2020年11月28日土曜日

行方不明の泰山鉢


ある日フト気がつくと、10月22日の項で取上げた小糸窯泰山(四君子)鉢が見当たらない。さして広くないお茶のみ場や仕事場など心当たりを探索してみても、あの四君子クンは一向に姿を現す気配がないのです。
カミサンに聞いてみても「私はしりません!」の一点張り。しょっちゅうこのようにしまい忘れの探し物に付き合わされているので、なるべく係わりあいたくないという本音が顔つきに出ています(笑)


当初は、どこかへしまい忘れたと思っていたのですが、この狭い限られた家の中で10日も姿を現さないとなると、ひょっとするとそそっかしいカミサンにゴミと間違えられ、新聞紙や紙屑と一緒に捨てられちゃったのかな?なんぞと邪念が芽生えてくるのを抑えられない私でした。


泰山クンは何処に!?



買った値段を考えると、そう簡単には諦めきれません。それにしては、とこかへしまったとか収めたとかの記憶も全然ないのです。不思議!


ところで、この泰山鉢事件と同じ時期に、私は通いつけのクリニックの診察券と健康保険証をやはりどこかへしまい忘れて捜索中だったのです。毎日がそれらの連続(笑)


結果はその診察券と保険証はあるところから出てきました。
そこで私は、泰山鉢も普段私があまり目を向けない場所にしまったのだなと、閃きました。
しかし、慣れないことをするとそれすら忘れてしまうのですね。これではもう処置なし!

間もなく、私のもとへ泰山鉢は戻ってきました。

やれやれお疲れさま!

 

2020年11月25日水曜日

箱書き

小鉢の収集家から桐箱とその表書きを依頼されまあまあに仕上がったので、ブログの読者の皆様にお披露目する気になりました。ひとくちに桐箱といっても材料からデザイン技術までピンキリですが、今日ご紹介する八つは中身から箱まで優秀な作品ばかりです。


平安東福寺・緑釉外縁二段切足長方
やや重みをもたせた楷書体を主にし、作者名(平安東福寺)を下部の隅にそっと静かにおいた対比が個性的です。


平安東福寺・緑釉窯変切立楕円水盤
東福寺の小品水盤は希少で、出来上がりも非常にいい感じです。


東福寺・鉄砂釉正方水滴
鉢ではなくしゃれた文具です。小物らしくやわらかく崩した草書体がよく似合います。


平安東福寺・紫泥外縁二段切足長方
横に字数が多過ぎるので、作者名(平安東福寺)を中央へ配し、鉢名の文字をやや癖のある行書体にしました。力強い迫力のある文字列ができあがりましたね。


島岡達三・三島手外縁切足楕円
やはり行書体風の文字をやや細めにおとなしくまとめました。もう少しボリューム感が欲しかったかな!?


東福寺緑釉隅入切立長方
鉢の形状は隅切りと隅入は間違いやすいのですが、縁の内側の隅の切れ込み具合から見ると、隅切りというまでには切れ込んでいませんので、隅入としました。微妙なところだと思います。
文字はきっちりと楷書体にまとめて、簡潔堅牢で好感が持てます。


水府散人・天目釉反縁段足長方
初っ端の天の字に思い切りアクセントを置いて変化を出し、それ以下の文字にはやや崩しを入れて総体を上手くまとめてあります。


永田健次郎・瑠璃釉反縁猫足輪花式
非常に珍しい鉢でめったに見られない形状です。また蔵者はこの釉を均釉と見たようですが、日本鉢であるが故に素直に瑠璃釉と表現してみました。均釉という場合は対象が支那鉢の場合に使用していただきたいと思います。

 

2020年11月20日金曜日

本郷昇巻卓ミニ


むかし、大量に製作を依頼した大手の盆栽商の二代目の倉庫の奥に眠っていた木工家・本郷昇(昇が兄で寿山が弟)の小品卓や、画像のような足の巻いた小さな巻卓(まきじょく)。



