2018年1月24日水曜日

国風盆栽展③

 前項では小さい盆栽(豆盆栽)についての変わりようについて、ほんの少々だけ触れてみましたが、今日は普通サイズの盆栽について古今を比較してみて、気がついたことがあったらあまり筋道に拘らずに箇条書き形式でもいいから挙げてみようと思います。

 もちろん、昔の盆栽の傾向を現代のそれと比べて、それらの優劣を比べるつもりではないし、またそんなことをしても簡単には結論の出るものではないでしょう。

 さらに言えば、そのサイズから重量感、さらにはイメージまで、誰しも好みがあってなかなか一筋縄ではいかないのが盆栽の道です。

 ですから、ここは謙虚で無欲になって、古今のそれぞれの長所も欠点も忌憚なく挙げてみたらいいと思います。いくら大家や名士の席であってもすでに一世紀近くも前の展示会ですから、今更遠慮することはありません。

他に他意はありません。すべて盆栽界の将来への提言と思って、遠慮なくいきましょう。

 そして贅沢な見方ですが、まずは ①樹形 ②樹と鉢とのバランス ③飾りのバランス ④卓台(しょくだい)などの選定 ⑤その他 の観点から忌憚なくいろいろと話題を提供してみましょう。


上は美術品の収集家で知られた東北の石油王・中野忠太郎氏の一席。向かって右から、内裏梅、真ん中が御所桜で左の高卓(こうしょく)に載っているのが初雁という品種の野梅です。

向かって左の初雁が幹模様といい枝ほぐれといい申し分なし、鉢映りも申し分なし。
向って右の内裏梅の卓台が大きすぎませんか?
卓台の高さで高低を演出しているけれど、鉢の大きさが3鉢とも似たり寄ったりで変化なし。
真ん中の御所桜がもっと小さいと、全体のバランスに緊張感が出るような気がします。
3鉢とも力の流れが向かって左へ斜めに向かっていて単調です。

一番だけは褒められるけど、こりゃ案外に厳しくなってしまいましたね(笑) 

九十歩紫雲氏の五葉松懸崖と五葉松株立ち。私たちが若いころ大先輩から、この伝説の大盆栽商のお話を聞かされたものでした。

主幹も添え木も同じ五葉松とはいただけませんが、樹形そのものは最高で、特に懸崖がすばらしい。
この席も二本の木の流れが、同じく左へと向かっていて不安定です。
卓台の選定っは適切です。
株立ち五葉松を思い切り薄鉢に入れて、はじへ寄せて植え込んだ感覚が光っています。
懸崖に添えた草ものの大きさがピッタリ。

伏屋源次郎氏の一席、蝦夷松寄せ植えと草ひもかづら。

温暖化の影響もあってか、この20年以上前から関東以南では蝦夷松の培養が次第に難しくなってきたようです。自生地の愛好家さんには申し訳ないのですが、蝦夷松の寄せ植えを見ると暫くぶりの懐かしい感じになってしまいます。

造形芸術である盆栽である以上、盆上に再現された大自然の風景は貴重です。
鉢の中の用土が少ないですね、これも培養の秘訣かもしれません。

岩波音吉氏の蝦夷松懸崖と五葉松双幹の一席。

現代の展示会では、主幹と添え木の両方ともが松柏類である場合、ほとんどご法度の感があります。
大小と高低のバランスはまあまあです、
五葉松の卓台が少々大き過ぎてしまりがない。
蝦夷松懸崖の、形にとらわれ過ぎない野性味ある味は捨てがたい。

以上褒めることよりも欠点ばかりが多くなってしまいましたが、みんさんはいかがでしたか?
個々には細かく申し上げませんでしたが、私の感じた印象の幾つかを大まかにまとめてみますと、以上のようになりました。

やっぱり昔の盆栽は痩せ型です。手汲みの井戸と水道の水量の差が如実に現れていると思います。
それに肥料や農薬だって問題になりませんね。

ただ、これは現代の盆栽がより優れているという意味ではなく
技術の発達によっては野性味などは失い兼ねないという意味でも有ります。

画像で見る限りでは、昔の卓台や根卓(ねしょく)は素晴らしい名品が使われています。
しかし、その使い方は現代のほうが洗練されているような気がします。

一席飾りの作法は現代においてさらに発展しつつあると思えます。

総合的に見て、盆栽の培養と手入れとは、作ることと反対に作りすぎないこととの間を根気よく行ったり来たりすることだとつくづく思います。
  


2018年1月23日火曜日

国風盆栽展②

おそらく私があと10年ほども前に生まれいたとして、さらに父親が盆栽趣味をたしなむような通人であったならば、父親に手を引かれながら浅草あたりの夜店で松平伯爵や豆盆栽作りの名人(中村是好はその弟子)として名高かった杉本佐七翁などにお目にかかる機会もあったかもしれません。



特権階級の存在した戦前であっても趣味の世界だけは特殊な平等な空気に満たされ、趣味という潤滑油のもとで仲良く楽しめる世界が存在したようです。

ところで、飾られている豆盆栽は現代に比べてどうでしょうか?写真だけでは分かりにくいですが一言で言うと、現代版よりもやや細めの感じがしませんか?


