2020年6月23日火曜日

古鉢のお化粧の仕方

盆栽も盆栽鉢も一年を通して戸外の置き場で雨風に晒されているので、歳月とともに水垢や埃などが少しずつこびりついて、ついには盆栽人が時代感(古色感)と呼んで珍重するような趣を呈するようになってきます。

この海鼠(なまこ)の楕円鉢もかなり使い込んだ時代感にあふれています。


ただ、鉢にこびりついた時代感が、まんべんなく全体を覆っていてアクセントがないため、たんなる薄汚れにも見えなくもないですね。つまり、海鼠釉本来の美しさが見える箇所がないんですね。


このような時にはちょっと一工夫して、鉢にお化粧をしてやりまよう。本来の釉薬や土目の美しさを僅かに覗かせるだけで、ぐーんと美しさが際立ってきます。


道具は「スナ消しゴム」とボロ布と椿油だけ。


ティッシュかボロに椿油を含ませて、汚れの一部分に塗ります。


油を塗った部分を消しゴムで柔らかく擦って、汚れを取る。急がずに根気よく。


表面の汚れが取れて釉薬の輝きがみえてきました。ボディーの中ほどを帯状に擦り、その上下の帯状の時代感は残して陰影をつけます。


ボディーの胴はやや中ブクレですから、この部分の汚れを擦り落として海鼠釉を見せるように工夫します。ボディーの周囲を一周します。


ボロと消しゴムを交互に使い慎重に。


消しゴムはあまり強く擦らない。時代感を取り過ぎると鉢が若返ってしまいます。


胴の中ほどの汚れが帯状に落ちたので、薄っすらと海鼠の地肌が見えるようになりました。最初の画像と見比べてください。ちなみに、縁の上や其の付近の時代感は擦り落としてはいけません。せっかく古く見えるようになった鉢が若く見えてだいなしですよ。


縁の周囲と鉢底に近い部分を残して、ボディーの中ほどを帯状に擦るわけです。ボディーの上下の時代感を残して、中央の釉薬を僅かに見せれば全体に陰影とメリハリがでます。
見栄えがよくなりました!







2020年6月20日土曜日

白井潤山・紫檀小品飾り棚

明治から昭和の中期ごろまでに盆栽界と縁のあった唐木細工の名手・名人を挙げてみましょう。するとまず大名人と云われる小川悠山をはじめとして、日比野一貫斎、白井潤山、葛木香山、金子一彦、本郷昇・寿山兄弟などの名が挙がります。


彼らの多くはいわゆる大家・通人と呼ばれる盆栽愛好家や盆栽園主の依頼を受けて飾り卓や飾り棚を製作しました。ですから、今日私たちに残された旧い盆栽諸道具などはは、それらの注文主の優れた審美眼と職人たちの技術の賜物であるといえます。


さて、今日みなさんにお見せするのは、大名人といわれた小川悠山の弟子であった白井潤山作の、紫檀小品飾棚(間口48.5×奥行き20.6×高さ)


白井潤山は昭和初期から中期にかけて活躍した唐木細工師で、重厚というより日本的なやさしさにあふれた柔軟な感覚の作品が多い印象です。
「紫檀菊透天拝机卓」が代表作として盆栽界に知られています。




潤山作品はいずれもよく吟味された材料が用いられていますので、製作後100年近い年月を経ていながら、割れヒビなどの痛みが全く見られません。


箱型の飾棚ですから5点飾りが定石になりますね。間口と中段と高さのバランスが絶妙です。ほどよい緊張感と力強い構成です。


昭和初期から中期にかけての製作と思われます。


隅々まで神経の行き届いた細工師の息吹が伝わってくるようです。


中段にも安定感あり。


年月を経るごとに光沢をます唐木の魅力。


製作よりかなりの年数を経ていますが、天板等に痛みはありません。そもそも原材料の選択が並ではない証拠でしょうね。


木綿のボロで根気よく磨き込むんです。それに置き場所も大切ですね。できれば箱(ダンボールでもよし)に入れて直射日光に当たらないところがいいでしょう。盆栽の道具類も生き物と同じで、可愛がって大切にしてやることですね。



