2005年8月8日月曜日

大正鉢と支那鉢

大正常(たいしょうとこ)という言葉を知っていますか
大正常とは大正時代に日本の常滑地方で作られた鉢という意味です

明治時代に使われた盆栽鉢は、中国からの輸入品が主流で
国産の鉢としては瀬戸(尾張)や信楽など、ロクロ引きの丸型が多かったようです

現代盆栽にも通じる本格的な外縁長方鉢などは、未だ日本の窯元では生産されていなかったようで
大正時代に入る頃から徐々に作られ始めたといっていいでしょう

盆栽界であまりにも有名な小鉢である【尚古堂】も、その時代に中国へ発注して作らせたものです
そんな背景から、当時日本の窯元には長方鉢を作るだけの素地は育っていなかった、そういう推測も成り立つでしょう

ですから、【大正常】は当然のように土目も形からも【支那鉢】の模倣性が色濃く
中には支那鉢と識別が難しい作品も沢山あります

日本に存在する支那鉢の数が、飛躍的に増えた現代では識別の知識も普及しましたが
それ以前ではきっちりと鑑定できる専門家の数も少なく、それにまつわる悲喜劇も多かったのです

それでは大正常について検証してみましょう


正面からの図
スッキリとした直線と開いた胴の優雅でしかも硬質の曲線
これは支那鉢の持つ特徴をそのまま踏襲しています

また土目の色あい、これも支那鉢そっくり
この外見からの識別は難しい


中国の古渡りを模したスッキリとした直線と優美な曲線により構成された姿はみごとですね
胴の上部、周囲に廻された文様も、同じタイプが支那鉢にもあるんです


上部より内部を見ます
ここでも支那鉢との識別の決め手になる箇所はありません
ちょっと仕上げが丁寧すぎる感じ(この感じってやつが大切ですよ)


縁や隅の作りの細部を見てみましょう
比べるとヘラ痕がいくらかひ弱い感じです
支那鉢はもっと角張っている感じですね

うーん、こういう表現では微妙すぎて、わからないでしょうね、困った!


この画像ならもっと分かります
よく見ると横方向に刷毛目(はけめ)が見えますね、これです!

支那鉢ではヘラ痕はあっても刷毛目はありません
ここがポイント

つまり支那鉢は手早く一発仕上げ
日本鉢の方が仕上げが丁寧なんです


足の裏を見ると堅牢で艶のある土目で、支那鉢との識別はちょっと難しいほどです
ただし、足の付け方などが支那鉢に比べて丁寧で、ヘラ痕が見られません
このあたりもポイントです


堅牢で艶のある土目


落款を見てみます

【セン・シ・リン・セイ】の四文字
銭、子の次の文字はPCでは変換できないのですが
上が鹿で下が各、漢和辞典で引くと麒麟の麟の文字と同じだそうです

また篆刻文字であるため「子」を「号」と読んでしまって【銭号・ぜにごう】と呼ぶ人も多いのですが
正しくは【センシリン】と読むのです


さてさて、このくらいの説明ではまだまだはっきりとしない【支那鉢】と【大正鉢】の識別ですが
この落款を記した方向にポイントがあるんです

大正鉢の落款は左(右)方向の鉢の側面を頭にして記されています
ところが、支那鉢のほとんどは長方の正面(裏正面)方向を頭にして記されているのです

理由はわかりませんが、とにかくこの落款の捺されている方向は
識別の大きなポイントなのです

覚えておいてくださいね!
大切なことですよ

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