2005年3月25日金曜日

雑木・植え替え時期の目安と限界

冬囲いを解いて1週間経ちました
その後に一晩だけ寒さがぶり返し、鉢土の表面が凍った夜がありました

毎年のことですが、冬囲いを解いた後の天候は気になりますね
みなさんは上手くいきましたか?

さて、雑木の植え替えは早い人は2月初旬くらいから始める人もいますが
樹種や芽の伸び具合によってはまだまだ間に合います



楓の芽がほころびかけてきましたが
このくらいの芽の進み方なら、後の管理さえ怠りなければまだ大丈夫です

注意
1 風に当てない
2 遅霜に当てない
3 水を切らさない

”かえって芽先の伸びが制御される”
ベテランの人はそういう意図を持って、わざわざこの時期を選ぶこともあります



この楓は、植え替えの予定で仕事場に取り込んだおいたのですが
都合で数日そのままで放置されたものです

置かれた場所が南向きの日当たりのいいとっころなので
さあ、と思ったときには、ほころびかかった芽が伸び始めてしまいました

もうだめです、植え替えは来年まわしになってしまいました

というわけで、画像から植え替え時期の目安と限界を観察してください
ちなみに、↓の楓くらいの芽の出たときが、植え替えにはもっとも危険な時期です

2005年3月23日水曜日

二代平安東福寺

二代平安東福寺は大正8年の生まれで、本名・水野勇
作陶歴は意外に短く、昭和7年ころより昭和14年の出征までの前期と
それよりかなりの空白を経た、昭和45年の初代の死後の後期に大別できます

現存する水野勇の真作のほとんどには「二代」「勇作」「ゆう作」の落款が
父親譲りの楓落款などと併用されており、かなりの出来栄えのものが見られます

ところで、その作品群全体に対しては、偉大な父の陰に隠れた、いはば日陰者的存在の印象が強く
正当な評価がなされていないというのが偽らざるところです

例えば東福寺の贋物を称し「これは初代ではない、二代目だよ」と表現するように・・・

東福寺に多く見られる贋物の代名詞が「二代目」では、これは浮かばれない
浮かばれないどころか、盆栽界のためにならない、みなさんもそう思うでしょ

どうしてこのような混乱が生じるようになったのでしょうか?

水野勇氏は初代亡き後、自ら意識して父の作風に似せ(心ない誘惑もあったのでしょう)
「二代」「勇作」(ゆう作」の落款を併用しない作品を発表した一時期があったのです

また、作風の多彩な東福寺の外見は、意外と真似がしやすい
そんな理由もあるでしょう

だが、とにかく、東福寺といえば初代・水野喜三郎の作品
二代といえば二代・水野勇の作品であって
その他のものは、ありていに言えば「贋作」なのだということを、再認識する必要があります

これは「二代」を「贋作の代名詞」で終わらせないためであり
また同時に、贋作の横行を防ぐ手立てでもあるのです

再び例えれば、東福寺の贋作に対して「二代目でも、とにかく東福寺には間違いないよ」などの
いままで半分くらいは有効であった「言い訳」「言い逃れ」は通用しなくなりますね

しばらくは混乱するでしょうが、これは避けて通ってはいけない道であると確信しています
私たち業者自らも、痛みを伴った改革をするべきです


平安東福寺(二代・水野勇)  梨皮泥切立雲足丸樹盆   間口16.5×奥行16.5×高さ9.8cm

父親の指導に従い、その作風の影響を素直に伝えた傑作
胴のイメージや縁の上部、また雲足の作りに初代東福寺の影が強く感じられますね


別角度より


鉢裏と足の様子


父親譲りの楓落款と自らの落款の併用


小さめの楓落款です


漢字の「勇作」の方が多いようです


平安東福寺(二代・水野勇)  均釉外縁雲足長方樹盆   間口14.8×奥行11.3×高さ4.5cm

長らく日本小品盆栽協会々長をお勤めになった阿具根登(元参議院副議長)先生の旧蔵品
傑作でしょ、二代・水野勇の真作です


やはり形、釉薬、雰囲気など初代の作風の影響が濃厚に見られます


鉢底
この楓落款が普通サイズのものです
やはり自らの落款と併用しています

2005年3月17日木曜日

たる源の話

京都の桶屋の老舗「たる源」の三代目・川尻利三郎は明治29年の生まれ
自然味を重んじた作風で知られた「豆盆栽」の名人であったそうです

「たる源」と「たる源好み」の落款の区別については

「たる源」は自ら手を染めた作品
「たる源好み」は陶工に発注製作した作品と解釈しておけばいいでしょう


たる源好み  染付丸鉢

精巧なロクロ技術
やや押さえ気味の呉須の色彩が独特の落ち着きをみせています


鉢裏
使い込みの時代感が素晴らしい


たる源好み  染付丸鉢

↑の作品とは、磁器の土目と絵付けの筆致など、雰囲気がやや異なっています
おそらく、別々の陶工に製作依頼したものでしょう


別角度


別角度


鉢裏



たる源好み  五彩長方樹盆

たまにはこのような長方鉢も存在します
五彩の愛嬌にみちた絵付けです


↑の2点とはがらっと雰囲気が違いますね
ボディーも絵付けも他の陶工へ注文依頼したものでしょう

「紅梅」の図柄です


裏正面
「松」


鉢底
落款は釘彫の「たる源好」です



側面
「蘭」の図柄ですね


側面
「竹」でしょう

2005年3月11日金曜日

水石の命名

昔の盆栽屋のほとんどが水石も扱ったもので
私も若い頃から諸先輩たちの薫陶を受けて育ちました

ですから、今では盆栽や鉢が主力の扱い商品になってはいても
いい水石に出会うと、こりゃいっちょう道楽してみよう、という気になるんです

昨日も小鉢の仕入れに行った先で、多摩川産の
そりゃあ古い持ち込みの、私好みの石に出会いました

多摩川は昔から名石の産出地として
関東では指折りの川なのです

大きさは間口13×奥行7×高さ6cmの手のひらに載る大きさで
真っ黒なまったくのウブ石です


正面より


真上より
山のてっぺんが理想的な位置にあります


裏面
凄い時代感でしょ


石裏は多摩川石独特のソゲで、手が入っていません


台座だって、これ、この通り,宙に浮かしたって外れませんよ、ピッタリです
それに、このアップ画像からも質のよさがわかりますね


気に入った石には銘をつけてやりたくなるのが常です
家に帰って晩酌をやりながら、撫で回して、ひとりでニヤニヤしながら、どんな銘が似合うかな?

今までの持ち主は、この尖った山の景から「槍」の文字を連想していたらいいんですが
それではありきたりで平凡です

この石の最大の特徴が、向かって左側の鋭角に切り立った断崖とその鋭い稜線にある、と見ていた私は
光線の角度により、山の表情が微妙に変化する様を、なんとか銘に結び付けたい考えていたのです

この山形石は右方向に向かってせり出しています
このような場合、向かって右方向からの光は、朝日と連想するのが普通です


逆に、ひと回りした日の光が、山の背(左方向)から差す頃は、夕日を連想します

この画像では、今まさに沈まんとした夕日が、切り立った断崖に照り映え
稜線はなおくっきりと鋭さを増し、さえぎられた光は山ひだに微かな明るさを与えています


更に時間が経過すると、切り立った断崖と稜線の作る影が山肌を包み
山には幽玄の闇が今まさに訪れんとしている一瞬の景色です

まあ、そんな勝手な連想から
この山形石の銘は「残照」と決めたのです

石の命名のコツは「一番美しく見える角度から何度も何度も眺めること」

それでは、勝手な自慢話、終わります