明治23年(~昭和46年)に京都に生まれた添配作家・平安英正(本名:若原英正)
素芳庵と号し大正から昭和初期がその全盛期と伝えられます
筏舟、童牛、茅舎、漁舟、唐舟、動物、昆虫などの作品が残されていますが
中でも、古き日本の生活や情景などに題材を取ったものに、英正らしい独特の情緒が感じられます
今日ご紹介する漁舟(いさなぶね)も、櫓を上げて岸辺に舫う小さな和船で
精緻な細工とともに独特の侘しい風情がにじみ出た作品です
共箱表
青銅・漁舟
落款は「若原」・「英正」
箱の作りも精巧なのが英正の共箱の特徴です
漁舟
造形的なバランスもよく、細部に至るまでの精巧な写実力はみごとです
この優れた写実力こそ、英正が斯界の第一人者として評価される第一のポイントです
まず蝋で原型を作り、その原型から取った鋳型に材料を流し込むという製作過程
そのため、実物は驚くほど繊細です
箱の裏書
平安・素芳庵・英正の下に花押
落款は「英正」
字体も鮮やかな達筆ですね
ちなみに、現在盆栽屋,comにて頒布している「英正写し」は
本歌と同型同サイズの作品(左右の間口4.8cm)です
もう20年くらい前の話で、↑の本歌を所有していた愛好家が鋳造家に依頼し
普段使いのためにコピーしたものを私が本歌ごと買い取ったものです
(愛好家がこのように、悪意でなく展示会などでの普段使いのため、コピー作品を作っておくことが案外にあったのです)
そのまま小物入れにしまい込んで忘れていたのが
過日何年ぶりにひょっこりと姿を現しました
当時から普段使いにしていたので時代感は抜群
海の舟というよりも河川で使われる和船の情景ですね
古きよき日本の情景の断片を写したものといえるでしょう
船頭の姿がないだけ、寂しげな情緒が深く感じられます
反対正面
舳先の拡大図
舟の中には小さな魚篭まで描かれています
櫓が上げられれている船尾の部分
添配の真贋について
銅や唐金(からかね)の添配作品は原型から鋳造されるため
鉢などの陶磁器よりも、さらにその真贋の鑑定が難しいものです
作品の出来栄えや素材の質など、いくつかの見分けのポイントはあるものの
かなりの精度をもった贋物もあり、鑑定には高度な鑑識眼と長い経験が必要です
英正作品の場合
1 できるだけ共箱であること(ご紹介した共箱と字体をよく覚えること)
2 落款が捺されていることは必須
3 その落款にくずれやゆがみがないいこと
4 もちろんのことですが、造形的なバランスや写実力が優れていること
5 さらに作品に品格と情緒が感じられること
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