2004年7月27日火曜日

青閑の山採盆栽

この絵は昭和二十九年に自作の盆栽、岩やなぎを描いたものです
青閑のスケッチブックを詳しくみてみていくうちに、面白いことが次々とわかってきました

鉢の部分に培養十年  花落又開  昭和二十九年早春とありますね
びっくりするのはその下の文字です



岩柳

昭和十九年春
神奈川県大船市山崎ニテ採取

とあります

みんさん、いいですか、よく考えて見ましょうよ
昭和十九年という年をです

すでにかの山本五十六元帥は前年の4月に戦死し
空襲に備えて、東京の学童疎開は今まさに始まらんとしていたのです

敗色濃厚な戦時下でですよ
青閑は大船市山崎(現在は鎌倉市山崎)の山中で山採りを楽しんでいたんです!

かなり徹底してますねー
すげーことです

名利にとらわれない世俗を超越した青閑の作風の謎が
このスケッチ一枚から見事に解けました!

これは貴重な資料です

青閑の蛍ぶくろ

この淡彩のスケッチを見ると青閑鉢の絵付けの巧みさが肯けますね
色彩感覚も抜群です


昭和二十六年のスケッチ

2004年7月25日日曜日

青閑と是好

青閑のスケッチブックを手に入れました(30枚)

昭和の20年代から30年代にかけての描かれたもので
彼の素顔に迫るための貴重な資料にもなります

そのうちの何枚かご紹介しましょう



秋花是好

深山紫苑  盆二寸余  草丈又同  風雨有情 
中村是好氏作  昭和二十八年仲秋  凡彩写

深山紫苑(みやましおん)とはキク科の花の名前
中村是好が作った草もの盆栽を写生したものであることがわかります

是好は亡くなるまで東京葛飾・堀切の住人でしたし、当時青閑も堀切近辺に住んでいたはず
二人の交遊のほどが偲ばれます

青閑は凡彩とも名乗っていました

それにしても昭和28年といえば、あの惨めな戦争が終わって僅かに8年
(私は小学生)
まさに、花より団子の時代ですよ

その時代に豆盆栽に興じていたのですね、このように改めてその証拠を突きつけられると
世相を超越した二人の「筋金入りの通人」ぶりがわかって楽しいですね

2004年7月24日土曜日

中堅作家再発見

かなり以前(15年くらい)に間口3cmほどの正方の四面に文字を書いた豆鉢を手に入れました
たしか5,000円だったと記憶しています

鉢裏に(木黄)と釘彫りの落款がありましたが、どう読むのかもわかりません
でも、磁器の生地といい、淡い色調といい、とても静かな雰囲気で気品が感じられました

そのまま小さなウインドケースの中へ入れ、他の小鉢と一緒に楽しんでいたところ
親しい同業者が目に付けて「ほーッ、モッコウさんの鉢があるじゃないの」ということで
木黄(もっこう)という豆鉢作家を知ったのです

数を手がけてみると、その鉢作りの技巧はかなり精密で高度
また施された文様やデザインの文字なども気品に溢れ、なみなみならぬ人物であることが推測されます

東京を中心にした豆盆栽愛好家のなかでは地味ながらそれ相当に知られた作家ですが
このままではもったいない、もっと全国の豆鉢ファンにも知っていただきたい、と強く願っています


木黄作 染付丸鉢

唐の大詩人、李白の「将進酒」という詩の一節を引用し、デザイン性を強く意識して書いています

君不見黄河之水天上来 奔流到海不復回
(君見ずや、黄河の水天上より来たり、奔流海に至りて復た回らざるを)

染め抜きの達筆な文字とその変化にとんだ配列が、藍色の地に映えてみごとな絵になっています
木黄ならではの気品あふれた作品

豆鉢のわずかな空間にスケールの大きな詩文を書くことにより
無限の世界を意識させ、ロマンのある作品となっています


文字の大小や配列が巧みですね
この豆鉢のデザインとして鉢と一体化しています


天の文字を強調してポイントを作っています


木黄書の署名が見られます




木黄作八角鉢
濃い呉須の地に、各面に文字を染め抜いた気品のあふれた作品


木黄作 染付六角鉢

六面に篆刻文字をあしらいみごとな格調の鉢に仕上げています
木黄の持ち味が遺憾なく発揮された格調高い作品

2004年7月23日金曜日

中堅作家再発見

普段からともすると私たちは、すでに評価の定まった一流作家の作品を扱う方が楽なので
そちらへばかり目が行きがちですが、この傾向には反省させられることもあります

中堅作家の作品の中にも、たまには抜群の一級品がまじっていることがあるからです
これからは、そんな作者や作品に出会ったときは積極的に再評価し、皆さんにご紹介していきたいと思います


