2010年8月25日水曜日

真柏板幹

強く屈曲した板幹(いたみき)は、山取り真柏の芸の見どころのひとつです
板状に薄くなったサバ幹が強く屈曲し、その両側か左右どちらかに水吸いが絡んでいるのです

その板幹も人工によって作り出しことができます
もちろん一気に作ったものでは、なかなか天然の味には及びませんが

ある程度時間をかけて気長に作れば
かなりの髙レベルで、天然に負けないだけの見せ場を作ることも可能です


小品真柏の幹の一部分が板幹になっているで、これを教材にしてご説明しましょう

A点まで一本で捻転しながら上がってきた水吸いが、B点で分岐して二本になりました
CとDに分れた水吸いは、それぞれ生きるための水揚げに努力してきました

というのは、↓の図(裏側から)のように、この部分は板幹になっており水吸いが狭いので
自らを太らせて水揚げの量を増やさなければ生きていけなかったわけです

がんばりの結果、今ではCとDの水吸いはA一本分よりも多くの水を揚げることが可能になったようです
水吸いの発達具合がそれを証明していますね

ちなみに、このような二股に分岐した場合
普通は曲の外側や上側を通る水吸いの方が発達しやすいものです


板シャリの裏側の図


この好機をとらえ両側の水吸いを細く削り込みましょう
削り込むことによって、板幹の幅はさらに広がり力強さがより強調され

赤線で示した部分がさらに太って、近い将来、さらに削り込むことが可能になります
このようなことを何度も繰り返していくうちに、天然の板シャリの味が出てきます


また、→で示した左の水吸いだけを残し、右の水吸いをサバにしてしまう構想も成り立ちますね
それによって板幹の表面に縦方向に起伏が生じ、自然に枯れ込んだような木目の味わいが期待できます


裏側からも思い切って削り込みましょう
赤と白の※の水吸いには段差ができますから、これも自然に枯れ込んだような木目の味わいとして、うまく利用したいものです


水吸い彫刻後の正面


彫刻後の裏面


彫刻後の側面、右が正面で左が裏面です
側面から見るとみごとに薄い板状の幹であることがわかりますね

さて、もう一点

皮を剥いだばかりの木質部は削りにくいので
しばらくの間乾燥させてからゆっくりと仕上げにかかりましょう

みんさん、手手近に持ち荒らした真柏の素材はありませんか
普段からそれらを練習台にして、彫刻の腕を磨いておきましょう

2010年8月23日月曜日

真柏シャリ幹

山取り真柏のシャリ幹と水吸いの芸を人工で作り出すには
テクニックとともに少々の年月が必要です

年月といっても天然自然界の気の遠くなるような星霜ではなく
小品盆栽なら3~5年ほどで、盆栽時間としてはわずかなものです

それより、シャリやジンを作り出す実際の技巧とその課程を
わずかな画像と拙い文章で分かり易くお伝えするほうが難しいようです

というわけで、系統だった勉強というわけにはいかないので、折にふれて小出しに取りあげ
その都度にみなさんの技術の参考にしていただければと思っています



文人風の真柏の立ち上がりからの幹の部分画像

かなり古い時期にジン作りをされたもので、板状に突起したシャリ幹と水吸いがうまく捻転していますが
この2年ばかり樹勢がいいので、かなり水吸いの部分が太くなってきました

このままでは水吸いがさらに盛り上がってサバを包み込んでしまい
サバ幹の野性味が薄れてしまいます

削り込む予定部分にマジック(白墨でもよし)で印をつける


裏側にも印をつける
入り込んで捻転している水吸いは水道(みずみち)を間違えないようにしましょう



つまり、白←の水道(みずみち)は捻転して上の白←につながり
赤←は同じく赤←につながっています

真柏の水道は縦方向だけでなく、横方向にもかなりの融通性をもっていますが
いちどきのあまり極端な水道の変更は、根と枝葉間の水の往来を断ってしまうので、ご注意!


