2004年12月28日火曜日

瑠璃釉鉢5態

瑠璃釉を得意とする作家の作品を見比べてみましょう
作家と作品によって釉薬の特徴がかなり異なります
そのあたりをじっくりと見極めてください


平安香山 

澄んだ深みのある色彩と釉薬ののりのころあいがいい
制御のきいた品格が感じられる


平安東福寺

濃い目の色彩と透明感が特徴
ボディーの縁、中段、下段と釉薬の変化が印象的


平安東福寺

白釉の上に重ねがけされたこれも瑠璃色の釉薬
下地のためであろう、天衣無縫な明るさが特徴


今岡町直

鉄分を多く含む胎土の影響でやや暗い色調の瑠璃釉
窯変による紫の発色がおもしろい効果を上げている


稚松愛草

透明感のある瑠璃釉
清涼感と格調がみごと

2004年12月20日月曜日

五葉松三点飾(千葉県盆栽名品展より)

今回の名品展において県知事賞を獲得した五葉松の三点飾りをご紹介します

大盆栽から中型や小品まであり、樹種もそれぞれ違う中で一番優れている盆栽を1点選ぶのはかなり難しいことで
審査する側の好みにも左右されることはもちろんです

盆栽の審査は、例えればタイムを競う陸上競技というよりフィギアスケートやシンクロ等に似て
様々な条件を考慮しながらも、最終的には美しさを競う演技種目ということになります


今回の最優等賞に輝いたのは、この五葉松の懸崖とにれ欅の三点飾りで、鉢は古い支那の紫泥(しでい)丸鉢

立ち上がりの根元の力は抜群
そして皮肌も持ち込みの古さを物語って、バリバリに荒れて時代感は充分です

枝葉に隠れていますが、幹の模様も変化があり、特に落ち枝の変化はみごと
葉組みもきれいに整っていますし、丹精のよさも伝わってきます


加えて、添えのにれ欅の時代感と持ち込みのよさが目立ちました
この二点の取り合わせに草を添えた三点飾りは、今回群を抜く仕上がりで文句のつけようのないものでした

目立たないことですが、主木が丸鉢で添えがやはり丸鉢、という取り合わせでなかったのが更に気に入りました
主と添えの鉢は、形や色彩は異なったものを使う、そのような繊細な配慮も必要です

2004年12月18日土曜日

展示会出品マナー(第28回千葉県盆栽名品展より)

12月3日より開催された第28回千葉県盆栽名品展
出品された盆栽の中からもっとも優れた作品には千葉県知事賞が贈られます

毎回その審査では頭を悩ませますが、今回も非常に大切な示唆を与えてくれる作品例がありましたので
(所有者のお許しをいただいた上で)、忌憚のない検証をしてみましょう


糸魚川真柏(山採り)樹高50cm

5~6年前に私が市内の愛好家Tさんに買っていただいた糸魚川産の山採り真柏
樹齢数百年の天然のジンと捻転した水吸の芸が魅力です

将来「国風展」に入賞することを夢見てKさんが購入したお宝で
もちろん適切な培養を続ければ「国風展入選」は間違いなしとの太鼓判を押した私です

ところが今回Tさんは、千葉県盆栽名品展に出品のつもりはなかったようで
不意の出品要請のため、掃除や化粧が間に合わなかったようです

私は展示会場で審査をする段になって
この真柏がこの姿で出品されているのに気がついたのですが、もう間に合いません

私も審査員の一人です
即刻この真柏を審査対象外にすることを申し出ました

一般からの扱いでしたら大目に見るところですが
私の扱いとして登録されているのでは、立場上辞退申し上げるしかありません

私もうっかりしました
(展示はしました)



他の審査員も「こんなにいい木なのに、惜しいなー」と嘆いたのですが

まずジンの部分の汚れが気になりますね
湿らせた上で歯ブラシで汚れを掃除し、必要なら石灰硫黄合剤の薄めの液で化粧するのが普通です

内懐の幹や枝、そして水吸の部分の表皮の掃除もせねばなりませんね
真柏の魅力は赤褐色の水吸と葉の緑と白いジンの色彩の対比にあるのですから

鉢もなんだか汚れたまんまの感じ
さらに鉢の表土ももっと丁寧な化粧が必要ですね

以上は展示会に出品する際の最低限のマナーなのです

また、枝葉の整理も出来ていないので、全体の姿に緊張感と統一感がなく
幹筋や足元など見所のポイントがはっきりしていませんね

登場する役者のように、自分のいいところや個性は目いっぱい強調すべきなのに
普段着のまま晴れの舞台に上っちゃったという感じですね

ここでTさんの名誉のために申し上げますが
彼は展示会のマナーは充分に心得ている方で、今回のことはまったくのアクシデント
込み入った事情でこんなことになってしまったのです