杉浦景仙作 辰砂釉窯変長方

辰砂釉の中に緑色の窯変がりちばめられた見事なできばえ
一流の作家と比べても遜色ない釉薬の色彩、ボディーの精密さ、そして品格

景仙は昭和10年生まれ
盆栽愛好家より鉢作家に転向したといわれるだけに、使い勝手のよい作品には定評がある中堅作家です

作風は多彩で、釉薬ものから焼締めもの、ボディーの形状もさまざまで
この辰砂釉長方のように、思わずハットするようなレベルの高いものに出会うことがあります

その度に、もっと評価されていい作家であると思っていました

いまから10年以上前、改築される前の上野グリーンクラブの催事売店などに出店していたのを
よく見かけた記憶がありますが、最近は見かけませんね

そう、痩せた色の黒い人で、あまり身なりは構わなず、ボサボサ頭が印象に残っています
元気で作陶しているのでしょうか


安定し格調ある姿ですね
もしこの鉢が「景仙」ではなく「竹本」の作品であったならどうでしょう?

世に名品としてもてはやされるに違いない
それほどのレベルに達した作品だと思います

だがしかし、この一点をもって杉浦景仙を竹本隼太に匹敵する作家だすることできません
生涯の作品全体のレベルや、いかにたくさんの名作を排出しているかなどにより作家の評価や知名度は決まるのです

でも、とにかくこの一点に限ってはすばらしい!
そういう評価の仕方もあると思います


反対側正面の色彩もきれいですね


鉢裏と足のようすにも品格があります

2004年7月22日木曜日

林沐雨・失敗談

関東地方は一昨日、昨日と異常な猛暑
まるでフライパンの上にいるようで、焦げそーッ!

そんな中で失敗談を語るのは辛いんですが
盆栽屋.comだって人間、たまには暑さボケ(欲ぼけかな?)して後悔することがあるんです


一週間ほど前にお目にかかった林沐雨の染付鉢です
少々絵はボケているけど、沐雨の染付は数が少ない希少品

沐雨らしく縁と足に黄色の色彩を施し華やかな雰囲気を醸し出し
ソフトな趣のある佳品です


よくよく点検すると、隅の一箇所に釉薬のかかっていないところを発見
これは???

ルーペでよくよく見ると、窯の中で釉薬が飛んだもの
つまり、釉飛(くすりとび)といって、ぶつけた傷(ホツ)ではありません

後天的な傷(ホツ)と先天的な(釉飛)とは、評価に雲泥の差があるので
これならOK、値段も格安OK、と購入決定!


ところが、家に帰ってよくよく再検証すると、あれ、れ、れ、れッ!
みなさん、画像ではわかりにくいんですが、隅の縦の線が不自然に光っているのです

ルーペでよく見ると、貫入(ヒビ焼の割れ目)へ透明の接着剤(アロンアルファ)のようなものが入っているのが見えます
参った!!!

焼き物に貫入はつきもの
こんないたずらしなきゃいいのに、これで不良品になっちゃうんです

修理しなくともいい箇所でも、修理をした痕があれば、修理品とされてしまうのは当然ですね
これでは、売り物になりません

よろしいですか、みなさん
欠点のある鉢でも、資料的な価値のある名品などはワザと修理せず
傷は傷として認めるのが本来の趣味人の心意気です

目立たぬように修理することにより、なんだか疑わしい品になってしまうんです
ましてや、欠点ではないものに手を入れてはいけませんね

ということで、暑さ厳しいおり、今回は反省!
(いやに値段も安いと思ったんです、じつは・欲が目を曇らせたんですね)


裏面はボケているけれど、沐雨特有の柔らか味のある絵


側面の描き込み、いいでしょ


これも側面


縁に黄色の色彩を施しアクセントに線を入れています
洒落たデザインです

惜しいことをしましたということで、お恥ずかしい失敗談でした

2004年7月20日火曜日

百日紅開花

夏に似合う花、百日紅
花の色はピンク、紫、赤、白といろいろです

そして、花の色が濃いものほど飴色の木肌の色も濃く
特に白花のものなどは、白っぽい幹肌をしています

培養は簡単な樹種で、水も肥料も好きですが
春から入梅にかけてあまり肥やすと、小枝がごつくなるので、秋の肥やしを多めにします

唯一、寒さに弱いという弱点がありますので
冬の乾燥した風には気をつけ必ず冬囲いをしてください

花芽は春に伸びた新芽の先に付きますから、春先の芽摘みはしません
新芽の出る前に枝の整理をしておきます


百日紅らしい自然体の樹形
春に伸びた新芽の先に花芽が付いています


濃いピンクの花

2004年7月17日土曜日

東福寺高取釉

朝鮮出兵(文禄・慶長の役)のおり黒田如水・長政親子が連れ帰った陶工・八山を祖とする高取焼
千利休の弟子の茶人・小堀遠州の指導により、その釉薬はさらに華麗多彩に発展したと伝えられます

