2010年6月26日土曜日

スクール速報・真柏取り木

昨年の春先に取り木(針金結束法)をかけた真柏
激しく捻転した力強い幹筋を、10㎝前後の樹髙にまとめようとの意欲的挑戦です

今日ご紹介するのはその中の一本で、今はハシやんの持ち物ですが
すでに今年の春には発根が確認されています

6月13日のスクールの日
ハシやんがその真柏に挑んだのです

私は他の生徒さんのお世話もあって、ついウッカリ、全課程の写真を撮れなかったんですが
ともかく作業前と作業後の画像を紹介し、またの機会の参考にしたいと思います


この真柏の仲間は10鉢ほどあって、すべて今年の春に発根済が確認されていますが
私は9月過ぎまで根の充実を待ち、その時点で以後の対処法を検討するつもりでいます

しかしハシやんは、現時点での発根の状態を詳しく確認し
その位置が気に入らなければ再び手術をし、理想の位置に発根を促そうとの魂胆です

商品であるために、時間をかけて安全策をとりがちの私に比べ
果敢な冒険心旺盛なハシやん、見上げたもんですね


検証の結果、理想的な箇所には発根が見られなかったので
そこの表皮を大きく削りとり発根促進剤(メネデール)を塗布して、再チャレンジとなりました


しかし、転んでもただ起きないのが、ハシやん流です
私のように用心深く漸進的な流儀をとりません

将来不必要になりそうな絡みの枝をバッサリ
皮を剥くまで一気にやり遂げました

余談になりますが、、盆栽は時としてこの思い切りが大切
適期に適切な処置をしてやることが、大幅な時間の短縮(近道)になるからです

もっとも、我慢をすることにより近道を通る結果になることも度々あるので
その判断が盆栽を育て上げる上で重要なポイントとなります

ベテラン愛好家はその長い経験により
思い切りと我慢との両方を上手に使い分け、時間の短縮を図っているというわけです

さて、この続編は秋になるでしょう
楽しみですね

2010年6月24日木曜日

スクール速報・姫しゃら

数十年前、姫しゃらが盆栽界で一大ブームになったことがありました

自生地(箱根や天城地方)では、それまでも盆栽として楽しまれていたのかもしれませんが
そのころの全国盆栽ファンの心をあっという間に魅了してしまったのです

同じ仲間の夏椿は、その瀟洒な枝振りや木肌の美しさや
あっさりした花の風情が一部の数寄者に愛され、茶庭風の庭園などによく植えられていました

ところが、その夏椿よりも枝が繊細で、葉も花も小さい
木肌の美しさはたとえようもなく、盆栽人たちは姫しゃらに飛びつきました

ブームが続き流行りにはやったその姫しゃらにも、約10年ほどしたころから人気に陰りがでてきました
というのは、かなりのベテランが手にかけても、夏が蒸し暑い平野部ではどうも培養がうまくいかないのです

ちょっとしたことで樹勢を損なうと、たちまち枝枯れする
自生地のような木肌の美しさを盆上では再現できない

などなど

最初は理由がはっきりとせず、個々の培養の巧拙によると思っていた盆栽人達も
やっとのことで、姫しゃらの自生地が夏も涼しい高地であることに気がついたのです

けやきなどに代表されるように、おもに平野部に自生し、また夏の蒸し暑さにも強い樹種と違って
姫しゃらやブナなどは、夏も涼しい避暑地のような高原(たとえば箱根や軽井沢)の気候が好きなんですね

つまり樹種的な人気だけが先行して
培養法がついて行けなかったというわけです

そんな経過をたどりながら、一時的なブームははるか昔のことになりましたが、やはり姫しゃらの魅力を盆栽人が忘れたわけではありません
培養法が確立されて今では、平野部の都会でも国風点に入選した名木がりっぱに育っているのが見られるようになりました

以上から、姫しゃらの培養法の要点は

寒冷紗などで保護し、真夏の直射を必ず防ぐ
1年おきの植替えを励行し、樹勢の旺盛を心がける
過湿をさけ、やや辛めの水やりを実行する
冬の乾燥した風を避ける
芽摘みは葉透かしなど枝先の新陳代謝を常に心がける

