2005年10月24日月曜日

佐野大助名作

先日、盆栽つれづれ草のファンの方から「最近のつれづれ草は掲載商品の宣伝でしょうか?」
とのメールを頂きました

これはまったく忌憚ない率直なご指摘で
私も汗顔のいたりという心境で、謹んでお受けした次第です

それがきっかけとなり、懸案だった「赤松大改作スペシャル」の重い腰が持ち上がった訳で
ともかく、HP開設当初の新鮮な気持ちを取り戻しさせていただいたこと、改めて感謝いたします

ところで、きょうの話題はまたまた掲載された商品からですが
既に売約済のものなので、ご理解とお許しをいただきます


大助については、ある時には一杯の酒飲みたさに絵筆を執ったこともあった、と巷間に伝聞されているほどで
それは、作風の多彩さの魅力と同時に名品と並品の差が激しいという、後世に残された事実もあります

さて、絵鉢作家の評価は呉須(青い釉薬)絵により定まるともいわれていますが
歴代の名人たち、月之輪涌泉、市之倉石州、宮崎一石等々の作品を見ればそれも頷けることです

単色の絵の具だけで遠近感や絵の興趣を表現するため
誤魔化しがきかず、実力がたちまち表に出てしまうのです

ところで、特に五彩画で知られる大助作品ですが、ご紹介するような呉須絵の名品も存在し
そして、不思議とこの磁器のボディーのものに多く見かけるのです


やはり大助といえども、彼の目標にした作家は天才・月之輪涌泉であり多大な影響も受けていますが
この作品は、涌泉に迫るほどの画境に達しているといっても過言ではないでしょう

繊細な筆致によるしっとりと情緒豊かな画面
みごとな遠近感の表現など、まさに大助最高の名品といえましょう


没後急速にその名が再評価され、盆栽界の隅々まで名を知られるようになった大助作品
こんごはさらに評価が進み、真にその名に恥じない名品が選別される時期に差しかかっているといえましょう

2005年10月23日日曜日

作風展審査風景Ⅱ


入選作品全体の中より各部門から3点ずつが選ばれ特別賞が決められます

上の画像は審査員11名による審査を開票しているところ
ある部門のトップが決まったのでしょう、選考委員も拍手していますね


全入選作品の中でもっとも優秀と認められ「内閣総理大臣賞」に決まった五葉松
樹齢と培養の古さ、力強さ、優美な姿、葉の美しさ、培養の確かさ、鉢の選定など、全てにおいて優れていました

さて、小品のほかでもっとも私が注目したのは、中品の部でした
この部門の3点の力が拮抗していると見たからです


米栂(こめつが)
山採りの素材を変化のある樹形にうまくまとめ上げた審美眼と技術はすごかった
鉢がやや軽い気もしますが、そのために自然の味と迫力とが強調されているのは確か


黒松
幹の古さと培養の確かさ、そして枝配りのみごとさは目を見張るよう
豪快さと繊細さが同時に感じられる作品、鉢映りもグーです


素質的にはかなりのものを秘めた真柏、鉢の映りもグー
落ち枝の作りにもう少し時間が欲しい気がしましたが、ともかく逸材です

この3点での決戦は、僅差で「黒松」が「環境大臣賞」に選ばれました
さて、みなさんはどれがお好み?

2005年10月22日土曜日

赤松大改作スペシャル

さて、昨日で基本の骨格が出来上がりましたので
今日は枝配りと樹冠の位置を決め、仕上げの作業に入ります

骨格を決める作業が土台作りとすれば
枝や芯の整枝は、美しさを演出するような気持ちで臨んでください


懸崖の一番の見どころになる枝(手前側)に針金をかけました


後ろ枝にも針金をかけました

改作前のニの枝は全体の雰囲気になじめず、天井を向いたままです
これは思わず切りたくなりますが、短気を起こさず、ジッと我慢(この我慢がなかなか難しいのだ)


正面から見た現時点の姿
枝が天井を向いています


切らずに我慢し前方に引っ張り出すことにしました

掛けた針金が指先で曲がらないときは、ヤットコで局部(針金)を捻ると強い鋭角の模様が可能です
これはちょっとした隠し技です(凄い効果あり、試してください)


うまく前方に引っ張り出して全体の雰囲気に溶け込めました(飛び出した芯の左下の枝です)
成功です(切らなくってよかった)

ここまでくればあとは芯の部分に雰囲気を出して作業完了!


