まずはこの尾張鉢の解説から始めましょう
昔から、お茶碗やお皿などの食器類を「瀬戸もの」と総称するくらいの窯業産地「瀬戸」
しかし、盆栽界では、そのあまりにも有名な呼び名の「瀬戸鉢」ではなく、やはり高級な感じがするのか、「尾張鉢」と呼ぶのが習慣になっています
そして、盆栽界で「尾張鉢」という名で呼ばれている鉢は、大雑把に言って、旧尾張藩の「お庭焼」(おにわやき・藩直営)の作品と
尾張の瀬戸市を中心にした地方で焼かれた「民窯」(みんよう・民間経営)との両方があるのです
まあしかし、江戸期に焼かれたもので素性のしっかりした「お庭焼」などめったにありませんから
ほとんどが「民窯」によるものだと思って下さい
尾張染付「四君子」 間口6.7×奥行6.7×高さ4.5cm
もちろん、この尾張小鉢も民窯の出です
外縁で隅入の愛嬌のある形で、特にこの寸法は稀少です
これよりも大きいものはけっこうあるんですが、このサイズが少ないことは、この道の収集家さんは知っているでしょう
四君子と総称される「蘭・梅・菊・竹」を四面に描き、使い味が抜群ですね
製作時期は、大正から昭和初期頃と推定しています
梅
竹
蘭
鉢底も時代感がこの通り、凄ーい!
絵付けがされている胴の部分は、おそらく時代感を擦り落としてあります
そうしなければ絵が時代の下に隠れて見えない、そうに違いありません
さて、珍品ですから入念なチェックに入ります
↑の全ての画像を検証すると、縁のあちらこちらに
釉薬のムラの凹みに黒っぽく時代感が染みこんだ箇所があります
一見すると傷のように見えますが
これらは文字通り釉薬のムラに使い味が染みこんだもので、傷ではありません
さて次へ進みましょう
磁器ものを鑑定する場合の大切な「コツ」を伝授致しましょう
それは、「光の来る方向に向かってものを見る」ことです
太陽でも電気の明かりでも、とにかく明かりを背にしてはいけません
見えるものも見えなくなるのです
なにか怪しげな雰囲気が感じられるので、明るさに向かって微妙に角度を変えながら検証してみました
すると、ほら、ほら、ありました、ありました!
前の画像では判然としなかった箇所(縁の中央付近)
表面のガラス質の透明釉(とうめいゆう)に貫入(かんにゅう)があるのが見えました
前の画像とよく見比べてください
さあ、こうなったら腹を据えて更に検証を続けます
これは果たして傷なのか???
このように、磁器の古いものの場合、縁だけでなく胴の部分にも不規則な貫入(かんにゅう)が見られることがあるんですが
そこで肝心なことは、その貫入の深さを見極めることです
簡単に言うと、その貫入が生地に達しているかどうかが「傷」と「貫入」の境目で
それはとりもなおさず「傷もの」と「無傷」の境目でもあるのです
ガラス質の層で止まらず生地に達しているかどうかは、鉢の内側を見ればわかります
内側がきれいであれば心配はいりません
幸いに、この尾張鉢の透明釉釉の貫入は縁の上部や鉢の内側に達してはいませんでした
盆栽界では、このような貫入を、「傷」として認定される性質のものとはしっかりと区別し
釉貫入(くすりかんにゅう)と呼んでいます
さあ、明るさに向かい、鑑定してみましょう!
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