2020年3月30日月曜日

舞姫もみじ・追跡培養

これらの舞姫もみじは、一昨年の春先(2~3月)に素材のてっぺんを取り木し、昨年に現在の鉢(仕立て鉢)に植え込みました。幹の太さを求めず、樹高10cm以内の自然系の雑木らしい持ち味の樹形に仕立てたいと考えています。そこで多数の中から無作為に3鉢だけ選び出してその成長ぶりを随時ご紹介しょうと思いつきました。3鉢とも接写画像を添えて各2枚のですが、必要なときには枚数を増やしてご紹介するつもりです。

3鉢とも春の芽だし時期を迎え一年で一番生き生きとした表情をしています。今日2~3節伸びた新芽の先端を1芽残して摘みました。それと油粕の固形肥料の小粒を一つずつやりました。
次の作業予定は、そろそろ動き出すアブラムシ対策でしょう。粒状のオルトランが便利ですね。
それでは!



株立ち状 樹高6.0cm



3幹風 樹高6.0cm



双幹風 樹高5.0cm

2020年3月24日火曜日

宮崎一石(続編有)

今回は、市内に住むお客様であり古鉢の趣味を通じての親友でもあるAさんと宮崎一石の絵鉢にまつわるお話です。もちろん私にも大いに関係ある出来事です。


現在宮崎一石の人気が何度目かの大フィーバー中です。お話の一石の色絵外縁長方鉢は、間口11.6×奥行き10×高さ4.4cm。ボディーの四面は青海波(せいがいは)と思われる伝統文様に覆われ、前後は変形の窓が切られて、それぞれにアザミと赤い実を付けたツルの植物が、両サイドには飛翔する優雅な鶴の姿が描かれています。


特徴としては、奥行きと深さがタップリしていることです。全体の姿にゆとりが感じられ、実用の美と華麗さが両立された名作であるといえます。


外縁、ボディー、簡潔な切り足など、すべてバランスがとれて落ち着いた調和を感じさせてくれます。窓の中の実つきの植物名は不明です。ツル性だけに迷うところですね。


こちらの正面は薊(あざみ)です。窓の切り方も素晴らしいセンスのよさが感じられます。
宮崎一石の作風には絵のモチーフだけから区別しても、雪舟ばりの大自然を描いた雄大なスケールの山水図、広重の東海道五十三次や近江八景の模写、さらに身近にある何気ない自然や静物を描いたものなど、3つのジャンルが存在するようです。
近代日本の小鉢の歴史を研究する上で、巨匠・宮崎一石のこの作品は希少性から云っても非常に価値あるものです。


落款は「あびこ山」「一石作」
この落款の作品は前期の作に多く、内容的にも優れたものが多いとされています。ちなみに、あびこ山とは大阪府住吉区にあり、かつて一石が居住した場所であると云われています。
なお、宮崎一石についてはこの徒然草でも過去にかなりの画像も載せて取上げていますので、ラベルを使って検索してみてください。

2020年3月22日日曜日

山もみじ・一年の計

「一年の計は元旦にあり」と云いますが、盆栽の場合大概の樹種は早春の2月末から3月いっぱいごろが一年の始まりと云えましょう。
太枝の剪定を伴う大改作なども、この時期に植替えと同時に行うのが普通です。


昨年の春ごろ手に入れましたが、足元の傷が思いのほか深く大きかったので、一年間手を入れずに、ひたすら傷口の回復を待ちながらの持久戦。
根っ子も枝先の順調さとと同様に、元気で旺盛な勢いです。


樹形は山もみじには珍しいいわゆる半懸崖方式で、自然界では滝壺などの断崖絶壁を連想させる峻険な景色ですね。
葉性が細かく枝先も良くほぐれています。
かなりの古木ですね。木肌の縦縞がきれいです。


画像でご覧になれますね。足元に大きなヤケがあり(足元がもぐっていて、もっと小さく見えた、誤算!)ましたが、一年間の丹精で芯の部分を残してかなり巻き込んできました。


