2013年8月18日日曜日

呼び接ぎ・入門編

接ぎ木技術の中でも、穂木を他の株から切り離しておこなう他の接ぎ木法とちがって
失敗しても何度でも挑戦できる呼び接ぎ法は、まことに便利で初心者でも簡単にできます

ミニ盆栽では、根張りや枝の不足を補う場合によく使いますから
ぜひぜひマスターしておいていただきたい

さて、今日はその技術の初心者向きの入門編
舞姫もみじの種木を使って初心者向きの勉強をしましょう

未経験の方は身近な素材を探して
実験的にやってみてくださいね


高さ約40cmで足元の幹径1.0cmの舞姫もみじ種木
接ぎ木、取り木、挿木などの繁殖法により、この1本の苗木からたくさんの子孫を殖やすことができます


まず手始めに、3月中旬ごろには
上部の小枝を穂にして挿木も可能です

(赤矢印の箇所は、ボディーの模様を滑らかにするために切り戻しの傷を削り込みました)

そして、上部の2本の白線の間から1本のミニ盆栽のボディーを取り木によりゲット予定
取り木の適期は来年の入梅前

さらに、足元に緩やかな模様が入ってるので
上図のような超ミニサイズのボディーを得ることが可能ですね

しかし、来春に上部に取り木をかける予定の箇所(下の白線)から足元までの間に
現在のところ不定芽がまったくありません

おそらく上部を取り木した場合、周辺に不定芽の吹く確率は大きいのですが
この際、念のために上部の徒長枝を弧を描くように下へ廻し、赤点のあたりに呼び接ぎを施しておくのが確実な方法です


左図より

上部の徒長枝(当歳生)を廻して接ぎ木位置の確認

右図

小さなノコギリで2回筋目を入れて
幅約1.5mmほどの溝(接ぎ穂をはめ込むため)を作る


左図

よく切れる薄手の刃物で
溝の両側を削り直す

右図

横方向から溝を見る
溝の深さが十分であり、接ぎ穂がスッポリ埋まるようにするのがポイントです


左図

試しに接ぎ穂を挿入して
溝の深さが十分であることを確かめます

また、赤点の箇所は溝を避けて
やや前方に置く

右図

細めの仮釘(かりくぎ)を打って接ぎ穂を押さえ込む
(釘は接ぎ穂を避けて打つこと)


溝と接ぎ穂の接着面積が大きい方が無難なので、小さなトンカチを使って2本の釘をしっかりと打ち込む
ただし、圧力をかけすぎて接ぎ穂を傷めないように



ペースト状のカットパスターで完全密封
ただし、赤点の葉柄に隠れた芽は塗りつぶさないように


来春の入梅ごろには、1と2の2本の種木が分離独立します

1 呼び接ぎ箇所のすぐ上の赤線あたりで取り木をした上部
2 現在の足元から呼び接ぎした穂先までの下部

ところで、呼び接ぎの時期についてですが
原則としては、何時でも可能です

ただし、活動期直前か活動期の最中であれば
接着面の癒着はすぐに始まって時間的に無駄がないということですね

それではさっそく実験開始!

2013年8月16日金曜日

中学生の復習・形成層

形成層、維管束(いかんそく)、道管(どうかん)、師管(しかん)
みなさん、これらの言葉をおぼえていますか?

いえいえ、盆栽用語ではありませんよ
じつは、中学前半で習う理科用語です(もうとっくに忘れちゃってますか・笑)

取り木や接ぎ木の原理に関係のあることなので
このあたりで簡単に復習しておきましょう

形成層は活発に細胞分裂を繰り返している部分で
木の幹や枝の表皮を剥くと、いくらかヌメっとした緑色の層がそれです

形成層の内側にあるのが道管(どうかん)といって
根で吸い上げた水分を葉に送る役目をします

外側にある師管(しかん)は、葉で作られた養分を根に送り返す役目を担っています
この形成層、道管、師管の3点セットをまとめて維管束とも呼びます


赤矢印の薄緑色の部分形成層で
その内側の白い部分が木質部


断面図

外側から表皮、その内側に形成層があり、その形成層と表皮の間に師管があり
さらに背中あわせの内側には道管があり、まとめて維管束(いかんそく)と呼びます


まずいイラストで申し訳ないが木の断面図を書いて
その構造をわかりやすく説明しましょう

1 表皮(ひょうひ)(からだを守る)
2 形成層(形成層)(成長する)
3 師管(しかん)(葉で作られた養分を根に運ぶ)
4 道管(どうかん)(根で吸った水分を葉に運ぶ)
5 木部

そして、2の形成層と3の師管と4の道管とをあわせて維管束といいます

ちなみに、私たちの世代では道管を導管と
さらに師管は篩管(ふるいかん)と習った記憶があります


さて、根から吸い上げられた水は形成層の内側にある道管から葉に運ばれると言いますから
試しに、もみじの枝を切って赤の水彩絵の具で着色した水を一時間ほど吸わせてみました

そして、表皮を剥いてみると、薄緑色の形成層の内側はご覧のとおりに赤く染まっています
たしかに、水は形成層の内側にある道管を揚がっているのがわかりました


枝を半分に割った断面図でも、表皮の内側に縦に走る道管が紅色にそまっているのがわかります
他の箇所、つまり深部にある木質部からは水は揚がっていないませんね


私たち盆栽の先人達は経験則で知っていたんですね
葉で作られた養分は表皮のすぐ内側にある管(師管)を通って根に運ばれることを

そして、取り木をかける前にあらかじめ針金で軽く結束しておくだけで
簡単に養分がせき止められて、発根が容易になることも

ここで考えてみましょう

もし、この形成層を含む維管束の構造が逆だったら
つまり、外側に道管で内側に師管という配列だったらどうなるでしょう

もっとも大切な水分を運ぶ道管が外側にあれば、樹木は傷つきやすく
そして、養分を運ぶ師管が深部にあれば、再生能力という点でもはるかに劣るでしょう

まさに、師管が外側にあり、命の水を運ぶ道管が内側に配置されているのは
進化の過程における植物の優れた自衛策であろうと推測されて興味深いですね

もちろん、この場合は、われわれ盆栽人にとって
取り木というこのありがたい手法は、そう簡単なものではないでしょうね

では