2014年9月30日火曜日

植替え不足の応急策

今春、すでに植替え時期を過ぎてしまったころに
高齢(90歳)で、もう面倒がみられないという愛好家さんから譲り受けた25鉢の五葉松

ほとんどが幼苗から仕立てたということで、樹形はなんとなく素人っぽい感じですが
樹齢が40~50年の古さかくる素朴な味わいがあり、どの鉢もどこかにイイところを持っています

培養の状態からみると、いずれも植替えと古葉透かしの不足が目立っていましたので、これを処理
入梅明けの夏の盛りには寒冷紗の下に置き、水やりにはかなり気を使いました

ちなみに、五葉松では過水は絶対避けるのは鉄則ですが
かといって、極端な水切れはもちろんいけませんね

ということで、今年は足早に秋が来て、施肥も行い作柄はまあまあとみうけられていたんですが
涼しくなって湿度が下がってくると、暑い夏の盛りよりもかえって鉢土の乾燥が気になってきました

詳しく言いますと、ほとんどの鉢が植替え時期が過ぎており
その上に根元の土がコチコチに固まっていて、足元付近には水が浸み込んでいない状態です

植替えの際に根の底の古根や古土をよくほぐしておけば、このようなことにはならないのですが
持ち主であったおじいちゃんの植替えの癖でもあったのでしょうね(根の外側だけさばいて植替えていた)

いまの状態では冬越しが不安です
冬期は湿度が低くなり思わぬ乾燥で失敗しますからね

鉢の表面は湿気があるように見えても
根の芯がカサカサに乾いてしまい、寒さとの二重苦で衰弱してしまうんです

ということで、来春の彼岸ごろの植替え適期までの応急策を考えました
みなさんには、ちょっと怖いような荒技になりますが、参考にしてください


90歳の大ベテラン愛好家さんが、幼苗から仕立てた五葉松、推定樹齢は40年以上
今どきは珍しい直幹樹形ですが、あの当時は直幹体が大流行していたんですよ


樹高70cm

現在の正面より少々左に振ってやると
左右の枝の長短強弱に統一されたリズム感が感じられるようになります

来春の植替え時には楕円の浅鉢に入れるつもり
木肌の古色感と根張りのよさに味わい深いものがあります


全体の葉色はいいのですが、勢いの弱い芽がご覧のように少しずつ枝枯れしています
原因は根元の底部の土が固まっていて、根の芯に水が行きわたていないからですね


さて、作業にかかりますが、用意するのは電動ドリルと先端のビット
図で取りつけられているのは、口径が1.5cmのビットで下は0.5cmのもの

ミニ盆栽専門であれば千枚通しや手もみのキリでも十分でしょう


根張りを傷つけないように、根の底部中心を目がけてやや斜めに穴を開けます
ビットの先端が鉢底に達するまでの深さが望ましい

それと、作業の前にはあらかじめ鉢をやや乾かし加減にしておくこと
用土が湿っていると、吐き出される土が粒状ではなく泥団子状になってしまいます


長い年月足元の土をほぐしてこなかったのでしょうね
ご覧のように粒状ではなく粉末状の土屑が出てきます

これでは根の芯に水も空気も入りにくく
根は窒息状態になってしまいます


足元の周囲に7~8個の穴を開けました
土屑が元の穴に戻らないように、上手く掻き出してください


赤玉土プラス桐生砂の普通の植え土(中粒)を入れる
竹棒で突きながら奥まで生き届くように


すべての穴を植え土で塞ぐ


以上で作業は完了ですが、言い残したポイントも改めて挙げておきましょう

1 作業の時期はいつでも可能(この穴開けによる根の切断では樹勢に影響はありません)

2 五葉松の古木では、あまりに根の周囲の固まりがひどい場合
  次の植替えで固まりの100%を一度にさばかず、半分もしくは三分の一ずつ数回に分けて行う方が安全

3 この応急策は、鉢が小さ過ぎて水やりが間に合わなので大きめの鉢に一時入れておく
  その場合とは条件や目的が異なります
  あくまで、根元の鉢土が固まって芯に水や空気が流通しない状態を解決する方法ですね

よく水が浸み込んでいきますよ

それでは!

