2005年1月29日土曜日

寒ぐみの鉢映り

秀逸な鉢映りの寒ぐみを手に入れたのでご披露しましょう



ちょうど見ごろの寒ぐみの実つきの様子、鉢は彦山人作
彦山人といえば山水画が得意なはずだと思う方もいらっしゃるでしょう

私も、彼のこのようなあでやかな色彩を施した作品に会うのは初めてですが
遠慮なく言わせてもらえば、山水画作品よりも評価出来る気がします

彼は私の住む松戸市の隣の市川市に住んでいるらしく、訪ねれば車で30分以内でしょうから
機会があれば訪ねて、このような作品を多く作ることを勧めたいですね

もっとも、作家という立場上、盆栽商人の助言には素直に耳を貸さないことが多いので
彦山人といえども、おそらく、私の勧めは聞いても聞かないふりをするでしょう

それはともかく、この寒ぐみは女性愛好家が持っていたものと聞いていますが
やはり、女性らしいお洒落な感覚の鉢選びです

どちらかというと渋い趣を持った樹種の寒ぐみですし
実つきの時期が比較的短いので、男性愛好家は木姿本位の鉢を選びがちです

つまり渋い樹種には渋い雰囲気の鉢
焼締めの南蛮風などをつい選んでしまうのです

ところが、この場合は、この樹種が一年で一番輝くときに標準をあわせました
みごとな一発勝負が功を奏し、実と鉢の色彩がお互いを引き立てあって秀逸です

2005年1月22日土曜日

鉢の傷・水府散人・町直

鉢の傷の代表的なものにホツ(ポツ・ホツレ)とニューがあります

ホツというのは文字通りポツッと欠けた状態の傷のことで
ごく軽微なものから致命的なものまであります

下の町直鉢くらいであれば墨汁でも刷り込み目立たないようにして
使う分には何ら差し支えないでしょう

ホツの箇所を後ろ側に持っていくように使うのです
そうすれば外側のホツなので正面からはほとんど見えません

またホツの場合は、実用に供してもこれ以上に傷が広がる心配はないので
その点は安心できますし、価値感の下落もニューよりはひどくはないものです

もちろん、観賞用のコレクションが目的では、いかに町直といえどもお勧めできませんが
実用には充分の働きをしてくれますので、ここでは「実用鉢」と割り切ってください


町直鉢のホツの様子


さて、ニューの場合です

去年の秋に愛好家から一挙に300鉢の放出品を買い求めた中に、びっくりするようなこの珍品があったのです
「水府散人」の豆鉢です、みなさんこの作者を知っていますか?

茨城県は水戸の人で、戦前から鉢の収集家および研究家として知られた愛好家で
戦後に自ら小鉢の製作に取り組み、その作品は盆栽界で高い評価を受けています

作風は、油滴天目、辰砂などを得意とし自由奔放さのなかに重厚さも併せ持ち
実験的な意欲も強く様々な様式や釉薬に挑戦しています

私も過去に「水府散人」の代表作といわれる数点を扱ったことがあり
それらは現在の盆栽界でもっとも高名な収集家の手元に所蔵されています

そのような経験から「水府散人」は得意の分野とは自負していたのですか
それでも、このようなミニサイズ(7.2×6.0×3.8cm)の作品にはお目にかかった記憶がないのです

無釉薬の焼締めもので表面に松柏の樹皮のような装飾を施した珍しいもので
この作柄からでは一目見て「水府散人」の名は瞬間的には浮かんできません


鉢裏と足の様子


鉢裏の落款
資料によると「正志作」と読んでいるようです、私には「正志」のように思えるのですが
いずれにしても「水府散人」(本名・薄井正志)の代表的落款です


落款拡大図


この小鉢には鉢の内側の底にも落款が入っています
「水府散人作」と読めます、このほかにも「集亭録升」「志龍造」などの落款が有名です


さて、問題の傷の話に移りましょう

この鉢に出会ったときの喜びもつかの間、傷を発見!! 

うっすらと見えたニューを確認するために「水」につけてみました
こうすると傷口から水が染込んでより鮮明に見えます(裏技ご披露)

さて、みなさん、珍品のこの「水府散人」小鉢をどう評価したらいいのでしょうか?

