2019年9月20日金曜日

平安東福寺

盆栽つれづれ草で今までに50回以上、かの平安東福寺についての記事をかいています。そして、その記事の内容はというと、東福寺鉢の真贋についてのお話が圧倒的に多いようです。
それらの中に東福寺真贋鑑定のポイントとして次のような文章もあります。
1 全体のイメージ(作風)
2 釉薬
3 土目
4 足の付け方
5 水穴の位置と開け方
6 落款

東福寺の真贋の見分けは、盆栽人にとって最重要な問題です。気持ちを緩めることなく、これからも研究を重ねていかねばなりません。


ところで今までにはないことですが、東福寺鉢の中には無落款のものが案外に数が多いという事実をちょっとお話しておきます。
そして、それらの中には好きな人ならよだれを流しそうな名品も混じっていることがあるんです。



このように、東福寺鉢に無落款が多い理由でまず考えられるのは、東福寺が多作であったためでしょうね。
私も事実経験したことがあるんですが、昔から「無落款の東福寺の名品」として世に伝えられてきた東福寺鉢の、ビックリするほど意外な場所に落款を発見したことがあるんです。(詳細はいつかお話しましょう)そのように、落款についての東福寺の意外な癖(習慣)も理由の一つに挙げられるでしょうね。

ですから、無落款ではあるが東福寺としての幾つかの重要な要素あをクリアーしてきたものは、ほとんど心配することはないでしょう。味や作りに問題がなければ、万一落款がなくとも(値段とも相談)、求めてみてください。


もちろん無落款であれば金銭的な評価はやや下がるのは当然として、目利きの収集家の下に伝承されてきたものは。自信を持って評価すべきではないでしょうか。


2019年9月17日火曜日

名人の台座

たびたびブログでご紹介する台座作りの鈴木名人に、亡くなる一年くらい前に作ってもらった大好きな作品が目に付いたので、ご紹介しましょう。
今では石の入手経路などは思い出せませんが、鈴木さんに台座製作をお願いしたのは確か明治神宮の水石展の搬入日だったと思います。

「産地は何処だい?」と訊ねると、「うーん、ちょっとわからんな、でも、おもしろいぜ!」と言って快く引き受けてくれました。

私の見立ては茅舎と決めていましたが、それはあくまで形状からの考えで、雰囲気的には岩形と見る方が自然なくらいでしょうね。

高さ8.0cm×左右9.0cm

後姿のほうがおとなしい感じですが、ほとんど同格で眺められるようです。人によってはこちらを正面だという方もいらっしゃるでしょうね。

さて、出来上がって送ってくれた梱包の中に、「おまけです、眺めてください」とメモ書きと一緒に、小さなもうひとつの台座が入っているではありませんか。

そっか!
鈴木名人はわかっていたんですね。逆さまにして帽子を脱ぐように台座をはずせば、これ
この通り!まったく違った風景が目の前に展開しているではありませんか。
あの静かなやさしい笑顔が思い出されます。


2019年9月16日月曜日

楓株立の古木

楓ともみじは雑木盆栽の双璧をなす樹種ですが、双方とも樹勢が強壮で寿命が長い。
温度差にも強く、簡単ではあっても適切な設備があれば、日本列島の最北から最南端の地域のほとんどで培養可能です。

樹高20×左右30cm
一ヶ月ほど前に、何十年も親しく付き合っている同業者が競り市(交換会)へ出品した楓。盆栽の場合、プロの業界人であってもそれぞれに好みがあって、自分の得意分野では
他人に負けない自負心を持っているものです。

このタイプは私の好み!
出品者の好みはどちらかというと、大きいサイズのジャンルだったはず。

交換会の売買の場合、持ち主さんと買い手の好みが一致しない方が売買が成立しやすいものです。好みが一緒だとどうしても持ち主さんの言い値が高くなる傾向があるんですね。

今回は幸いにお互いの好みが反対なので、持ち主さんもあまり無理な相場を提示せず、そのあたりを理解できた買い手も優しくなれて、案外すんなり売買成立。


葉性(はしょう)がいいので、来年一年間の芽摘みと葉刈りで見違えるほどに枝葉が充実
するはず。鉢もやや大きめなので約5.0cmほど小さくする予定。
将来有望です。国風展示会や雅風展示会などの一流展に出品を目指します。

