右の「東福寺」の落款は水野喜三郎が初期から使用している有名なものですが
左の楕円の中に「水野」は過去に見たことがないものです

おもしろいですね
東福寺の場合はこれからも新しい落款に出会う可能性は充分にあると考えられます

みなさんももしあったら教えてくださいね
「こんな珍しい落款があるよー!」

2005年12月11日日曜日

大助鉢の窯傷

参考資料として適当な大助鉢を入手しましたので
またまた窯傷の話をしましょう


佐野大助 五彩山水図丸鉢(磁器作品) 間口10.7×奥行10.7×高さ4.2cm

なだらかな峠の上り口の風景でしょう、これから上りにさしかかる馬子、下りてきた篭かきなど
茶屋らしき建物をポイントに画面全体に8人の人物を巧みに配した構図の妙

背景の中心を占める穏やかな丘陵も美しく、大助の五彩画として秀逸の出来を示す作品で
使い込みの時代感も抜群です


ところが、水穴の縁に数ミリのわずかな傷を発見
検証の結果、焼成過程での窯傷と断定しました

この水穴付近はもっとも窯傷の生じやすい箇所であって
焼き物の宿命ともいえるでしょう

しかし、傷は傷です

この場合問題なのは

1 将来の実用に耐えうるかどうか
2 傷の性質
3 大きさ、それに深さ

なのです

傷の大きさはおよそ3ミリ
また、長い年月の使い込みに耐え、窯出し以後に広がった形跡が見られないことから
性質はごく良質であることが理解できます


内側に達しているかどうかを見るためによく検証する必要があります

大丈夫です
これでかなり軽微であることが判明してきました


もう一度鉢底の面から傷の深さを調べてみましょう
画像からも傷は底の肉の厚さの半分までしか達していないことがわかりますね

この検証の結果、前項でもお話したように価格面の評価は下がるのは当然としても
「大助の傑作鉢」としてきっちり評価すべき作品であることがわかりましたね

さらに、売り手の業者側にとっては
買い手のコレクターさんに対し「窯傷あり」との説明責任があります 

(認めることは辛いけど) 傷は傷なのです!

欠点を認め説明した上での再評価、それが盆栽界の将来のために欠かせないことであると肝に銘じましょう

それではまた

2005年12月4日日曜日

愛草鉢の窯傷

最近あちらこちらから盆栽業者の悲鳴が聞こえてきます
それはインターネット取引の時代に入り「鉢の傷」の認定の尺度が、従来よりかなり厳しくなったからです

「よお、、宮ちゃん、これって傷かい?」
「宮本さん、この窯傷、お客様に説明した方がいいですかね?」

業界の同輩や後輩達からこんな相談をうけることが多くなりました

従来の取引は現物を見ながらですから、例え軽微な「窯傷」があったとしても
売る側がそれほど説明しなくとも成立しました

また、「高温で焼くんだからそのくらいの窯傷は入って当たり前だよ
そんな細かいこといってたら欠点のない鉢なんかなくなっちゃうよ」

そういう一言が強い説得力を持っていたのです

ところが数枚の画像だけを見ての取引のインターネットの時代となっては
もはやこの一言は「業者の逃げ」と受け取られてしまいます

そして、問題なのはボディーの外側にあるものでなく
内側や底の足の付け根部分に製作過程で起こりやすい「窯傷」の判定です

さてここで、「稚松愛草」の作品を例にとってご説明しましょう


稚松愛草作 桃花紅釉(とうかこうゆう)切立長方鉢 間口5.9×奥行4.4×高さ1.7cm

愛草作品の中でもトップクラスの発色であると自負しています
また、愛草といえどこの桃花紅釉作品の数はごく少なく希少性も高いのです


登窯作品のため、歪みの多い愛草作品の中では珍しく狂いのない正確なボディーです


使い味も滲み出て美しい桃花紅釉に渋みを添えています


ところが内側の角に「窯傷」発見!
惜しい、ということになり、ここで並みの作家の作品であれば、とたんに隅に追いやられてしまうところですが

この愛草鉢の「窯傷」の判定に差しては

1 作家のランク
2 作品の希少性とランク付け
3 資料的な価値感
4 傷の深さ

を考慮に入れるべきなのです

今の盆栽界には確たる「鑑定機関」はなく
鑑定は個々の業者の良識と力量にゆだねられている現況なので

自らの所有物を「窯傷」の例に取り上げ「○」の判定を下せば
上でお話したように「業者の逃げ」・「売らんがための強弁」と受け取られかねませんが
敢て、盆栽界の将来のために申し上げます

1 愛草は日本を代表する最高ランクの鉢作家
2 愛草の桃花紅釉は数が少なく、まして最高級の色合い
3 戦前に活躍した物故作家であり、その作品数も多くはない
4 愛草作品は歪みや窯傷が多く、無傷完品ものが極端に少ない

そのような理由から、決して「窯傷あり」の「傷物」の一言では片付けてはならないのです

まして、傷も内側の軽微な性質であり、外側へ抜ける心配はなく
鑑賞上からも問題はありません

ですから、この内側の窯傷を理由に本作品から「愛草の桃花紅釉の名品」との評価を奪い取り
コレクションの隅に追いやるようなことは盆栽界の損失になります

価格面の評価は下がるのは当然としても、「愛草の名作」ときっちり評価すべきです

みなさんもご自分のコレクションの見直しをしてください
わずかな欠点を過大に思い込んで名品を隅に追いやってはいませんか?

また、業者は勇気を持って自らの作品の姿を「可能な限り正確」に伝える努力をしなければなりません
私も折に触れこのことを業界で叫ぶように致します

ではでは

2005年12月1日木曜日

けやきの再教育

けやきほど樹形が定型化されている盆栽樹種はないでしょう
その分だけ作り方が難しいとも言えて、その代表が箒作りですね

他に段作りといって、真っ直ぐに芯を通し枝を左右に振り分けた作り方もありますが
どちらにしろ立ち上がりから真っ直ぐな幹です



けやき名人が仕立てた樹齢10年の本筋けやき箒作り

立ち上がりからすっくと立った幹と天に向かって扇状に広がった枝が特徴で
箒を逆さまにした形から「箒作り」と呼ばれるのは知っていますね

さて、その箒作り
10年を経た頃になると、ふところの枝が絡んだり交差して乱れてる箇所が出てくるのです

この頃が将来にための再教育の時期で
針金で枝の向きを本来の方向に正しく導き枝分かれの角度も矯正します

当然場所により枝の疎密は生じますが
空いた空間に他から枝を無理やり誘導するようなことはしてはいけません(ここが重要)

せっかく骨組みの筋を矯正した意味がなくなるのです
植物は日当たりと風通しのいい空間に自然と枝を伸ばしてくるものです



真上からの画像を見てください
枝は必ずしも均等に配置しているのではなく、本来向かっている方向に素直に伸ばしています(ここが重要)

こうしておけば基本の骨組みは狂わず
また日当たりと風通しのいい新しい隙間は必ず数年で埋まります

この再教育さえきちっと行えば「向こう10年間」は「芽摘み、葉刈と葉透かし」を繰り返すだけで
本格的なけやきの古木盆栽への道は約束されたようなものです



ところで、再教育の後に気をつけることは

1 冬の寒さから保護する(特に乾燥した冷たい北風)
2 6月初旬の葉刈と同時に針金を外す
  但し、枝分かれの元(枝元)や芯の先端など太りやすい箇所は
  様子を見ながら早めにその部分だけ針金を切る

その2点です

みなさんもさっそく実行!!