2019年6月29日土曜日

織姫の太枝抜き失敗!

舞姫と同系統の種類に織姫というもみじがあります。かなり以前のことになりますが、徒然草で詳しく解説してありますから、興味のある方は本ブログの検索フォームから「織姫」を調べてみてください。

現在の樹高は16.5cm×間口29cmほどで、足元の幹径は約5.5cmくらいの「織姫」です。根張りは盤状に発達し、立ち上がり付近のたくましさはかなりの迫力があります。幹の模様とコケ具合にも見どころあります。自分の持ち物を自慢するのは気が引けますが、まあ、このくらいボディーのしっかりした本格派はちょっとやそっとではお目にかかれないでしょう。

向かって左の副幹が枝状の動きをしているので、双幹体のような自然な動きをしています。ゆったりとしたスケールの大きな模様木です。

やや下の方から懐を覗き見るような感じにすると、幹のボリューム感がさらに迫ってくるようです。

足元の拡大図です。太いだけでなく根張りにも古色感があって、地べたをしっかり掴んだ力強さと安定感が抜群です。


とこが残念なことに、この織姫は背中に不自然に太い枝をしょっていて、これをうまく切ることが名木へ生まれ変わる絶対条件なんです。私は、例え失敗してすべてを失ったとしても、この欠点を克服しないことには気がすまないと思い込んでいます。
というわけで、入梅ごろを切り込みの予定時期として、昨年の夏ごろに焼け留めのために、その太枝の元に3ヶ所ばかり呼び接ぎをしておきました。

2週間ほど前に呼び接ぎした3本の枝の元を切りました。ところが、十分に活着したと思っていたところ、意外や意外、もう一息辛抱が足りなかったようです。画像にあるように、呼び接ぎ枝の新葉が枯れていますね。ガックリ。

呼び接ぎにっ失敗した太枝は思い切って切り取りました。もちろんこの大きな傷口が肉巻きするのは容易なことではありません。もしかすると傷口から焼けが入って大変な痛手になるかもしれません。
トホホホホ!

幹の直径と同じくらいの大きな傷口です。約3.5cmくらいはあるでしょう。

カットパスターで患部をしっかり守ってなんとか傷口の周囲にカルスが盛り上がってほしいものです。
こんなはずではなかったのに、参りました!






2019年6月18日火曜日

加茂七石

水石界には加茂七石(かもしちせき)という区分けがあります。京都の加茂川に産する石は川の支流や谷によってさまざまな変化があります。その中で代表的なものが次にあげた七つです。それらは庭園の素材や水石として珍重され、平安、室町の時代から日本文化の重要な要素を成してきました。

八瀬石(やせいし),貴船石(きぶねいし),鞍馬石(くらまいし),紅加茂石(べにかもいし),賤機糸掛石(しずはたいとかけいし),雲ヶ畑石(くもがはたいし),畚下し石(ふごおろしいし) 。ベテランの水石家はご存知でしょうが、勉強中のかたは是非憶えておいてくださいね。

サイズ間口17×奥行き8.5×高さ5.8cmの貴船石。いわゆる掌上石(しょうじょうせき)の部類に入るサイズですね。貴船石では紫貴船がよく知られていますが、この石は珍しく八瀬石のような灰色系で、渋みのある地味な雰囲気が持ち味のようです。某有名愛好家より放出された抜群の名品です。

薄型で主峰と副峰の二山で構成された静かな霊峰。深山幽谷の神秘的な世界へわけいった雰囲気です。

山肌の変化に味があり、スケールの大きな景を連想させてくれます。

正面やや上方より。主峰と副峰のバランスが絶妙です。実際の大きさよりも大きく見えるのは、この石の持つスケールの大きな景色のせいでしょう。

後姿もなかなかの厳しさが感じられます。画像では伝えにくいのですが、なかなかに変化のある景色です。


台座を外して見ると石底の変化が見てとれます。名石は台座がなくとも名石ですね。人の手の加わっていないウブ石の魅力が伝わってきます。

紫檀の高級台座。名人クラスの作品で出来上がりのよさは申し分ありません。

2019年6月10日月曜日

舞姫もみじの剪定(株立ちの基本形)

これまでの数年間、親株の先端を摘み込んで下準備しておいた舞姫もみじを、昨年3月、樹高やや10cmくらいで取り木をして、その年の6月に親株から外しました。
早いもので、自分の根で独立して生きるようになって一年以上経過して、春芽も賑やかに伸びてきました。

