昭和16年3月に東京府立美術館で開催された第14回国風盆栽展示会の写真帖を見ながら、当時と現代の盆栽の共通点や相違点など、思いつくままに挙げてみたいと思います。些細な点でも列挙していくうちに案外な事柄に気がつくかもしれません。
小品盆栽界における戦前と戦後のレベルの相違は、中大の普通サイズのそれに比べて、たとえようもないほどのものがあります。一番左側の半懸崖は五葉松で、その右の直幹は杉です。正確なサイズは記載がありませんが、とにかく現代の小品に比べると、幹のボリューム感が劣るのは否めません。もちろんその背景には整姿技術を含めた肥培技術の向上が第一の原因だと思います。
主に山採り五葉松の古木で、右側に蘭を添えた現代ではあまり見られない席飾りです。席飾りの定法が今よりも確立されていなかった当時としてはともかく、現代であれば添えの蘭のサイズおよびボリュームは半分以下でまとめたいものです。蘭においてそれが不可能なら、他の下草でまかなってもいいでしょう。
幹のうねりが逞しい豪快な雰囲気の五葉松です。鉢も中深の重量感の長方鉢でよく似合っています。格式、レベル、斬新なスタイルなどの点で、現代にも立派に通用する名品です。
ただし、五葉松の右側に添えられた菊花石と添配(てんぱい)はどちらか一つにすべきでしょう。添え物は主木の引き立て役であって、簡素簡潔であることが要点です。現代ではこのような重複した添え物の使い方はあまり見なくはなりましたが・・・・
今ではほとんど出会わなくなりましたが私が盆栽屋になったころ(50年前)には、この画像のような錦松の大盆栽をよく見かけました。その昔は、幹肌が矢羽根や岩石のように割れるその奇怪な様が珍しがられて非常な高値を呼び、戦前には今で云うところの高級住宅一軒が楽に買えるほどの高値で取引された時代もあったそうです。
ところが、この皮はぜは病的な突然変異からくるもので、やがては枯れてしまうものであることが判明して人気が下落してしまい、今ではほとんど見向きもされなくなってしまったのです。
盆栽として栽培される樹種は、魅力も去ることながら「丈夫」で栽培の「容易」な樹種がいいですね。
左から檜、椿、楓寄せ植え。檜と椿は現代の国風展であれば入選というわけにはいかないでしょうね。しかし、地味で目立ちませんが、右の楓の寄せ植えは、持込みの味わい、品格等々において非常にレベルの高い作品です。均整の取れた枝の配置、柔らかく整った枝先の表情など、雑木盆栽の魅力を遺憾なく発揮しています。
願わくば、一席に3鉢の飾りでなく、例えば檜を外して季節感を演出するような草もの盆栽を挿入してもらいたかったと思います。
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