上のホツのある町直鉢のように「実用鉢」と割り切るのでは「水府散人」が可愛そうですし
かといって鑑賞鉢としてのコレクションでは傷が気になるところです

この様な場合には、小鉢界のおけるその作家の評価を考慮に入れた上で、作品の希少性や作柄の観点から検証してみて
資料価値があると判断できれば収集の一端に加えるこべきです

この「水府散人」の作品の場合、作家そのものの作品が希少で評価が高いことに加え
作品そのものが珍しい作柄であり、サイズ的にも希少性がある、そう判断したいですね

もちろん、価格面で考えれば、一般的にはホツよりニューの方が下落が大きく
その点からの大きな減点はやむを得ないでしょう

しかし、、小鉢界の歴史や「水府散人」の作風を知る上でも
このミニ鉢には小鉢界の資料としての価値は充分にあると考えられるのです

そういうことで、一口に鉢の傷といってもいろいろなケースがあるんですね

2005年1月20日木曜日

楓寄せ植・石付

すでにこの時期になると、楓やもみじ類は少しずつ活動期に入りつつあり
よく観察すると冬芽の先がみずみずしく色づいているのがわかります

盆栽用語でいうと「水を上げている」という表現をしますが
つまり根が活動し始め、水を吸い上げているわけです

この時期になって太い枝を切ると大量の水(樹液・人間の血液)が吹き出ますから
剪定は植え替えと同時に行うようにします

根を切り活動を制御してから枝の剪定をすれば
水の吹き出るのを防ぐことが出来るのです(知識1)



この楓の寄せ植、昨年一年間、思い切って肥料を控えてみました
そのおかげでずいぶんと枝先が細かくなりました

いわゆる「痩せ作り」の必要な段階に入ったと判断したからです

同時に、芽摘みと葉刈で頭頂部の勢いを制御し
小枝の分岐を促すことも忘れてはならないことです



この楓の石付も同じように一年間「痩せ作り」に徹しました

また、このような懸崖式の盆栽では、特に上下の枝の樹勢のバランスも大切なことで
それは、まめに芽摘みと葉刈を繰り返すことにより可能になります

この楓の寄せ植も石付も、今年も出来るだけ肥料を控えた「痩せ作り」でいこうと考えています

寄せ植は木肌もそろそろ古色を帯び始めていますから、さらに小枝を細かくするように心がけ
石付は完成段階に入っていますから、上下の枝の樹勢のバランスに気を配って培養します

適切な培養により、この1年間で両方とも飛躍的な出世が期待できると楽しみにしています

そんなわけで、盆栽を仕立てる段階として「肥培期」と「制御期」を上手に使い分けることをお勧めします(知識2)

2005年1月15日土曜日

国風展裏話2

この1月12日で国風展の応募は締め切られました
この締め切りがまた厳しいんです(当たり前のことですが)

こう言っては誤解されるかもしれませんが、まあ、世間話と思って聞いてください

私くらいの「古狸」の「顔」になりますと、同じ釜の飯を食ってる盆栽界のことなら
たいがいのことは融通がきくんです、けっこう強力なコネクション、持ってるんですよー!

いわゆる族議員ではないですが、顔パスとか揉み消しとか
常連さんといっていいでしょう
(自慢することじゃない! いけないことでしょ!)(ハイ、すみません、つい調子に乗りました)

しかし、国風展の締め切りに関しては、まったくダメ!
郵送の場合も当日必着でなくてはなりません
配達証明付、そう、これっきゃない

ですから扱い者はピリピリです
ギリギリの人は心配で、たいがい自分で上野池之端の日本盆栽協会の事務所まで足を運んでいます


第一回国風盆栽展写真帖より・吉村香風氏の展示品  左 真柏 右 蝦夷松 (於・昭和9年東京都立美術館)

さて、写真は大昔の第一回の国風展の展示品ですが
この出品者は世田谷の吉村香風園さんの先代さん

盆栽界ではそれと知られた名門中の名門
何せ大三菱の岩崎家お抱えの盆栽園なんです

申し上げたように、現在の国風展には盆栽業者(日本盆栽協同組合員)の出品は許可されませんが
草創期にあっては、愛好家の数も少ないため、業者も(数合わせのためにでしょう)このよう参加しています

いよいよ審査のための搬入1月23日と迫り
審査は翌24日、入選作品の写真撮影が25日となっています
この続編まだ続きそうです、お楽しみに

2005年1月13日木曜日

松柏類の苔

盆上の苔は美的な観点からも重要な盆栽の小道具の一つですが
暑さ寒さから根を守る、水やりの際の用土の流出を防ぐなど、役目は多岐にわたります

ところがその苔が、特に松柏類の幹に上ってきたら要注意
皮肌の荒れの隙間に食い込んで始末が悪いのです

食い込んだ苔は、松柏類の皮肌の荒れの妨げになるし
ひどいときには皮を腐食させてしまいます

ピンセットで丁寧にとり除き、風通しをよくし
鉢の表面をいつもさっぱりとしておくように心がけましょう


根張りを覆い隠し幹に上りかけている苔
丁寧にピンセットで取り除きます


これくらいが許容範囲です


ピンセットで取り除いている最中です
もっとしっかり取り除きます


白く光るのは日苔
鑑賞面からは雅味があるのですが幹に上ってきたら、やはり取り除きましょう

2005年1月9日日曜日

国風盆栽展舞台裏 1


第一回国風盆栽展写真帖より・国風盆栽会副会長・酒井忠正伯爵の小品盆栽棚飾り (於・昭和9年東京都立美術館)

