鉢作家・今岡町直のことは過去のつれづれ草で度々触れましたが
昭和40年代の初めごろ、そう、私だってまだ20代の前半ごろ、東京の洗足池で何度かお目にかかっています
是好さん、大助さん、明官さんなど、ミニ盆栽史に残る大先輩達が池のほとりの風致会館に集まり
初心者の指導や盆栽談義に花を咲かせていました
町直氏はそこへ自作鉢を売りに来ていたのです
年のころは、そう、40台の後半くらいだったでしょうかね
端正なマスクのおとなしい感じの
そう、インテリ風な方でした
さて、さて、話がそれて長くなるといけません
本題の「鉢の鑑賞」といきましょう
この今岡鉢は私が最近扱った中で、けっこう惚れ込んだものです
今岡町直作 変釉正方樹盆 間口6.5×奥行6.5×高さ6.5cm
「釉薬の魔術師」と呼ばれる町直の面目躍如たる作柄を示した作品です
天空から舞い落ちるように紫色の釉薬が鮮やかに散っています
この釉薬を何に例えるか、何と見立てるか、そこがこの鉢を鑑賞する際の最大のポイントでしょう
薄緑の垂れ釉(たれぐすり)も綺麗で、紫色の釉薬をよく引き立てていますし
ぽっていりとした足元の釉溜まり(くすりたまり)も自然な感じで、みごとです
どちらも炎が作り出す色彩の妙とはいえ、やはり偶然に頼るばかりでなく
作者の意図するところをうまく表現するための、火のたき方には熟練の技が必要なのでしょう
この角度もいい景色の釉薬の変化が見られますね
濃淡の緑が作柄に奥行きを与えています
幻想的な雰囲気
別角度より
光の関係でちょっと暗くなりましたが、鉢裏の様子
町直は火のたき方によほど熟練したいたのでしょう
釉薬が流れすぎて足にくっついて剥がした痕があるような作品にはめったにお目にかかりませんね
この鉢もみごとな釉薬の止まり方をしています
よほどの自信作であったのでしょう
いつものような「町」の落款の脇に「富士山」が描かれていますが
このようなことは町直にしてはまったく珍しいことです
このように、頭のてっぺんから足の爪先に至るまで
ネホリハホリと眺めて能書きをいう、このあたりが鑑賞の面白さです
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