2004年9月27日月曜日

↓の正解・宮崎一石

正解は{宮崎一石}でした!!

一石の鉢は、壮大なスケールの構図と類まれな繊細な筆致が特徴
たんなる鉢の装飾としての絵という範疇をはるかに超越した本格の{絵画}の世界が展開されています

ちなみに、月之輪涌泉との際立った相違点は、筆のタッチにあります
涌泉の筆のタッチは早いのに比べ、一石のそれは速度を感じさせません

また涌泉の描く人物がときには主役になるのに比べ
一石のそれはあくまで点景であり、テーマは壮大な山水図そのものであることがほとんどです


崖下の庵に差し向かう二人の人物
裏に迫る崖の上の樹木の樹種の三様の描きこみは余人の追随を許さない的確で微細な表現です

右にそびえる崖の険しい描写も迫力があり
手前の風景との遠近感にも細かい配慮がなされています


撫角の部分は曲面です
この部分に絵を描くのは難しいでしょが、タッチや構成の乱れは微塵もありません

これは驚異的なこと
つくずく感嘆します


向かって左側面


向かって右側面
馬に乗った人物が登場、牧歌的な雰囲気

ここにおいても二本の樹木の描き方は鮮やかです


裏正面
余白をとった静かな湖水の景色
四面すべてが周到な計算のもとに描かれています


正面拡大図


左隅拡大図


左側面拡大図


鉢裏

2004年9月25日土曜日

誰の絵付け?

人気絵鉢作家の作品
繊細で品格のある五彩画ですね

さて、この作者は誰でしょう?

正方鉢の二面です



2004年9月24日金曜日

東福寺絵鉢考証の2(壺中楽天)

この「壺中楽天・こちゅうらくてん」は、今年の8月1日に近代盆栽より発行された
~土に生き炎と苦闘した陶工~「平安東福寺」における「東福寺絵鉢名品撰」の中に
全1ページを割いて詳しく解説された名品中の名品です

ここに改めて解説するとともに、みなさんにゆっくりご鑑賞していただきたく掲載しました


平安東福寺  染付正方鉢  銘「壷中楽天」 間口5.6×奥行5.6×高さ4.2cm

東福寺はその長い作歴においても、磁器もの、ましてや絵付け鉢は数えるほどしか制作していません
(絵付け鉢は100点、多く見ても200点以内といわれている)

その中においてこの「壺中楽天」は群を抜いた知名度を誇る究極の最高傑作とされ
豆鉢コレクターの間において、昔から名作中の名作として知られているところです


「壺中楽天・こちゅうらくてん」の銘の源は、中国後漢の故事に由来し命名したもので
この世の別天地とされ、自らの好む別世界という意味に理解できるでしょう

世俗を離れた別世界となれば盆栽と陶芸にほかなりません
東福寺は「三昧の世界に生きる自らの境遇とその心境」をこの鉢において主張しています

古代中国人は、蒼穹(天)は円く、そして地は方形という宇宙観をもっていたいわれところから
正方形で鉢の内縁を円くした特殊な形状の樹鉢は、その古代思想を具現したものと考えられます

凝りに凝った含蓄のある命名をしたものですね

「世俗を離れて、おれは三昧の別世界に生きるんだぞー」
天才・東福寺はそう叫び、作陶の世界に生涯をかけました

ゆえに、「壺中楽天・こちゅうらくてん」という銘から私たちに伝わってくるのは
小品盆栽を楽しむ遊び心とともに、陶芸にかける若き日の水野喜三郎自身のすさまじい闘魂です


直線と曲線の奇抜な組み合わせによる形状は、東福寺幾多の名作の中にあって出色です
天才・東福寺の非凡なセンスが遺憾なく発揮されています

四面に剣木瓜(けんもっこ)形の窓を切りそれぞれに異なった絵付けを施し
周囲の文様もそれぞれに異なっています

呉須の色がこれほどに冴えている東福寺の染付けも珍しく
観るものに新鮮な感動を与えてくれます


胴のくっきりとした直線と鉢口の曲線の組み合わせの妙
さらにふっくらと盛り上がった縁がこの豆鉢にえもいわれぬ温もりを与えています

この鉢の持つ独特のふくらみが「「壺中楽天・こちゅうらくてん」の銘の意味する
自らの好む別世界において三昧の心で遊ぶ、という自由な精神性にピッタリしています


濃い呉須の色とユーモア味のある画風は独特
前ページの作品↓と同一の絵付師によるものです




別正面より


別正面より


楕円の中に東福寺(通称わらじ落款)
青味がっかった白磁にも品格が感じられます

2004年9月21日火曜日

東福寺絵鉢考証の1

生涯に数万点から一説には十万にも及ぶ作品を残したといわれる平安東福寺
しかし、その膨大な作品群の中においても、絵付け鉢は100点、多く見ても200点以内といわれるほど希少です

ましてや絵付の磁器鉢となるとさらにその数は少なく
盆栽界においても、えッ、東福寺は陶器専門じゃなかったの?

