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2016年8月26日金曜日

鉢の磨き方

盆栽は生き物ですから毎日の水やりはもちろん
時期による手入れは欠かせないので、いわゆる手がかかります

その点、鉢の方は、ねばならない、という差し迫った手入れはないので
傷をつけないように収納や保管に気を配ってやれば、基本的にはそれで十分です

気に入ったものを眺めたり掌(たなごころ)に抱いて撫でまわしていれば
それでいいのですから、盆栽に比べて楽なものです

まあそれでも、たまに引っ張り出して木綿の布で乾拭きくらいはしてやってください
そして、手指の脂分で渋めの光沢が出てくるのを気長に待つことです


手指の脂分だけでは待ちきれない方は、薬局で椿油を求めてください
肌や髪の毛にも塗れる天然100%のやつです


小鉢の場合はティッシュか脱脂綿に少しずつつけてよく刷り込みます
その際決してつけ過ぎないように気をつけます

揚げ過ぎのの天ぷらみたいに
脂でテカテカに光った鉢を見かけますが、あれは品が悪い(笑)


よく刷り込んだあとに木綿の布で余分な脂を拭き取る


鉢磨きのポイントは脂をつけ過ぎないこと


伊藤屯洋の焼締長方鉢
新品を長いことしまい込んでおいたので、何となくボンヤリとした質感です


天然100%の椿油をつけて磨きました

焼締の土の本来の色が冴えてピリッとして見えます
使い込んだ鉢ではありませんが、質感に陰影が出て落ち着いた味わいが出てきました

いかがですか?
こんな感じでけっこうです、愛蔵の盆栽鉢、こんな感じで磨いてやりましょう

たいした準備はいりませんよ
椿油と木綿の布だけです

2016年6月22日水曜日

尚古堂・紫泥雲足長方

つい先日縁あって,ある愛好家さんから尚古堂を譲っていただきました
形状などの名称は正式には紫泥外縁隅入り雲足長方(落款・尚古堂製)

