2004年6月25日金曜日

一石の世界

大胆な構図と繊細で気品に溢れた画風で知られる宮崎一石の世界を
さらに掘り下げて検証してみましょう


宮崎一石作  染付正方鉢   落款「阿びこ山」・一石作」

時はおそらく新緑の季節でしょう
水を描く作家はいても、流れる水を描いた作品にはあまりお目にかかりません

これは、水の流れには絵画としての表現の難しさが伴うからだと思えますが
一石は巧みに描いています、そこに絵師としての自信と力量の高さの裏づけが感じられます

岸辺に立つ三本の樹木の描き方も非常に巧みで
しかも、三本の樹木は三様に樹種が明確に異なって描かれています

ここが一石絵画の真骨頂です


右側に大きく余白をとった大胆な構図

描かれているのはありふれた山里の景色ですが、一石の手にかかると
大きなスケールの景観に見えるから不思議です

これも構図の巧みさがもたらすのでしょう


側面をのぞく角度より


反対側の正面


側面


側面


メインの画面を拡大してみましょう


さらに拡大して、三本の樹木の枝葉に注目です

いかがですか
枝ぶりや梢のようす、葉のようすからして、すべて異なった樹種ですね
このあたりの描写の的確さは、一石が本格的な日本画家であったことがうかがえます



反対側の正面の拡大図


斜面の樹木、花が咲いています
梢の先の描写が繊細かつ的確ですね


下方の樹木


側面の樹木



もう一面の側面の樹木
左右とも違った樹種として描かれています

以上樹木の描き方を中心にして検証してみましたが
やはりそこには並みの作家にはない、一石独特の繊細な世界がありましたね

2004年6月18日金曜日

東福寺鉢の鑑定(その2)

さて、今日も東福寺の鑑定のお話
東福寺についての勉強は、過ぎるということはありません

作陶期間が長く、作品の数が膨大で、作風も多彩を極め
そして当代第一の人気作家なのです

全貌を知るためには、もっともっと勉強しましょう
損はありませんよ


東福寺二代作  瑠璃釉太鼓胴丸鉢

昨日ご紹介した緑釉の東福寺太鼓鉢と同型の瑠璃釉の丸鉢
深い瑠璃釉の発色が素晴らしく、太鼓胴に打たれた鋲も小さめで品がよい

これも二代目の作品で、こちらの方が価格的な評価は遥かに下ですが
初代作品と間違えやすいという点でとり上げてみました

どこが間違えやすい点かといいますと
↓の二つの落款です


鉢底の中央にピリッと入った楓落款
浅目でクッキリ、乱れはありません
初代そっくりで、落款からは盆栽屋.comでも見分けがつきません


鉢底の隅に小さなハンコウ落款
これもすっきりしていて、初代そっくり

というわけで、東福寺の鑑定に際しては
落款ばかりをあてにして鑑定すると、大変なことになりますね

愛好家の方々の収集品に、この手の二代目を見かけることがありますが
ほとんどの方が、初代作品として購入されていますね、お気の毒です


落款があてにならなければ、どうしましょう
何を基準に鑑定したらいいのか、不安は募ります

ご安心を
他にも決めてはあるんです

昨日もお話したように、鋲の形や打ち方には初代特有の癖があるんです




上が二代目作品のの鋲、下が初代のものです
昨日お話したように、初代のには手作りの味がはっきりと釉薬の下に見えますね

ここが決定的な相違点です
よく憶えておいて下さいね

初代作(瑠璃釉丸鉢)

ところが、もし鋲が打っていない鉢だったら、これはまたまた難題になりますね

そんなときは釉薬です
例に挙げた三点の釉薬を比較してみましょう

そう、二代目の作品の瑠璃釉薬には、透明感と艶が不足していますね
比べて、初代作品の釉薬には深い透明感と艶があります

ここも決め手になるのです
勉強になりましたか?

2004年6月17日木曜日

東福寺鉢の鑑定

平安東福寺二代目・水野勇が本格的な創作活動に入ったのは
初代の死後の昭和45年ごろといわれているが、それ以前の作品とおもわれるものも世に存在します

初代東福寺は、自らの作品に息子に落款を押させ、それを息子の作品として世に出した一時期があった、いわれ
子を思う親の姿の典型として盆栽界に伝えられています(合作とみることのできますが)

たしかに、二代目作品には判定に迷うほどに初代の作風が色濃くみえるものがあるのですが
おそらくそれらは、本格的創作活動に入る前に、父の手伝いをしていた時期の二代目の作品であろうと推測します