腕が痛くなるほど乾拭きします。


天板の裏側に捺されている「潤山」の焼印。昔、潤山の贋作に出会ったことがありましたっけ!その時もこの落款が真贋の決め手になりました。


2020年6月17日水曜日

広東瑠璃釉外縁隅切長方

水盤に穴を開けて盆栽鉢として転用した中渡りの広東が、ふつう「有興隆・ゆうこうりゅう」と呼ばれている広東鉢です。
一見粒子が粗く柔らかく見える土目ではありますが、案外と重く、硬く強靭で粘り強い。それでいながら水はけがいいので盆栽の作がよくのり、実用鉢としてはもってこいです。


しかし、実用鉢だからといって、市場に出回る中渡りの絶対数はそう多いわけではないので、価格もその人気を反映して意外に高値です。


それに比べて普及品として出回っている新渡の広東鉢は、価格も超リーゾナブル。ところが、値段が値段だけにちょっと仕上げがお粗末な作りで、養成鉢の域をとても出られません。


40年ほど以前に日本から要請で注文制作された広東鉢。丸型の「有興隆」の落款が鉢裏に捺されています。ですから、その落款の丸型と鉢裏に捺されていること、さらに瑠璃色の釉薬であることなどが、この広東鉢の見分けのコツです。
中渡りの古い鉢よりはずーっと安いし、40年ほどの年月も経っているので、展示会用にも使えるほどに味も出ています。


気取らない素朴な作柄が広東鉢の特徴であり魅力でもあります。


「有興隆印」

2020年6月16日火曜日

獣面足六角鉢

昭和のバブルの後期のころだった記憶があります。
其の頃、神奈川県の川崎市に○○さんという盆栽鉢の世界の大先輩の店の、奥の倉庫のようなところで新渡の六角鉢を見つけて譲ってもらったことがありました。
その鉢と最近手に入れた画像の獣面足とがよく似ているのに気が付いて、思わず当時の若かったころの自分や、身の回りの盆栽関係の人々のことが思い出されて仕方がありません。



盆栽鉢の形には、切足、雲足、段足、鬼面足や獣面足など10や20は楽々で30や50はあるでしょうね。間口は約30cmほどの中鉢です。


獣面足と書いて(じゅうめんそく)と読みます。鬼面足は(きめんそく)と読みます。獣面足とは人間と獣の中間のような恐ろしい顔です。側環といって耳環(みみわ)のように両側にぶら下がっています。


この足も獣面足です。獣のように恐ろしい形相です。しかし獣というよりも人間の顔に近い感じですね。



側環(そっかん)。


六角鉢に側環が3面付いて、やはり3面に足がついています。
各々のパーツがバランスよくお互いを引き立てあって、豪華で荘重な雰囲気です。



本来の正面はこの面でしょう。正面の獣面足と側環の位置から判断します。



鉢底の姿。どちらかとえいば飾り鉢、つまり鉢そのものを眺める雰囲気のものですが、実用に全く向かないわけではありません。松柏類の懸崖に中品などがよく似合うと思います。

2020年6月13日土曜日

海鼠丸鉢四態

懇意な同業者から4枚の海鼠の丸鉢を仕入れました。一番外側の大きいのが間口25.5cmで内側の最小のが18.5cmです。中渡りの支那鉢の中でも特に盆栽人になじみが深く、雑木や梅や草ものなどによく用いられているようです。
我々にとって親しみのある海鼠の丸鉢ですが、一昔前までは同形、同サイズならば白交趾の方が何倍も人気があって価格も高かったものです。ところがこの5年くらいの間にその立場が逆転してしまった感じです。地味ながら二重掛けの釉薬の流動がもたらす微妙な変化が楽しめる海鼠釉の魅力が再評価されてきたのでしょう。