展示会出品に際しての心がけは「観て頂く」という姿勢が最も大切であって
「観せてやる」「出してやる」 「仕方ない」という考え方ではいい展示はできません

以上展示会出品のマナーについてでした

さて、この真柏の将来です
今年一年掛けて映りのいい時代感のある素晴らしい鉢を探し
同時に、もう一度骨格を見つつめなおし、最終的な正面を決め、必要なら整姿をします

丹念な培養を1~2年繰り返して国風展に挑戦
もちろん入選の自信は満々ですよ

2004年12月10日金曜日

竹本鉢の思い出

竹本隼太は嘉永元年(1848年)の生まれで明治25年(1892年)に44歳か45歳で没しています
早死にですね

500石の大身旗本の身分に生まれながら維新の激動に遭い
陶芸への道へ進んだまったくの「変り種」です

竹本鉢といえば忘れられない若い頃の思い出があります

20代の後半ごろでしたね
ひとまとめて買った安物小鉢100個くらいの中に「おや!?」と思われる白磁の六角鉢を見つけました

うっかりすると瀬戸の安物の白磁鉢と見過ごすところでしたが
白磁の釉薬のコッテリ感が普通ではありませんし、磁器の白い土目もきめ細かくしかも力強い

「これは竹本かもしれない!」
直感的に感じました

「改」の文字のような落款が押してあるのもありますが、竹本鉢は落款がなくて普通です
まして間口5~6cmの豆鉢に落款が押されているのは皆無といっていいでしょう

さて、その白磁六角鉢が竹本であることを証明する手っ取りは早い道は
業者の主宰する交換会(私設オークション)に持ち込むのが一番だと思い立ちました

私は小規模な地方の交換会場へ持ち込みました
大きな会場だと、もし万が一「安っ鉢」だったら、大恥をかいてしまうと思ったからでした

実際には「竹本鉢だ」と言い切る自信がなかったということですね

さて、出品する番がきました
私はそれまでポケットの中で握り締めていたその豆鉢を、だまってセリ人の前に回転台に置いたのです

セリ人はむっとした表情で「なんだッ、これ?」と問いました
「鉢だよ」と返事をすると「アッタリまえじゃねえか!」と怒りましたね

たちまち怒ったセリ人は、500円の発句を切り出しました
これは怒るのも当然ですね、「鉢だよ」なんて返答は人を喰ってまったく失礼ですね

でも、私にするとそう答えるしかなかったのです
「竹本だよ」と言い切る自信はないし

かと言って「わからないんだよ」という答えもプライドが許さないし
また、そう言ったら最後、ベテランの猛者連中に買い叩かれてしまうのが落ちなのですから

「エーッ、こーいった鉢がーッ、500えん、500えん、エーッ、500えん!」
セリ人も竹本鉢とは気がつかないらしく「500えん」の繰り返しです

「やっぱりただの安っ鉢だったのかな」と内心後悔し始めたときに
「10まんえん!」と遠くから声がかかりました

わが耳を疑ってその声の方向に振る向くと
なんと斯界の大御所の某長老から「宮本クーン、その竹本、10万円でわしに売っとくれ!」と声をかけられたのです

一瞬のどよめきの後、会場はシーンと静まり返り、私とその大御所の長老との二人にだけスッポットライトが当たっている錯覚がし
私の目はその大御所の姿しか映っていない極端な視野狭窄に陥り、耳だって同じこと、他からの雑音は遮断された真空状態となっていました

結果は、もちろん売りましたよ、10万円は妥当すぎる値段でしたし
大御所の某長老は斯界の権威、それに逆らうだけの鑑定眼や見識が当時の私にあるわけありません

旧い懐かしい思い出であると同時に、
私はこの長老のおかげで貴重な勉強をさせてもらったこと、忘れることができません
盆栽屋は若い頃から現場の実践を積み重ねてこそ成長できるんです



さて、今回の竹本鉢ですが、青磁釉です
釉薬の表面に小さいひび割れがたくさんあります



これを貫入(かんにゅう)とか氷列(ひょうれつ)といい
細かい筋目であることから小貫入(しょうかんにゅう)といい、竹本の青磁釉の特徴です
一種の文様と考えればいいでしょう