どうです、当初の面影はありますか?
樹高はたったの12cmですよ

根上がり懸崖らしく、根に面白い模様があり、幹模様にも隙がありません
赤松らしく荒々しさに加え優美さも備えた姿です

こう上手く出来ると、改作はやめられない!

来春は小さめの鉢に植え替えます
2作すれば枝葉も増え、風格は飛躍的にアップします

この大改作についてのご意見ご感想、そしてご質問ください

2005年10月21日金曜日

赤松大改作スペシャル

素材の長所を最大限に活かす
短所を消去する

2つのことを同時にイメージして実行に移すこと
これが盆栽の改作にあたって、まず自覚する一番大切なことです


樹高25cmの赤松根上がり素材

長所
根と上部の幹の模様に変化がある
わりとしまった枝で位置も悪くない

短所
腰高である
根元から幹、幹から芯までの筋に統一感がなく、だらだらした感じで緊張感がない
各枝の役割がはっきりしていない
寸法のわりに迫力がない

まあ、ハッキリ言えば、個性のないありきたりの「駄木」
棚の隅で小さくなって見捨てられてもしょうがない、みじめな存在の赤松君といえるでしょう

このままは可愛そう
ちょっと痛い思いはするけれど、そこは我慢をしてもらって、大改作をしてみましょう


だらだらっと立ち上がった根を試しに折り曲げてみる
かなり曲がりそう、こうしただけでいい雰囲気の予感がしますね


その前に、本来の根元付近と次の強い曲あたりまでの間が、だらっとして緊張感がないので
ここを針金で手繰ります


手繰った後の拡大図
一の枝が手前に来てしまうほどに、強引に締め上げました
両地点の距離は半分になり、幹模様にだらだら感が失せましたね


手順を踏んで、今度は当初の目的に戻る
根元と上部の幹とを連結し、おもいっきり下へ引っ張るのです


二人がかりです
小品でも指先に思いっきり力を入れ、ヤットコで締め上げます


拡大して見ます
締め上げが甘いとダメ、松柏類は粘りがあるので力の掛かる箇所が少々裂けても大丈夫


後ろから見ます
頭は90度以上の角度で下に向きました


当初の姿です


第一段階の改作完了の図

立ち上がっていた姿は、まるっきり背中を丸めまるでうずくまったようになりました
ただ根の部分から幹を倒しただけでなく、最初の作業が大きな意味を持っていたのです

あらかじめ「幹模様にだらだら感」を解決しておいたおかげで
このようにきちっとしまった骨格が可能になったのです

つづく

2005年10月15日土曜日

作風展審査風景Ⅰ

恒例の「日本盆栽作風展」の審査が、さる10月の13日に上野グリーンクラブで行われました

ご存知のように「作風展」は、日本盆栽協同組合員、つまり盆栽の専門家が丹精した盆栽を出品しその出来栄えを競う展示会です

小品盆栽部門の入選作の中からは、以下の3席が最優秀賞の候補として予備審査を突破

さあ、みなさんはどの席飾りがお気に入りですか?


