2008年11月8日土曜日

尚古堂型の和鉢

東京浅草の観音様の近くの今戸という古い下町に、関東陶器という老舗の瀬戸物屋さんがありました
当時のご主人は10年ほど前になくなりましたが、おそらく今でもお店はやっていると思います

特別親しくはなかったけれど、同じ日本盆栽協同組合員としての鉢の商いを通じてのおつき合いはしていました
ご主人は盆栽には不案内でしたが、鉢の世界ではあの「舟山」を専門的に扱う店として知られ、商売もなかなか上手でした

私がまだ20代の半ばごろ初めてお店を訪ねたとき、古いお店の奥が作業場のようになっていて
そこで赤玉土の製造をしていたのを、あまりに珍しい光景だったのでよく覚えています

さて今日ご紹介するのは、その関東陶器さんが 発注元となり
昭和30年代から40年代初頭、支邦鉢の名品「尚古堂」に倣って製作発売した大中小の三枚組の一枚

間口16.7×奥行11.8×高さ5.0cmのこの鉢よりも大きなサイズがあった記憶があるので
このサイズは小か中だったと思います

当時から尚古堂型の外縁隅入雲足長方は人気絶大でしたが
この型の和鉢はほかには見ることができなかった

本歌は非常に高価な宝物であり(今でもそうですが)
数も極端に少ないため、手に入れることなど思いもよらないことでした

そんな盆栽界の需要状況を見極めた商売上手の関東陶器さんが
「尚古堂」に倣った「外縁隅入雲足長方鉢」をプロデュースして発売したのです

ですから、人気の尚古堂の代用品としても意味からも非常にタイムリーでしたし
当時の和鉢の優秀性の実証という観点からも画期的なことでありました

ちなみに、「尚古堂型」というのは外縁・隅入・雲足・長方を特徴としていますが
おなじ特徴をもっていても、胴の下部が出っ張った型のは「子林倣古型・しりんぼうこがた」と呼ばれ、しっかりと区別されています



名品「尚古堂型」の和鉢の優秀作品(間口16.7×奥行11.8×高さ5.0cm)

盆栽には持込が大切なように、鉢の世界には使い込みが大切ですね
当時は普及品として製作発売されて鉢が、愛好家による40年以上の使い込みにより、この通り風格十分です

奥深い光沢と輝きを見せる土味には惚れぼれしますね
窯ものの和鉢も捨てたもんじゃない、優秀性を改めて認識させられます

ともかくくどいようですが、ごらんのように鉢は使い込みが大切
普及品として世に出回ったものでも、丁寧な使い込みにより時間をかければ鉢は立派に「出世」することの代表例です



間口と奥行きと高さのバランス、縁の強さ、胴の曲線、雲足の強さ
すべてのポイントにわたり本歌の特徴をみごとに倣っています



縁、胴、雲足の拡大図
尚古堂型特有の隅に僅かな切り込みがあります



鉢裏と雲足のようす



落款は「関東陶製」

みなさんも身の回りを再点検してみてください
長い間使い込んでいるうちに、思いのほかに「出世」している鉢があるかも知れませんよ

では

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