2004年8月31日火曜日

青閑・竹取物語2

明治・大正・昭和・平成の4代を生きた江戸っ子・柴崎青閑は
何よりもまず、稀代の自由人でありました

一般人から見れば、奇矯とも思われる青閑の自由人振りは
あの戦中戦後の動乱の世にあっても発揮されていたことは、すでにお話したとおりです

その青閑の、心の奥底にしまわれている純真無垢な心理が顕著に現れた作品が
この「竹取物語」の「かぐや姫」でしょう

ここには、青閑自身の「女性崇拝」の精神が、童女「かぐや姫」を通して
隠すことなく素直に表現されています

青閑作品をより深く理解するためには
趣味人、自由人としての彼の精神生活を知ることが求められます

そのような観点からも、この「かぐや姫」は、資料的にも希少な作品です
ごゆっくりご鑑賞ください


白無垢の小袖に隠された両手を胸元で重ねた可憐なしぐさの魅力に加え
やや顔を前に差し出した童女らしい全体のポーズが青閑の抜群の観察力と表現力を表しています

幼いかぐや姫の童女らしいしぐさは、このポーズがもたらす印象からきています
また、頭部を大きく、体の部分は小さめ、にすることで可憐さと幼さが強調されていますね

透明感のある白磁を用いたのも青閑の慧眼でしょう
清潔感溢れた抜群の名作です


着物の裾の波間や袖の部分などが煙穴となっています
青閑の精巧な技術が光ります


着物の裾の波の間にさりげなく空けられた煙穴


正面の図


側面より
童女らしい小さな肩が印象的ですね


可憐な後姿

2004年8月28日土曜日

青閑・竹取物語

この「かぐや姫」の香炉に出会った瞬間、非常に感動しました
それは、柴崎青閑という人間像の奥深くに宿る、幼児のごとき純粋な精神性に接したからです

作品を鑑賞するには、その作品のみを検証するだけでなく
その作家の生き様や人間性の根源にまで踏み込んで理解してこそ、より醍醐味が増すものです

いままでに、青閑の作品やスケッチ、薬師如来の厨子などを鑑賞しながら彼の人物像に迫ってきましたが
この「かぐや姫」も、彼の未知の境地を私たちに知らしめてくれています