あらかじめ画像をいただいていたので保存状態のよさなどはわかっていましたが
実物に触れてみると仕上がりや時代感が抜群なので感激もひとしおです

寸法は間口12.5×奥行き9.0×高さ4.2㎝で
大中小とあるこの外縁雲足の形では中の大きさに入ります



なんて言ったって尚古堂です
一目で並みの支那鉢との格の違いが伝わってきますね

底光りする土目の重厚感、シンプルなフォルムと適度な緊張感
まさに戦前の支那鉢の代表的な作品です

シンプルかつ力強いシャープな線は
やはり一発仕上げの支那鉢ならではのものがあります



盆栽鉢の凄さは、制作より一世紀もの年月の実用に耐えながら
なお現役であり続けて高い格調を保っているところでしょう

盆栽鉢として生まれてきた宿命(?)から
骨董品としてガラスケースに収まっているわけにはいきません

ぴったりと似合う盆栽を持主様が手に入れたときには
さっそく出動となるわけですからね

私達盆栽人が古い盆栽鉢に格調と同時にある種の活力を感じ取っているのは
このように盆栽鉢には定年がなく、永遠に現役として存在しているからからもしれません



外縁、隅入り、雲足なと盆栽鉢としては凝った造作でありながら
入れる盆栽を引き立てるという実用の役目を忘れてはいません

各パーツはあくまで控えめであり
全体のバランスを壊さないよう配慮されています



真上からの図

外縁の幅も広すぎずにあっさりとしていますね



鉢裏と足の様子

この角度から見たときだけ、この鉢の骨組みの堅牢さが感じられます
つまり必要以上のしっかり感やゴツサは普段目立たぬ箇所に隠しておく作者の配慮なのです

表面の見た目と実用品に求められる堅牢さとのバランスの接点がこの面にあるわけです



落款
「尚古堂製」



支那鉢の最大の特徴であるヘラ裁きが見られる隅入りの外縁や雲足付近
とにかく一発仕上げのヘラ痕から作者の息吹が感じられます



生きているような質感が輝く良質な土目です



作者の息遣いさえ感じられるヘラの痕



足裏の様子
傷の発見のポイント

この尚古堂はもちろん無傷完品でしたが
この機会にニュー(ひび割れ)の発見の仕方を簡単にお教えいたしましょう



赤線で示したあたりがニューの入りやすいところですから
手の平に載せ反対の中指の背中で赤線のあたりを軽く叩く



この図の赤線も傷を発見するポイントです



小さな鉢であればこのような持ち方も可
この形で四隅を叩くとかなりの効果ありです

このように叩くと目には見えない微小なニューでも
ひび割れ特有の濁った音がします

最終的に専門家の強力な検証法です
見た目に傷が発見されなくとも、音が濁った場合は傷ありと認定されますから

ぜひ皆さんも身につけてください

2011年12月21日水曜日

苔洲鉢と竹本鉢の知られざる逸話


市川苔洲・辰砂釉外縁六角 間口4.0×奥行き4.0×高さ2.7㎝

竹本鉢と苔洲鉢の両大家の作品には
非常に似通ったものが存在することはよく知られています

実際に、明らかに苔洲の釉薬であるにもかかわらず
形状は竹本にそっくりな鉢などによく出会うものです

とくにミニサイズの豆鉢に多く
初心者の愛好家では見分けに迷うことも多いと思います

そこでみなさんの参考のために、私が実際に耳にしたことのある
信頼性の高いある逸話をご紹介しましょう

竹本隼太は明治25年に45歳で没しており、苔洲は明治30年生まれで、大正の中期頃には東京・下谷(その後は目白)で作陶していたということですが
竹本没後と苔洲の活動開始時期には、少なくとも20年からの空白があります

しかし、苔洲がおもに鉢を焼いたとされるのは目白時代であり
その目白から竹本の窯があったとされる小石川までは、距離にしてわずかに3キロくらいしか離れていません

そこで、私の耳にした逸話になります

昭和の初期の頃、苔洲は当時まだ存続していた竹本家に出入りし
残されていた鉢型や素焼きの未完成鉢などを譲り受けていた

そして、その鉢型を用いて作ったボディーや素焼き段階の鉢に
自分で工夫した釉薬を施して焼いた

ということです

当時は、小品盆栽が現代ほどに一般に流布していたわけではなく
一部の好事家でひっそりと楽しまれていた時代で、万事ゆるやかなのんびりしていたのでしょう

それらの作品は、真贋などはまったく問題にされず
苔洲鉢としてすんなりと世間に受け入れられたそうです

もちろん、当時すでに作家として独自の世界を築き上げ、一家を成していた苔洲に
悪意などあろうはずはありません

その技、神域に至る、といわれた竹本への
強いあこがれや尊崇の気持ちがなさしめたのでありましょう

また、そうして生まれた作品が現代においても
竹本鉢としてではなく、苔洲鉢として存在していることは間違いありません

主に鉢の鑑定では、作風、釉薬、土目の三つが決めてとなりますが
同じ型を使ったボディーであっても、最終的に施釉して焼き上げた作者の作品であるのは当然です

研究の進んだ現代盆栽界においては、苔洲の釉薬と胎土の特徴は
竹本鉢のそれとはしっかりと区別認識されていますから、ご安心下さい

この逸話は、苔洲と親しい間柄であった、竹本家にも同行したこともあるという
当時まだ若かったある盆栽師が、子孫に語り継いだものです

その子孫から直接私が聞いたんですよ
信憑性は高いでしょ

冒頭にご紹介した苔洲の辰砂の六角鉢も、竹本鉢にも散見する形ですが
土目と辰砂釉との特徴から、苔州の作品であることは一目瞭然ですね

では

2011年11月15日火曜日

銘鉢発掘・安納功生

盆栽鉢を鑑賞したり蒐集する場合、有名作家や産地のいわゆるブランドものばかりではなく
作品の出来栄えや味わい本位でものを見る姿勢が大切です

その精神で、ブランドにとらわれず純粋にものを見る目を養っていくと
今まで見えなかったもが少しずつ見えてきます

もちろん、有名作家や産地の作品は、ある一定の水準以上のものが多いのは当然ですが
冷静に見てみれば、平凡な作柄のものだってたくさんありますよ

陶芸は「土と炎の芸術」といわれ
どんな名人だって最後のところは、人の意のままにならない偶然の力を借りるわけです

ですから、無名作家の作品にだって、思いもよらない炎の力が働いて
趣のある作品が出来上るってこともあるわけです

そんなわけで、作者名や産地名のブランドにこだわらず
これはおもしろい、この味わいはいいと感じた作品に出会ったら

このつれづれ草でみなさんにご紹介いたしましょう


安納功生・辰砂釉窯変切立長方 間口7.8×奥行き6.7×高さ4.0㎝

かつて栃木県に、堅牢な構成のボディーと渋い釉薬で知られた
菊池春陽という鉢作家がいました

平安東福寺や平安香山などのように、盆栽界の末端にまで知られるほどの存在ではありませんでしたが
その堅実で味わいのある作風は、いわゆる通人の間ではなかなかに高い評価を得ていました