最優秀賞に選ばれた席飾り

飾り棚に対する盆栽の寸法、これが際立っていました
程よく空間があって調和がいい
もう少し季節感を濃厚に感じさせる彩りがあったらなー!
まあ、これは欲目というやつですね


真飾りの黒松

葉に隠れて幹模様が見えにくいのですが、よく管理された優れものでした
鉢はおそらく「尚古堂」でしょう、いい感じです


楓模様木

これが素晴らしかったですよ
骨格といい作柄といい、文句の付けようのない逸品でした


僅差で次点に泣いた席飾り

樹種と樹形、また鉢もバラエティーにとんでいますね
まったくの僅差、審査員の好みという他はありません


この席も一鉢一鉢の盆栽は素晴らしかったのですが、ちょっと大きさが揃いすぎた感じです

真面目すぎたのでしょう、空間の遊びがほしかったですね

作風展審査風景Ⅰ

恒例の「日本盆栽作風展」の審査が、さる10月の13日に上野グリーンクラブで行われました

ご存知のように「作風展」は、日本盆栽協同組合員、つまり盆栽の専門家が丹精した盆栽を出品し
その出来栄えを競う展示会です

小品盆栽部門の入選作の中からは、以下の3席が最優秀賞の候補として予備審査を突破
さあ、みなさんはどの席飾りがお気に入りですか?


最優秀賞に選ばれた席飾り

飾り棚に対する盆栽の寸法、これが際立っていました
程よく空間があって調和がいい

もう少し季節感を濃厚に感じさせる彩りがあったらなー!
まあ、これは欲目というやつですね


真飾りの黒松
葉に隠れて幹模様が見えにくいのですが、よく管理された優れものでした
鉢はおそらく「尚古堂」でしょう、いい感じです


楓模様木
これが素晴らしかったですよ
骨格といい作柄といい、文句の付けようのない逸品でした


僅差で次点に泣いた席飾り
樹種と樹形、また鉢もバラエティーにとんでいますね
まったくの僅差、審査員の好みという他はありません


この席も一鉢一鉢の盆栽は素晴らしかったのですが、ちょっと大きさが揃いすぎた感じです
真面目すぎたのでしょう、空間の遊びがほしかったですね

2005年10月14日金曜日

陶翠鉢について

陶翠窯の歴史は遠く明治時代にまでさかのぼることができ
草創期から現代に至るまでの、まさに小鉢界の歴史そのものといえる存在です

ところが、その長い歴史のため、かえって評価の混乱を招いているという実情に鑑み
作品の制作年代の厳しい考証が進むと同時に、再評価の機運が高まっています

さてここで、陶翠鉢の歴史を大雑把ながらオサライしておきましょう

1)

袋式の外縁小鉢に額を切り白磁の象嵌を施し、水野嗣賀男の手による五彩画
ボディーは緑寿庵の手によるものと考えられます

この水野正雄は昭和40年に60歳になったのを機に緑寿庵を名乗りました
この人が戦後の陶翠鉢の主人公で、その跡継ぎが嗣賀男です


陶翠印と嗣賀男による書き落款が同時に印されています

2)
さて、外縁に額を切り、蘭・菊・梅・竹の「四君子」を四面に彫り込んだ作品
底光りのする土目のよさと時代感が抜群の魅力を発揮しています


この作品は土目や落款から判断すると戦後の早い時期(昭和30~40年代)の作品と思われ
水野正雄が緑寿庵を名乗る前後でしょう

3)
外縁に額を切り、鮮やかな瑠璃釉に、白とピンクの釉薬二重に施した大胆なデザイン
堅実な作風の陶翠鉢には珍しい作品です


(2)の作品とサイズはまったく一致しますが、土目の質感と落款「陶翠」の捺されている方向が異なることから
一対で作られた作品ではないと考えられ、制作年代も(2)の作品よりやや後のようです

