2005年4月28日木曜日

盆栽志願者(定年からの出発)

先日電話で約束したAさんが、昨日午前中にやって来ました
Aさんは大学を出て40年近くを文字通り「企業戦士」「会社人間」として頑張りぬき
最近定年を迎えたばかりの方

「盆栽初心者」というより正確には「盆栽志願者」と言った方がぴったりの超初心者です
理系の人らしく話し方も几帳面で正確、そして、盆栽を一から勉強して自分の趣味としてマスターして行きたいとのことでした

普通、盆栽愛好家はふとしたことから盆栽に興味を持ち、そのうちに盆栽友達が出来たりして
何気なく夢中になり試行錯誤を繰り返すうちに、いつの間にか盆栽趣味者らしくなっていく場合が多く

その何処かの過程で、私達のような盆栽専門業者と巡り会い
意気投合し長いお付き合いになるのです

ですから、巡り会った時点でも、たいがい何ほどかの盆栽知識を身につけているものですが
見たところも聞いたところも、Aさんの盆栽知識は限りなくゼロに近いのです

正直、このような「志願者」は珍しい
ともかく、Aさんの人柄を見て考慮した結果、「一から勉強」というAさんの意思を充分尊重しながら

「盆栽とはなんぞや?」なんて理屈っぽい面も教授し
Aさんが一人前の盆栽趣味者になれるように、ご指導して行くつもりです

今日のお話の要点は「盆栽と園芸の違い」についてでした

・ 園芸とは、花や葉など、植物美をそのものを楽しむもの
・ 盆栽とは、その植物をもって絵を描くこと

例え話のような、初歩的であいまいな説明ですが
目を輝かせたAさんは理解してくれたようです

振り返れば、5年前の私だってまったく知識なしの「パソコン志願者」たっだのです
デジカメを亀の一種だと思っていたくらい

がんばれAさん!


Aさんがまず手に入れたイボタの根連なり



出猩々の素材



けやきの箒作り

2005年4月20日水曜日

越前芳水

芳水は本名を吉田善蔵さんといい、福井県で盆栽園を営む盆栽の専門家
私も属する日本盆栽協同組員で、いわば同業の仲間です

北陸人らしく熱いものを内に秘めたような寡黙な人柄ですが
こちらから水を向けると、鉢作りのことなど熱心にお喋りをしてくれます

作風はやはり盆栽の専門家らしく、盆栽の引き立て役としての「樹鉢」を第一の念頭にしているようで
機能面や色彩面、また絵付け鉢における図柄などにも気を配っているようです


越前芳水作

盆栽の専門家らしく、植えてよし眺めてよしの鉢

長方鉢は宮崎一石ばりの淡い静かなタッチで品格のある呉須絵
この呉須の色彩も植えられる盆栽の邪魔にならないように意図したのでしょうか、非常に淡いタッチで描かれています

間口を狭め深さをタップリとった実用に最適な姿
ボディーがかなり薄手に作られているのもこの作家の特徴です

やはり盆栽の実際家であることが顕著に作品に現れている感じです






越前芳水作

↑で芳水の作品の特徴の一つに、ボディーが薄手であるとお話しましたね
そのためでしょうか、芳水作品にはこの鉢のように、ゆがみの出たものが多いようです

ましてこの鉢のように、縁の構造が単口(ひとえぐち)だと、外縁の構造と異なり
建物でいう柱がない状態なので、高温で焼く磁器の場合はゆがみが出やすいのです

作者自身もこのことには充分承知をしていると思いますが
やはり、盆栽の専門家として多くの樹鉢を見てきた経験から、薄手のボディーのよさに惹かれるのだと思います

私も盆栽屋ですから、心理として、そのあたりは理解できます
作品の歩留まりの悪さを承知しながら敢えて挑戦しているのでしょう



他の磁器作品と見比べてください
僅かながらも芳水作品は全体に薄手です

2005年4月19日火曜日

心山について

心山はという鉢作家は一般には佐野大助鉢の生地やさん(ボディー作り)としての名が売れています

これはよく考えてみると、現代陶工の中では特異なことであって
改めて周囲を見回してみても、このような作家はめったに存在しないのです

確かに、大助との合作によって世に出たともいえますが
その単独の作品にもかなり優れた味のよいものに出会うことがあります

その作風はいわゆる江戸前ともいえる軽妙でお洒落な
見方によれば「粋」な感じのものによく出会います

肩に力の入り過ぎないゆったりとしたボディーや手慣れた釉薬の施し
さずがベテランの味と感心させられます


心山作  

佐野大助のボディーで有名な心山のオリジナル作品
みごとなバランスのボディーに織部釉と辰砂釉を掛け分けた秀逸な作品






心山作

織部焼風の洒落た文様が秀逸な作品です



2005年4月17日日曜日

山もみじ呼び接ぎ

盆栽の技術の中で「呼接ぎ」はかなり便利なものです
とにかく、枝の欲しいところに枝を生やすことができるんですからね

さて紹介しましょう

まずほとんどの樹種に適用できること
それに安全で確実な方法であり成功率がほぼ100%ですから、なお嬉しい


この山もみじは、向かって左の緑のピンのある位置に枝がなかったので
頭頂部の芽を伸ばすだけ伸ばし、枝の欲しい箇所まで誘導しました

幹には、誘導した枝がすっぽりと埋まる大きさの切込みを入れ
枝の方は、溝と接する面の表皮を薄く削り取り、あとはこのようなピンで留めるだけです

お互いの形成層同志が交差し、接木の原理で一年ほどでくっつきます
施術箇所に水や空気に触れないように、カットパスターなどの癒合剤を塗っておきましょう


骨格と施術箇所の拡大図です

呼接ぎのくっつき具合の目安は
穂(接いだ枝)の接いだ箇所から先が、その手前より太くなってくれば
幹からの養分が補給されているということですから、成功とみていいでしょう