などです


スクールの最年長、ツカさんの姫しゃら中品(樹髙約30㎝)

直幹体に近い木姿が多い姫しゃらのなかで、めずらしく自然風な模様木は貴重
現在、一の枝に力をつけるためにその部分の芽摘みや葉透かしは控えています


足元に力強さも感じられるようになってきましたので、もう一息
幹肌に姫しゃら独特の滑らかさが足りませんが、樹勢も好調なのでこれから一皮むけるごとに、瀟洒な感じも出てくるでしょう

蒸し暑い関東平野の町中の環境で、ここまで培養できればりっぱなものです
がんばれ、ツカさん!

2010年6月19日土曜日

山もみじ・枝葉と根

↓の山もみじをご覧ください
葉の色つやもいいし新芽もほどよく伸びていて、とても「元気がいい」

今年の春から今までに芽摘みや片葉刈り、それに残された片葉を切って表面積も減らし
若い枝先に勢いが集中しないよう、樹勢の制御にも心を配っています

そのおかげで、外側の芽にも勢いが集中せず、フトコロ芽も蒸れず
勢いが多数の芽先に分散しているので、特別の徒長枝も見られません

このように、程よく若さも具えた「元気がいい」という状態が、健康面はもちろん
枝作りの課程にある盆栽にはとても大切なことです

その極端な例が枝の基本中の基本を作り始めたばかりの
楓石付きの枝作りの例

春を迎える直前に枝をすべて切り払われた楓は
枝葉:根のバランスを崩されてすっかり若返ったのです

★ 植物はその健康な状態において、枝葉の量<根の量になると若返り
枝葉の量>根の量の状態になると老化します(もっと詳しい説明が必要かな?)

ちなみに、植物を枝葉と根の量の比率から世代別(樹齢に関係なく)に例えると

枝葉の量<根の量 幼年期・少年期

枝葉の量<根の量 青年期

枝葉の量=根の量 壮年期

枝葉の量>根の量 老年期

ということが言えます

盆栽は便利ですね
枝葉や根の量を人工的に調節(植替えや剪定)することにより、少年期から老年期までを自由に往き来できるのですから

今日の山もみじは、枝葉<根の状態の健康な若木(青年期)なので
芽摘みや葉切りに耐え、しかも新しい枝を分岐させる力も保っており

前述の楓石付きは、大幅に若返って少年期に近い状態になったので
あのように数10㎝の新枝を何本も伸すことができるんですね



画像①

青年期の課程にある山もみじ
枝の基本が出来上がるまでのあと数年間は、青年期の若さを保つようにしましょう



画像②

植替え前の姿
樹齢は25年くらいになりますが、枝や芽先は瑞々しく、まさに青年期です



画像③

上からの画像



画像④

培養に細心の配慮をしながら枝葉と根のバランスをとり
青年期の若さを保ちながら枝作りをします



画像⑤

芽摘みや葉切り、葉透かしなどの技術を使い、木に適度な刺激を与えます
活力ある青年期の山もみじは、よくそれに答えてくれます



画像⑥

同じ樹齢の山もみじの画像

植替え時期を逸したため、枝葉の量≧根の量の壮年期から老年期の状態の山もみじ
葉数も少なく芽の伸びも鈍いため、芽摘みや葉切りは行っていません

みなさん、今日のお話、ご理解いただけましたか?

枝葉と根の量のバランスは、盆栽の原理の基本中の基本のことなので
機会がありしだい、もっともっとお話をしていきたいと思っています

それでは

2010年6月17日木曜日

楓石付き枝作り

4月の末ごろから5月に新芽の長さが程よくなり
針金かけに堪えられしっかり感のついたころを見はからって、枝の基本作りに取りかかります

今年の1月の姿

枝作りのポイント

1 まず、完全に不要と思われる胴吹き枝(芽)を元から切り取り、必要な枝(芽)だけ残す

2 必要か不必要か判然としない枝(芽)は、慌てて切らずにとりあえず残す(切るのは後でも間に合います)