2014年9月24日水曜日

楓・今季最後の葉透かし

枝の主要な骨格ができあがり小枝づくりの段階に入った楓には
芽摘みと葉透かしの他、年に2回くらいの全面葉刈りを勧めているいますが

今年は8月半ばごろから冷夏の予感があったので、2回目の葉刈りは見合わせて
もっぱら芽摘みと葉透かしで形を整えてきました

いえることは、盆栽人は気候の見通しに常に敏感でなければならないですね

それ以降の気候の状態をみると、あのまま第2回目の葉刈りを敢行していたら
今ごろは芽が揃わずにきっと大苦戦していたかもしれません

みなさんは如何でしたか?


ということで、これが数日前までの楓の姿

落葉までにあと2ヶ月近くありますから
よく検証してそれまでの培養の心づもりをしておきましょう


樹冠部の様子

樹冠部の勢いはよく抑制され、葉がしまって小さく揃っています


中間から下の部分の拡大図

こうして見ると、葉がかなり密集して大小に不揃いとなっています
この状態では葉数も多くフトコロの通風や採光がよろしくない感じですね

晩秋の自然落葉までにはまだ2ヶ月あります
ここで葉透かしをやってフトコロ芽に十分日を通してやりたいですね


樹冠部に比べ下枝になるに従って葉の大小が不ぞろいですから
大きめの葉から透かしてやります

指先で引っ張るのではなく、小バサミでていねいに
そして葉数が均等になるように透かしていきます

ただし、徒長枝があっても余程強いものでない限り剪定はしません
いま強い追い込みをして不定芽が出てしまった場合、その芽が充実する前に寒さがやってくることになるからです


葉透かし作業完了です


やや下方からフトコロを眺める

作業前に見えなかった細かい枝もよく見えるようになりました
これなら風通しも採光も問題ありませんね

あと2ヶ月間、越冬のために芽の充実が進みます
ちなみに、秋の施肥も忘れずにやっておいてください

さあ、みなさん、一日も早く葉透かしを敢行して
フトコロ芽に十分日を当ててやりましょう

今季最後になる大切な葉透かしでした

では!

2014年9月23日火曜日

初級・中級盆栽集中講座(4):黒松芽摘み

超初級から中級くらいまでを中心に(たまには上級編もまじえて)盆栽の手入れに関するご指導する初級・中級盆栽集中講座シリーズです。
  • 時期:6月中旬から7月中旬頃まで適用樹種 黒松・赤松
  • 目的:短期間に小枝をふやす・徒長させない・冬の鑑賞期に短い葉に揃えて観賞価値を高める
  • 道具:剪定小鋏・ピンセット
  • レベル:超初級から達人まで絶対必要な盆栽技術(短葉法なくして黒松・赤松盆栽なし!)
  • ここがポイント
    • 内側のふところ芽は力をつけるために葉を多めに残してもよい
    • 作業後日陰で管理してはいけません、普段どうりの日当たりの良い棚に置きます
    • 事前に肥料を多めに与え、樹勢をつけておく

作業開始前の姿
春に伸びたろうそく芽は既に葉が開いている
元気はいい
まずは勢いよく伸びた今年の新芽をあらかた切り取る


切り取った新芽


場所によっては去年の芽の部分から切る
理由は枝をより短く作りたいときに、そうするのです
三叉の下は去年の枝です

ざっと切り取った後の姿
さて、これからが肝心!
これで終わってはなんにもならない
でも黒松の芽切は、新芽を摘みさえすれば完了と思っている人も、けっこういますね


新芽を切り取った先っぽの拡大図
原則として去
今年の新芽を切り取ったままでは、このように何本も葉がついた状態です
このままだと、新しく芽が出てもその芽が多すぎたり、不均衡に芽吹きしたり
それにふところの奥の芽に日があたりません