大品中品だけでなく小品さえも、現代の盆栽に比べると総体にやや細身ですね。いわゆるズングリムックリな、相撲でいえばアンコ型がすくないようです。

まあ、現代人の美意識や趣味性だって昔の通りという訳にはいきません。
豆盆栽にだって可愛さだけでなく、生命の漲る力が求められても不思議はないでしょう。

豊かな感受性を生かしていろんな盆栽にチャレンジしてみましょう。
このような昔の盆栽を観賞して少しでも参考になれば幸いです。

2018年1月16日火曜日

国風盆栽展


恒例の国風展もそろそろ100回の大台に近くなってきました。この100回のことは盆栽界に長くいると案外あたりまえの感じで、今年もまた国風シーズンがやってきた、などと気楽に形容していますが、一言で一世紀続くというのはすごいことですね。

ましてやその100年の間に日本国は、開闢以来といえる未曽有の大ピンチを経験して、あわや滅亡するのではないかというほどの経験までしているわけです。

国家の総力を挙げて世界中を相手にした大戦争に負けたのですから、日本という国が地球上から亡くなっても不思議はありません。ともかく、よくも日本人が地球上に生き残ることができたとも思えるほどの歴史的な戦争だったはずです。

ところが、戦中戦後の花より団子の時代にさえ日本古来の伝統文化の復活と発展を願う人々は存在したのですね。この記念帳に載っている数々の銘木や銘器が今日まで受け継がれている例はすくなくありません。

一世紀も前の銘木や銘器の雰囲気に触れながら、伝えられてきた盆栽文化に敬意を払いたいと思います。

昭和10年1月1日発行の第2回国風盆栽写真帳。実際に展示会が開催されたのは前年の12月4日より同10日までの6日間でした。場所は現在の上野公園にある東京都立美術館です。

右側の上のページが旧の都立美術館(昭和43年ごろ改築)で、左中央には会長・松平伯爵夫人の姿が写っています。

上のページの一席は巣鴨の斉田衆芳園主のもので、下はこれまたあまりにも名を知られた原田峯雲作の銅水盤のプロデューサー役を果たした鈴木豊香園主の席飾りです。

いずれも近代の盆栽史上でも重要な役目をになった大家です。


(スキャンするために(ページが曲がってしまいましたが、この席が会長・松平頼寿伯爵の席で下が副会長の酒井忠正伯爵の席飾りです。

国風展の写真帳は、全巻の揃ったものが世の中に2~3組あるそうです。私も昔は全巻の蒐集を志して第一回とこの第二回から揃えようと思ったのですが、途中でその道の遠さに気がついてわりと早めに挫折しました(笑)

ちなみに30年ほど前にオークションで落札したのですが、初回本は10万円で、この二回目本は3万円だったのを覚えています。

暇を見ながらもう少し鮮明にお見せするように努力してみます。では。








2018年1月14日日曜日

東福寺の落款の癖

近代(明治以後)に活躍した盆栽鉢作家の中で、初代平安東福寺ほど多種多様な落款を用いた作家は他にいたでしょうか?

まあ少ない例としては、無落款が当然とされているほどの大家竹本隼太や、これも無落款の比率の多い市川苔州などの例を挙げることができますが、多い例としては東福寺の印象が圧倒的と言えるでしょう。

ざっと思い出してみても5ッや10では数えきれないくらいでしょう。おそらく20個くらいにはなるでしょうね。

話が逸れました、そうそう、今日しようと思っていたのは東福寺の落款の数の話ではなくて、その捺し方(正確には位置)に特徴がある、と云うことでしたっけ!

この特徴は話せば簡単なことで、見分けも容易だし、私の経験ではかなりの確率(100%に限りなく近い)で的中していると思えるので、みなさん、覚えておいてくださいな。お役に立つと思いますよ。

では具体的に・・・

東福寺の手捻り丸鉢に多く見受けられる「東福寺」の、いわゆる「ハンコウ落款」の場合。

これは焼き締めものですが、釉薬ものでもおなじことです。

縦に三文字の「東福寺」の印は鉢底の左側の、わりとギリギリの位置に捺されているのです。私は長い盆栽人生のうちで、右側に捺されているものを未だ且つて見たことはありません。

「東福寺」はこのように鉢底の左側ギリギリの場所に捺されています。ですから右側であれば極端な話ですが、贋物の可能性さえあるわけです。仮にそれが本物であったとしたら、ある面非常な珍品といえるでしょう。

以上今日はささやかな知識の公開でしたが、覚えておくと便利ですよ!
ただし、鉢が手捻りの丸鉢であり、落款が画像のような「東福寺」の「ハンコウ落款」であることを前提としておいてくださいね。

2018年1月13日土曜日

格安楓の部分活用

写真の大きな楓、もらったわけではなくましてや不法に入手したもの(笑)ではありません。正月のまだ松の内に遊びに行った近隣の交換会で、大き過ぎて誰も買い手がつかないのを買ったんです。もっとも正直なお話し、買った値段が5,000円となると大きな声では憚られるほどの格安ですよ。

それに安く買った方がいうのは何ですが、この楓をその値段で手放した方も、現役の盆栽屋としての根性とプライドが不足してやしませんか?素材の資質や個性を精一杯引き出してやるのが盆栽人の務めです。

ひとの努力や技術に限界があることは認めますが、関わり合いをもった盆栽たちの能力を高めるための努力を惜しんではいけませんね。

樹高は80㎝で足元(根張り)付近んの幹の直径は30㎝もあります。根張りの正面に大きな古傷がありますが、筆者は自らの構想に集中しているせいか、まったく無視!