3 1箇所から数本の枝(芽)が出ている場合は、まずその1本に針金をかけ、成功を確かめてから他の枝(芽)を切り取る

4 節間(せっかん)の詰まった枝(芽)を選び、特に枝元にしっかりと曲を入れる
  針金をかけやすいように葉刈りをしてもいい(先端の葉刈りは絶対不可)

5 強く曲げる枝には二重に針金を巻く(画像のように巻くと折れにくい)

6 充実感が足りない枝(芽)は数週間待ってから実行する(第2次目の作業とする)



針金外しの目安は作業後3週間から4週間
早いものなら2週間ほどで食い込み始めます



芯の部分です、4週間後に外しました、ちょっと遅かった!
車の轍(わだち)のように枝の表面が凹んでしまっています

まあ、秋まで先端を切らずに徒長させるので
これくらいならば痕は残らないでしょうが、これがもっと小さい盆栽の場合は気をつけてくださいね

芯の先端には添え木をし、今年の落葉期までどんどん伸します
強い風で揺すられて折れてしまうことがありますから添え木は必須

また、新しく立てた芯の付近に短めの枝が数本あります
それらは何時でも切れるので、なにかのときの予備に今は切らずにおきます

ちなみに、従来の芯に当たる部分の肉が盛り上がっているのが見えますね
今春に削り込んだばからりですよ、楓の生命力は驚くばかりです、すごいですね



芯の部分を後ろから見ます



正面から向かって左の子幹の頭の部分



新枝にはしっかり曲の癖がついています
くどいようですが、針金をかけている期間は2週間から長くとも4週間です、くれぐれも



始めの完成予想図ではなかった前枝も作りました
全体の姿に奥行きを出すために、前枝はしばしば重要な役目をしてくれます



各部分の針金のようす



各部分の針金のようす

今後の予定

1 各枝の先端は切らずに多肥多水の培養に徹する

2 第1次では未熟であった新枝も、1ヶ月くらいするとかなり充実してきますから
  様子を見ながら第2次の針金かけを実行します
  
3 くれぐれも新枝の先端は切らないように!
  とたんに枝の太りが鈍りますよ

では、また

2010年6月15日火曜日

スクール速報・さつき盆栽

陽気なターさんが参加した日は、スクールの雰囲気に元気が出ます
というのは、ターさんその人は健康面に大きな不安をかかえているにもかかわらず

そんなことをひとに感じさせず、自らに打ち克ってほがらかに生活しているからです
これは、自らの身におきかえると非常な勇気のいることだと思います

ですから私はいつも、ターさんから元気と勇気をもらっている気がしています
ターさん、いつもありがとう

さて、今日紹介するのはそのターさんのさつき盆栽で
品種名は日光という名品種から出た五光(ごこう)

樹髙は25㎝くらいで、太くはないが根張りがよく傷っけのない素直な幹筋をもち
枝順もよく自然体の感じのいい姿をしています

立ち上がり付近の枝を子幹として立ち上げて双幹風にまとめています
このような樹形を盆栽界では「途中双幹」と呼び、自由な自然味を愛する人が多いのです

聞いたところ、以前は仲間のツカさんの持ち物だったそうで
「おー、ターさん、いい木じゃないの」と私が褒めると、「そろそろオレに返せっていってんだよ」とツカさんが割って入りました(笑)


白釉の丸鉢が軟らかい幹筋を受けとめよく写ってますね

今年は4~5月の天候が不順だったので、さつき系統は10日から2週間ほど大幅に開花が遅れましたので
今が満開の時期です

さつき盆栽の手入れのコツは、この満開後なるべく早めに花摘みを敢行すること
初心者はついつい惜しくて遅れがちになりますが、ベテランは満開前の蕾の時期から摘み取り始めます

さつき盆栽にとってこれだけの花を咲かせ、さらに10日も20もそれを維持するのは大変なエネルギーがいるんですね
盆栽を過度に疲れさせないよう、早めの花摘みを実行してください