棚の上に自分の気に入った盆栽が増えるのはたのしいもの。水遣りの張り合いが違ってきますね。


2019年9月6日金曜日

東洋蘭(一茎九花)

おおよそ10年くらい前のことです。ある年配の女性から、13年前に亡くなったご主人の盆栽と東洋蘭の管理を頼まれました。お宅に伺ってみると、盆栽も蘭も80才を過ぎた女性が管理されているとは信じられないほど素晴らしく行き届いるではありませんか。


その後、仕事の関係でご親族が外国暮らしのため、これらの支那蘭は盆栽屋.comでお預かりしておりましたが、何分にも専門外のためでしょうかめったに咲いてくれないのです。


高価な蘭ほど花芽がきにくい、とは聞いていましたが本当にその通りで、7~8年の間に2~3鉢の開花を見ただけでした。
そんなわけで今年の春、持主の女性もお年をめされたことだし、ご親族の方とご相談して思い切って処分されました、というより、私がもらい受けたということです。


するとどうでしょう!昨日発見!
15鉢のうちの3鉢に花芽がついて、中の1鉢はみごとに開花しているではありませんか!
支那蘭の中でも一茎九花(いっけいきゅうか)という高級種の、気品のある花です。
あまり面倒を見過ぎると咲きにくいのは事実ですが、こんなに極端に今まであんなに咲きにくかったものが、いっぺんに咲き始めるとはおどろきです。

というわけで、さっそく元の持主さんに画像付きでお知らせした次第です。

ちなみに、中国では四君子(しくんし)といって植物の中でも特に蘭、竹、菊、梅を珍重する習わしがあります。またこれらは蘭(春)竹(夏)菊(秋)梅(冬)と季節の象徴でもあります。よく絵鉢に四面にこれらがデザインされているのを見たことがあるでしょう。最高におめでたい絵ということですね。





2019年9月5日木曜日

越前文山窯

以前からちょっと気になっていた越前文山窯の作品ですが、なかなか手に入れる機会に恵まれないでいました。
価格も手ごろだし、おかしな言い方ですが、鉢じたいいかにも高級品でございますと気取っているわけではありません。
文山鉢に出会ったときにまず第一に感じる印象は、作者さん自体の作陶の精神の表れそのものだと私は思っています。文山の場合は、力まず、気取らず、おごらずに一生懸命楽し気に土と格闘している感じです。
世に言う名人による名作、と呼ばれる作品とはひと味もふた味も異なる親しみにあふれた感動が伝わってくるのが特徴です。


越前文山手籠式(黄釉飛び辰砂)間口12×奥行き12×高さ14㎝

大胆にに辰砂釉を散らした躍動感あふれる意匠は活力に満ちて楽しい。やや大きめにデザインされた手籠の部分が特にいい感じである。

越前文山手籠式(緑釉掛け流し)間口9.0×奥行き9.0×高さ10.5㎝

白釉に透明感のある緑釉を掛け流した東福寺ばりの佳品。釉薬の美しさが際立っています。

越前文山楕円(高取釉)間口12×奥行き9.0×高さ3.0㎝

ここにも東福寺の影響らしきものが感じられる。明るめの力強い高取釉は楕円蜂の造形をさらに引き立てて秀逸です。

越前文残縄縁丸(桃花釉)間口15.5×奥行き15.5×高さ6.0㎝

重厚感あふれた意匠をやわらかく包んだ桃花釉の暖かい印象が楽しい。

以上のように、旧来の観念にとらわれない斬新な色彩感覚を第一の特徴とした、楽しい作品です。こんごとも楽しませていただきましょうー!