2008年8月22日金曜日

添配・平安英正

明治23年(~昭和46年)に京都に生まれた添配作家・平安英正(本名:若原英正)
素芳庵と号し大正から昭和初期がその全盛期と伝えられます

筏舟、童牛、茅舎、漁舟、唐舟、動物、昆虫などの作品が残されていますが
中でも、古き日本の生活や情景などに題材を取ったものに、英正らしい独特の情緒が感じられます

今日ご紹介する漁舟(いさなぶね)も、櫓を上げて岸辺に舫う小さな和船で
精緻な細工とともに独特の侘しい風情がにじみ出た作品です


共箱表

青銅・漁舟

落款は「若原」・「英正」

箱の作りも精巧なのが英正の共箱の特徴です


漁舟

造形的なバランスもよく、細部に至るまでの精巧な写実力はみごとです
この優れた写実力こそ、英正が斯界の第一人者として評価される第一のポイントです

まず蝋で原型を作り、その原型から取った鋳型に材料を流し込むという製作過程
そのため、実物は驚くほど繊細です


箱の裏書

平安・素芳庵・英正の下に花押
落款は「英正」

字体も鮮やかな達筆ですね


ちなみに、現在盆栽屋,comにて頒布している「英正写し」は
本歌と同型同サイズの作品(左右の間口4.8cm)です

もう20年くらい前の話で、↑の本歌を所有していた愛好家が鋳造家に依頼し
普段使いのためにコピーしたものを私が本歌ごと買い取ったものです

(愛好家がこのように、悪意でなく展示会などでの普段使いのため、コピー作品を作っておくことが案外にあったのです)

そのまま小物入れにしまい込んで忘れていたのが
過日何年ぶりにひょっこりと姿を現しました


当時から普段使いにしていたので時代感は抜群
海の舟というよりも河川で使われる和船の情景ですね

古きよき日本の情景の断片を写したものといえるでしょう
船頭の姿がないだけ、寂しげな情緒が深く感じられます


反対正面


舳先の拡大図
舟の中には小さな魚篭まで描かれています


櫓が上げられれている船尾の部分

添配の真贋について

銅や唐金(からかね)の添配作品は原型から鋳造されるため
鉢などの陶磁器よりも、さらにその真贋の鑑定が難しいものです

作品の出来栄えや素材の質など、いくつかの見分けのポイントはあるものの
かなりの精度をもった贋物もあり、鑑定には高度な鑑識眼と長い経験が必要です

英正作品の場合

1 できるだけ共箱であること(ご紹介した共箱と字体をよく覚えること)
2 落款が捺されていることは必須
3 その落款にくずれやゆがみがないいこと
4 もちろんのことですが、造形的なバランスや写実力が優れていること
5 さらに作品に品格と情緒が感じられること

2008年8月19日火曜日

黒松芽切りその後

今年は。芽切りの時期を7月15日ごろからと設定したことを申し上げましたね(参照:以前のつれづれ草)
みなさんは何時ごろやりましたか?(掲示板でご紹介下さい)



芽切り前の姿
この黒松(樹高12cm)も7月15日を数日過ぎたころに短葉法をかけました



ぞっくりと芽が吹いた現在の姿です
やはり芽切りの前に古葉を思い切って減らすことと、肥料を効かしておくことが大切です



これからの残暑の中、暑さの好きな黒松の芽は力強く成長します
気の早い人は我慢できずに、ご覧のように残した古葉を取り除き新しい芽の調整にかかるでしょう

その場合のポイントを数点

1 古葉は元から取らずに長さの半分ほど残した方がいいでしょう
  (水あげを抑制しないためとまだ芽が吹くかもしれないから))
2 極端に上や下を向いて吹いた芽は取り除く
3 一箇所に2芽残しを原則にして余分な芽は切り取る
4 残した2芽がバランスよく二股になるように調節しながら剪定する
5 葉が伸びていない今なら細部の剪定も容易ですね、追い込みの剪定も兼ねて行いましょう