灰色の芯の部分がまだ未回復。園周囲の濃い茶色部分が一年間で肉巻きした部分。
このペースではあと一年間で一応の肉巻きは完了するでしょう。ただ問題はその部分が丸幹ではなく凹型にへこんでいて、ちょっとカッコがよくないことですね。


いわゆる陥没したような形です。


この傷口さえなければ、持込の古いかなりの逸品なのですが。


とにかく「一年の計」を実行してみて、この傷口がどのような形で肉巻きしてくるか、それが楽みです。とにかくもう一年、ひたすら肥培につとめることにしました。適切な管理さえ行き届けば、盆栽は自然に自らの形を整えて立派な姿に育つという面もありますからね。


欠点や未完成部分を残したものはやりがいがあります。一年先のこの山もみじの姿が楽しみです。

というわけで、先端の芽が2~3節伸びています。1節残してピンセットの先で芽摘みをしましょう。早い芽と遅い芽では10日くらいの差があります。摘み残しのないようにしてくださいね。

もうひとつのポイント。
肥培といっても肥料のやり過ぎはいけません。葉性のいいもみじでも、節間(せっかん)が長くなって枝が粗くなってしまいます。

2020年3月15日日曜日

平安東福寺・瑠璃釉正方

親子ほどに歳の違う業界の後輩から、平安東福寺の瑠璃釉の正方鉢をわけてもらいました。その人は若くともなかなか目が利いていて、鑑定眼も優れています。その彼から譲ってもらった鉢は、東福寺らしいシンプルな形状と瑠璃釉の発色が素晴らしく、以前から何時かは手に入れたいと思っていた逸品です。
東福寺鉢の特徴は、作者自らが実用を強く意識して製作にあたっていたところにあります。ですから東福寺鉢は、眺めてよし、さらに使ってよし、と云われています。東福寺の人気の秘密はまさにその点にありますね。この瑠璃釉鉢も力強い盆栽によく似合いそうです。



初代平安東福寺・瑠璃釉内縁切立隅入切足正方 間口8.2×奥行8.2×高さ6.2cm



東福寺の作風の特徴は、まずは盆栽との調和に優れていること。彼は実用(盆栽を植える)の一点を製作の最大の動機としました。東福寺鉢から感じられる存在感と奥ゆかしさの原点はそこからくると思われます。


隅入の形状がえも云われない品格を醸し出しています。


僅かな角度で開いた間口のバランスが素晴らしい。


鉢底と足のバランスがみごとです。優れた作品は鉢裏や足の形状も美しいものです。


隅に僅かなアクセントを入れたボディーとやや大きめの切り足との調和が抜群です。


広東釉と並んで有名な東福寺の瑠璃釉。






東福寺鉢の施釉(せゆう)の巧みさは瞠目に値します。施釉にあたって多過ぎず少な過ぎず、鉢底すれすれに釉薬が止まっています。見事!





内側の灰被りの痕は、この瑠璃釉正方鉢が登り窯によって焼かれた作品であることを示しています。




落款は「東福寺」。サイズ、作風、時代感などを総合的に検証して、東福寺中期の作品と推定します。盆栽屋.comが手がけた瑠璃釉の小品鉢の中でも、かなり上級クラスに入る作品といえるでしょう。まったくの無傷と云える完品です。

2020年3月9日月曜日

市川苔洲・名鉢鑑賞検証Ⅱ

名品に出会った感激は盆栽の愛好家でなければ理解はしがたいものです。まして図録物となると、長い年月この世界で評価され続けてきた、つまりお墨付きというわけです。
その作家の代表作と云ってもいいわけですね。
しかし、この古鉢蒐集の高みを目指すには、冷静さも必要です。既に評価の固まっている名品であっても改めてしっかりと検証する必要もあります。


