2005年6月20日月曜日

是好の世界1

親しい同業者を訪ねたおりに、物置から出てきたという中村是好著「小品盆栽」を買い求めました
昔、私も愛読した本で、是好さんの著作の中では一番充実した内容の豪華本であったと記憶しています

この手の盆栽関係の古本の効用は、小品盆栽の今昔を訪ねてその変遷を知ったり
過ぎ去った昔を懐かしんだりするには格好の資料です

昭和43年発行となっているので、ちょうどこの時期に私は盆栽の世界の入ったのだ
そんな感慨も迫ってきます



「中村是好著・小品盆栽」の函表紙です



是好さん、若いですね
明治33年生まれですから、この当時60代の後半ですね

スクリーンでは地味な脇役ばかりで「汚い爺さん役」が多かった是好さんですが
実物は芸人らしくお洒落で、この写真のように顔色のよい活動的な人でした



よく持ち込まれた五葉松の文人木ですね

ただしよく見ると、南蛮風の渋い皿鉢がちょっとばかり大きいかな
また中には、中村是好ともあろう大先生がこんな鉢使いをして?、と思う方もいらっしゃるでしょう

鉢はたしかに大き過ぎますね
間口を四分の一ほど小さくしたら、もっとバランスがよくなるのは確かです

今の小品盆栽界のレベルから見ると、当時名木とされたものでも案外に平凡な姿をしていたり
当時でやっと盆栽の仲間入りしたくらいのものでは、それこそ、見られたもんじゃない

そんな感想を持つ方がいても、これは当然のことだと言えるでしょうね

当時大家といわれた中村是好さんや明官俊彦氏などの作品集を見てみると
あれから30年以上の間に、盆栽技術が飛躍的に進歩したことは一目瞭然に理解できます

それに伴い、鑑賞眼のレベルも高くなりました

是好さんの活躍した時代は、盆栽の育て方やものの見方が戦前の伝統を色濃く引き継いでいて
雰囲気を楽しむというような色合いの濃い、大らかというか、素朴な盆栽観が強かったのです

現代では、針金技術や培養技術の発達に伴い、かなり小さなサイズの盆栽でも
当時では考えられないほどの、揺るぎない構図と迫力を備えた小品盆栽が出現するようになったのです

盆栽観も時代の変遷と共に少しずつ変化しているんですね



この古い寒木瓜の素朴さは、充分に現代の盆栽人を楽しませてくれる趣と構図も兼ね備えていますね
おまけに鉢は東福寺、文句のない取り合わせです



紅したんの石付、鉢はなんと小糸泰山の青磁に飛び辰砂の超名品
10年ほど前に、このものか似たものかは判別できませんが、やはり飛び辰砂の小糸泰山の名品を扱ったことを思い出しました

さて、紅したんの方ですが、当時この樹種は、盆栽樹種としては充分に認知されていず
「園芸もの」として一段下に見られてもいました


また、この程度の紅したんは、今では巷に溢れていますね
かといってこ、れにより中村是好さんの盆栽家としての評価が下がりはしないことはご理解いただけるでしょう

これは歴史の変遷と技術の発達によるものなのです

この項続く

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