2008年8月15日金曜日

杜松の芽摘み

杜松は暑さが大好き、夏は杜松がどんどん伸びる季節なので
肥料を切らさず水も多めにやりましょう

杜松のの芽摘みは、4月の末ごろからはじめ9月の末ごろに摘み納めしますが
生育中期間中はずーっと手を抜いてはいけません

その芽摘みについてちょっとしたコツがあります

1 頭の部分から先に仕上げるように心がける
2 利き枝のある中間から下の部分は、1週間くらい日にちを遅らせて摘む


ぞっくりと芽が吹いている杜松、芽摘みの適期です


作業は頭(樹冠)から始めます

指先で芽を引っ張って抜く感じ
ただし、時期が遅くなって引っ張って抜けない場合はハサミで切ること


こんな感じに抜きます


大雑把に頭の部分の芽を摘みました
この場合、中間以下の枝先の芽は摘まないでおき、充実を図ります


さらに頭の部分に摘み残しがないように、ていねいに摘み込みます
しかし、一と二の枝など樹高の中間から下は摘み残しておき、1週間くらい遅らせて摘み込むようにします

1週間後に指先で抜けないときは上記のようにハサミを使います
これにより、頭が先に出来上がり、利き枝が充実して力強い樹形が実現します

では

2008年8月14日木曜日

五葉松の古葉切り

松柏類の中でも特に手のかからない樹種の五葉松
しかし、これだけはやってもらいたい手入れが9月から11月にかけての古葉切り

この古葉切りは樹勢や目的に応じておこなうので
そのあたりの見きわめをしっかりつけておきます

1 樹勢のいい若木は早め(9~10月)に行う
  (フトコロ芽の保護と枝先を過度に太らせないため)
2 若木でも樹勢の落ちているものは、古葉の全部でなく半分だけ切り取る場合もある
3 とくに肥培を目的としている若木は、一年おきに行う場合もある(葉が多い方が太ります)
4 小枝が密で芽数の多い場合、フトコロ芽の蒸れを防ぐため必ず行う
5 樹勢の安定した完成木は晩秋から冬にかけての冬眠期に行う
6 過度に芽の混んでいる箇所には、適度に目抜きも併せて行う


作業前

注1)樹勢のいい木は古葉と新葉の境目が見えにくい場合があります
しっかりと見きわめながら作業をしてください

注2)大盆栽の場合は、晩秋から冬季にかけて古葉を指先でむしりとるのが一般的な方法ですが
小品の場合は必ずハサミで切り取るように
五葉松は黒松類と違って二番芽が吹きにくいので、一芽一芽をより大切にしなければなりません


作業後


新葉と古葉の区別がつきにくい作業前の状態
古葉の方がわずかに色つやが劣るようですね


古葉と新葉の境目が見えてきました


古葉の元を2ミリ前後残してきります(重要)


わずか数対の古葉を残した状態

この状態で作業を完了する場合もあります
それは、新葉がやや少ない場合、葉数を急激に減らすと根とのバランスを崩す恐れがあるからです

それでは新葉を傷めないよう、作業はくれぐれもていねいに

2008年8月10日日曜日

猛暑の中の楓ミニ

昨年も暑かったけれど、今年の夏はさらに凄い暑さが続いていますね
なんだかこの数年、夏の暑さがだんだんと激しくなっているような気がしています

かといって、盆栽人にとっては冷夏も歓迎したくない
短葉法をかけた黒松や赤松などは、新芽や葉の生育が思わしくないし

雑木類の葉焼けは避けられますが
日照不足でひょろひょろ徒長し、節間が伸びすぎる恐れがあります

とにかく盆栽人にとって
夏は強烈な日照と水の対策とが一番の関心事ですが

ふつう行われている水対策は

1 如雨露またはホースで普通の方法
2 二重鉢または箱に砂などを敷いて水切れを防ぐ
3 自働潅水

日照対策は

1 特別にはやらない
2 半日陰に移動する
3 遮光率50%くらいの寒冷紗で遮光する
4 遮光率100%の寒冷紗やヨシズなどで遮光する

ちなみに私は

水対策は1と2の併用、日照対策も1と2の併用で
基本的には旧式の昔ながらの自然派

では、あなたは?
掲示板にあなたの夏対策をご紹介ください

念のため、日除けでお勧めできないのは遮光率100%の寒冷紗やヨシズ
逆に日照不足で盆栽がモヤシ状態になってしまいますよ


旧式の夏対策でもこれくらいならまあまあの管理でしょ!
半日陰に移動もしてないんですよ


カンカン照りの棚上でも水さえ切らさなければ大丈夫


工夫といえば、砂も土も入れない仕立て鉢で二重鉢にしているだけ
これだけでも水の乾く速度を調節できます

なぜ砂を入れないかって?

