2005年12月4日日曜日

愛草鉢の窯傷

最近あちらこちらから盆栽業者の悲鳴が聞こえてきます
それはインターネット取引の時代に入り「鉢の傷」の認定の尺度が、従来よりかなり厳しくなったからです

「よお、、宮ちゃん、これって傷かい?」
「宮本さん、この窯傷、お客様に説明した方がいいですかね?」

業界の同輩や後輩達からこんな相談をうけることが多くなりました

従来の取引は現物を見ながらですから、例え軽微な「窯傷」があったとしても
売る側がそれほど説明しなくとも成立しました

また、「高温で焼くんだからそのくらいの窯傷は入って当たり前だよ
そんな細かいこといってたら欠点のない鉢なんかなくなっちゃうよ」

そういう一言が強い説得力を持っていたのです

ところが数枚の画像だけを見ての取引のインターネットの時代となっては
もはやこの一言は「業者の逃げ」と受け取られてしまいます

そして、問題なのはボディーの外側にあるものでなく
内側や底の足の付け根部分に製作過程で起こりやすい「窯傷」の判定です

さてここで、「稚松愛草」の作品を例にとってご説明しましょう


稚松愛草作 桃花紅釉(とうかこうゆう)切立長方鉢 間口5.9×奥行4.4×高さ1.7cm

愛草作品の中でもトップクラスの発色であると自負しています
また、愛草といえどこの桃花紅釉作品の数はごく少なく希少性も高いのです


登窯作品のため、歪みの多い愛草作品の中では珍しく狂いのない正確なボディーです


使い味も滲み出て美しい桃花紅釉に渋みを添えています


ところが内側の角に「窯傷」発見!
惜しい、ということになり、ここで並みの作家の作品であれば、とたんに隅に追いやられてしまうところですが

この愛草鉢の「窯傷」の判定に差しては

1 作家のランク
2 作品の希少性とランク付け
3 資料的な価値感
4 傷の深さ

を考慮に入れるべきなのです

今の盆栽界には確たる「鑑定機関」はなく
鑑定は個々の業者の良識と力量にゆだねられている現況なので

自らの所有物を「窯傷」の例に取り上げ「○」の判定を下せば
上でお話したように「業者の逃げ」・「売らんがための強弁」と受け取られかねませんが
敢て、盆栽界の将来のために申し上げます

1 愛草は日本を代表する最高ランクの鉢作家
2 愛草の桃花紅釉は数が少なく、まして最高級の色合い
3 戦前に活躍した物故作家であり、その作品数も多くはない
4 愛草作品は歪みや窯傷が多く、無傷完品ものが極端に少ない

そのような理由から、決して「窯傷あり」の「傷物」の一言では片付けてはならないのです

まして、傷も内側の軽微な性質であり、外側へ抜ける心配はなく
鑑賞上からも問題はありません

ですから、この内側の窯傷を理由に本作品から「愛草の桃花紅釉の名品」との評価を奪い取り
コレクションの隅に追いやるようなことは盆栽界の損失になります

価格面の評価は下がるのは当然としても、「愛草の名作」ときっちり評価すべきです

みなさんもご自分のコレクションの見直しをしてください
わずかな欠点を過大に思い込んで名品を隅に追いやってはいませんか?

また、業者は勇気を持って自らの作品の姿を「可能な限り正確」に伝える努力をしなければなりません
私も折に触れこのことを業界で叫ぶように致します

ではでは

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