磁器の作品って作ったの?絵付け鉢ってあるの?
というご質問が発せられるくらい、実物にお目にかかれる機会が少ないものです

ここに4点の絵付け豆鉢(磁器)の名品が揃っています
こんなチャンスへめったにないですよ
さっそく特徴や作風や制作年代などを考証してみましょう

よく観てくださいよー!

No.1 平安東福寺作 山水図染付楕円樹盆
間口4.8×奥行4×高さ1.6cm

 
No.2 平安東福寺作 銘「福寿」 染付六角樹盆
間口4×奥行4×高さ1.5cm

No.1 の山水図
一応外縁の形をしていますが、普通の外縁の形とは違いますね
ひも状の縁に文様が施され、遊びのデザイン性が強調されています

No.2の「福寿」
東福寺の六角鉢は数が少なく、三面に描かれたひょうきんさが感じられる洒脱な絵の趣が秀逸

双方とも、白地に淡いブルーの釉薬を練り込んだ胎土(たいど・きじ)
戦前の磁器の水盤などに見られる技法です

大きさ、雰囲気などから見るとこの二つの作品は同時期に製作されたもので
絵も同一の絵付師によって描かれたものです

呉須(ごす・青い顔料)の色調と濃さも同じで画風がよく似ています


No.3 平安東福寺作   銘「桔梗」 染付楕円樹盆
間口4.8×奥行4.1×高さ1.6cm


 
 No.4 平安東福寺作 銘「福寿」 染付長方樹盆
間口4.1×奥行3.8×高さ1.9cm

No.3の「桔梗」
白磁の透明感が抜群の質感を表しています
描かれた桔梗の図柄の構図や濃淡、繊細な筆致、雰囲気がありますね

製作年代はNo.1と同じと見られます
縁の形は違いますが、二つの楕円鉢の大きさがほとんど一緒なのです

No.4の「福寿」
東福寺はこんな小さな豆鉢でも本格的な隅入長方に仕上げています
それでいてごつくなく、ほんのりと柔らか味のある姿はみごと

この長方鉢も、白地に淡いブルーの釉薬を練りこんだ胎土(たいど・きじ)を使用しています

さて、双方の絵を観てみましょう

明らかにNo.1やNo.2とは異なった画風です
東福寺鉢の絵付師は複数いたということがこれでわかりました

それではNo.3「桔梗」とNo.4「福寿」の絵を比べるとどうでしょう?
微妙ですねー
似ているところもありますが、ちょっと筆の走り具合(速度)が違うような気もします

そう見えるのは描かれている画題が異なるのと
白磁とかたや釉薬練り込みの胎土(たいど・きじ)との雰囲気の違いからくるものとも考えられます

ここは判断の難しいところ

まあ、この結論は今後の宿題にしておきましょう
慎重、慎重!

制作年代は4鉢ともほぼ同時期です
東福寺が鉢作りを専業としたのは、昭和5年ごろといわれていますが
磁器作品のほとんどは初期と考えられています

これらの作品には、初期の東福寺によく見られる
趣味で鉢作りをしている初々しさと遊び心が濃厚に伝わってきます

みなさん、ゆっくり鑑賞されましたか
それでは東福寺の名品考証、このあとも続きますよ

2004年9月20日月曜日

日本小品盆栽協会東京支部展より(PART2)

この会の歴代のリーダーたちは、小品盆栽史上で語られる錚々たるメンバーばかり
杉本佐七、中村是好、明官俊彦、佐野大助・・・・・

すごい人たちがいたもんです
その先人たちの指導がいまでも伝統として会員に染みとおっているのでしょう

飾りの基本はじつにしっかりしています


上方から見た3点は、それぞれ不等辺三角形の頂点の位置に据えられています
あっさりした飾りですが、これが飾りの基本です

左の草と右のもみじの位置が少しずれていますね
飾りの遠近感と変化を出すためにぜひ覚えておいてください




ゆっすらした模様の自然体の模様木
持ち込みが古く申し分ない風情があります

翁の添配(てんぱい)も、大きさ、情景、季節感からいってぴったり
巧みな飾り付けです

辛口で付け加えると
楓が柔らか味のある鉢に入れたかったですね
それと、双方とも同じタイプの自然木の地板を使用しています
同一の感じのする道具は、隣通しでは使わないようにしましょう


真弓

やや色づいた真弓の風情
秋の展示にはなくてはならない、そして大活躍の実もの盆栽

鉢は柴崎青閑のようです

懸崖の模様も古さもいい趣をもっています
タイムリー!