その時期と推測される二代目の作品は、初代作品との識別が不可能なほどで
かなりレベルの高いものが多いのです

たまたま二代目の作品と思われる高水準の鉢が手に入りました
初代作品を頭に思い浮かべながら比較検討してみましょう


広東釉(かんとんゆう)と呼ばる緑釉(りょくゆう)の対鼓胴の丸型作品です
外見ではかなりの専門家でも初代と判定するでしょう

まず釉薬を見てみましょう

初代の釉薬の特徴が出ています
透明感のある鮮やかな緑色、そっくりで識別不能

胴の下部の釉薬が濃い部分、つまり釉溜まり(くすりだまり)も部分にも
初代作品らしい雰囲気が濃厚です

次に形

安定感がありゆったりとした温もり感が初代の特徴
この鉢も初代作品ならではの温かみに加え、造形の美しさが感じられます、外見でも識別不能

胴に打ち込まれた鋲

他の二代作品に比べると手作りの温かみが感じられますが
よくよく見ると初代に比べ、やや尖り気味

初代と二代の識別の手がかりをやっと一点だけみつけました


上部からの検証です

縁の形も硬質ではなく、柔らか味のある美しい円形を描いています
この線の柔らか味が大切です

水穴の開け方も初代との識別は不能です

白っぽい柔らか味のある土も初代が好んで用いたもの
この土は戦前の作品に多く用いられ、傑作が多いのです

この画像からは手がかりは見つかりません


足と鉢裏のようす

緑釉がきれいですね
鉢裏の時代感もかなりのものがあります

この画像からも手がかりは見つかりません


落款を見てみましょう

有名な楓落款です
うーん、ここに問題がありました

初代東福寺は落款の押し方がうまかった
どの作品を見ても乱れた落款は見たことがないというくらいにうまかった、浅目でしかもピシっと決まっていました

この落款はやや深めで形が乱れていますね
ここが最大の決め手です

初代にはこのように乱れた落款は皆無といっていいでしょう
よってこの作品は、二代目の作です


最後にもう一度勉強、鋲の形と打ち方です
↓の写真は初代作品の鋲の拡大図です


違いがわかりますか?

一つずつ鋲を付けた痕跡がはっきりと釉薬の下に見えますね
これでなくてはなりません

このように、手作りの味を消さない一発仕上げが初代作品の特徴なのです

以上二代目作品とする決め手が二点ありました
勉強になりましたか?

2004年6月13日日曜日

大助の絵の素養

山の端に昇る月と渡りゆく雁の群れを背景に、牛の背で笛を吹く牧童
大助の叙情に溢れた絵付け、うまいですね、 惚れ惚れとします

大助の絵付け鉢のモチーフは多彩で、山水画も安藤広重の東海道五十三次などその出典も多岐にわたっていて
京友禅の絵付け職人だったといわれるその域を遥かに超えた仕事をしています

それでは、大助の絵付けの魅力の一端を分析してみましょう


近景に骨太に描かれた牛と笛を吹く牧童の背中
大助のデッサン力の確かさと巧みな画面構成がみられます

モチーフを背面から描くことにより叙情的な画面に
よりいっそうの余韻が感じられ、ここに大助の巧みさを強く感じます


骨太のデッサンの力に圧倒されますね
まるで油絵のようです

この絵をみると、京友禅の職人であった大助は
溢れ出る才能に加え、若いときにかなり本格的な絵画の勉強をした人のように思えます

淡い色調の丹念な描き込みは、さすがに大助全盛期の作品
牧童の背中に幼い可愛らしさとともに、哀愁も漂っています


近景の山の描写は丹念に描き込んで、その下方は大きな余白をとっている大胆な構図が光ります
山の端に昇った月が叙情性を深める役目をになっていますね


山の端に昇る夕月


足裏のようす

以上大助鉢のトップレベルの傑作と認定します
みなさん、勉強にになりましたか?

2004年6月12日土曜日

けやきの正面

盆栽の姿形は、鉢に植えつける際の「正面」によってまったく違った印象になるので
この道のベテランタ達は、盆栽の垂直と水平の微妙な植え付け角度に非常なこだわりをもっています

その実例を見てみましょう

けやき(樹高14cm)

小園が愛好家より入手したけやきの箒仕立て
根張り、立ち上がり、枝分かれ、そして小枝の先端まで、かなりいい素質をもっています

ところが、全体に何かピリとした感じがなく
どこか緩んだ印象で、けやきらしい一本筋が入っていませんね

これは、植え付け角度に原因があるのです


向かって左へ約15度くらいの角度より眺めてみます
いかがですか?