ですから、このように3~5対の数に減らします
その際、適当に散らした場所の葉を残すことが肝心です
葉のあるところから芽が吹きます
こうすればある程度欲しい所に芽を出させることができるんです




さて、この枝はもう少し伸ばしたいと思うものは
新芽を元から切らずに、途中から切ります
その先も同じく葉数を減らしておきます


根気よく一芽ずつ、芽先を処理していきます
小品の場合は、ピンセットで引き抜くのではなく
小さいハサミで一葉ずつ、葉の元を5ミリくらい残して、切り取るほうが安全でしょう
この写真は途中経過


たいぶ仕上がりに近くなりました
根気がいります
ちょきちょき


全体も見渡して、葉数のバランスもいいでしょう
初めの写真と見比べて下さい
まるで夏向き
丸裸
でもこの作業をしなければ、黒松や赤松の盆栽作りは、不可能です
一ヶ月もしないうちに新しい芽が、ちくちくと吹いてきます
その芽が秋になるまでに、葉になるんです
そうすれば短くしまった葉で冬の鑑賞期ちょうどいい感じ
枝は伸びないし、枝分かれもできるし、枝先の弱いところを助けてもやれるんです
これを黒松の短葉法といいます
勇気をもって、実行!
丸坊主!

2014年9月16日火曜日

置き肥・液肥合わせ技

朝晩の気温も下がり始めていよいよ本格的な秋の気配がやってきましたね
さてそこで今日は、秋の施肥についてのお話です

気の早い盆栽人は、8月の末になると待ち切れずに肥料をやっていますが
特別なものを除いて、私は9月に入ってからゆっくりとやる派です

そうですね、おおよそ9月と10月の初旬の2回が秋の施肥の主力になります
11月になると盆栽たちは休眠体制に入って、ほとんど「食い気」がなくなりますからね


私の愛用している固形肥料
東海興業株式会社発売の「強力・玉肥」

大粒と小粒の2種類あって、油粕にリン酸とカリ分とを補足してあるのもあって
松柏・雑木用と花もの・実もの用とがあります

油粕主体の肥料は、匂いも強く水分を含むと崩れやすいものば多いのですが
この玉肥はその点もかなりの優れものです

他に比べちょっと値段は高いようですが
効きめがあって扱いやすい点からもお勧めできます

転落防止用に、図のように針金をコの字に折り曲げ
↓の要領で止めておきましょう


大粒の肥料を4個
間口20センチほどの中深鉢に入った姫柿の例


コの字に折り曲げたヘアピンで押さえておくと転落防止になる


こんな感じで、置き肥は完了しましたが

この油粕の固形肥料をやったこの後に、↓のハイポネックスを散布するのが
今日のテーマの「置き肥・液肥の合わせ技」なんです


置き肥をやったあと、如雨露(じょうろ)でハイポネックスの2,000倍液を
鉢底から液が流れ出るくらいにたっぷりとやります

ハイポネックスは葉面散布しても効果がありますから、水やりのつもりで頭からかけるか
如雨露を持たない人はバケツなどに液を用意してドブヅケしてもいいでしょう

ところがで、なぜ同じ時期に二重に肥料をやるんだろう?
もしかして、肥料が効き過ぎちゃって肥(こえ)アタリになるんじゃないの?

