2004年11月27日土曜日

佐治川石の見立て

最近手に入れた佐治川産の石

みなさんも盆栽を手に入れたときは、見付け(正面)を変更したりしますね
水石でも同じ作業をすることがあるんです


求めたときの正面
一見して姿(すがたいし)のような立ち石の状態です


やや右前方から


裏側から

同感じましたか?

はっきり言って、図(絵)が出ていませんね
何がなんだか、つまり何を訴えようとしているのか判然としません

テーマが明確でないためですね
表現しようとすることがらが伝わってこないのです


あっちこっちと手の中で転がしてみると、この角度に山が見えました
主峰と副峰のある双子山です

うーん、なかなかイイ
佐治川石の特徴である「厳しさ」も出ています

でも、台座を作ったときのことを考慮しると
石の底部が大きすぎて邪魔ですね、思うような台座は無理かもしれない


思い切って裏返し
う、う、う!?

茅舎風の図が見えてきましたね
いけるかもしれない


屋根の角度を試してみます
この角度がイイ!!

茅舎風の「雨宿り石」の図がはっきりとしました
これに決定です



裏側も変化があります



「雨宿り石」というのは天然自然にできた屋根の張り出した巌のことです
自分が小さくなってこの石の庇の下に、驟雨を避けて入ってみてください

それが水石鑑賞の基本です

ちなみに、水石の道も「古さ」を最重要視することは盆栽と同じ
この佐治川石は「川から上がって」50年以上の歳月は優に経っているでしょう
帯びた時代感がそれを物語っています

2004年11月19日金曜日

床の間大掃除

15年前に作ったお茶呑み場の床の間は、盆栽屋.comのショーウインドウの役目をしていますが
なにせ無類の片付けきらい、普段は物置のようになっちゃってる状態

二週間くらい前に一念発起
片付けましたよー!

天気のいい日に一日かかりました
完了した爽快感に、思わず写真を撮りました



ちなみに、この床の間のサイズは間口一間半(270cm)、そして奥行きが4尺5寸(135cm)
畳の広さでいうと2.25畳、坪でいうと1.125坪、ついでにメートル法に換算すると、えーとッ、そう、3.7125㎡

我々の世代は尺貫法とメートル法の端境期なので両刀使いですが
面積の実感となると、やはり尺貫法ですね

やはり畳の大きさが基準になっているようで、1畳、1坪
この土地は何㎡ですなんていわれたら即座に頭の中で3.3で割り算が始まる

家に関する長さは尺貫法がわかり安い、しかし、これがもっと長い距離になるとメートル法でないといけない
「この先を2町ほど行った左側の家さ」なんてどっかの爺様いわれたら、まったくアウトですね

話がそれました!

単に8畳の部屋にしては大きい床の間であるということを言いたかっただけ
そして、この間口はともかく、奥行きの4尺5寸(135cm)は床の間としては深すぎるようです

ついでに、床の間の歴史についてちょっと調べてみると
起源は室町時代あたりにあるようで、仏画の前に置いた花瓶・香炉・燭台などを載せる机から発展したもののようです

間口は1間(180cm)、奥行きが半間(90cm)が普通のサイズでしょうが
大昔はもっと奥行きが狭く60cmぐらいであったといいます

ですから、床の間の伝統的な形式からみると少々邪道ともいえるこの床の間ですが
盆栽屋のショーウインドウとしての使い勝手は上々

「宮本さんちの床の間は、魔法の床の間だよ、ここへ飾ると盆栽が高く(値段が)見えちゃう!」
かつて、ある親しいお客さんがそういって嘆いたので大笑いになりました

そうですね、いつもきれいに片付けてさらに大活躍してもらいたいですね!