大きさ、形、釉薬の発色などについて一枚ずつ眺めてみましょう。


間口18.5cmの一番小さな海鼠丸鉢。形もサイズも手ごろで用途が広い。釉薬の変化す様を観察すると、斑文様に微妙に変化しているのが見られます。土目は赤色です。


間口21.5cm。釉薬の二重掛けの効果で雲状の文様が絵になっています。土は赤色で形は標準的です。釉薬はやや明るめの発色です。


間口23.5cm。釉薬の発色はやや濃い目で形も大きさも標準的な丸鉢です。地中海の深い海の色を思わせる色彩です。土目は灰褐色。


間口25.5cm。やはりっ深い海の色を思わせる海鼠の釉薬。土目は灰褐色。
外に大きめに開いた縁は枝振りの大きな盆栽に似合う形ですね。

以上4点の海鼠丸鉢を鑑賞して見ましたが、微妙に個性が異なっていますから、おのずと使い道や鑑賞のポイントが異なってきます。
みなさんも身近にあるものをよく検証して見直してみましょう。おもしろい発見があるかも知れません。




2020年6月4日木曜日

古鉢の磨き方Ⅱ

長く使い込んだ鉢についた古色感(こしょくかん)をさらに引き立てるには、ちょっとしたコツがあります。


焼締(やきしめ)ものは水洗いしただけでは土の艶が表へ出てきません。木綿の布や亀の子だわしで根気よく磨いてもかなり艶が出ますが、それでは時間がかかり過ぎて一日仕事になってしまいます。



ドラックストアーへ行くと純正の「天然の椿油」が売っています。100cc入りの瓶で1,000円くらいですから案外値は張りますが、機械油ではベタベタと掌にくっついて、たまったもんではありませんから、ね。
ティッシュか木綿の布で少しずつ伸ばしていきます。高価な油ですから一度にたくさんはつけないで、徐々にすり込みます。


油を塗ったところとまだこれからの場所では土目の艶がまるっきり異なりますね。


この図は境目がはっきりしてさらによくわかりますね。


縁の部分も艶が出て色彩に深みと高級感が滲み出てきました。


油を塗っただけでは単に「テカッテ」いるだけですから、次の段階では木綿のボロ布でよく磨きこみ、必要ならもう一度新たに油を薄く追加してもいいでしょう。


「テカリ」が取れて鈍い貫禄のある光沢が出てきました。100年以上を経た支那鉢は、さらに年を経るごとにますます美しい輝きを放って、私たちの目を楽しませてくれます。


支那鉢だけでなくよく使い込んだ古い和鉢でもしっかり磨き込めば支那鉢に負けないくらいのいい味が出せるものもあります。みなさんの身の回りを見回して、古い鉢を探して美の再発見をしてみてください。

では

2020年6月2日火曜日

古鉢の磨き方Ⅰ

ご覧の和の楕円鉢は、無落款で作者も窯元も不明の普及品ですが、盆栽歴50年になんなんとする90歳のご老人からゆずって頂いただけに、一口で云うところの古色感が半端ではありません。


和焼締楕円鉢(間口12cm)


盆栽が植わっていたため、鉢の胎土の色は赤茶色でホヤホヤなのですが、ボディーの部分には何十年分の水垢と汚れが積もりに積もっています。盆栽人はこの古色感を、侘びさびと理解し珍重しています。


上の2枚の画像は、さっと水洗いしただけですが、下の2枚は同じ鉢をある油性の液体を少々塗って、木綿の布でよく磨いたものです。


足の部分などは地肌の朱色が輝いていい味が出ていますね。
ボディーの側面はまるで墨汁でも塗ったようですが、即席でつけた時代は雅味がまるで違います。何十年と使い込んで自然についた時代感は「本時代」と云って、風格がまるで違います。
ところで、この朱色の土の美しさをこのように引き立てるには、先ほど云ったように油性の艶出し油を少々使うのがポイントです。
詳しくはパートⅡでいろいろとお教えいたしましょう。

Ⅱへ続く