株の本数が多すぎて株の流れの方向がばらばらなので、株立ちとしての統一性にかけるようです。
遠近感や幹の流れに気を配りながら整理してみましょう。

真正面からの姿。株が多すぎるために林の中の遠近感がよく見えないようです。

後姿も幹立ちが無秩序なためにすっきりとしません。

主幹を中心に約7本くらいの幹立ちにせいりしました。

幹の本数を減らして流れが見えてきました。主幹を中心に前後左右に幹に動きも出てきたようです。
主幹の左のグループの幹立ちがまだ多いようでが、木の成長につれて風景も変化しますから、最初から決めつけないで、徐々に完成を目指すようにします。

今年いっぱいは現在の仕立鉢で育て、来春にはやや薄型の楕円鉢に植替えます。そのときを楽しみにのんびりと培養しましょう。

2019年6月7日金曜日

真柏(山採りと養成もの)

昔からの代表的な人気樹種の「真柏」がこの数年、改めてブームといえるような大人気です。主に中国、韓国などにおける急激な需要の増大が原因ですが、とにかくこの勢いはすごいものがあります。
写真は樹高26×上下33cmの懸崖の真柏です。昔はどんな若い苗であっても「真柏」といえば「山採り」であることが当たり前でした。これらのような大衆的な真柏盆栽は、挿し木苗の素材に針金で強い曲をつけて、畑や大きめの鉢で短期間に促成栽培されていました。「山採り」の素材はそれらとはきっかりと線引きされた高級品で、まるで格の違うものとして非常に珍重されていました。

「山採り」と「養成もの」の格の違いは、何を基準にしてその差をつけられたかといえば「山採り」の場合、「養成もの」に比べて想像もできないくらいの年月がかかったからです。ジンやサバに宿った天然自然の風格は想像を超えた年月がかかっており、その稀少性からも特別に珍重されてきたのです。

ところが、あまりの急激な需要の増大により「山採り」だけでは需要を満たすことはとても不可能なため、昔は一段も二段も格下に見ていた「養成もの」でも、ある一定以上のレベルのものは「真柏」の盆栽として認めていこうとの傾向がみられるようになってきました。

挿し木素材に「山採り」もののような強い模様をつけ、サバ幹や枝ジンの彫刻を施して「山採り」の味や風格を演出しています。

50年から100年の樹齢がかかる「山採り」真柏も、10年以内で風格ある小品盆栽として見られるようになりました。盆栽界での技術の進歩は著しいものがありますが、盆栽に対する考え方などの変化も見逃せないものがあるでしょう。
このように、時代により盆栽の定石や定義などが少しずつ変化することは、決して妥協や迎合などの後退の傾向を示すばかりとはいえず、次の時代を迎えるための新しい試金石と捉えるべきでしょう。

後姿。


後姿。

2019年6月4日火曜日

岩しで

シデ科の盆栽樹種で知られているのは紅芽ソロやクマシデがあります。紅芽ソロはおもに寄せ植えの材料などに用いられることが多いようです。また朝鮮半島に自生するシデ科の樹種は、青芽でやや葉が厚く芽先も鋭い野性味の濃い感じがします。木肌も灰褐色で持ち込みとともに、独特の古色感を醸し出してくるのが特徴です。
樹高19×左右29cm。樹形的には足元の強い屈曲が特徴的で、さらに大きく羽ばたくような左右の枝の動きに変化があります。枝の表情に躍動感があって樹高のわりにスケールの大きさが感じられます。

丸味を帯びた厚味のある青い照葉が特徴です。芽先はもみじや楓よりも強靭な印象です。

山もみじなどより男性的な印象です。ですから足元や枝分れなどにも、山もみじのような女性的なきれいさよりも、山採りらしい荒々しさが求められます。

後姿。

後姿の拡大図。この角度からも構図が成り立っているようですね。
あと数年の培養で枝ほぐれを促進させれば、観賞価値はグーンとアップするでしょう。
雑木類の中では肥料を好む樹種ですから、多目の肥料で育てます。

2019年6月3日月曜日

木萩の株立ち

キハギは黄ハギではなく木萩と書くのが正解です。万葉の昔から日本人にとって深いなじみのある萩の仲間ですが、木でありながら草のようであって、そのため名木と称するような立派な盆栽然とした姿にはなりません。多くは草物盆栽風にやや木質化した状態で添え草風に仕立てて楽しむのが普通です。


樹高20cmで左右も20cmの株立ち樹形。もともと単幹の太い木にはなりにくい潅木なので、このように本数を制限して株立ち状に作るとまとまった景色を表現することができます。

長年の丁寧な持込みにより足元にも落ち着い雰囲気が表現されています。

表皮が剥けて百日紅のようなきれいな木肌になります。

明治の文豪・夏目漱石の句に「行けど萩 行けど薄の 原広し」というのがあります。いかにも漱石らしく軽妙でありながら強く寂寥感をにじませた句ですね。

後姿。おそらく愛好家さんが長い年月をかけて丁寧に作り込んだ作品でしょう。里山の風景を彷彿させる情緒にあふれた一鉢です。