鉢の傷の代表的なものにホツ(ポツ・ホツレ)とニューがあります
ホツというのは文字通りポツッと欠けた状態の傷のことで
ごく軽微なものから致命的なものまであります
下の町直鉢くらいであれば墨汁でも刷り込み目立たないようにして
使う分には何ら差し支えないでしょう
ホツの箇所を後ろ側に持っていくように使うのです
そうすれば外側のホツなので正面からはほとんど見えません
またホツの場合は、実用に供してもこれ以上に傷が広がる心配はないので
その点は安心できますし、価値感の下落もニューよりはひどくはないものです
もちろん、観賞用のコレクションが目的では、いかに町直といえどもお勧めできませんが
実用には充分の働きをしてくれますので、ここでは「実用鉢」と割り切ってください
町直鉢のホツの様子
さて、ニューの場合です
去年の秋に愛好家から一挙に300鉢の放出品を買い求めた中に、びっくりするようなこの珍品があったのです
「水府散人」の豆鉢です、みなさんこの作者を知っていますか?
茨城県は水戸の人で、戦前から鉢の収集家および研究家として知られた愛好家で
戦後に自ら小鉢の製作に取り組み、その作品は盆栽界で高い評価を受けています
作風は、油滴天目、辰砂などを得意とし自由奔放さのなかに重厚さも併せ持ち
実験的な意欲も強く様々な様式や釉薬に挑戦しています
私も過去に「水府散人」の代表作といわれる数点を扱ったことがあり
それらは現在の盆栽界でもっとも高名な収集家の手元に所蔵されています
そのような経験から「水府散人」は得意の分野とは自負していたのですか
それでも、このようなミニサイズ(7.2×6.0×3.8cm)の作品にはお目にかかった記憶がないのです
無釉薬の焼締めもので表面に松柏の樹皮のような装飾を施した珍しいもので
この作柄からでは一目見て「水府散人」の名は瞬間的には浮かんできません
鉢裏と足の様子
鉢裏の落款
資料によると「正志作」と読んでいるようです、私には「正志」のように思えるのですが
いずれにしても「水府散人」(本名・薄井正志)の代表的落款です
落款拡大図
この小鉢には鉢の内側の底にも落款が入っています
「水府散人作」と読めます、このほかにも「集亭録升」「志龍造」などの落款が有名です
さて、問題の傷の話に移りましょう
この鉢に出会ったときの喜びもつかの間、傷を発見!!
うっすらと見えたニューを確認するために「水」につけてみました
こうすると傷口から水が染込んでより鮮明に見えます(裏技ご披露)
さて、みなさん、珍品のこの「水府散人」小鉢をどう評価したらいいのでしょうか?
上のホツのある町直鉢のように「実用鉢」と割り切るのでは「水府散人」が可愛そうですし
かといって鑑賞鉢としてのコレクションでは傷が気になるところです
この様な場合には、小鉢界のおけるその作家の評価を考慮に入れた上で、作品の希少性や作柄の観点から検証してみて
資料価値があると判断できれば収集の一端に加えるこべきです
この「水府散人」の作品の場合、作家そのものの作品が希少で評価が高いことに加え
作品そのものが珍しい作柄であり、サイズ的にも希少性がある、そう判断したいですね
もちろん、価格面で考えれば、一般的にはホツよりニューの方が下落が大きく
その点からの大きな減点はやむを得ないでしょう
しかし、、小鉢界の歴史や「水府散人」の作風を知る上でも
このミニ鉢には小鉢界の資料としての価値は充分にあると考えられるのです
そういうことで、一口に鉢の傷といってもいろいろなケースがあるんですね
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