4)
水野嗣賀男のボディーと絵付けによる作品
1~3の作品よりもやや後期に属すると思われます


落款は戦前より有名な凸形に出た、いわゆる「出べそ落款」
「陶翠窯造」です

また、現在製作されている陶翠鉢は水野嗣賀男以後の後継者によって形成、絵付けされているのでしょう
絵や書き落款に嗣賀男とやや異なる作風が感じられます

さて、ご紹介した4点の鉢はすべて戦後ももので、いわゆる水野・陶翠の作品で
戦前の陶翠鉢は厳密にはこれらと区別された植松・陶翠です

植松陶翠(本名・長太郎)が企画監修し、実際に製作に携わったのが水野春松・水野正雄兄弟
つまり植松陶翠は優れたプロデューサーだったという訳です

機会がありましたら、実際の植松陶翠鉢をお目にかけながら改めて解説するつもりです

ですから、陶翠鉢には二種類が存在する
それは、戦前の植松陶翠鉢と戦後の水野陶翠鉢

これくらいの大雑把なことは覚えておいてくだいね
きっと役に立つことがあります

2005年10月9日日曜日

黒松管理のコツ

ご希望が多かったので、あちらこちらと黒松のミニサイズの模様木を探し歩いて
何本かは納得の行くものを見つけ出すことができ、ホット一息ついているところです

ところで、黒松作りオンリーの棚を訪ね歩くその過程で
黒松には黒松独特の管理法がある、この当たり前のことを再認識させられました

樹種により培養法のことなるのはもちろんのことですが
黒松の専門家はその管理法を、「特化した形」で実践しているのです

その中から、すぐに実践できる初歩的なことを幾つかご紹介しましょう


黒松模様木 樹高11×左右16cm

針(葉)が太く色もいいですね

まず置き場所です

できるだけ日当たりと風通しのいい場所を選びましょう(西日も当たったほうがいい)
可能なら、黒松は黒松だけの場所にまとめてみたらいいでしょう(水やりにも便利です)
私も、来年は黒松専用の棚を一段高い場所に作るつもりです

用土

関東では赤玉と砂を半々くらいで植えていますが、関西方面では砂単体です
関東でも砂の割合をさらに多くしてもいいような気がします
堅めで水はけのいい用土に植えて、水も肥料ももっと多めにやりましょう


一の枝をぐっと下げてみました、どうです、貫禄が出ましたね

次に殺虫殺菌のこと

冬季に石灰硫黄合剤で消毒します
そして、活動期に気をくばるのは「ダニ」対策です
「ダニ」のたかった葉は緑色が褪めたようになり、生気がなくなります

「ダニ」は肉眼では見えにくいので、白い紙の上で黒松の葉を揉んで見るのです
紙の上に落ちた塵の中に針の先くらいの動くものがあれば、そく「ダニ専用」の消毒をしましょう

「ダニ」は5日くらいで成虫になるので、1回の消毒では退治できなかった卵が孵って数日でまた産卵してしまいます
ですから、少なくとも1週間おきに3回くらいは繰り返す必要があります

以上のことを徹底して実践しただけで、あなたの黒松は格段の成長間違いなしです
では

2005年10月6日木曜日

根尾谷菊花石

菊花石といえば、菊花の色彩や形状、豪華さなどに重点をおいて鑑賞するのが一般的ですが
私は、いわゆる「水石」としての菊花石を好みます

つまり、遠山石や磯形石、溜まり石などの中に菊花がちりばめられ
全体として水石の基本である「風景」が感じられるものです

ですから、石全体の形状と菊花の色彩、形状、豪華さ等とは、どちらが優先するというのでなく
総合的な美しさ、その石から醸し出される趣などで評価されます

今日ご紹介するのは岐阜県の根尾谷産の菊花石
「磯菊」と命名された名石です



荒磯を思わせる形状に小さな菊
まさに「磯菊」はぴったりの銘ですね

このように、鮮明にイメージできる情景をもった菊花石
みなさまも好きになってください

ところで、この「磯菊」はアップと同時に売約となりましたが

ちなみに、お求めになった方は、かって人造の菊花石を掴んだ苦い経験があり
二度と菊花石だけは手にしないと決意していたそうですが、やはり水石は大好き

荒磯にひっそりと咲く磯菊の風景にたちまち魅せられ
お電話をくださったそうです