印に沿って縦にナイフを入れ皮を剥く


皮を剥いた水吸いの部分はかまぼこ形にもりあがっているので丸ノミで修正
白←の部分は凹面で、赤←の部分は凸面になります

このように縦の木目に沿うようにし露出した木質部に凹凸をつけると
自然なシャリ芸が演出できます


↑で示した部分にも要注意

シャリの下部の地面に接する部分は、なるべくけずらないようにしましょう
つまり、根張りの部分を少々残しておけば、シャリが腐れ込む心配がないのです


背中の部分もかなり剥きました

赤印で示した新しいシャリの部分は、かまぼこ形に盛り上がっており
白印の古いシャリのぶぶんとはかなり段差があります

この段差がシャリ味となり、自然の風雪に耐えて生き抜く生命力を表現しています
たとえばこの両者がいちどきに剥いたシャリであったなら平板に見えて、味気ないものとなってしまいますね

ところで皮むきの適期です

水揚げの盛んな入梅から夏にかけてが最高
すぐに残された傷口にカルスが上がってきます

2010年8月13日金曜日

アマチュア・ミニ名人

まだ直接お目にかかったことはないが
私が内心敬服しているアマチュア作家がいらっしゃる

年に数回、私は人づてに作品にお目にかかるのだが
たくさんのミニ盆栽に混じっていても、それらは特別の輝きをもっているのですぐに目に入ります

先月にもフラリと仕入れに出かけた先の業者の棚に、後光の差したような逸品数点が目についたので
抜き出して価格の交渉に入って求めたら、なんとそれらがすべがその作家の作品であった

それらは、そこそこのミニ盆栽がずらっと並んだ多数の中に混じっていても埋没することなく
特別に光り輝いていたので即座に私の目を惹きつけました

やはり魅力のある盆栽は、こちらが目を皿のように探さなくとも
自ら輝いてその存在をアピールするので、私たちの視線はたちまち吸い寄せられてしまうのですね

さてそれでは、これら作品の魅力の秘密はどこにあるのでしょう
どうしたらこのようにひとの視線を吸い寄せる輝きがでるのでしょうか

この作家のミニ盆栽作品には

1 大胆でスケールの大きな構図
2 持ち込みの古さと、的確な培養管理
3 盆栽を引き立てる鉢の選定

の優れた三大特徴があります

もちろん他にも優れた点はありますが
この三点が他に抜きん出ています


杜松ミニ 樹髙5.5㎝

1 大胆に傾斜をもった立ち上がりと、向かって左の利き枝の力関係が絶妙のバランスを保っています
  まさに緊張感と動きのあるスケール大きな構図です

2 枝葉の長さはかなり抑制されながらも、植物としての生命力に満ちていますね
  この小さい目の鉢で、これほどの作柄を維持するにはかなりの努力と工夫が必要です


各点は1.0㎝単位です

3 約4.0㎝に近いボリュームのある立ち上がりですが、使用している鉢の直径は7.0㎝未満の八角
  幹径:鉢の間口の比率は約1:2に近く、鉢のサイズを目一杯しぼっていますね

  このミニ杜松がこれほどの力量感を発揮しているのは、この大胆な鉢使いによるものです
  また奥行きにも考慮して丸に近い八角鉢とし、培養面への配慮も感じられます

4 鉢に収まっている感じに、小さな鉢に押し込んだような無理がありませんね
  このことは盆栽を鑑賞する側からすると、かなり大切なポイントです
 
  展示会用の急場の仕事ではなく、普段からこの小さな鉢の中ではつらつと生気を放っている
  制作の早い段階から鉢を決め、細心の配慮をもって培養していることが見てとれます

  まさに脱帽!です
  

杜松ミニ懸崖 樹髙5.5㎝

5 ↑の模様木よりも鉢持ち込みが古い感じです
  その古色感は、立ち上がりから幹筋にかけての木肌の味や、枝先の繊細さに現われていますね


6 幹径:鉢の間口の比率は約2:5、つまり1:2.5
  この作家にとってはこれでも余裕の鉢サイズなのでしょう

  構図や培養面からはもちろんですが、鉢写りに対する細かい配慮が
  この作家を真のミニ名人に押し上げている理由だと思います

さあみなさん、あなたも真の名人になるために
構図、培養、鉢写りの3セットを見直しましょう