足元から芯まで幹筋が通って背筋が伸びた感じになりましたね
枝分かれもよく見え、グーンと奥行きが出ましたし、姿も大きく見えます

↑の画像とよく見比べてください
どうやらこの角度が植え付けの正解ですね

植え付け角度により、これほど樹格が違ってくるんですね
怖いほどです

あなたの盆栽たちの植え付け角度を再点検してみてください!

2004年6月11日金曜日

PC復旧

みなさま、長らくお待たせ!
やっとのことでPCとそれを取り巻く環境が復旧しました

GWに騒がれた、Win.XPの隙間をねらってインターネットから侵入するという新型ウイルス
これにやられたのです

私は常時接続ではなく、昔ながらのISDNでのんびりとやっていたのが間違いでした
ISDNではアップデートの新情報もつい後れがちになり、実行の時間もかかり過ぎるのです

そしてついには、インターネットに接続不能
これには参った! 慌ててADSLに申し込んだのですが、3週間もかかるんですね

焦りまくりながら、ひたすら我慢の3週間、やっと昨日の午後にADSL回線が成立
一気に元気になりました!

今回も助けてくれた友人のKさんが(20才年下・私のPCの師匠)が常々きつく忠告してくれてたんです
「早く常時接続にしなさい」って

その忠告を素直に聞かなかったバカな自分を反省
今度ばかりはホントに懲りました

みなさんご迷惑をかけました
Kさん、ありがとう

本人かなり反省しています
こんごともよろしくお願いします

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楓筏吹き樹形

ここでご紹介する樹形は「筏吹き」
幹が倒れた状態から複数の幹が株立ち状に立ち上がっていますね

株元になる箇所は本来は幹だったのです
それが倒れて根と株元になり、本来は枝であったはずのものが幹となっているのです

「根連なり」樹形とは本来性質の違ったのもですが、
古木では根と根が絡み合って盤状になっていたりして、識別が難しいものもあります

楓筏吹き三幹    
右に傾斜した親幹と二本の子幹のバランスがいい


倒れた幹から四方に根が出て、すでに株元は盤状の雰囲気が出てきています
ここが筏吹き樹形の最大の魅力
向かって左の根が本来の幹の根だったのです


後ろにも根が出ていますね
このような根は長い持込により「甲羅状」になります

盆栽の樹形は自然界の中らかその模範を仰いでいます
「筏吹き」は厳しい自然で、「倒木」が新たに生まれ変わる生命力を表現した樹形です

2004年6月1日火曜日

狐の嫁入り

昔の人は、墓場などに狐火とか鬼火とかを見たといい
それを”狐の嫁入り”行列の提灯の灯りだと信じたようです

また、天候の加減で日が照っているのに雨が降る場合があると
その天気を”狐の嫁入り”とか、お狐様の嫁入り行列が通るよ、などといったものです

さて、この想像上の”狐の嫁入り”行列の図は鉢作家の好む題材で
お供は雄狐だったり雌狐だったりしますが、かなりの作家が描いています

しかし、どの作家も数は多く作ってはいません
みなさんにこんなに人気のある図柄なのに、なぜでしょう

私の推測では、思う以上に難しくまた手間のかかる仕事なのでしょう
雄山ほどの作家でも、めったにお目にかかれないのですから

私も数年ぶりに雄山の”狐の嫁入り”の丸鉢に出会いました
前回のは楕円鉢だったことを憶えています(憶えているほどに少ないんですね)


貴重な「狐の嫁入りの図」
雄山が円熟期を迎えた後期に入ったころの作品と推定されます

白磁の冴えた色とほどよい呉須の対比が出色の出来栄えで
ロクロ技術の正確さもその端正なボディーに表れています


お供の狐達のそれぞれの表情、おもしろいですね
役目により身に付ける着物も違っています

角隠しを被った”お嫁さん”に「お嫁さん、お年はいくつ?」と問うて見たくなりますね
お籠の側の小柄なお供は身分の高い”お女中”らしく、威張った感じ
お籠の担ぎ手は4人とも口を開いていますね、疲れているのでしょう

的確な描写力と細部へのこだわり
見ごたえがある作品です




提灯を持ったお供が振り返っていますね、後の狐に語りかけているのでしょうか
それとも、行列の乱れを点検しているのでしょうか、いずれにしても年増の先輩格のように見えますね
雄山の筆力に感動します


足と鉢裏


雄山鉢の熱心な収集家が所蔵していたもので
ふつう雄山の共箱・共布はめったに見ませんが、懇願して書いてもらったと聞きました


共布です
珍しい

ともかく”狐の嫁入り”を何人もの方から頼まれています
探さなきゃ!