そんな不安をお持ちの方もいらっしゃるでしょうね

しかし、ご心配はいりません

有機肥料である油粕の場合、栄養素が分解されて根に吸収されるまでには
約10日ほどかかるんですね

ですから、その空白の期間を無駄にしないため
即効性でしかも持続期間の短いハイポネックスで1~2回補助してやるんです

そして、油粕が効き始めるころには、ハイポネックスは流れてしまって
両者の効きめはダブらないということです

この方法は、春季にも有効であることに変わりはありません

それでは、合わせ技、そく実行してください

2014年9月12日金曜日

速報・寒冷紗撤去

7月から8月の初旬にかけては暑かったですね
また今年も9月まで厳しい残暑が続くのか、こりゃ、参ったな

そんな予感で水やりの覚悟を引き締めていたのですが
台風の影響もあり、8月の中旬頃から気温もかなりダウンしてきて、全体としては早くも冷夏の雰囲気

以来、今年の夏は案外早く終わって、秋が早いような気もしていました
なので、今月に入ってからは早めの寒冷紗撤去のタイミングを見計らっていたんですが

ついに先日の9月10日に実行
すべての春蘭置場以外の寒冷紗をすべて取り去りました

関連記事を参考にしてください


例年よりも10日ほど早めの撤去ですが、今年のように日照時間が短いと
来るべき休眠期にそなえて頑張っている植物の活動が不活発になってしまいます

早めに寒冷紗を取り去り、少しでも長い時間日光に当てて
枝葉を充実させる必要がありますね


画面に残ったこの寒冷紗もこれから撤去にかかるところ

ということで、今年は秋の肥料も早めにやって
盆栽たちが十分に日差しを浴びることができるよう、置場も工夫して来るべき休眠期に備えましょう

さあ、みなさんも大急ぎですよ!

佐治川掌上石(しょうじょうせき)

現代でいうところのミニ水石のことを、近頃はあまり使われなくなりましたが
それらを一昔前の私らの先輩たちは、「掌上石・しょうじょうせき」と呼んでいました

サイズ的には数センチのミニ(豆)から10数センチくらいまでの
掌に載るくらいの水石をいいます

伝統的に日本人には、小さなものを掌に載せて愛でるという文化があったようで
それらが脈々としてミニ盆栽やミニ水石となって、現代へ受け継がれているのでしょう

小さな小さな一個の石を、とても持てないような大きな山や滝や茅舎などの景色に見立て
掌に載せて愛でて楽しむなんて、おもしろいじゃありませんか

そのときの水石愛好家にとっては、その掌の一個の石はすでにもう一個の石ではないんですね
雄大な山であったり郷愁をおびた里山の茅舎など、そのものに見えているですね

さて、理屈はこのくらいにして
今日ご紹介する掌上石は、↓の佐治川石

10数年前にお亡くなりになった、ある有名なミニ水石蒐集家のご遺族から
まとめて譲っていただいた旧蔵品の中で、特に私が気に入ったのをしまっておいたもの

今回、親しくお付き合いしている台座作りの名人・鈴木広寿さんにお願いして
ご覧のように台座が付きましたので、みなさまに自慢する気になったのです


鈴木さんはこの佐治川を見るなり
「みやちゃん、引き受けるけんど、あんた、注文はつけんなよ」

左右が対称形に近いきれいな稜線で、しかも片方だけが大きく裾を引いている
このような水石の景色をバランスよく見せるための台座は、非常に難しいそうで

それに対して依頼者があれこれ希望を加えると
台座作りの最中にいろいろな雑念がはいってしまい、いい仕事ができた試しがないそうです

私としては、名人がおっしゃることなら従わざるをえない
「すべてお任せするよ、鈴木さんの見立てを信じてまーす」

というわけです


佐治川特有の石肌が渋いまったくのウブ


石底


2週間ほどして鈴木さんが送って下さった台座付となった佐治川石
同封されていた鈴木さんのお手紙には、「ムズカシイ石デシタ」と添え書きされていました

右の大きな裾野が左へ向かう線が急にクビレ上がっていますね
このつながりの線をきれいに表現しながら、さらに景色左右の傾きを自然な感じに仕上げるのがポイントでしょう

ありがとう、鈴木さん、大満足でーす!


やや上からみた姿
左右の裾野の形とボリュームの対照が見どころです


縞紫壇の上々台座


鈴木さんの落款「広寿」

というわけで、今日は自分の勝手な自慢話でた
それにしても、台座名人の腕前には、まさに感謝、感謝ですね

よろしく