私も昔、春陽の井上良齋ばりの「夕日磁」風の秀品を持ったことがあり
なかなか味わい深い作品であったことを覚えています

ところで、今日ご紹介した「安納功生」という作家の詳細は知られていませんが
拠点が栃木県であったことや、その他伝え聞いた情報や作風からの推測によると
どうも功生はその春陽の周辺で活動した作家であるらしいのです


ほどよい角度で上に開いたボディーの重厚感が秀逸であり
下辺の下紐の力を受けとめた二段の切り足との調和がとれています

そして、何よりも縁から大胆に掛け流した辰砂釉が
窯変によって神秘的な効果をあげているのが最大の魅力です


窯変の効果は正面だけでなく、裏面や側面でも大きな効果をあげていて
一種不可思議な雰囲気を盛り上げています


鉢底にも釉薬が施されており、落款部のみそれが抜かれています
落款は「功生」

かなり長い間使われてきたらしく
時代感がよく、それが辰砂釉の神秘的な雰囲気にさらなる趣を添えています

相場的な評価は低くとも
座右において当分楽しみたいと思っています

では、また!

2008年11月8日土曜日

尚古堂型の和鉢

東京浅草の観音様の近くの今戸という古い下町に、関東陶器という老舗の瀬戸物屋さんがありました
当時のご主人は10年ほど前になくなりましたが、おそらく今でもお店はやっていると思います

特別親しくはなかったけれど、同じ日本盆栽協同組合員としての鉢の商いを通じてのおつき合いはしていました
ご主人は盆栽には不案内でしたが、鉢の世界ではあの「舟山」を専門的に扱う店として知られ、商売もなかなか上手でした

私がまだ20代の半ばごろ初めてお店を訪ねたとき、古いお店の奥が作業場のようになっていて
そこで赤玉土の製造をしていたのを、あまりに珍しい光景だったのでよく覚えています

さて今日ご紹介するのは、その関東陶器さんが 発注元となり
昭和30年代から40年代初頭、支邦鉢の名品「尚古堂」に倣って製作発売した大中小の三枚組の一枚

間口16.7×奥行11.8×高さ5.0cmのこの鉢よりも大きなサイズがあった記憶があるので
このサイズは小か中だったと思います

当時から尚古堂型の外縁隅入雲足長方は人気絶大でしたが
この型の和鉢はほかには見ることができなかった

本歌は非常に高価な宝物であり(今でもそうですが)
数も極端に少ないため、手に入れることなど思いもよらないことでした

そんな盆栽界の需要状況を見極めた商売上手の関東陶器さんが
「尚古堂」に倣った「外縁隅入雲足長方鉢」をプロデュースして発売したのです

ですから、人気の尚古堂の代用品としても意味からも非常にタイムリーでしたし
当時の和鉢の優秀性の実証という観点からも画期的なことでありました

ちなみに、「尚古堂型」というのは外縁・隅入・雲足・長方を特徴としていますが
おなじ特徴をもっていても、胴の下部が出っ張った型のは「子林倣古型・しりんぼうこがた」と呼ばれ、しっかりと区別されています



名品「尚古堂型」の和鉢の優秀作品(間口16.7×奥行11.8×高さ5.0cm)

盆栽には持込が大切なように、鉢の世界には使い込みが大切ですね
当時は普及品として製作発売されて鉢が、愛好家による40年以上の使い込みにより、この通り風格十分です

奥深い光沢と輝きを見せる土味には惚れぼれしますね
窯ものの和鉢も捨てたもんじゃない、優秀性を改めて認識させられます

ともかくくどいようですが、ごらんのように鉢は使い込みが大切
普及品として世に出回ったものでも、丁寧な使い込みにより時間をかければ鉢は立派に「出世」することの代表例です



