この記念帖には、当時の国風盆栽展帖と比べても、質量ともに遜色ない盆栽が掲載されています。もちろん流行や嗜好の変化から、現代では盆栽としての範疇には?のつくようなものも数点見られますが、ご紹介するようにほとんどは、盆栽の造形に対する美意識の極端に発達した現代のレベルにおいても、十分に通用する優良品ばかりです。
萩原章佑氏 かえで石付 樹高(1尺4寸) 白交趾長方古鉢 昭和13年3月撮影
解説には「古き時代を語る露なる根。このような楓石付の根の美しさを見慣れぬ外国人は、目を瞠って持久養作の根気に驚異するのである」とある。
この当時から、日本を訪れる外国人にとって、盆栽とはまことに珍しい異文化そのものであったようです。
逸見治朗氏 蝦夷松 樹高「2尺」 烏泥長方古鉢 昭和13年3月
解説に「千島の国後島古釜布・ふるかまっぷ」の最盛期の採取ものである。強豪双葉山を見るような力の満ちた木である」とある。その迫力を古今無双の大横綱に例えるとはおもしろいですね。
中野義定氏 蝦夷松 烏泥楕円古鉢 樹高(1尺7寸)昭和14年1月撮影
解説「北海道大雪山の産にて、千島八ッ房性に比すべきもの。大雪山の蝦夷松は堅き岩盤上の状の堆土に自生する関係上根張りのよきをその特徴とする」と、その後(戦後)の一大蝦夷松ブームを予感させる記述もあります。
中村憲吉氏 梅 樹高「2尺5寸」 茶末釉長方 昭和14年1月撮影
解説に「品種 鶯宿梅 八重 蕾は紅を帯び開けば微黄。梅樹の幹は堅硬鉄のごとしという詞があるが、この幹はさながらに鉄片を捩じり合わせた趣がある」とありますが、なんとも強烈な表現ですね、
増山幾松氏 五葉松 樹高「2尺7寸」 朱泥長方 昭和14年3月
解説「傾斜地に植わって一方に長く枝を伸ばせる巨松の姿。古人はこのような樹形を『半懸崖』と呼び慣わした」とある。推測するに、当時まだ、半懸崖という言葉が一般的な盆栽用語でなかったのかもしれません。
小林庄三郎氏 真柏 樹高「2尺1寸」 朱泥長方鉢 昭和13年2月撮影
解説に「新潟県糸魚川明星山の産である」とある。
それにしても、非の打ち所のない自然界の造形物。おそらく今では採取し尽されてしまっているのでしょうが、このあたりになるとすでに個人の所有物ではなくて、国の宝ですね。
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