裏面より

ピンの位置の手前と先では、まだ穂の太さが同じようですね
はっきりと太さに差が出てくるまで辛抱
差が出てきたら手前の枝の直径の半分くらいまで切り込んで様子を見ます

早まって完全に切り離すと、幹からの養分だけでは生きられないことがあります
それまでは穂先の芽は伸ばしっ放しにして充実を図ります


裏面の図

呼び接ぎを施す時期は、成長期(4~9月)であれば何時でもいいのですが
最適期となれば、やはり活動の活発な春から夏前ということになります

2005年4月16日土曜日

井上良斎

盆栽界においては伝説の陶芸家ともいわれる「井上良斎」
初代は文政11年(1828)の生まれで、以後三代目に至るまで陶芸界の至宝といわれるほどの活躍をしました

時代的な流れでみると、盆栽界における作家としては幹山伝七、真葛香山と並ぶ最高峰であり
そのあとに竹本隼太や小野義真、次いで植松陶翠、そして水野東福寺や月ノ輪湧泉が続いています

このように幕末から明治、大正、昭和と鉢作家の系譜をたどってみても
まさに古典中の古典に位置づけられるのです

いずれにしても、良斎の作品となると数は極端に少ないので
機会があれば鉢に限らず必見です

現代の盆栽界では日本一といわれる「高木盆栽美術館」より放出された貴重品
よくご覧下さい


井上良斎作   碁盤形正方香炉

暗草色の側面には草木の地紋が描かれ、渋めの釉薬を施した碁盤目に強いコントラストの白黒の碁石
優れたデザイン性が感じられます

そしてその格調のある意匠から、ほのぼのとした身近な親しみも同時に味わえるのは
当時は実用に供される機会が多かった「香炉」という道具の性質を、良斎自身が知悉していたことの証でもあります


側面の図


何気ない風に見せながら、縦横のバランスや碁石の配置にはかなりの配慮のあとが窺えます


碁石の配置が何気なくて素敵です


火屋(ほや)を外したところ


同じく火屋を外したところ


底のようす
足の作りも簡素で何気ない感じがかえっていい






良斎の落款

良斎作品には他に「井上良斎」や「大日本良斎」等の落款もあります
「大日本」という落款は戦前の外国へ向けての輸出用の作品であったと言われています


共箱の表書きの署名と落款

2005年4月13日水曜日

鉢は出世するのか(鉢の時代感について)

盆栽を見て「うーん、これは将来よくなるね」という言葉はよく聞きますね
成長する植物では当然のことですが、それでは盆栽鉢は将来よくなるのでしょうか

結論をいえば、よくなるのです

盆栽鉢の世界においては、何にもまして「時代感」が尊重されますから
長年の上手な使い込みにより古い趣が滲み出て、これはと思うくらいに観賞価値が上がるのです

例えば、同じ鉢作家の同じタイプの作品であっても
時代感の優れたものは数倍の値段ということも稀ではありません


やや20年ほど前に製作された伊万里焼の小鉢一対
向かって右の鉢はいくらかの年月使用された痕跡はありますが、左のものはまったくのサラ(新品同様)

↓を見てください




同じサイズでタイプも同じ鉢、おそらく20年くらいはタップリ使い込んだと思われます
温度の高い磁器がこれくらいの「時代感」に到達するのには、それくらいの年月が掛かるでしょう

白磁の表面のあでやかさが深く内に秘められ、絵の釉薬も落ち着いた光沢を放ち
なんともいえない古雅の味わいが出ています




新品の鉢を手に入れたときには、実際に盆栽を植えて使うことが理想ですが
そうでないときは、室内にしまっておかずに、戸外の棚に置いて日光に当て、盆栽の潅水時に水をかけてやりましょう

そのままでもいいし、草を植える人もいますし、ただ土だけという人もいます
とにかく自然の雨風や日に当てて2年ほど棚に置けば、表面に水垢がついて落ち着いた雰囲気が出てきます

ですから鉢作家によっては焼き上がった自らの作品を
戸外で「培養」している人もいるくらいですよ

みなさんも実行してください
ただし、傷をつけないように厳重注意です

2005年4月12日火曜日

出猩々もみじの仕立て方

昨年取り木をした出猩々もみじ
早春に親木からはずし仕立鉢で骨格を作りながら根の充実もはかります


出猩々特有の真っ赤な芽出しです、きれいですね

さて、骨格をつくるにあったって、まずは樹芯の位置を決めようと思いますが
とにかく現在の頂上の芽では長すぎますね


ちょうどいい位置に芽がありました
これを一年間伸ばして将来の樹芯にするのがいいと思います

ただし、いますぐには伸びすぎた徒長枝を切らないほうがいいでしょう
計画した新しい芯の芽がもう少ししっかり伸び始めるまで(おそらく入梅ごろ)まで待ちましょう

それまでは枝の中頃で切っておき
元から完全に削り込むのは来春の予定です


骨格の予定略図です