2020年10月9日金曜日

稚松愛草鉢鑑賞

稚松愛草(わかまつあいそう)という作家は生没年も不祥で、京都の稚松小学校の近くに住まっていたところから、この陶名を用いたと伝えられています。まことにあれだけの名作を世に残しながら、あまりにも伝えられることの少ないミステリアスな作家です。



辰砂釉、緑釉、瑠璃釉などの発色は独特であり、他の作家の追随を許さないものがあります。造形的には全体に小振りな作品が多く、ゆるぎのない几帳面でバランスのいいのが特徴です。


このミニ鉢は間口が7.5cm、緑釉が温度の高い登り窯で変化し、さらみそこに持ち込みの時代感も加わって、愛草ならではの独特の趣が滲み出ています。


ところが眺めているうちに、あまりに時代感が付き過ぎて本来の釉(くすり)の色彩が見えにくいことに気がつきました。
そんなときには文房具屋さんで売っている「砂消しゴム」を使って、ところどころ、つまりボディーの隅や下地の透けて見えるような箇所を、少しずつ時代感を擦り落としてやりましょう。さらに縁の上側など、ところどころに変化を持たせるように、斑に汚れを擦り落とします。


縁の上場(うわば)や切足のやや上あたりの釉の止まったあたりに、釉の輝きが見られるようになりました。全体が明るくなって色彩にもアクセントが出てきたでしょ?


この角度から見ても、釉の輝いた箇所と落ち着いた時代感に覆われた箇所のコントラストに、赴きが感じられるようになってきました。この一連の作業はいわば鉢のお化粧というわけですね。


如何ですか?
最初の方の画像よりもずーっと輝いていませんか!?


この面も少々違ったイメージですね。


鉢裏と足の様子も検証してみましょう。愛草にとっては珍しいことに、焼成中の温度が高かったのでしょう、足の釉が僅かに流れて、窯内の棚板にくっついてしまいました。
まあ、鉢底からもろに見るとちょっと気になりますが、正面から見た場合は、許されるレベルの範囲でしょう。


深みのある釉ですね。さすが愛草です。


この面も他の面とは違った趣ですね。


この面の釉も艶が出てきました。








登り窯特有の灰被りの味わいが感じられる内側の画像。


落款は小さく「稚松愛草」
小さく控え目で愛草らしいですね。

 

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