2008年9月12日金曜日

是好さの色紙より

先日市内の愛好家さんの数人と一杯飲んだとき、是好さんの話が出ました
是好さんが健在だったころに、市内の盆栽展示会へ度々私が案内役をしたものです

あれからどれほどの月日が経っただろう、20年か、いや25年は経つよ、などなど
ひとしきり昔の懐かしい話に花が咲きました

私の年齢は、業界(日本盆栽協同組合)においては、平均年齢を少しばかり上回っています
かなり上の年齢の先輩たちも大勢いるのですが、後継ぎのいる園では息子さんの名義になっていることが多いせいでしょう

しかし、市内の愛好家団体(日本盆栽協会・松戸支部)の一員となってみると
まだまだ下から数えた方がはるかに早く、若造の部類に入っています

しかし、改まって周囲を見回してみると
当時青年から壮年に差し掛かっていた私が親しくしていた方たちの多くが、今はすでにいらっしゃらない

また存命であっても、車椅子やら要介護の生活となっていて
盆栽を楽しむことはすでに無理となっているではありませんか

そんなわけで一杯飲みながら、あの人もこの人もと指を折りながら
懐かしさとさびしさにいつしか深い感慨を覚えてしましました

湿っぽい話になったなーとは思わないで聞いてください
これからが本番なんです

私は、20年も30年も前に亡くなった人たちの思い出話は
盆栽をやってなければ、ダアレもしてはくれませんよ、と常々思っています

あの人の持ってた○○、いまは○○さんが持ってて、よくなってるねー
△△さんが可愛がってた△△、オレのところ来てからずいぶん太ったよ

あの人は管理もよかったし腕も確かだったね
□□さんは目利きだったぜ、贋物なんか一発で見破っちゃったよ

盆栽は愛蔵品を人から人へと受け継ぐ文化であり
さらにそれを愛した人の人柄や精神性も、次代の人へと末長く語り継がれていくのです

まさに、「人生は短し、されど盆栽は長し」



是好さん直筆の色紙
山水図は当時としても珍しかったようです



裏の為書きの年号を見て驚きました
1978年と記されています

もうあれから30年経ったんですね、人の記憶ってやっぱりいい加減でした

2008年9月6日土曜日

加茂川茅舎石

遠山石、滝石、磯形石などともに
私たちに親しみのある水石に茅舎石(くずやいし)の分野があります

茅舎(くずや)とは日本古来のカヤブキ屋根の家のことで
古きよき時代の日本の里山の風景には欠かせないものです

ですから、盆栽の席飾りにおいて、たとえば実もの盆栽に茅舎石を配すれば
穏やかな山村の秋の景色がより鮮明に強調されますし

また長寿梅などにあしらえば、希望に満ちた早春を迎えた歓びの風景となります
草木と水石とが一体となって様々な場所と時を連想させてくれるのです

盆栽席飾りの中でも特に茅舎石が好まれるのは
このように、日本的な情緒のある景色を表現するのにピッタリだからですね



加茂川・茅舎石   間口4.8×奥行4.3×高さ5.0cm

茅舎石は真新しい立派な家を思わせては面白くありませんね(笑)
古びて屋根の茅がやや崩れかかったいたり、柱などもやや傾きかけた感じのほうが興趣があります

この茅舎石は、傾きかけた家の奥から透けのぞく光が侘しさを募らせますね
石の時代感もたいせつなことです、ともかく郷愁の趣を大切にしたいものです



戸障子が破れた感じが寂しげな風情を強調していますね

このように石に穴が開いて向こうへ抜けているのを、水石用語でヌケと呼びが
石の景色に変化を与え重要な役目をしていることが多いですね

さらに、この茅舎石のようにヌケが天然であれば理想的ですが
そんなことはめったにないものなので、目立たぬような少々の加工であればガマンすべきでしょうね



きっちりとした三角形の屋根では面白くない
左右非対称の美が私たち盆栽人が好む感覚です

そして最後に、今までなんどもお話しているように
”石を眺めながらも、じつは見ようとしているのは石でない”
をわすれないように

2008年9月3日水曜日

添配・曙山

盆栽界における唐金(青銅)の添配ものの作者として
英正と並び賞されるのが「曙山」

一説には英正の師であったとか弟子であったとかいわれますが
詳しいことは定かではありません

ただ盆栽や水石の世界との接触はかなり緊密であったようで
20年も前のことですが、私自身が手に入れた水石の台座が曙山作の青銅製でした

水石の台座は木製であるのが普通ですが
自らの愛玩用にか、それとも依頼されての注文制作であったか

あまりの珍しさに非常に感嘆したことをおぼえています
それはとりもなおさず、曙山の盆栽水石界との関わりあいの深さを表す事実です

ちなみに、盆栽界において、この曙山と英正の二人を最高峰の名人としますが
残された作品は曙山の方が圧倒的に少ないのです

作風は似通っていますが、添配を好む仲良しの同業者どうしで
曙山と英正とどちらが優れているかということが話題になり

やはり20年も前のこと、たまたま手持ちの似通った同じ題材を扱った両方の作品(そのときは童牛)で比べてみると
牛の顔や肢体の表現などにおいて、曙山の作品は、写実的な英正作品をより強調した力感があふれていました

これはお互いの優劣という問題ではなく、作風のわずかな違いととらえるべきであり
とにかく両者の写実力と表現力に改めて驚嘆したのでした

さて、今日ご紹介するのは曙山の「唐舟」です
見どころのポイントは二人の人物の動きの表現

ごゆっくりご覧下さい



曙山作・唐舟 間口5.0×奥行1.5×高さ2.1cm

古代中国に題材をとった作品、涌泉の作品にもよく描かれていますね
船中に座す高士と櫓を漕ぐ船頭両者の、体の動きの一瞬をとらえて絶妙です



私には、船中の高士が書見をしているように見え
そしてその右手は、今まさにページをめくらんとして一瞬宙に浮かされています

この小さな作品においても
人間の動作の瞬間を的確にとらえ表現しています



顔の傾き、両方の肩の位置、櫓を握るために伸ばされた両腕の角度など
櫓を漕ぐ船頭の肢体の動きも的確にとらえていますね



反対正面より

どこの角度から見ても絵になります



共箱が存在する英正ですが、不思議なことに曙山の場合共箱作品は存在しないのです
よってその真贋は、落款と作品のレベルで判断します

本作品はもちろんホンモノですよ!

唐舟の屋根の元(船頭の背中方向)に「曙山」の落款有りますね