2020年3月24日火曜日

宮崎一石(続編有)

今回は、市内に住むお客様であり古鉢の趣味を通じての親友でもあるAさんと宮崎一石の絵鉢にまつわるお話です。もちろん私にも大いに関係ある出来事です。


現在宮崎一石の人気が何度目かの大フィーバー中です。お話の一石の色絵外縁長方鉢は、間口11.6×奥行き10×高さ4.4cm。ボディーの四面は青海波(せいがいは)と思われる伝統文様に覆われ、前後は変形の窓が切られて、それぞれにアザミと赤い実を付けたツルの植物が、両サイドには飛翔する優雅な鶴の姿が描かれています。


特徴としては、奥行きと深さがタップリしていることです。全体の姿にゆとりが感じられ、実用の美と華麗さが両立された名作であるといえます。


外縁、ボディー、簡潔な切り足など、すべてバランスがとれて落ち着いた調和を感じさせてくれます。窓の中の実つきの植物名は不明です。ツル性だけに迷うところですね。


こちらの正面は薊(あざみ)です。窓の切り方も素晴らしいセンスのよさが感じられます。
宮崎一石の作風には絵のモチーフだけから区別しても、雪舟ばりの大自然を描いた雄大なスケールの山水図、広重の東海道五十三次や近江八景の模写、さらに身近にある何気ない自然や静物を描いたものなど、3つのジャンルが存在するようです。
近代日本の小鉢の歴史を研究する上で、巨匠・宮崎一石のこの作品は希少性から云っても非常に価値あるものです。


落款は「あびこ山」「一石作」
この落款の作品は前期の作に多く、内容的にも優れたものが多いとされています。ちなみに、あびこ山とは大阪府住吉区にあり、かつて一石が居住した場所であると云われています。
なお、宮崎一石についてはこの徒然草でも過去にかなりの画像も載せて取上げていますので、ラベルを使って検索してみてください。

(続編)

さて、お話は次へ展開します。

この鉢は元は関西方面にあったものを、国風展の売店(グリーンクラブ)で惚れ込んだAさんから仲介を頼まれた私が、前の持ち主の業者から譲り受けてきたものです。
グリーンクラブの近くのホテルのロビーでこの鉢を受け取ったときの光景を、よく覚えています。


このように、自らの眼と足で見つけ出しただけに、この「薊の一石長方鉢」はAさんにとっては特別に思い入れの強い愛蔵品であったようです。
私もAさん宅におじゃまして古鉢談義に華を咲かせる時には必ず忘れられない一鉢に入っていました。


ところがある日、何かの拍子にお庭番の飼い犬クンが紐から離れて走り回り、そのはずみで盆栽棚に置いてあったこの名器を後ろ足で蹴飛ばしてしまったのです。
鉢の蒐集品などは普通、屋内で桐箱などに収納するのですが、落ち着いた味を出したい時には、1~2年くらいは盆栽棚へ置いて水を掛け、時代感をつける工夫もあるんですよ。


幸い、Aさんのお宅は広い土のお庭だったので、Aさんが慌てて調べたときは全く痛んでいなかったそうです。
「あーびっくりした。けど、よかったー。助かったー!」
と思ったそうです。


ところが、それから一年。
そろそろ箱へ収めようかと思って改めてよく見ると、あれ、れ、れ、れ!
飼い犬クンに蹴飛ばされても無傷だったはずの「薊の一石長方鉢」の側面の縁から鉢底へかけて、3本もニューの痕跡が表れているではありませんか!


向って右の縁に3本の線が入っていますね。きっと事故の直後では肉眼では見えず、故に無傷と思っていたのでしょうが、それから1年間くらい戸外で風雨にさらしておいたために、少しずつ汚れや埃が傷口へ染み込んで顕在化してきたのでしょうね。残念!!!


この内側からの画像でも傷はよくわかりますね。
一石のボディーとしてはわりと肉厚でしっかりしているので、飛んで落ちた衝撃にも耐えたのでしょう。弱い構造ならバラバラになっていたでしょうね。

以来、Aさんもこの鉢を見る度にずいぶんと後悔なさったり心を痛めたようです。
「それにしても、傷に気がつかない事故の直後の時点で、持ち主がかわったりしたら、後々大変なことになるところだったネ」ともおっしゃっておられました。

「幾つになっても勉強だね。この原因だって元を正せば自分のせいだ。もっともっと物を大切に扱うべきだね」。最近ではそうおっしゃっていました。


そして先日お尋ねした折に、

「宮本さんも私も宮崎一石が大好きで、お陰でずいぶん勉強させてもらったね。でも、もうこの鉢のことは諦めよう。やっぱり身近にあると、どうしても忘れられないよ。このニューでは、値段はメチャメャ安くなっちゃたのは承知している。しかし、作柄や作風の資料的な価値からして、名品は名品だから、傷物でもこの鉢を好きになってくれる人がいるかもしれない。そういう方に可愛がってもらう方が一番いいネ」とおっしゃった。

言葉はやや違っても、私もほとんど同じ考えです。失敗して傷物にしてしまったご本人が如何に名品とはいえ、これを持ち切るのはかなり辛いことでしょう。

という顛末で、すべて私にお任せいただく事となりました。

それで今、この徒然草を書いていると云う訳です・・・




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