2021年4月27日火曜日

竹本隼太


青磁釉の性質は胎土の成分や窯の状態その他の条件によって、非常に変化しやすいものであるらしい。ご紹介するこの長方鉢は緑釉ではなく、青磁釉と表記されています。他の例を見ると灰色っぽい色彩の青磁釉も多く見られますが、ともかく均一ではなく、一つ一つが変化し自在の色彩となっているから面白いようです。


竹本青磁外縁切足長方
間口9.8×奥行き7.5×高さ4.6cm

深い緑色の釉薬の輝きは時代を経ていっそう落ち着きが出て我々見る者の心を刺激します。使用して味の出る古色感はさほどではなくとも、空気や人の手油などに触れて味わいが出てくるのでしょう。


100年以上を経たとは思えない竹本特有の土目と釉薬の輝き。鮮やかかつ深みのある色彩です。さほどに使い込んだ時代感はありませんが、それだけに100年前の釉薬の輝きが維持されている証拠だといえるでしょう。


独創的なデザインは、当時としては画期的な石膏のプレス加工の成型であり、新しい時代(明治)における先駆的な作品であったといえましょう。


この緑色の青磁釉薬の色彩の深さと鮮やかさが目にしみるようです。


釉薬の濃淡が光線の加減によって質感に変化をもたらして魅力的。


素朴、モダン、独創的。


新鮮な青磁釉の輝きは人の心を元気にしてくれるようです。

 

2021年4月23日金曜日

一陽水盤


平安東福寺や平安香山と時をやや同じくして、戦前から戦後にかけ小鉢界に大いなる貢献のあった三琇一陽。その才能は作陶だけでなく企画・流通・販売までを視野に入れたコーディネータとしての分野にも及ぶ陶芸界には稀有な人物であったといわれています。



三琇一陽蕎麦釉切立丸
間口35×奥行き35×高さ3.5cm

その一陽が、陶芸界においてあの植松陶翠さえ一目おかざるを得ないほどの高い評価を得ている水盤。やわらかな温かみに包まれた雰囲気の蕎麦釉は、一陽水盤作品の根幹をなす代表的な釉薬です。まさに水盤作家としては植松陶翠と双璧をなす三琇一陽と云って過言ではありません。


ゆがみや狂いのないのも一陽水盤の特徴です。


楕円と長方が多く、このような丸型の水盤は珍しい。


鉢裏の様子。





落款「三琇一陽」

 

2021年4月17日土曜日

大助・心山合作鉢

この数年大助鉢が中国の愛好家を中心に大炎上し、おかげで市場からまったくと云っていいほどに姿を消してしまいました。昔のツテや縁故をたよりの細々とした商品の調達ではとても市場の要求を満たすことは無理なようです。

まあ、盆栽鉢を商う業界人としては非常にはがゆい限りですが、加熱したブームが少しずつ静かになるのを待って、長い目で愛好家さんたちの収集意欲が持続するようにお手伝いしていきたいと思います。

佐野大助・赤絵玉縁撫角長方
間口7.5×奥行き6.4×高さ3.0cm

15年以上前に買っていただいたお客様から、下取りという形で譲り受けた大助鉢。「因幡の白うさぎ」の神話から題材を得た波とうさぎの赤絵。成型は心山です。


鉢底が焦げ茶色で足裏の明るい色彩と異なるのは、おそらく紅柄(ベンガラ)を塗って焼いたからでしょう。つまりこの部分だけはベンガラ焼ということになりますね。
渋い!!


大正8年生まれの大助は、健在であれば100歳を超えた年齢になっています。私とは親子ほどに歳が離れてはいましたが、壮年の頃の凄みのきいた表情は今でも忘れません。
「おい、そこのお兄ちゃん、どっから来たんだい?」って聞かれた時には、ちょっとばかりビビリましたっけ。


例えば大助が今生きていたとすれば、現在の大助鉢全盛の小鉢界の様子を見てなんと云うでしょうね?
まあ自信家でプライドの高い彼のことですから「当然、当然、遅すぎるくらいだぜ」くらいの憎まれ口は飛んでくるでしょうね。
旧い徒然草に、私の若かりし頃の逸話を載せています。キーワードは「佐野大助研究」で検索できると思います。どうぞ!


裏正面は寿。


闊達な大助の赤絵と安定感抜群の心山のボディー。


胴と外縁とのバランスが抜群です。心山のボディー成型の力量も秀逸です。


控え目でありながら存在感と重厚感を示す外縁のほどの良さには、目を見張るものがあります。実用鉢としての機能と印象も十分に具えています。

 

2021年4月12日月曜日

月香赤絵


人気作家・伊藤月香の鉢の特徴とその魅力は様々に分析できますが、今日ご紹介するような瑠璃色のボディの四面に額を切り正面に山水図を描いたような作品は、実用鉢と装飾鉢の両面の欲求を満たしてあまりある感じがします。


間口15×奥行き11.5×高さ3.1㎝

切立て(きったて)の縁はシンプルで瑠璃色の窓に緊張感があります。
よってボリュームのある太い樹を植えてもよく似合います。


濃い瑠璃色と赤絵のコントラストが美しい。


たっぷりとした奥行きはまさに実用の美の象徴です。


上に向かって開いたボディーの角度がいい。


反対正面は鳳凰の図。


鉢裏と足の図。


鉢裏と足の図。


月香の最大の特徴と魅力は、近景、中景、遠景が秩序よく綿密な筆致で描き込まれ、見事な統一感にあふれた独特の世界が表現されている山水図でしょう。

 