間口7.5cm×奥行き5.0cm×1.0cm

引き出しの片付けをしていたら9枚も出てきました。以前に盆栽商の二代目から本郷作品をまとめ買いした残りに違いありません。おおよそ20年くらい押入れの机の引き出しに眠っていたので、懐かしくもあり、また儲かったような気にもなり暫し眺めいりました。


まず目につくのは材料の良さですね。これはどんな小さな作品にもいえることです。


昔から木工師は自らの家財よりも手持ちの材料(原木)を大切にしたそうで、家の引越しのときなどは、家族の寝食する座敷よりも材料の置き場所を第一に考えたそうです。まさに木工師にとっては「材料命」と云ったところであったのでしょう。



よく寝かせた無傷の紫檀のこの光沢は見事です。


裏面から見ると製作途中の刃物の痕跡が見えて、作者の捜索への息吹が伝わってきます。


造形的に堅すぎず柔らかすぎずみごとなバランスのミニ卓です。手に取って眺めると巻き足の出来具合のよさが一段と伝わってきます。
どんな小さな脇役でも出来のいいものはいいですね。おしゃれです。

なお本郷昇作品には「昇」という彫り落款が記されているのが普通ですが、これらの作品は大量生産のため落款を省いたのでしょうが、間違いなく本物です。

 

2020年11月16日月曜日

岩しで中品

20代の中ごろに現在の場所(千葉県松戸市)で盆栽屋を開業し、はじめて国風展に入選経歴をもった名木を商売したのはそれから数年ほど経ったころでした。その時の樹種が、当時は「朝鮮ソロ」と呼ばれていた「岩しで」の単幹の模様木だったことは、仕入から売却の値段までふくめてはっきりと覚えています。

ある日訪ねると、よく可愛がってくれた市内の盆栽愛好家のご隠居が、その年の国風展に展示したばかりの「岩しで」の名木と、私がご隠居に売り込むために車に積んでいた少々難ありの五葉松とを交換してやるとおっしゃるじゃあ、ありませんか!

まるで狐につままれたような私に向かってご隠居はさらに付け加えました。「わしはどうしてもあの五葉松がほしいんじゃ、条件が交換に不満ならさらに○○万円つけてやるよ!」と言いながら、札束とはいえないけれどちょっとまったお札を私の手にねじ込みました。
そして、驚くべきはその金額は私の持ち込んだ五葉松を数鉢買えるほどの額であったことでした。

あの日、いつも以上に機嫌のよかったご隠居さんの顔は今でも忘れられません。
ただ、その上機嫌の原因だけは未だに不思議な出来事のままで不明です。
このようにしてご隠居からただ同然というより、おまけ付きで(ただより安かった)購入したあの「岩しで」はその後何年かして、ある有名展示会に出品されているのに出会いました。

私のような若造の盆栽屋に盆栽の売れるような楽な時代ではありませんでした。
きっとそれを見越して親心で施してくれたのでしょうね。ともかくあれ以来「岩しで」のいい木に出会うとあの当時の世相や盆栽業界やご隠居のことなど、懐かしく想い出されます。



「岩しで」 樹高33×左右38cm

畑作りでないので、幹は細いが持込の古さは半端じゃないですね。
木肌と詰まった枝先を見れば一目瞭然です。



向かって右側の枝の吹き込みがやや物足りないのは、来年度の宿題ですね。
頭が少々大きいのも追い込みの必要ありです。


足元の子根の整理も必要ですが、来春の植替え時にやるつもり。



とにかく時間がかかっている盆栽は見ごたえがあります。


ひやー!
込みすぎですね。


足元の子根が親の足元を締め付けています。くるしそー!