2004年11月16日火曜日

添配・東福寺茅舎(くずや)

添配というのは文字どおりの添え物で
盆栽飾りの具体的なイメージを表現するための道具類のことです

それらは船、筏、五重塔、茅舎、橋、釣り人、牧童など
素材も木製、銅製、鉄製、陶器など多彩です

茅舎の場合は、水石部門の茅舎形の石が有名ですが
ご紹介する茅舎は東福寺の作品ですから、もちろん陶器です

東福寺は余技として煎茶セットや抹茶湾、置物の狸など
いろいろなものを作っていますが、この茅舎は珍しい作品です


飴釉(あめゆう)茅舎(くずや)一対 平安東福寺作


茅葺屋根(かやぶきやね)のイメージをおおづかみに捉え、まるで童話の絵本に出てくるよな愛らしさが印象的です
東福寺の童心が表われていると言えましょう


側面の姿です
屋根の形が面白いですね
戸らしきものもあります


大きな屋根です
煙抜きが僅かにアクセントを添えています


東福寺の作家として面白いところは
落款を押す場所に対する感覚が、ちょっと他の作家と違っています

この茅舎も底(屋根)の部分に押しています
他の作家であれば、茅舎の裏手か横手でしょうし
底であればこの角度より見て縁に当たる部分が一般的でしょうね



さて、茅舎の添配となれば、実際に使ってみたくなります
略式ですが使い方についてお話しましょう


注意Ⅰ 柿木のある田舎屋の風景

晩秋の日本の村落の風景としてはぴったりですね
しかし、茅舎の比べて柿の盆栽が大き過ぎるようです、惜しい


注意Ⅱ  宮様楓の下垂した枝先の流れを受ける、添えとしての役目を担った飾り

大きさはぴったりですが、宮様楓の鉢の色が茅舎と同系統の色彩です
これではどちらも引き立ちません、色彩も考慮に入れましょう


注意Ⅲ 山深い山村の秋の情景を表した飾り

大きさもまあま釣り合っています
色彩面でも、実の赤と鉢の緑が渋い茅舎の飴色に引き立てられています

前の2例よりもベターです
しかし、何かそぐわない感じがぬぐえません、何故でしょう?

ピラカンサの実が鮮やか過ぎて、茅舎のもつ晩秋のヒナビタ感じとしっくりしない
そんな印象がしませんか?

このように、添配を使うことはけっこう難しいんですね
細身の姫柿などが最も似合う感がします

みなさんのご意見お聞かせください!

2004年11月13日土曜日

謎の作家・愛草

稚松愛草は謎だらけの作家です
残された作品からその謎を少しずつひも解いてみましょう



稚松愛草作
緑釉金結晶外縁雲足長方盆(上)
瑠璃釉外縁長方切足長方盆(下)

稚松愛草は香艸園初代園主・河合蔦蔵氏が昭和13年ごろから主宰した「拈陶会・ねんとうかい」
のメンバーであったといわれますが生没年は不詳です
この陶名の由来は、京都市の稚松小学校の付近に居住していたことによるという説が有力です

この「拈陶会・ねんとうかい」は河合蔦蔵氏の指導のもとに小鉢作りを研究したグループで
かの平安東福寺も属しており、永田健次郎や平安萬草など後世に伝わる優れた鉢作家を輩出しました

その作風は端正で、瑠璃釉や辰砂釉に優れたものが多く
土は数種類に大別できます
登り窯の高温焼成のためややゆがみのあるものが多いのも愛草鉢の特徴です

上の緑釉金結晶外縁雲足長方盆は彼の作品としては非常に珍しくい釉薬と用いており
点々とちりばめられた金結晶が印象的です

下は愛草独特の透明感と清潔感のある代表的瑠璃釉作品であり
抜群の発色が魅力的です

平成2年日本盆栽協同組合編纂の盆栽鉢のバイブル「美術盆器」誌上に
愛草の代表作品として掲載されている「瑠璃釉外縁長方鉢」と同型同サイズで
その作ゆきにおいても遜色ありません