ごゆっくり鑑賞してください


柴崎青閑作  香炉「かぐや姫」  間口8×奥行8×高さ10.5cm

スッパと切った竹の上に、両袖を胸元でそっと合わせたた童女
竹取物語のかぐや姫、青閑が精魂込めた作品です

香炉の胴の部分は硬く引き締まった陶器で、竹の質感を表現し
ふたの部分のかぐや姫には、きめ細かい上質の磁器を用いています

竹の質感といいかぐや姫の透明感といい、みごとな表現力ですね
また、全体の造形力、細部にわたる繊細な技も見どころです


幼いかぐや姫のあどけない表情
ここに青閑の純粋な精神性を感じるのは私だけではないでしょう


正面の図です

竹の節々、色彩、質感
うまいですね、青閑は


後姿


底部
見えないところも手を抜いてはいません

竹の節、実物も切るとこのようですね


胴の内側

2004年8月20日金曜日

青閑の薬師如来

柴崎青閑の薬師如来像や弁財天尊像を納めた厨子の5点セットが手に入りました
そのうちの1点、薬師如来像をご紹介します

江戸指物師と青閑の合作で希少な宝物です

二度とお目にかかれない類まれな珍品ですよ
青閑の遊び心の世界をゆっくり堪能してください


薬師如来像が安置されている厨子
ていねいに桐箱入りです


朱泥金彩
南無薬師如来像
青閑像


薬師如来像が安置された厨子の正面図
大きさは間口6.8cm×高さ11.5cm


観音開きの戸を開けると中には青閑作・薬師如来像


厨子を詳しく見てみましょう
側面をのぞく角度より、均整の取れたバランスの美を感じます


屋根は一枚板を削り出したもの
やわらかい曲線がみごとです

驚くべき伝統の技
きれいな木目を活かしています


扉とそれを支える下の敷居がはめ込みになっています
これは高等技術


扉の両側の脇板もはめ込み
精巧な細工です

これでやっと薬師如来像を手に取ることができました


このように右手を上げ,手を開いて指を伸ばし掌を見せる形を施無畏印(せむいいん)といい
人々のさまざまな願いをかなえる(ことを誓う)印

左手の形は与願印(よがんいん)といって人々のさまざまな願いをかなえる(ことを誓う)印だそうで
薬壺を持っていますね

薬師如来信仰は飛鳥時代頃の始まり
天武天皇が皇后の病気平癒のため薬師寺建立を発願されたことでも知られていますね

備前焼のような硬いしっかりした土目
薬つぼの部分は磁器で、手が込んでいます

青閑は仏像が大好きだったようで、観音様のスケッチが残されています
それだけに描写も的確ですね


たっぷりと奥行きのある薬師如来像
ゆったりとした表情がじつにいいですね


青閑の共布
彼が丹精を込めた作品であることが伝わってきます

以上ご覧のように、青閑は異常なほどの遊び人(趣味人)です

本業は彫金師であったようですが、その合間に好きなことをするというより
趣味の時間の合間にちょこっと仕事をする、そんな人生だったのではと推測されます

おかげで私たちはそれらの作品を眺めて楽しい思いができるのですから
青閑の奇人変人ぶりに大いに感謝すべきですね

2004年8月18日水曜日

青閑・七福神

柴崎青閑の代表作として知られる七福神

伝統技術の江戸指物師による華麗で粋な化粧箱に入れられた8点セットは
世に2組存在することが知られていました

一組は、去る6月の初旬に当HPのPART45で頒布されたもの
残る一組は、昨年秋に近代盆栽誌上で紹介された著名な豆鉢収集家・窪寺一郎氏の秘蔵品です

この度、窪寺氏より放出されましたが
かねてより私が入手を熱望していることを知っている友人のKさんが仲介の労をとってくれました

嬉しいですね
持つべきものは友達です

このように名品・珍品を収集するには、いい人脈がなければとても無理なこと
普段から培った人脈こそが最大の見方です

ごゆっくりご鑑賞ください


柴崎青閑作 銘「七福神」(共箱共布付)

柴崎青閑の生涯の作品中で最も有名な「七福神」の一揃い


箱裏にある窪寺コレクションの印

窪寺コレクションの多くは「此ぬし一泉」と印されています
一泉は窪寺一郎氏の雅号

それではまず七福神の仕度(箱などの装丁)から鑑賞していくとしましょう



技術と伝統を誇る江戸指物師による素晴らしい箱です

左上が閉じた状態、観音開きのデザインです
材質も吟味され、木目が美しい

下の段左、なんと観音開きの扉はデザインだけでした、箱は中央から真っ二つに割れます
木目が通っていますから外見からはわかりません、驚きです

箱はみごとに左右に割れ内側の蓋が見えてきます
伝統の技、この箱の仕掛けはみごと

雰囲気が盛り上がり青閑鉢の魅力がさらに引き立ちます

お洒落な遊び心いっぱいの楽しい仕掛けはまさに青閑の独壇場
江戸趣味の極致です


八点で一揃い
七福神なのに八点揃いの理由は↓でわかりますよ
箱の裏には青閑自らの彩色画が描かれていて、屏風仕立てになっています
引き出しの中に紫檀製の屏風の足が入っています


屏風拡大図 おめでたい富士山

それでは鉢を一つ一つ観てみましょう


恵比須
商業の神様、鯛を釣り上げている図で有名ですね
躍動感溢れる青閑の筆致がみごと


毘沙門天(びしゃもんてん)
須弥山(しゅみせん)に住む帝釈天の護衛役
甲冑に身を固めています
青閑独特のユーモアを含んだ表現

この毘沙門天に踏みつけられているのが「天邪鬼」です


弁財天(弁天さま)
音楽や財福の神様、現代的な美人に描かれています

他の作品と比較してみると、青閑の理想の女性像が垣間見えてきます


大黒
食べ物の神様
おおらかな表情が印象的


寿老人(じゅろうじん)
長寿の神様


福禄寿
福と長命の神様、長い頭で有名ですね
果報は寝て待てとばかり、のんびり寝そべっています


布袋
円満の神様
青閑独特のおおらかな筆致がみごと


八点目があるのは箱にピッタリ納める都合もあったのでしょう
「七福」「七笑」と大書しています

青閑においてはその書もデザインとしてみごとに絵になっています

共布のようす
 
恵比須公

 
大国天

 
布袋尊

弁財天

 
寿老人

 毘沙門天

 福禄寿

七福七笑