2004年9月19日日曜日

日本小品協会東京支部展より

東京は上野グリーンクラブで開催されている(9/17~19)東京支部の展示会を観に行ってきました
ちょっと目に付いた数点を写真に撮ってきましたので、皆さんと一緒に鑑賞してみましょう


百日紅

持込の古く傷ッけのないやさしい幹味
いい感じですね

ちょっと根が片根だけれど、古さと樹形のよさで高い評価を与えられます

ところで、簾状の敷物が少々大きいのが気にかかります


山づた

枝垂れた蔓の風情が絶妙の味
古いこじれた足元も情緒たっぷり、鉢の映りも上々です

ただ、秋の展示ということになると、葉の青さが気になりますね
贅沢ですが、季節感がいまいち
(きっと夏の管理が良すぎたのでしょう)




やさしい風情の斜幹の楓
やや色づいた葉に濃厚な秋の気配があって楽しいですね

何気ない木姿も好感が持てます

地板が少々窮屈ですね

みなさんのご感想もうかがいたいですね

2004年9月17日金曜日

松平伯爵遺愛品



旧高松藩の12代当主であった松平頼寿伯爵(昭和19年逝去)が愛した豆盆栽は
伯爵亡き後も昭子夫人の手により大切に育てられ、昭和49年昭子夫人91歳のときに
上記のタイトルの豪華写真集で紹介されています(全207ページのうち170ペーが天然色)

戦災を免れ生き残った豆盆栽は、この時点で約80鉢あったとされますが
91歳の昭子夫人の手により、朝晩水遣りがなされていました

それでは本の内容を見てみましょう


「松平家に生きる珠玉の名品・小品盆栽」より

左より 小姓梅もどき おとぎり草 楓

さすが徳川家康の血を引く四国高松藩のお殿様の飾りです
絢爛とした金屏風が印象的

小姓梅もどきの鉢は古伊万里
楓の鉢は竹本です


「松平家に生きる珠玉の名品・小品盆栽」より

上左より しょうびゃく 笹
もちつつじ 楓
ゆきやなぎ さくら草 かいどう

中段のもちつつじの鉢は古伊万里、楓は九谷焼
下段左のゆきやなぎは竹本、かいどうも竹本蕎麦釉の楕円に入っています(樹齢60年)


「松平家に生きる珠玉の名品・小品盆栽」より

さんざし 12cm 白泥長方 樹齢85年


「松平家に生きる珠玉の名品・小品盆栽」より

竹本とりどり

松平候はとくに竹本鉢を愛しました
涎がでそうな名品ぞろいです


「松平家に生きる珠玉の名品・小品盆栽」より

竹本6点


「松平家に生きる珠玉の名品・小品盆栽」より

やまもみじ(3本寄植) 13cm 竹本辰砂長方 樹齢80年

この山もみじは、小豆島の寒霞渓にて昭子夫人が自採したもので
本文にその旨が記されています

もっとみんさんに画像を紹介したいのですが、なにせ著作権というものが存在します
この記事がばれたら叱られるくらいでは済まないかもしれない、このへんでやめときます

さて、もう一つの今日の本題に入ります

↑のやまもみじの3本寄植が入っている竹本鉢そのものが、みやもと園の所有物になったんですよ、みなさん!
それを言いたくて、言いたくて、とても我慢ができなかったのです

この鉢です


松平伯爵遺愛の竹本辰砂長方樹盆 間口9.8×奥行7.5×高さ3.2cm

どうです、みなさん!!
バリバリの実物ですよ

よーっく見比べてください!!
釉薬の斑模様になった箇所や黒いしみの部分などで歴然としてるでしょ


何年も何年もかかって、執念で手に入れたんです
うッ、うッ、うれしいーよーッ!!!