ちなみに、誌上に掲載されている有名なその「瑠璃釉外縁長方鉢」も
盆栽屋.comがその昔扱った鉢であることを添えておきます

愛草の作品は昔から熱狂的な愛好家の間で評価されてきましたが
今日に至り小品盆栽界において広く知られるようになりました




雲足と切足の違いはあるが端正でハッタリのないボディーの形はまったく似かよっています
この2点の比較により愛草の作風を強く認識することができます



上は明るい緑色に渋い金の結晶がみごとに散っています
平安東福寺も好んで使用した釉薬

瑠璃釉は戦前の平安香山に似通った印象
透明感と輝きが印象的です



ここでまず注目するのは土目
上は戦前の平安東福寺の用いた白い胎土と同一のもので
ざっくりしていながらも雅味のある質感です

彼らが「拈陶会・ねんとうかい」において同じ道を歩む同志でありライバルでもあったことの証明となるでしょう



稚松愛草の落款
じつに品のある落款です

この二つは画像の大きさが違いますが同一の落款
愛草は同じタイプの大小の落款があります

2004年11月9日火曜日

仕入れの喜び

盆栽屋にとって仕入れほど楽しい仕事はありません
多くの盆栽屋に聞いてみてください、10人中9人以上は同じ答えのはず

かくいう盆栽屋.comも、もちろん仕入れ大好き人間
お気に入りの盆栽や鉢を仕入れられたときなど上機嫌ですね

さて、数日前にもお気に入りの仕入れができました
早朝の出発だったので、まだ日が高いうちにスイスイとご帰還

写真を撮っておきましたので、ご披露しましょう


向かって右は山もみじのミニ16鉢
左の篭の中には、やや大振りの山もみじ、紫式部(小紫)、楓石付、楓ミニ、それに掲示板で話題のごんずいなどなど
今日はほんとに大漁でした


カミサンに山もみじのミニの篭の中から適当に一鉢選ばせてみました
どんなの取り出すかな?


うーん、ちょっとよさそうなのを選んだかな
さっそく葉刈をして、骨格を確かめてみましょう

ちなみに、秋の葉刈は今頃から充分に可能で
枝に針金を掛ける場合などは、枝に柔らか味がありかえって好都合です

一説に、もみじは晩秋の落葉の約10日後には水を吸い上げ始めると言われており
紅葉の最中がもっとも水吸いの少ない時期と考えるのが常識になっています


少しずつ姿が見えてきましたね
足元の太いずんぐりした模様木、こりゃなかなかの傑物のようですゾ


ありゃ、ほんとにイイ木ですよ
カミサンわかってたのかな?


葉刈終了
幹は水垢で汚れているけれど、構えがよくて堂々たる本筋の模様木が出てきました
うれしーい!

ところでこのもみじには後日談があるんです
このあと金ブラシで幹の掃除をしてしげしげと眺めてみると
なんとこの角度は裏でした


幹洗いして枝の整理をした後の姿(後ろ姿となりました)


小さな前枝を2本抜くとほんとの正面はこちら
まったくうれしい失敗談でした

というわけで、仕入れは盆栽屋にとって、こんな楽しみもあったのです
それでは

2004年11月3日水曜日

本郷兄弟名人

卓台の世界にも名人と呼ばれる作者がいます
古くは小川悠山、日比野一貫斎、葛木香山、白井潤山、金子一彦などが最右翼の名人

新しいところでは、今日ご紹介する本郷兄弟も名人と呼ばれるにふさわしい技を持っていました
本郷昇が兄で本郷寿山が弟です


本郷昇作   紫檀机小品卓   間口29.2×奥行16×高さ6.5cm

大きなサイズに一般的にある机卓
本郷兄弟の特徴は、まず材質のよさ、何十年も寝かせた銘木を使っています


細部の仕事ももちろんですが、全体のバランスがとても優れています
このサイズには珍しく足に掘り込みの模様を施しています



足の拡大図
掘り込みに一発仕上げの刃物の味が残っているのが見られます
このあたりの仕事に作り手の息吹とでもいえる味わいが感じられます



小さい卓ながら優美な曲線が美しい


框(かまち)入です
組み合わせの箇所に一部のすきもない精巧な仕事


足の拡大図


足裏を見る


落款は「昇」の彫落款

材質のよさ
全体のバランス
細部の細工の確かさ
そして、漆の仕上げ

この総合の芸術が卓台のレベルを決定します