後姿。


後ろの足元の安定感が魅力。


野性味が特徴の「岩しで」


上下左右の枝の強弱のバランスをとってやるのがこれからの課題です。


「岩しで」の持ち味は野性味溢れた木肌と枝先の力強さにあります。
5年計画で一流展示会「国風展」の三点飾りを目指します。

 

2020年11月15日日曜日

舞姫もみじミニ株立ち


みなさん、例年に比べて秋の気配のやってくるのがやや遅い感じがするような陽気だとは思いませんか?秋らしく日暮れは早くなりましたが、気温は小春日和といっていいほどにぽかぽかとしています。
そのせいでしょう、雑木類の葉の色づき加減がイマイチぱっとせず、葉の落ちるのも心なしかゆっくりしているようです。


種木の頭の部分を取り木して2年経過。足元の太さは直径でやっと1.5cmになったくらい。
樹高は7.5cmです。
わりと幹立ちに強弱のある株立ちができました。枝数もふえて景色に趣が出てきました。
この位になれば来年の春には仕立て鉢を卒業して、楕円の薄型の鉢に入れてやりましょう。
鉢の色はもみじの葉に映える白、黄色、淡い水色などが似合うでしょう。
くれぐれもごつい感じの長方鉢などには入れないように、お願いします。


現在の後姿。



 

2020年11月12日木曜日

稚松愛草瑠璃釉正方鉢

稚松愛草の作品で辰砂釉の三味胴鉢の名品を一時所有したことがありましたが、最近その三味胴とよく似た雰囲気の正方鉢に出会って、一目で気に入って手に入れました。

間口4.7×奥行き4.7×高さ3.4cmのサイズで、大きさからいえばミニ鉢の部類に入りますが。がっしりとした切立の内縁のボディには重量感と存在感があってなかなかか見ごたえガあります。さらに鉄分の多い胎土にタップリと施釉された瑠璃釉の深い神秘的な輝きは非常に魅惑的です。



稚松愛草瑠璃釉内縁切立切足正方


愛草の瑠璃釉は大まかにわけて2種類あるようです。胎土が白色の場合は、淡く明るい発色が多く、鉄分の多い土目の場合はこのように湖の底のような深い発色になります。


愛草鉢の魅力はタップリと施釉され、ギリギリの線で釉が止まっているところです。
地味ながら隅々まで神経の行き届いた玄人好みのいい仕事ですね。


三味胴よりもくせのないシンプルな正方形。


これほどのミニサイズながら釉(クスリ)の流れに乱れはありません。まして登り窯の作品なのに、驚きです。


シンプルかつ味わい深い造形美が宿されている愛草鉢。


鉢裏と足の様子。


釉の流れに乱れはありません。


「稚松愛草」と何時もながらの丁寧な落款、まことに品格あり。


登り窯の灰被りの痕。


長年の使い込みによって深い趣の発色をみせる瑠璃釉。


2020年11月1日日曜日

美男桂古木

樹種や樹形によって好き嫌いのある盆栽人はけっこう多いですね。それで今日は好きな方の話をしましょう。


私はもともと雑木類(もみじや楓)が好きなんですが、その中でもつる性(ツルショウ)の植物が特に好きです。まあ、つる性と言えばアケビや丁字桂や美男桂などでしょうね。

今月の初旬、隣市のお年寄りの愛好家さんから買取の要請があったのでさっそく窺ってみますと、私の大好きな樹種である美男桂の古木が3鉢。嬉しくって、たちまち涎が落ちそうになりました(行儀が悪いね)。


「この棚にもう50年から居座ってるんだから、この美男は100年は経ってるよ」およそ90歳に近い(元気だけど)おじいさんはおっしゃッた。
私が見たところ、100年はちょっとオーバーだけど、近い感じはしました。
足元の幹の間口がおおよそ25cmくらいの太さで、樹高は40cmくらい。それに太さよりも木肌の古さが半端ない。荒れてガビガビ。とても半分(50年)の樹齢ではないことは容易に推定できました。


立ち上がりの暴れた根張りと主幹から分かれた数本の徒長枝が絡まって、まるで深海のオオダコみたいグロテスクな姿。

美男桂という名は、昔はこの実の果汁をすりつぶして化粧につかったところからの命名だと伝えられています。

半落葉性なのでもう少しあきが深まったら葉刈りをして木姿を整えてやりましょう。
今の段階で無理をして枝を整えても、とにかく葉がじゃまをして姿が見えませんね。

というわけで、今回の美男桂は3枚の画像をご紹介するだけになりました。
次の機会には葉を落として樹形の構想に入れると思います。

それでは次の機会に。