稚松愛草(わかまつ・あいそう)は世にこれほどの名作を残しながら、故・河合蔦蔵氏に指導を受けたアマチュア作家で、京都市下京区の稚松小学校の付近に住まう京扇子作りの職人であったらしいと僅かに伝えられているのみで、それ以上の身の回りの逸話ですらあまり知られていません。
当時、初代香艸園主故・河合蔦蔵氏の主宰する坫陶会(ねんとうかい)には平安東福寺をはじめ稚松愛草、平安萬草、永田健次郎など次の世に大家となるべき俊英がそろっていました。この中で東福寺以外は作品の数は多くはありませんが、一目見れば作家名が浮かんでくるような個性あふれた作風を有している名人ばかりです。
間口5.5×奥行き5.5×高さ4.5cm
飴釉切立変足七角
私も愛草鉢のファンで、世に愛草の名品と知られるトップクラスの辰砂や瑠璃釉の長方鉢を持った経験があります。それらはすべて両方の掌の中ですっぽりと入ってしまうほどのサイズでしたが、いずれも遠くから離れて眺めるというよりも掌の中で撫ぜたり摩ったりしてまさに愛玩すると言うイメージの鉢でした。いずれも宝石のような釉薬の輝きが感動的で、ボディーは作者の手の温もりが伝わってくるような肌触りのいいものでした。
釉溜り(くすりだまり)が個性的
七角形のボディー
薬溜りと素朴な飴釉(あめゆう)の対比魅力的
愛草の作品には基本的には長方形の鉢が主流ですが、丸系統の作品もみうけらられます。ただ、その場合であってもさすがに天下の愛草ですね、単純平凡な作品の域には留めておきません。素晴らしい縄縁(なわべり)や縄目の胴紐をつけたりして、非常にレベルの高い作品へと昇華させています。
この作品も単なる丸か六角鉢で終わらせずに、なんと奇抜なアイディアを発揮して七角形の作品として仕上げています。
高台の外側は七角形で内側は丸
愛草の落款は「稚草愛草」の4文字の書く落款で大と小があります。
釉薬の特徴は鮮やかでたっぷりした質感でY。
窯傷がありますね。
↑の窯傷の対角の縁にも薬(くすり)ニューがあります。
以上、玄人好みの人気作家稚松愛草のお話でしたが、さして多作の作家ではなかったので市場に売りにでる数もそれほど多くはなく、お目に留まる機会も少ないでしょうが、機会がありましたら是非ともよく観察してきてくださいね。
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