新しい年を迎えるとともに一流盆栽展示会のシーズンを迎えます

現在、京都において小品盆栽の「雅風展」が開催されていますし、13日からは東京大丸の「日本盆栽作風展」
そしていよいよクライマックスは、2月9日からの上野公園の東京都美術館における「国風盆栽展」です

その国内最大の盆栽イベントである国風盆栽展には約250席の入選作品が展示公開されますが
搬入・審査・写真撮影と事前の下準備に3日間かかります

ところがその下準備は、本番の展示会開催の約2週間前に行われるので
審査を受けるために搬入されめでたく入選した盆栽は、その後に再び運搬されることになり
どんな遠方からでも東京上野へ2往復することになるわけです、北は北海道、南は九州・沖縄からですよ

たいへんな時間と費用をかけて日本中の名品の大移動が行われるわけで
その様子からも、さすが日本最大の展示会といわれるだけのことはあります

審査には約500点からの応募があり
入選は約250点ですから入選率は約50%くらいの厳しさ、まさに狭き門です

それだけに愛好家の盆栽を搬入する業者(日本盆栽協同組合員に限る)はみな必死で
第1日目の搬入日など雰囲気はピリピリです

次々と到着する盆栽を横目で見ながら、内心自分の搬入作品と比較しているんです
うひゃー、いい木が来たな、こりゃ負けたかな!
しめた、この程度なら、こっちの勝だ!

ところで、国風盆栽展といえども、盆栽愛好家や盆栽業者が盆栽文化の向上と普及を目的に
国風盆栽会を発足させた、昭和9年から戦後の高度成長期以前までは、大変な苦労の連続であったようです

まず、盆栽愛好家が現在と比べ物にならないくらい少ない
それは数十年前の国風盆栽展の写真帖を見れば一目瞭然です

愛好家の中に混じって数合わせの出品でしょう
盆栽業者の作品もかなりあるのです、つまり定員割れ

もちろん入選率が約50%の現在では業者(日本盆栽協同組合員)の応募は認められませんし
決め事の隙をついての、例えば家族の名前を使っての応募なども皆無です

その面でも、長い歴史を経て純粋に盆栽愛好家のための展示会として誇れるものに成長した、といえるでしょう

2005年1月4日火曜日

東福寺無落款?

盆栽界には明らかに東福寺作品と断定できながら無落款の作品が存在します
無落款の様相は大まかに

1 明らかにないもの
2 釉薬の下に隠れてはっきりと識別できないもの
3 落款の押し方が弱くはっきりと識別できないもの

に区別できます

明らかに押されていない場合は、故意か押し忘れかはわかりませんが
多作で知られた東福寺のことです、押し忘れであると考えるほうが妥当でしょう


平安東福寺作   名「霞桜」

東福寺無落款作品のうちの名作として、昔から好事家の間で知られていた本作品
このたび盆栽屋.comが入手したこの機会に「霞桜」と命名しましたものです

未だ明けやらぬ深山のたなびく霞の中にほのかに浮かぶ山桜
この鉢の釉薬の変化が、そのような情景を連想させてくれ、まことに味わいの深い作品です

窯変による微妙な釉薬の変化
みごとなボディーのバランス
希少な雲足など
あらゆる面から東福寺小品鉢の最高傑作の名に恥じぬ名作中の名作といえます

ところで、この作品、昔から無落款であることは知られているので
入手後に特別入念に落款探しをしなかったのですが

市内の親しい愛好家さんにお買い上げいただいた折に
その方と二人で1時間もかけてルーペでよくよく眺めまわしてみたのです

すると、無落款の原因が(1)であると思い込まれていたこの作品の足と足の間に
ごくうっすらと落款らしき痕跡(?)があるような気がしてきたのです

もちろん断定するほどの明瞭な痕跡ではありませんが
あながち希望的予測がそう錯覚させるのだとは思えない

これほどにしつこくこだわるのは、過去に無落款と思われていた東福寺作品の
意外な場所に落款が見つかった例(私も見つけたことが数度ある)がけっこうあるからなのです

正直、代金をいただいてしまった後なので、落款が見つかったからって
割り増し追加料金をいただくわけにはいきませんが

あの微かな痕跡は落款に違いない!

