2020年11月16日月曜日

岩しで中品

20代の中ごろに現在の場所(千葉県松戸市)で盆栽屋を開業し、はじめて国風展に入選経歴をもった名木を商売したのはそれから数年ほど経ったころでした。その時の樹種が、当時は「朝鮮ソロ」と呼ばれていた「岩しで」の単幹の模様木だったことは、仕入から売却の値段までふくめてはっきりと覚えています。

ある日訪ねると、よく可愛がってくれた市内の盆栽愛好家のご隠居が、その年の国風展に展示したばかりの「岩しで」の名木と、私がご隠居に売り込むために車に積んでいた少々難ありの五葉松とを交換してやるとおっしゃるじゃあ、ありませんか!

まるで狐につままれたような私に向かってご隠居はさらに付け加えました。「わしはどうしてもあの五葉松がほしいんじゃ、条件が交換に不満ならさらに○○万円つけてやるよ!」と言いながら、札束とはいえないけれどちょっとまったお札を私の手にねじ込みました。
そして、驚くべきはその金額は私の持ち込んだ五葉松を数鉢買えるほどの額であったことでした。

あの日、いつも以上に機嫌のよかったご隠居さんの顔は今でも忘れられません。
ただ、その上機嫌の原因だけは未だに不思議な出来事のままで不明です。
このようにしてご隠居からただ同然というより、おまけ付きで(ただより安かった)購入したあの「岩しで」はその後何年かして、ある有名展示会に出品されているのに出会いました。

私のような若造の盆栽屋に盆栽の売れるような楽な時代ではありませんでした。
きっとそれを見越して親心で施してくれたのでしょうね。ともかくあれ以来「岩しで」のいい木に出会うとあの当時の世相や盆栽業界やご隠居のことなど、懐かしく想い出されます。



「岩しで」 樹高33×左右38cm

畑作りでないので、幹は細いが持込の古さは半端じゃないですね。
木肌と詰まった枝先を見れば一目瞭然です。



向かって右側の枝の吹き込みがやや物足りないのは、来年度の宿題ですね。
頭が少々大きいのも追い込みの必要ありです。


足元の子根の整理も必要ですが、来春の植替え時にやるつもり。



とにかく時間がかかっている盆栽は見ごたえがあります。


ひやー!
込みすぎですね。


足元の子根が親の足元を締め付けています。くるしそー!


後姿。


後ろの足元の安定感が魅力。


野性味が特徴の「岩しで」


上下左右の枝の強弱のバランスをとってやるのがこれからの課題です。


「岩しで」の持ち味は野性味溢れた木肌と枝先の力強さにあります。
5年計画で一流展示会「国風展」の三点飾りを目指します。

 

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