探究心の旺盛な東福寺は、この高取焼の釉薬に強く魅せられた鉢作家の一人ですが
その作品は圧倒的な存在感を持ち、まさに「東福寺独自の高取焼」として完成されています


平安東福寺高取釉一対

高取釉の魅力は一口にいって、溶岩流のようなドロドロッとした釉薬の動きと輝きにあるのでが
東福寺はその釉薬の動きを垂直ではなく、縁から斜めの動きに変える工夫をしました

鉢の下辺には釉薬がかかっていず、生地がむき出しですね
このように意図的に釉薬を上部にだけ施す技法を「半がけ」と呼びます

東福寺はこの「半がけ」の技法をさらに下辺を斜めにすることのにより
最大の魅力である、華麗な釉薬の流れの勢いを強調することをねらったのです

それにより釉薬の流れの力強い動きはさらに加速され
東福寺の意図はみごとに成功しているのです

さらに、釉薬の色彩と輝きや量感の豊かさとあいまって
類稀な魅力を発揮しています

釉薬の魔術師、東福寺の世界を堪能してください




釉薬の躍動感、美しい流れの景色です


作者の意図はみごとに具現され
釉薬の流れは絵になっていますね


釉薬の輝きも印象的


鉢裏と足の様子



釉薬溜まりの量感
高取釉の魅力が遺憾なく発揮されています


釉薬の輝き、迫力ある躍動感


神秘的な深みのある釉薬


足と鉢底のようす


拡大図(大)


拡大図(小)

2004年7月11日日曜日

町直・豆盆五景

つれづれ草、しばらくご無沙汰してすみません
更新の途絶えた訳は、生活のリズムを変更したからです

詳しくお話しすると、私は早朝につれずれ草を書いていました
ところが、この三週間ばかり前から、早朝に散歩(歩行訓練)を始めたのです

HPを開設してから以来、週に5日くらいは励行していた散歩を怠けるようになり
最近、かなり足腰が弱ってきているのがしきりと自覚されていたのです

情けない事に、足は細くなるはお尻の肉は削げ落ちるは、おまけに息切れはするし
これじゃ、長くは持たんワイ

ところが、生活のリズムという奴はデリケートなもので
他の時間帯では、つれづれ草に集中できないのです、これにはまいった

というわけで、これから少しずつ調整していきます
よろしく

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私が20代の中ごろ、洗足池のほとりの風致会館で、何度か今岡さんにお目にかかったお話はしましたね
それ以後の作品と思われる楽しい豆鉢のセットを手にしました
みなさんと一緒に鑑賞したいと思います


今岡町直作   銘 「豆盆五景」

箱の寸法は間口15.4×奥行き4.3×高さ5.4cmです
小さいですよ

箱は桐製の上等品で、手前の色変わりの箇所は紫檀をかぶせてあり
下段には紫檀の組み立て式の卓台と地板が収納されています

華麗多彩なこの豆鉢セットには、明治の名工・竹本隼太と
大正昭和の名工・平安東福寺の影響が色濃く見られます

めったに共箱を作らない町直ですが、よほどの自信作であったのでしょう
まさに町直豆鉢の集大成とも言える究極の作品です


前面の框(かまち)に紫檀を施した高級桐箱


蓋の裏書
町直の署名入りの共箱は珍しいものです


付属の紫檀地板に飾った姿


金彩六角鉢
間口1.9×奥行1.9×高さ1.6cm

六角鉢にあでやかな金彩を施した町直の感性はさすがです


白磁正方鉢
間口17.×奥行1.7×高さ1.2cm

竹本ばりの白磁、生地も繊細、釉薬も透明感があり秀逸です


梅花皮(かいらぎ)長方鉢
間口2.2×奥行1.8×高さ1.3cm

「かいらぎ」とは、鮫皮のことです


桃花紅長方鉢
間口2.2×奥行1.8×高さ1.3cm

町直はこの釉薬を桃花紅と表現していますが、辰砂釉としてもいいでしょう


飛び青磁正方鉢
間口1.8×奥行1.8×高さ3.5cm

白磁に青磁釉を散らした奇抜な意匠です