そうにらんでいます

それにしても先入観にとらわれず、もっと下調べをすべきであったと後悔している私であります
新年早々、反省!


つらなる山々に霞のごとくたなびく山桜の情景
優れた日本画を見るようです


未だ明けやらぬ深山の霞


釉薬の変化の魅力はとても画像では伝えられないほどに
デリケートで魅力的です


鉢内側


鉢裏




雲足の様子
東福寺全盛期のみごとなヘラ使いの痕跡もしっかり鑑賞できます

この雲足と雲足の間の谷間に落款らしき痕跡が見られたのです

2005年1月3日月曜日

竹本豆鉢の傷

暮れの29日に仕入れた竹本八角の豆鉢
竹本隼太得意の青磁の釉薬です

一口に青磁釉薬といっても真葛香山のような明るい水色系統のものから
竹本作品のような地味で渋い印象のものまであります

釉薬の渋さは、竹本の使用する茶褐色の胎土の成分の影響もあるのでしょうが
他に例を見ない独特のものです

さて、この小さな八角鉢は、もともと地味な上に、長い間の使用による時代感がついて
風雅な感じが濃厚、いわゆる侘びさびが感じられますね



没後100年以上を経ている竹本隼太の作品ですが、どれほどの間使い込んだのでしょう
経験上、10年や20年の使い込みではこのようなイイ味は出ないはずです

少なくとも30年以上
毎日まいにち棚の上で日に当たり水をかぶり、肥料や樹木の葉のアクのせいもあって、このような味が出るんですね


鉢の縁の内側にも時代感が染込んで、真っ黒
ほんとに渋い!


ところで、向かって右の足がちょっとおかしいですね
ここに欠点があるんです、惜しい


八角なので角々に4本足です
その一本の外側が傷ついたか、もともと窯傷があったのか
とにかく、そのままにしておけばイイのに、その箇所を目立たないようにと削ったんですね

その結果かえて目立ってしまった
そんな感じです

鉢の傷はできるだけいじらない方がいいんですね
気になっても我慢して使い続けていくと

年月による時代感が自然にその傷を目立たなくしてくれます
それが最良の癒し方です

覚えておいて!

2005年1月2日日曜日

愛好家放出品の真柏の正面は?

大晦日に「愛好家」より放出された約50点の小品盆栽のオショクはこの真柏
天然の「山採りもの」ではなく、人工的にジンやサバを作った「養成もの」ではありますが
激しく捻転した幹と、一と二の利き枝の力強さに魅力があり、全体の構図もよくまとまっています

糸魚川産の葉性(はしょう)の極イイものを挿し木して曲付けし
長年鉢で培養したもので、ジンやサバ味にもかなりの古色感が出ています

少々あばれ気味で葉がさが大きくなり過ぎています、摘み込み不足ですね
でも真柏は心配ご無用、針金による整姿と摘み込みで数年で小さくすることができます

ところで、新しく盆栽を手に入れたときには、まず現在の正面が適切であるかどうかを検討することが大切
正面の選定はその盆栽の観賞価値を決定する最大の要素となります


さて、現在の正面です

一と二の枝の張り出しはイイ感じですね
しかし、さらなる足元の迫力を求めて向かってやや左側面に見付けの位置をずらしてみますと


ご覧のように、立ち上がりの芸と迫力が一段と増したようです


その拡大図

枝のさばきも悪くありません
やや左方向から見るこの角度は正解に近い感じがします


次に、思い切って現在の木裏から眺めてみます、新しい正面の可能性はあるかな?
うーん、悪くなさそうですね

足元の芸と迫力、いけそうです!
ジンの動きも変化があってイイ感じ

葉に隠れているけれど、枝のさばきも悪くないし
幹全体の芸も変化と迫力あり


足元と幹の芸の拡大図

どうです、力があるでしょ!
それに足元から樹冠部にかけてのサバによる幹味も、こちらの方がイイように感じられますね

今すぐには決め付けないでおきますが
これで、現在の木裏を新正面とする可能性も大になりましたよ

このように、盆栽の正面を決めることは最大の楽しみであるとともに
その盆栽の観賞価値を決定する最大のポイントなのです

さあみなさん、ご自分の手持ちの盆栽の正面を改めて検証してみましょう
盆栽人はあくまで欲張りでなくてはなりません

一番魅力のあるところが正面になっていますか?