鉢穴から根が出てくると枝先に元気がつき過ぎるといけないので、やせ我慢してるんですよ
ですから砂を入れる人は、常に鉢を動かし、鉢穴から出てくる根が伸びすぎないように気をつけましょう

2008年8月6日水曜日

謙斎銅盤の思い出

私が謙斎の銅盤にはじめて出会ったのは20代の前半
入ってみたはいいが盆栽界の右も左もよくわからず、かといって好奇心だけは旺盛な年ごろでした

私は数年前に東京から新開地の松戸に移住したばっかりでしたが
そこから直線距離で2~3キロの隣町に、当時日本の水石界で大家と謳われたSさんがお住まいだったのです

そして、東京の大先輩の業者のN師の導きでS家への出入りができるようになり
Sさんから水石についてのさまざまの薫陶を受けることになったわけです

そのころには作者・謙斎はかなり高齢ながらも健在であったようで
Sさんもかなりの数の特注品を所有しており、未使用の水盤も物置にたくさん積んでありましたっけ

それらの中で、作柄がいいなと思う水盤の裏側をよく見ると
真ん中に「謙斎」と印された落款がある他に、足の際の隅に「一雨鑑」という刻印も捺されていました

それが、後に景道片山流の始祖となる片山一雨翁の落款であることを
Sさんが懇切に教えてくれました

謙斎は注文品が仕上がると、それらの鑑定を片山一雨翁に依頼し
その中から特に上作と認められたものにのみ「一雨鑑」の印を捺したそうです

また、謙斎の円熟期は昭和の30年代から40年代にかけてであったようなことを
Sさんの口からじかに聞いた覚えがあります

以来40年、今では私が当時のお二人の年齢になってしまいましたが
謙斎水盤に接するたび、水石の道に導いてくれたSさんやN師のことが懐かしく思い出されるのです

また、吸収力のいいあの時期にSさんやN師に出会っていなければ
きっと私は、本格的な水石の真髄にふれることができずに、40年が過ぎてしまったことでしょう



昭和30~40年代にかけての作品と推定され、作柄もよく使い込みの味が抜群
足以外のボディーは、いわゆる一枚の素材からの「叩き出し」の技法によるものです

落款は「謙斎」とあり、さらに「一雨鑑」の印も捺されている逸品です



縁の拡大図
このデリケートな曲線は熟練の高度な技が造りだします



優雅で繊細な姿
発注者の意匠力と作者の技が重なり合って逸品となるのです



材質のよさが見て取れる底のようす

間口34.2×奥行19.8×高さ2.0cm

2008年8月1日金曜日

水石の極意

「水石趣味」は「盆栽趣味」と同じ範疇に属しながらも
その鑑賞法が盆栽とはちょっと違います

「水石趣味」の真髄は”石を眺めながらも、じつは見ようとしているのは石でない”
そう、そのあたりのややこしさに秘密があるんですね

その秘密がとければ、どうも水石はわからない、という盆栽人も
きっと水石になじんでくれると思いますね

”石を眺めながらも、じつは見ようとしているのは石でない”
それではいったい何を見ようとしているのでしょうね


私たち盆栽人は、木や草を鉢に入れて、これが盆栽だと眺めていますね
そして、その眺めているものはもちろん見ようとしているものも、、まさしくそれらの木や草に他ならないわけです

ですから、気に入らなければ枝を切ったり針金をかけたり
目的は目の前の盆栽に向っています

ところが水石趣味においては、眺めているのは石そのものに違いないけれど
見ようとしているんは、目の前の石の形状が連想させてくれる自然の風景なのです

遠く霞む連山であったり滝であったり、波しぶきを上げる荒磯や絶海に浮かぶ孤島であったりします
まさに石の姿を自然界の景色に「見立てる」とことにより、主体的に連想を働かせる精神の遊びといえましょう

このように、石の形状を自然界の景色に「見立てる」という
心の作業こそが水石の自由さでありおもしろさなのです



昭和44年に開催されたある水石展示会の記念帖より(小品5点)

さて、昭和44年といいますと既に40年ちかい年月がたっていますね
ちなみに、既にそのころ若年ながら盆栽屋.comは盆栽と遊んでました


多摩川石 間口18×奥行7.0×高さ2.5cm

席飾りの一番右側の石

多摩川独特の柔らかな曲線をもった平たい石
形状は舟形といえますが、なだらかな砂丘の風景と見立てるのが自然でしょう


渋い茶褐色の鉄分が表面に浮き出しています
多摩川の黒石によくある特徴で、とても雅味があります


部分拡大図


後ろ姿の方が石全体の優美な動きがわかりますね
人工の痕がないまったくのウブ石です


多摩川石 間口5.3×奥行3.3×高さ12.5cm

席飾りの下段の真ん中の石

中央の窪みを空滝(からたき)と見立てればいいでしょう
この石も古く雅味がいっぱいです

ウブ石です


後ろ姿

それではみなさん、忘れないで下さいね
水石の極意は「見立て」にありますよ

主観でけっこう、自由に連想を楽しんでくださいね