間口と奥行きと高さのバランス、縁の強さ、胴の曲線、雲足の強さ
すべてのポイントにわたり本歌の特徴をみごとに倣っています



縁、胴、雲足の拡大図
尚古堂型特有の隅に僅かな切り込みがあります



鉢裏と雲足のようす



落款は「関東陶製」

みなさんも身の回りを再点検してみてください
長い間使い込んでいるうちに、思いのほかに「出世」している鉢があるかも知れませんよ

では

2006年10月16日月曜日

思い出の銘鉢(18): 平安香山 均釉菱格子透彫長方

盆栽屋.comの「思い出の名鉢」シリーズ(お客様にご購入頂きましたが)思い出深い名鉢をみんさまの鑑賞用に復刻致しました。また、この場をお借りして愛蔵者の方々に感謝申し上げます。どうぞ小鉢の勉強にお役立て下さい。


間口13.6×奥行11×高さ7.0cm

平成17年3月に近代出版より発行された「月之輪湧泉・平安香山」の作品集に掲載され
「精緻を極め釉色にも優れる傑作。香山透彫の傑作である」と絶賛された本作品

この度、親しい収集家のご好意により、盆栽屋.comの目玉商品として、別記のようにお勧め価格にて掲載することが出来ました
二度と実現不可能な価格設定に加え、このような「図録もの」の名品がが市場へ出回ることは非常に珍しいことも添えておきます

どうぞ、ごゆっくりとご覧下さい

無傷完品です
(近代出版より掲載された作品集付)

(近代出版より)
作品集の表紙
(定価3.800の豪華内容)

(近代出版より)
誌上の紹介写真と解説文
(作品の定価はこの作品集付になっています)


平安香山の均釉は小鉢の世界ではあまりにも有名で、「香均釉・こうきんゆう」と造語されているほど
その香均釉に囲まれ二重の鉢壁に菱格子が掘り込まれています

「カミソリ」と異名をとった香山ならではの、精緻にして華麗な技に改めて感動させられます
そして、二重の鉢壁の厚さは普通の鉢並みなので、鉢としての実用機能も充分に備えているという、稀有な逸品


側面をのぞく角度より


同じく側面をのぞく角度より
両側面には窓をきり絵付けが施されています

格子浮彫の豪華さと染付けとの絶妙な調和
この優れたデザイン性が、名品の評価をさらに高めています
ましてや香山の絵付け鉢の稀少なことは知られています


側面


側面


鉢裏


戦後の早い時期の作品です

思い出の銘鉢(17):宮崎一石 赤絵山水図切立正方

盆栽屋.comの「思い出の名鉢」シリーズ(お客様にご購入頂きましたが)思い出深い名鉢をみんさまの鑑賞用に復刻致しました。また、この場をお借りして愛蔵者の方々に感謝申し上げます。どうぞ小鉢の勉強にお役立て下さい。


間5.3×奥行5.3×高さ5.2cm

峻険な深山から水辺まで
壮大なスケールの景観をわずか5cm四方のミニ鉢に描き切った、一石全盛期の究極の赤絵名作

大胆で斬新な構図と微細な筆のタッチは、ここに特に際立って冴えわたり
緊張感のみなぎる画面を見つめてるとき、改めて一石の高度な技巧に感動させられます

一石作品群の中において間違いなく赤絵名品に属する質の高い仕上がり
無傷完品

平凡社「まめぼん」より

なお、この一石赤絵鉢は最近「平凡社」より発行された上記表紙「まめぼん」(定価¥1.600)の
「まめ鉢名品コレクション」において宮崎一石の代表作として掲載されました

平凡社「まめぼん」より


微細で緊張感のみなぎる線と巧みな陰影によって描かれた峻険な山や岩
余白のとりかたも一石独特の鋭い感性が冴えています


拡大図
画面の隅々まで神経が行き届いています


対照的に牧歌的な雰囲気を漂わせる画面


水辺の景色
岩頭に鼎立する松の描写はあまりにもみごと
岩の描き方もじつに巧みです


拡大図


一変して高士が登場する静かな画面
画面右半分にたっぷりと余白を取った構図が余韻を感じさせます


拡大図


鉢底の様子と落款
「阿びこ山・一石作」