紫辰砂というんです、いい色でしょ
竹本の名品です

土の入っていた内側は時代が付いていないので、新品の時の光沢がそのまま
丸洗いして洗剤で磨きたくなっちゃう


端正な胴の反り加減です


松平伯爵と昭子夫人にこよなく愛された長年の歴史が、時代感となって鉢裏に残っています


釉薬表面の拡大図


鉢裏の様子

どうやってこの竹本を手に入れたかって?
それは秘密

ただただ根気と粘りでやっとこ手に入れたのですが
人脈と幸運がもたらしてくれたと感謝しています

ごゆっくりご鑑賞ください

2004年9月11日土曜日

懐かしい本

20年ぶりに物置の大掃除を思い立ち
畳にして4畳ほどの小さな物置の中身をすべて引っ張り出してみました

家を建て直した20年前に、捨てるには惜しいし新しい家には収まりきれないもろもろを
そっくりそのままその年月だけしまっておいたような感じです

20年ぶりにあけるタイムカプセル
さぞかし懐かしいものや捨てるに忍びないものに遭遇するかと思いきや、意外や意外

捨てるに惜しいものやこの先とっておきたいもの、ほんの少々だったのです
まして必要なものときたら、まるっきり皆無の状態

子供の幼いころの図画や工作類
私の若いころのノートやスケッチブック、それくらいしか残すものはなかったのです

書籍類もほとんど捨てましたが、ふと目に付いたこの本
私がこの地に住みついて間もなく触れたものです、これはとっておくことにしました



昭和42年 「光芸社」発行 杉本佐七編

最近ふと身辺を見渡してみると
私が盆栽の道に踏み込んだ時期の確かな証のようなものが、極端に少ないことに気が付きました

当時からお付き合いしている親友と話し込んでも
何十年前のことはお互いの記憶の中に、それもかなりおぼろげにしか存在していないのです

こんなことに気が付いたのも「つれづれ草」を書くようになり
みなさんに佐野大助や今岡町直などの鉢作家の思い出話や解説をしていく過程で

確たる年代や人間関係を正確にお伝えする責務を感じるようになったからです
決して年のせいではありませんゾ!

この本は確かな資料としてとっておくことにしました
私が松戸市に移住したのが昭和41年、その翌年に購入したものです

ぱらっとめくってひろい読みしてみると、おもしろい記述がありました
ご紹介しましょう

「小鉢の収集」という題で明官俊彦氏の寄稿があり
その中の今岡町直の解説の項です

小平市で目下大いに焼いている。すでに三、四千枚もでまわっているだろう。
益子焼系統をつぐ作風で辰砂、青磁などのものが多い。
はじめは、ほとんど、手びねりのものだったが最近は角のものを作る。
中村是好さんと知り合い、鉢をつくるようになったといわれる。
10センチ×6センチで二千円から三百円まで。
(原文のまま)

おもしろいことにおおよその相場にも触れています
思い出してみると正確です

私は当時今岡氏の売店で、500円の手捻り鉢を数個買った確かな記憶があります
上等の辰砂釉の長方鉢が4000円でした!
若造には手が出なかった!!

2004年9月10日金曜日

名水盤

江戸後期から明治にかけて知識人の間で盛んであった文人趣味の影響が 
現代にも「文人木」として色濃く反映されています

明治中期以後、文人趣味の精神性は水石の世界へとひろがり
中国の清に独自のデザインの水盤を発注するようになり、それらが名品として今日に伝えられています

それらの名品は「用の美」といわれる、造形的美しさに実用機能もしっかりと備わった優れもので
特に留佩(りゅうはい)・珠佩(しゅはい)の落款入りのものが有名です

またその優れた様式は「型」として盆栽界・水石界の定番として評価が定着し
留佩型・珠佩と呼ばれ珍重されています



白交趾楕円水盤    間口15.5×奥行11.3×高さ2.2cm  (中国清朝末期)

いわゆる留佩型・珠佩型と呼ばれる簡素な単口(ひとえぐち)の切立で
足の作りも切り足風に見せて胴の面から内側には入っていない形です

簡古素朴な形状をむねとすることが「用の美」の理にかなうという信条から
装飾性は極限まで排されています

それだけに、この類の水盤は飾った水石と一体になり、引き立て役としての評価が非常に高く
水盤の名品・逸品の名を欲しい侭にしているものが多く存在しています

特にこのようなミニサイズの水石用の水盤は希少です


すっきりとした側面をのぞく角度より


足は胴と別に作られ後付された「付け足」であることがわかります
故に↑での解説に「切り足風」と述べました


留佩(りゅうはい)珠佩(しゅはい)の系統以外の白交趾水盤には見られない堅牢な土目
高温の焼成により雅味深い趣をていしています