ボディーなど目立つところはもちろんですが、足などの細かい箇所は①傷 ②痛み などに注意して欠点を検証します。


1本目、2本目は大丈夫


???・・・・3本目の足の元に僅かに光るものが見えませんか?
このような場合はよく接着剤で傷を修理してある場合もあって、細心の注意が必要です。
対象がお墨付きの名品でも検証はしっかりやらねばなりません。
この場合はまだはっきりとはいえませんが、修理の可能性は考慮に入れておいた方がいいでしょう。


4本目は大丈夫ですね。


この角度から全体の形や釉薬の雰囲気を鑑賞しましょう。こちら側が窯変の激しい正面です。


高取釉のような重厚な釉薬の変化が魅力的です。さすが市川苔洲の最高傑作のひとつですね。


渋い蕎麦釉の持ち味が制作から100年近くの使い込みによって、渋い輝きを放っています。


さて先ほどの足の傷らしい箇所の再検証です。左の足元をよく見てください。元に細い線がかすか入っているような気がしますね。


この角度から見ても左の足の元には細い線らしきものが見えます。


他の足元には不自然な点は見あたりません。


こちらも大丈夫。以上、1本の足については一応傷の可能性をチェックしておくべきのようです。ただし、ごく軽傷の経年劣化レベルではあるようです。


たくさんの画像をご紹介しましたが、最後の2枚が実物にもっとも近い印象なので
敢えて掲載しました。↑が正面で↓が裏正面になります。


以上、どのような名品にも歴史があり、歴史がある以上実用物なので傷や痛みはまぬがれませんが、それらをきちっと検証することによって末永く保存していきたいですね。

2020年3月8日日曜日

市川苔州・名品鑑賞検証Ⅰ

大正から昭和初期にかけて東京で活躍した市川苔洲の名作を手に入れました!

蕎麦釉外縁隅入雲足でサイズは、間口19×奥行12.2×高さ7.5㎝の長方鉢です。今では古鉢研究家にとってバイブル的な名著といえる、平成2年に日本盆栽協同組合が記念出版した大書『美術盆器「名品大成」』の市川苔州編のトップに掲載された名品中の名品です。

↓はそのページのコピーですが、3点の中の長方鉢そのものが今日ご紹介する鉢です。


さて、このような名品が自分の手に入った時に私がまずやることは、心を落ち着かせてその鉢を数日間自分の目の届かない場所へしまって置きます。


そして心の高ぶりが鎮まったころを見計らって、再び静かに両手で撫ぜたり眺めたりしてみるんですね。
そのようなことを数回繰り返しても、手に入れた当初と同じく感動が薄れず、さらに感動が深まっていくようならば、その買い物は間違いなく成功しています。
逆に眺める度に感動が薄れるようであれば、まだ勉強と経験が足りなかったと反省するほかはありません。


美術盆器に掲載された真正面の角度。苔州の得意とした蕎麦釉が窯の中でかなり激しい動きをしたのでしょう、ご覧のように表と裏の発色がかなり変化しています。


窯変の激しい面。側面にも炎の激しさがみられます。まるで高取釉に似た発色が非常に魅力的です。


窯変の激しい面から見ます。右側面よりの角度から眺めると、蕎麦釉の下から白色釉が不思議な変化を見せています。これぞ苔洲窯の野性味溢れた窯変の真骨頂ともいえるでしょう。


蕎麦釉薬の濃い面より見ます。縁の正面右側(三分の一くらいのところ)に小指の爪程の蕎麦釉の固まりの箇所があります。釉薬の飛びか人工のものかは不明です。


左面が窯変の激しい正面。強い炎にあぶられたのでしょうか、外縁の水切り部分はみごとに窯変が出て複雑な色彩を帯びて趣強し。


反対側の側面は蕎麦釉薬が変化してまるで高取釉のような渋い重厚な色彩を帯びています。


外縁の部分を上から見ます。蕎麦、白、青、高取など、複雑な色彩が混じりあって幽玄の世界が拓けています。



底面より、落款は「苔洲」


窯変の激しい表正面。


蕎麦釉の裏正面より。


日本盆栽協同組合(平成2年)発行の美術盆器・名品大成
盆栽古鉢のバイブルです。