盆栽屋.comの関心はもっぱら樹高の上部三分の一に集中しています。どうやら取木による上部の活用を考えているようです。

向かって左の2本の枝には捨てがたい模様があり、同じ高さから出ている向かって右の枝は取木後に正確な構図がはっきりするでしょう。

現在では上部にもゴツイ部分がかなり見受けられますが、雑木らし自然な趣を尊重して培養を繰り返します。

取木後の課題は、まずゴツイ部分を削った痕跡の治癒と、株立としての格のある構図作りでしょう。きっと張り合いのある将来になると思っています。

今年の入梅前の作業を予定しています。お楽しみに!


2018年1月12日金曜日

大幅リニューアル

年の秋ごろからやっと腰が持ちあがった、我が「盆栽屋.com」のリニューアル。ともかく長い歳月の塵や埃や欠陥の掃除や修理はもちろん、何よりも18年の間に褪せてしまった新鮮な色彩を取り戻さねんばなりません。そんな訳で、暮れから正月もオチオチできず、引越し作業に追われる毎日です。
つきましては、長い年月にわたる温かい応援、誠にありがとうございました。リニューアル達成のあかつきには、旧来に倍したご鞭撻を誠心よりお願い申し上げる次第です。

さて、このような節目の時にいるからでしょうか、「盆栽屋.com」を立ち上げる直接のキッカケになる当時のある場面が思い出されて仕方のない私です。

それは2000年の3月でした。

商売用の盆栽撮影用にアナログのバカチョンカメラを買いに出かける私をつかまえた我が家の息子が、何の説明もせずにとにかくデジカメがイイと強く勧めました。

それを真に受けた私は、デジタルとアナログの区別も皆目わからないままに、国道沿いの量販店でキャノンのコンパクトデジカメを買ってきました。ところが息子はこのときになって、初めて私に向かっていったのです。どうしてパソコンとプリンターも一緒に買わなかったの?

なんということか、そのときになって私は初めて、デジカメにはパソコンとプリンターが揃っていなければ写真を刷ることができないという、ごく初歩的な知識を知らされたのです。息子も息子です。自分の親の知識のレベルぐらいわかっていたはずなのに。

ともかく、大学一年生だった息子もインターネットの初歩的な知識は知っていても、自宅でパソコンを必要とするほどの時代ではなかったのでしょうね。まあ時代は新旧の入れ替るスレスレというかギリギリの端境期だったのですね。

そのときを境にして、時代に触発されたのか、ハタマタやけのやんぱちになったのか、パソコンとプリンターを購入した私は、憑かれたようにパソコンと大格闘の連日となり、寝食はもとより盆栽の水やりも忘れるくらい!?の日常となってしまったのです。

そしてとうとう、数ヵ月後の81日には、自作の手造りホームページ「盆栽屋.com」を立ち上げて公開してしまったのです。もちろんボロボロのガタガタのツギハギだらけですが、当時の記事を顧みると、壮年時代の情熱の残滓もまだ僅かに窺える気がいたします。


という訳で「盆栽屋.com」は嘘も隠しもなく、このデジカメ事件が直接の契機になって生まれたものです。まさしく「あぁ、あれから18年」ですね。

みなさん、長い間お世話になりました。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

2018年1月11日木曜日

小葉性もみじ舞姫取木超ミニ

取木素材の成長を順を追って説明します。

2016(平成26年)の入梅前に取木して約1ヶ月で台木より取り外し。その後半年間は仮植え。
2017(平成27年)の春に根元の処理と根さばきをして仕立て鉢にて養成する。秋に大雑把な骨格作り。
2018(平成28年)の春に剪定後化粧鉢に移して骨格の適性の見極めをしながら培養期に入る。

こうしてみると、取木をかけるまでの台木作りまででも数年かかるので、今日ご紹介する超ミニ(樹高5~6cm)クラスでもちょっと楽しめるまでには最低5~6年はかかりそうです。

両方とも樹高が5~6cmの株立ち状ですが、もうこれ以上は大きくしてはいけませんね。
超ミニ盆栽としてのかわいさがなくなってしまいますね。

台木の芯にあたる頭の部分を約2シーズンにわたり摘み込んでおきました。ですから足元はわりと成長しているので力強く見えます。 
















細幹の株立ちです。春から入梅ごろまで力をつけておいて、5月半ばの葉刈りに時期にやや強めに追い込んでみたら面白いでしょうね。その時にしっかりと将来の構想を練っておきましょう。