ですから、花摘みのあとに剪定をし、植替えた鉢以外のものには必ず肥料をやりましょう
このように開花のあとにやる肥料を「お礼肥」などと言ってますね



さつき盆栽の木肌は、古さの表現、例えば松泊類の深い割れやもみじ類などの美しい縦縞などが
他の盆栽樹種に比べやや希薄な感じがします

しかし、根張りの発達しやすい樹種なので、持ち込みものを注意深く観察すると
古色感も十分に堪能することが出来ます

このさつき盆栽も根張りがよく発達していますね

ターさんがツカさんから譲ってもらった数年前には、→で示した子幹の下
つまり立ち上がりの部分が、やや細かった(元細)そうです

でも、太い幹や枝の下は水揚げが活発ですから、気長に待てば必ず太って来るものなので
ターさんのさつき盆栽も元細はみごとに解消され、自然で逞しい立ち上がりの姿となったわけです

2010年6月1日火曜日

三年後のチリメン桂

盆栽樹種の中でも極端に成長が遅いことが知られているチリメン桂
それでも真剣に3年も培養すると、かなりの変化を見せてくれます

とはいえ、人間の記憶力はあいまいだし、成長の早い樹種に比べると微々たるものなので
写真を撮って画像を保存しておき、後で比較してみるのが一番です

比べてみて、出世していればこれからの張り合いになるし
もし下降線をたどっているようであれば、再建計画を立てるための指針にもなるでしょう

ご紹介するのは、フリースクールの常連のクロちゃんが挿し木から仕立てたチリメン桂の双幹ミニ
3年前、ある盆栽を買って頂いたときに下取りさせてもらったと記憶しています

たしかその当時で6~7年生だと聞いたようですから
そろそろ10年選手ということになります


2007年の姿(樹髙11㎝)

挿し木から無理な肥培をせずじっくりと育てたので
若木ながら幹筋や枝順などの基本的骨格はすでに出来上がっています

素材から仕上げる場合

当初は幹筋や枝順を決めず、とにかく肥培管理に徹しながら
「太らせる」ことを最優先させ、幹の太さが目的に近いところまで達してから樹形の基本作りにとりかかる

反対に、幼い苗の時代から幹筋と枝順の基本作りを意識し
無理な肥培はせずにコツコツと気長に培養する

大ざっぱに云うと以上の二通りの方法があります

ちなみに、最初の方法は短期間に太みのあるボディーを得ることができるが
基本作りのときに切り戻しの傷などができやすい

後者では、素直できれいな幹筋を得ることはできるが
力強い迫力のある幹筋を得るには、かなりの年月がかかります

つまりどちらにも長所と短所はあるんですね

しかし、ベテラン愛好家のほとんどは、ある時は徒長枝などをうまく利用しながら時間の節約をし
ある時は基本の骨格を崩さないよう、上手に制御しながら辛抱強く育てるなど

適宜に両方を使い分けることができていますね

あなたはこのチリメン桂はどちらの方法で培養されてきたと思いますか?
そう、几帳面で気長な愛好家さん向きの後者の方法ですね


今年の画像です

まず第一に気がつくのは、幹の太さはほとんど変わらないけれど
木肌の古色感としっかり感に3年間の培養の成果が感じられます

それと、親幹の上部から差し出された枝の利き枝の充実も目に入りますね
枝元のあたりが太っているのが見て取れます

また、樹冠部や各枝の棚もかなり吹き込んで充実してきましたね
もう一息の感じまでこぎつけたようです

太さは同じようでも、盆栽としてのポイントは以上のあたりです
3年前の姿と比べてみてください

両者の相違に気がつくようなら、あなたの観察眼は成長していますよ
もし、何度見比べても「?、?、?、どこが違うの?」だったら、これは勉強不足ですぞ


3年前の幹筋の拡大図


現在の幹筋

両者を比較して一番強く感じられたのは、「持ち込みの味」の違いです
とにかく古ぶるしく落ち着いた感じのことです

この持ち込みの味は盆栽にとって一番大切なことで、一種の「風格」ともいえるでしょうが
これらを感じ取るためには、普段から注意深く盆栽を観察し鑑賞してのみ培われる「眼力」が大切ですね

それでは今日のキーワードです
「持ち込みの味」・「風格」・「眼力」、それと素材の育て方に「二通り」の方法があるということでした