竹本長方鉢の外に開いたボディーの角度や線の特色も↓の二つの画像も参考にして覚えておいてください







竹本鉢には内側に縁の返しがないのが特徴です
縁は外に開いたままですね、よく覚えておいてください



竹本には陶器も磁器もあります
陶器の土は茶褐色で重厚なこの土目が代表的です



竹本鉢の最大特徴は、石膏型による鋳込み式の技法で製作されていることです
内部の四隅に型に鋳込んだ際の凹みがあります

2004年12月9日木曜日

東福寺作・瑠璃釉手提付樹鉢

東福寺の取っ手の付いた手提げ形の鉢を手に入れました
間口の直径は13cmなのでけっこう大きく、形状からいって草物鉢といえます

いかにも東福寺らしい遊び心にみちた作品
そういえば、同じタイプの作家の青閑にもこれと似た形の「茄子の作品」がありました

まあ、木で似合うとなればやはり長寿梅でしょうね
自然風を尊ぶ形の自由な株立ち状の長寿梅であれば、この取っ手もじゃまになりません

大きな盆栽の添え物としてもいいし、小品棚飾りにも使え
引き立て役として十分過ぎるほどの働きをしてくれるはずです


名鉢のコレクターとして知られた畑中兵衛さんの旧蔵品で、つい最近私のものになったのですが
この東福寺を見たときに「あれ!?」と懐かしいような感覚にとらわれたのです

というのは、私は過去にこの形の鉢を3鉢扱った経験があり
それらの1つは織部、1つは瑠璃釉で、もう1つは小型のものでした

つまり今回の瑠璃釉のものは、過去に私が扱ったものであるような気がしたのですが
私の扱ったものは瑠璃釉がもう少しボケていたような記憶もあるし

いやいや同じものだな!
やっぱり違うかな?
断言するには、10年以上前の記憶はあいまい過ぎておぼろげです

でも、久し振りに手にする東福寺の手提付の変り鉢の感触はイイものですね
なにせ、この形の鉢は盆栽界に数鉢(5鉢以内)確認できるだけの超珍品なのですから


瑠璃釉を大胆に掛け流し辰砂(葡萄色)釉と織部釉を周辺にあしらった東福寺のデザイン力


白釉の生地に瑠璃釉の大胆なあしらいが光っていますね


釉薬の掛け流しのタッチの力などから想像して、脂の乗り切った東福寺全盛期の作品に違いありません


窯変による微妙な色彩の変化

がっしりとした取っ手ですね、しかし全体でみると決してごつく見えないんです
これが東福寺の力量のなせる業です


手提げのツルをはじめとしたボディーの構成力、力強いですね


偶然を装いながらもきっちりと計算され尽くした東福寺の意図が、みごとに成功している色彩の調和と変化


落款は楕円の内部に「東福寺」
世に言うところの「わらじ落款」

2004年12月2日木曜日

盆栽の掃除

盆栽の手入れに含まれる作業の中で「掃除」といわれる部分は
目立たないけれどけっこう重要な仕事です

松柏類なら枯れ葉とりなども「掃除」の部類に入るでしょう
枯れ葉をとることにより通気をよくし脇芽の保護などに役立ちます

落葉する雑木類の「秋から冬に掛けての掃除」といえば、幹磨き
これが単に幹を清潔にするだけでなく、不要な胴吹き芽をかきとったりする作業も含んで、かなり重要です


山もみじの双幹、掃除前の姿です

既に肉の巻いた部分にも癒合剤がこびりついていたり、枝分かれの部分に水垢の汚れがついていたり
枝元に不要な胴吹き芽がかなりみられます

水圧で幹の汚れを落とす便利な機械も市販されていますが
私は歯ブラシや金ブラシ、千枚通し、切り出しナイフなど、盆栽の手入れで通常使用する道具で「掃除」をします


「掃除」後の姿です、どうです、きれいになったでしょ
見違えるようですね

幹肌にこびりついた汚れがとれれば、時代の乗った縦縞のきれいな木肌が出てきて
山もみじらしい優雅な美しさが鑑賞できます


根張りの部分も金ブラシや歯ブラシで「掃除」をすると
真っ黒な汚れが取れて、次第に美しい木肌が出てきます


木裏の傷口の周囲もきれいにします
きれいにすると意外に傷は小さいものでした


根元に噛んだ小石もとり除きました
来春植え替え時に水苔を詰め込んでおけば、自然に穴は小さくなります


後姿も清潔感がでました
観賞価値もグーンと高くなりましたね


枝元から出ていた不要な胴吹き芽も金ブラシでこすりとれば
幹がゴツゴツになるのを予防できますし、樹勢が小枝の先端に向かうので、培養的にもかなりの効果があります

さあ、みなさん、秋から冬の期間中は「掃除の適期」ですよ!!

2004年12月1日水曜日

黄楊(つげ)の根卓

天然自然の根っこのように彫りだした卓(しょく)を根卓(ねじょく)といいます
普通、卓台は「たくだい」と呼びますが、盆栽界では「しょくだい」と習慣的に言っていますね

盆栽通を自認する人は「しょく」と呼びましょう
プロは「たく」とは呼びません

小品用の飾り棚は箱卓「はこしょく」とか小品卓「しょうひんしょく」
いいですか、呼び方であなたの盆栽の偏差値がばれてしまいますよ

ベテランらしく「卓・しょく」と呼びましょう!


さて、本題の黄楊の根卓
私が長いこと持っている上等の品なんです、何時買ったかも忘れたほど昔に手に入れたものです

めったに使わないんですが、きょう盆栽棚で長寿梅の古木が真っ赤な花を咲かせているのを見て
瞬間的にこの黄楊の根卓を思い出したんです


押入れの奥から取り出して飾ってみたら・・・・・
この長寿梅には大き過ぎましたね

長寿梅は模様が良くて、木肌も古い
根卓だって、戦前の作で、鼈甲色の時代物

でも悲しいかな、釣り合いが取れなくてはせっかくの名品も形無しですね
そう、今日の言いたいことは

お互いにどんないいものであっても、取り合わせが大切だということです
愛好家のみなさん、盆栽と道具(卓台など)の関係にも気を配ってくださいね!

洋服と靴、着物と帯や草履
その関係とまったく同じですne

おしゃれなあなたなら理解できるはずです!