2021年4月7日水曜日

杉・直幹


杉という樹種は、私たちが盆栽の世界へ足を踏み入れた昭和40年代には、どの愛好家さんの棚にも一鉢くらいは培養されていたものです。さらにその後に訪れた八房ブームともなれば、初心の愛好家さんの棚などは八房の杉の苗で充満していたりしたものです。
ところがその八房ブームが去ったころから、八房はともかく真杉(ますぎ)に至っては一流展示会に出品可能なレベルのものはほとんどお目にかからなくなりました。

杉・直幹 樹高63㎝

杉の木が持っているイメージが他の松泊類の持つ荒々しい大自然ではなく、鎮守の杜のような穏やかな里山の光景を連想させるため、杉イコール直幹の強い印象は相当に根強いものがあり、変幻自在な激しい樹形を好む現代盆栽の傾向にあわなくなったのでしょう。


直幹体であっても変化とリズムを演出するためには単幹だけでなく、双幹や三幹として変化を求めるとよい。


樹冠部はやや大きめにして古木感を演出。枝の長短強弱にも工夫をこらすこと。


下枝を単調に伸ばすのではなく、リズミカルな枝分かれを忘れないこと。


杉盆栽のお手本のような双幹体の逸品に出会いました。八房と違って真杉(ますぎ)は小枝の先端に芽が多く集中しないので、柔らかでシャープな枝先を作ることができます。
作るんならなんと言っても普通の杉(真杉と言います)です。木肌の古色感も間違いなし。

常に部分と全体を見比べて変化と統一を忘れないように、芽摘みと剪定を繰り返します。
それと、水切れは要注意で肥料は多め、フトコロが蒸れないように注意しましょう。

 

2021年4月6日火曜日

図録もの(均釉尚古堂型)


ある盆栽愛好会の交換会で、小鉢界のバイブルと言われている「美術盆器名品大成」(全2巻)に載っているという触れ込みで均釉の尚古堂型を落札しました。実物のできや保存状態は最高。その上に美術盆器に掲載されているとなりゃあ文句なしの買いですね。



平成2年発行の美術盆器大成も酷使されてぼろぼろ


その日はまさに歓喜雀躍、交換会が終了すると家をめがけてまっしぐらのご帰還です。そして帰るやいなや美術盆器をひっぱりだして均釉のページへ、ありましたー!


間口12.3×奥行き9.5×高さ4.5㎝


間口12.3×奥行き9.5×高さ4.5㎝
型や時代の付き方は間違いなし!水色の釉薬は本の方がやや濃いようですが、これは光線の加減だろうと納得できますが、、、、????
肯けないのは下に記してある鉢の寸法です。
間口、奥行き、高さともかなりの差がありますよ。


1ミリや2ミリの差なら慌てませんが、3カ所とも3ミリ、10ミリ、奥行きとなっては20ミリも違います。どうしてこんな酷いミスが起きたんでしょう?


私は、本の画像と実物の画像を高性能のルーペで検証し、両方のガラス質のごく小さな擦り傷や時代感の汚れを比較しました。そして両者が同じものであるとの確信が得られるにいたりました(ホット)

さらに実物の鉢の寸法(95ミリ)から図録との差の20ミリを引いてみました。すると図録の奥行が75ミリは、間口12cmの尚古堂の形としては奥行き不足で、とてもあり得ない寸法です。つまり表記ミス以外は考えられない寸法ということですね。
ということで、これほどの寸法の表示ミスの原因はわかりませんが、ある蒐集家のよると案外に珍しくないことでもあるそうです。それにしても、びっくり!でした。

その世界で知られた専門書に写真入で掲載されている「図録もの」には、何ていったって箔がつきますからね。貫禄がありますよ!




 

2021年4月1日木曜日

外縁隅入雲足長方(尚古堂型)


小品席飾りにおいて、主木用のもっとも代表的な鉢として小品盆栽界に君臨しているのは、今日ご紹介するの外縁隅入雲足長方(尚古型)でしょう。胎土は紫泥と朱泥、釉ものではごくまれに均釉と黄均釉があります。


均釉外縁隅入雲足長方・尚古堂型
間口12.3×奥行き9.5×高さ4.5cm


透明感のある人気の均釉。だが実際にはこのように長い年月の実用に耐えて無傷完品といえるほどの優良な保存状態の名品はめったにありません。


外縁の水切りや隅入りの部分、さらには雲足の部分にもかなりの時代感がこびりついて、雅味と落ち着きが感じられます。


均釉独特の深い輝きが時代感を伴って品格を醸し出しています。


透明感のあふれた海底のように静かに輝く均釉の魅力あふれる雰囲気です。


時代感(古色感)とは?
言葉ではいい表せない魅力あふれた形と色彩のハーモニーがもたらす感動があります。


一世紀もの長き年月、盆栽人の手により大切に愛玩されて証拠は、鉢底に至るまで無傷完品の美しいこの時代感です。
めったに見ることのできない名品です。ごゆっくりご鑑賞ください。